本稿は2022年11月16日発行の英語レポート「Harvesting Growth, Harnessing Change」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

大半のアジア株式市場は上昇するも、中国市場には引き続き下落圧力


サマリー

  • 決算発表シーズンが市場予想を上回る内容となり、また米FRB(連邦準備制度理事会)が利上げペースを減速させるのではとの慎重ながらも楽観的な見方が広がったにもかかわらず、当月のアジア株式市場(日本を除く)は全体として下落し、月間リターンが米ドル・ベースで-6.1%となった。大半のアジア株式市場で月間リターンがプラスとなったが、香港や台湾の市場はボラティリティが高まり、中国市場は続落した。
  • 中国市場は、共産党大会で低迷している不動産セクターをはじめ市場の起爆剤となるような新たな材料が大して提供されなかったため、月間リターンが米ドル・ベースで-16.8%となった。当初の予定から遅れて発表された同国の経済指標は、第3四半期のGDP成長率が持ち直す一方で9月の失業率が上昇するとともに小売売上高が鈍化するなど、景気回復が強弱混交である様相を呈した。台湾は、9月の鉱工業生産が前年同月比4.8%減と下振れして2019年3月以来の低調な水準へと落ち込むなか、米ドル・ベースの月間市場リターンが-5.1%となった。
  • アセアン諸国市場は、フィリピンとマレーシアをけん引役として全般的に健闘した。マレーシアでは月中に議会の解散が宣言され、11月に総選挙が実施される見込みとなった。フィリピンでは、歳入の伸びが歳出の伸びを上回り9月の財政赤字が前年同月比0.6%減とやや縮小したことが好感され、米ドル・ベースの月間市場リターンが9.1%となった。
  • 足下の市場では、FRBの次の動き、そしてインフレが十分に落ち着いて同中銀がFF(フェデラル・ファンド)金利の誘導目標を据え置くか引き下げることができるようになる時期の推測でもちきりだ。労働環境の逼迫が緩和するには時間がかかるとみられることから、市場の低迷は現在予想されているよりも長く続くかもしれない。とは言え、当社では、アジア市場の一部は国内株式市場が悪材料の大半をすでに織り込んでいるとともに独自の好材料を持っており、またバリュエーションも長期スタンスの投資家にとって割安で魅力的な水準にあるとみている。

市場環境

北アジア市場の軟調さが地域全体のパフォーマンスの重石に
当月のアジア株式市場(日本を除く)は全体として下落し、月間リターンが米ドル・ベースで-6.1%となった。決算発表シーズンが市場予想を上回る内容となり、また米FRBが利上げペースを減速させるのではとの慎重ながらも楽観的な見方が広がったものの、米国の9月のインフレ率が前年同月比8.2%に達するなど、世界中でインフレが高止まりしていることが嫌気された。大半のアジア株式市場で月間リターンがプラスとなったが、香港や台湾の市場はボラティリティが高まり、中国市場は続落した。

中国や台湾は経済指標が低迷
中国市場は、共産党大会で低迷している不動産セクターをはじめ市場の起爆剤となるような新たな材料が大して提供されなかったため、月間リターンが米ドル・ベースで-16.8%となった。政治局の人事入れ替えによって権力基盤をさらに固めた習近平国家主席は、自国のゼロコロナ政策を堅持する方針を示した。また、当初の予定から遅れて発表された同国の経済指標は、第3四半期のGDP成長率が持ち直す一方で9月の失業率が上昇するとともに小売売上高が鈍化するなど、景気回復が強弱混交である様相を呈した。なお、中国人民銀行は指標貸出金利を2ヵ月連続で据え置いた。香港は、9月の貿易赤字が拡大するとともに総合CPI(消費者物価指数)上昇率が前年同月比4.4%となるなか、月間市場リターンが米ドル・ベースで-12.2%となった。

台湾は米ドル・ベースの月間市場リターンが-5.1%となった。9月の鉱工業生産が前年同月比4.8%減と下振れして2019年3月以来の低調な水準へと落ち込み、また9月の輸出も前年同月比で2年超ぶりに減少した。こうした低迷に追い打ちをかけているのが、中国半導体産業関連のサプライチェーンに対する米国の新たな規制だ。一方、韓国は、クレジット市場をてこ入れするために約350億米ドルを投じると発表し、不動産など主要セクターでのデフォルト・リスク上昇懸念が緩和されたため、米ドル・ベースの月間市場リターンが8.3%となった。同国の中央銀行は主要政策金利を3%へと引き上げ、政策委員会がおよそのターミナル・レート(利上げサイクルにおける最終到達点の金利水準)と想定している3.5%に近づけた。

インド市場はルピー安に伴うコスト上昇が懸念されるもやや上昇
インドは、9月のCPIインフレ率が前年同月比7.4%と5ヵ月ぶりの高水準へと加速したのに加え、月中にインドルピーが対ドルで過去最安値へと下落し、原油など輸入コモディティのコスト上昇懸念が高まったにもかかわらず、米ドル・ベースの月間市場リターンが2.6%となった。

アセアン諸国市場はフィリピンとマレーシアがけん引
アセアン諸国市場は概して健闘した。シンガポールでは、MAS(シンガポール金融通貨庁)がインフレを抑制するためにここ1年で5回目となる金融引き締め(為替のシンガポールドル高への誘導)を実施するなか、株式市場は前月末比ほぼ横ばいで月を終えた。インドネシアは、9月の貿易黒字が市場予想を上回る約50億米ドルとなったことを受けて、米ドル・ベースの月間市場リターンが0.3%となった。同国の中央銀行は7日物リバースレポ金利を0.50%引き上げて4.75%とした。タイとマレーシアはインフレが小幅に減速したことが好感されて、米ドル・ベースの月間市場リターンがそれぞれ1.2%、2.9%となった。マレーシアでは議会の解散が宣言され、11月に総選挙が実施される見込みとなった。フィリピンでは、歳入の伸びが歳出の伸びを上回り9月の財政赤字が前年同月比で0.6%減とやや縮小したことが好感され、米ドル・ベースの月間市場リターンが9.1%となった。

今後の見通し

金利の方向感が引き続き重要な材料に
投資家が過去数年にわたって馴染んできたゴルディロックス経済(過熱せず低迷もしない適度な経済状態)は、今や確実に過去のものとなっている。実質金利のプラス化、あるいはその方向へのシフトは、穏やかな経済環境に甘んじてきた投資家には違和感をもたらすだろう。足下の資産市場では、FRBの視点、つまり、インフレが十分に落ち着いてFF金利の誘導目標を据え置くか引き下げることができるようになる時期の推測でもちきりだ。労働環境の逼迫が緩和するには時間がかかるとみられることから、市場の低迷は現在予想されているよりも長く続くかもしれない。とは言え、当社では、アジア市場の一部は国内株式市場が悪材料の大半をすでに織り込んでいるとともに独自の好材料を持っており、またバリュエーションも長期スタンスの投資家にとって割安で魅力的な水準にあるとみている。

中国は重要政策の方針を維持
中国共産党の第20回全国代表大会では、習国家主席が3期目再任を果たして党内で圧倒的な地位を確立し、同氏の権力掌握は引き続き揺るぎないものとなっている。習国家主席は、ゼロコロナを目指す「動態清零(ダイナミック・ゼロ)」政策からの正式脱却は考えにくいとの姿勢を明らかにしたものの、今後は隔離措置など「動態」(機動的な予防・抑制措置)の面が何らかの形で緩和される可能性を示し、また、「質の高い発展」への注力と中国の国益にとって重要な分野で能力とイノベーション(革新)を強化する必要性を繰り返し強調した。当社では、このような戦略的重点に関連している幅広い分野(エネルギー安全保障、国内自給体制強化、生活費低減、国内消費など)を有望視している。

習国家主席は「祖国の完全な再統一」を目指す意向もあらためて示し、中国の台湾再統一に対する強い意欲を見せた。そのような可能性を軽視すべきでないことは、ロシアのウクライナ侵攻から得られた教訓と言える。とは言え、当社では当面、中国の台湾進攻を基本シナリオとはしておらず、一方で需要への逆風が台湾の主力輸出分野である消費者向けテクノロジーに悪影響をもたらすことを懸念している。この懸念は韓国にも及ぶことから、両国の市場においてはヘルスケアやエネルギー・インフラといった分野の銘柄を引き続き選好している。

インドやアセアン諸国では長期的な成長ポテンシャルを有望視
アセアン諸国とインドはともに、サプライチェーンを中国以外にも分散しようとする戦略から恩恵を受ける立場にあり、また、新型コロナウイルスの感染拡大を受けてこれらの国々で急速に進むデジタル化が、大規模で持続的な内需動向加速の追い風となっている。インドがより安価なロシア産エネルギーを輸入しているなかにあっても、インドネシアやマレーシアはエネルギー価格の上昇を受けて交易条件が向上している。これらの国々は、大規模で熟練した労働力を有し人口動態が良好であることから、中期的な成長見通しが有利である。また、国や企業のバランスシートが改善しており、国外の資本コスト上昇によるストレスが(ゼロではないものの)低減していると言える。したがって、当社では引き続き銀行や再生可能エネルギー事業、電気自動車向け素材、消費などの分野を選好する。


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