本稿は2022年11月2日発行の英語レポート「The future looks bright for Asia’s equity markets」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

はじめに

2022年、アジアの多くの国を含む世界各国は数多くの障害に直面した。インドやインドネシアなどの例外を除きアジア市場のパフォーマンスは概して良くない。2021年末時点では、2022年はもっと明るくなるという展望を描いていた投資家もいた。しかし、今のところ、そのような見方は楽観的過ぎたようで、MSCIオールカントリーワールドインデックスは変動の激しい状況が続き、年初来20%下落している。年内の世界市場は、各国中央銀行の金融政策とロシア・ウクライナ戦争など地政学的動向に左右されるだろう。しかし、世界全般の見通しがたとえ悪くても、アジア地域に関しては長期的な投資機会があると当社は考える。アジアには多くの魅力的な企業が存在しており、今後も長期にわたって世界経済の成長エンジンであり続けるというのが当社の見解だ。

アジアの消費が世界経済の原動力に

近い将来、世界の消費の増加分の半分はアジアによるものになると予測されており、アジアが世界の消費の成長エンジンとしての役割を果たすことになろう。著名投資家イーロン・マスク氏は「人口崩壊」が近いと主張しているが、実際には世界人口は増加し続けている。国連は、世界の人口は2022年11月に80億人を突破し、2030年には約85億人に達すると予測しており1、そうした人口増加の恩恵を最も受けるのはアジアと思われる。株式市場にとっては経済成長と企業収益が重要であるため、人口だけでなく、富の成長も大変重要な要素だ。今ではアジアの主要国は整備された資本市場を有しており、経済政策の意思決定は先進国経済に引けを取らないばかりか、勝っている場合すらある。潜在成長率も先進各国を遥かに上回っている。したがって、アジアにおける個人資産額の成長と、それに伴う消費性向の変化も注目すべきテーマである。

世界の高齢化が進んでおり、労働市場においてベビーブーマー世代の存在は減り続けている。世界経済はこれまで、低コストのアジア製造業に生産をシフトさせることで価格を抑えることができた。だが今では世界中で労働力不足が顕在化しており、企業に影響を及ぼしている。ASEAN諸国とインドの労働力は、世界が必要とする製品の生産に寄与するだけでなく、消費にも貢献するだろう。アジアは世界の他地域に比べて平均年齢が低く、そして、より適応力があり、目まぐるしい変化を歓迎するのは若者だ。若年人口が多いことはまた、生産年齢人口と年金受給層とのバランスが良いことも意味する。優れた企業は、このような変化に事業機会を見いだし、業績を伸ばすことができる。さらに、人口増加は財やサービス市場の拡大も意味する。

アジア株式に対する強気を維持

中国は既に世界の経済成長エンジンの大きな部分だと断言できるだろう。中国市場は複数の要因に影響され、通常と異なった分析手法が必要だが、他市場との相関関係が低いという利点がある。しかし興味深いことに、この10年間に中国市場は経済が傑出した成長を成し遂げたにもかかわらず、インドと台湾市場にアウトパフォームされており、日本を除くアジア各国に対しては若干後れを取っている。インドと台湾のパフォーマンスが優れている要因は、極めて経営手腕に優れた企業家の存在だ(インドのリライアンス・インダストリーズやHDFC銀行、台湾のTSMCなど)。これら企業は変化によく順応し、資本を効率的に使ってそれぞれの分野で世界をリードする企業に成長した。

当社は、アジアの成長をけん引する以下の要素を好感視している。

  • 世界中で「ネットゼロ」に向けた動きが見られるが、そのためにはアジアで製造される機器が必要だ。多くのアジア諸国は、天然資源、人的資源、技術などの資本が豊富であり、ネットゼロへの移行がもたらす事業機会を活用できるだろう。資本には、再生可能エネルギーや森林資源、鉱物資源が含まれる。
  • 世界中でインフレが問題となっており、市場に多大な影響を及ぼし、世界経済が打撃を受けている。アジアでも多くの国がインフレの影響を受けているが、アジアにおけるインフレの急上昇は一時的なものと思われ、したがって西欧諸国に比べると、金融引き締めのリスクは低い。アジア開発銀行は、エネルギーと食品価格の高騰により、2022年のインフレ予測を3.7%から4.5%に、2023年は3.1%から4.0%にそれぞれ上方修正した2。上方修正されたものの、アジアの発展途上国におけるインフレ圧力は世界の他地域ほど深刻ではない状況が続くと見られる。要するに、米国やユーロ圏を含む先進国におけるインフレの状況がアジアにぴったりあてはまるわけではない。インフレ圧力をすべて回避することはできないだろうが、サプライチェーンのボトルネックと食品価格の高騰が引き起こしている影響は国によってばらつきが出るであろう。
  • アジアの規制や事業の環境は、環境、社会、ガバナンス(ESG)を取り込むことによって進化を続けている。アジアでは国ごとにESG開示状況が異なるため、この点は重要だ。ESG基準が浸透し、改善することで、向こう数年間でESGデータの質がアジア全体で向上し、投資家はアジア各国の株式市場のリスクと投資機会を今まで以上に正確に評価できるようになるだろう。
  • 世界のデジタル化の継続とメタバースなどの技術はますます発展するだろう。アジアがハードウェアの製造拠点であることは意外ではないが、デジタル分野の研究開発(R&D)でも世界をリードしている。例えば、韓国はメタバースに多額の投資を行っており、メタバース技術を専門とする専門家や企業を育成する計画だ。また、イノベーションへの投資とR&Dがネットゼロへの移行においても重要な役割を果たすだろう。中国、日本、シンガポール、韓国などのアジア諸国は対GDPでR&Dへの投資比率が高く、この点で優位に立っている。

中国への投資は政策次第

投資家が中国の経済成長率の鈍化に関して「深い」懸念を示していることは当然と言えよう。輸出は減速しテクノロジーに対する規制当局の取り締まりは厳しくなり、西欧諸国との関係は急速に悪化している。しかし、10月22日に閉幕した中国共産党第20回全国代表大会で明らかになったように、中国政府上層部は経済成長率を回復させる意向だ。習近平国家主席の報告では、「共同富裕」政策とともに、環境に配慮した開発と、科学技術開発において自立を高めるためのビジョンが示された。中国の政策決定者たちはこの数カ月で、積極的な財政政策により、不動産市場の暴落を食い止めようとする政策を打ち出し始めた。中国ではインフレ率が比較的緩やかなため、中銀は金融緩和策をさらに推し進める余地がある。

緩和政策によって中国経済は下押し圧力にも耐えられるはずであった。しかし、その効果も中国の「ゼロコロナ政策」によって今のところ帳消しになっている。「ゼロコロナ政策」を堅持することで、経済面と社会面の負担が中国経済を直撃し、消費と投資の両方が犠牲になっていることが明らかになった。

だが、中国が依然として世界第二位の経済大国であることを忘れてはならない。BHPやリオ・ティントなどの鉄鉱石を採掘する鉱業会社からアップルなどのテクノロジー企業まで、あるいはスターバックスやヤム・ブランズなどの飲食料品企業ですら、その事実を十分に認識している。また、先進国株式の運用ポートフォリオに組み入れられている企業の多くが中国向けの大きなエクスポージャーを持っているため、実のところ投資家は間接的ではあるが、中国に投資していることになる。

また、中国には複数の株式市場がある。米国に上場されている中国株とH株(中国本土で設立された企業で香港に上場されている株式)との間には違いがあり、それらはまたA株(人民元建ての国内株で、上海と深センに上場されている株式)とも異なる。米国で上場している企業の多くは変動持分事業体スキームを利用しており、規制リスクが高い。リスクを適切に評価するために投資家は、中国の規制が米国と同等であると期待するべきではない。

中国の最終目標は資本市場の競争力と機能を高め、銀行借入に依存している企業の資金調達を株式市場へとシフトさせることだ。中国政府の政策と、政府が政策の基盤とみなす産業界の全体的な方向性は明確だ。したがって、中国国内におけるリサーチ力を持ち、中国の政策動向を理解するための体制が整っている投資家は、中国のA株とH株への投資の恩恵を受けることができるだろう。

上昇気流に乗る前の試練

端的に言えば、リスクのない市場はない。残念ながら、最近ではリスクがない資産もほとんどない。今から考えればロシアによるウクライナ侵攻は、すべての投資家が無視したリスクだった。政治リスクは至る所にある。トランプ氏が米大統領に返り咲いて政策を大幅に変更するリスクもある。アジアで成功するには、変化を予測し、理解してそれに対処することが不可欠で、他者が問題とみなす課題を機会に変えることが重要だ。

アジア株式の下落は、米ドルの独歩高と世界的な金融引き締めによっても増幅された。世界の準備通貨である米ドルは世界経済の不透明感が高まると投資家にとって避難先となる。米国の政策決定が幅広く影響するため、事はさらに複雑になる。結果的に、米ドルが少しでも強くなると、他の地域でのインフレ高進につながることになる。欧州がその影響で景気後退に近づくなか、アジアも打撃を受けている。

アジアは長きにわたって、西欧諸国への輸出拠点である。そのため、米連邦準備制度理事会(FRB)の引き締めが重石となっている。だが、今回はアジア内の消費動向や、ネットゼロに向けた世界的な移行がこれからのアジア成長の要因になると思われ、米経済鈍化の影響も限定的であろう。米金利との相関関係も大幅に低下したように思われる。アジアでもインフレ圧力が高まっているが、影響は米国や他の西欧諸国ほど大きくない。したがってアジア諸国の金融引き締めはそれほど強いものにはならず、中国に至っては金融緩和で経済成長をテコ入れしようとしている。アジア市場が世界経済の中で果たす役割はますます重要になっており、世界の他地域を今後アウトパフォームすることが予想される。


個別銘柄への言及は例示のみを目的としており、当該戦略で運用するポートフォリオでの保有継続を保証するものではなく、また売買を推奨するものでもありません。


1国連「2022 Revision of World Population Prospects」(2022年)

2アジア開発銀行「Asian Development Outlook Update (ADOU) 2022」(2022 年9 月)


当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。