本稿は2022年11月7日発行の英語レポート「The potential implications of China’s National People’s Congress」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

今後数四半期に期待される具体的政策の発表を注視へ


中国共産党第20回全国代表大会の概要

中国共産党第20回全国代表大会(全国代表大会)が2022年10月23日に閉幕し、習近平国家主席の三期目続投が予想通り確定した。毛沢東以来の権力を手に入れたことに加えて、中央政治局常務委員のうち習近平氏を除く6名全員を自身への忠誠心が強いメンバーで固めることにも成功した。発表直後には対立勢力の不在が政策ミスへの対応の遅れにつながるかも知れないとの不安によって市場に動揺が見られた。

ただし、全国代表大会の目的は、中国共産党内における党員のポジションと今後5年間にわたる主要政策の方向性を決めることであるため、政策実行に関する詳細の情報は限定的であった。投資家に出来ることとしては、2023年3月開催予定の全国人民代表大会と中国人民政治協商会議(全国両会)にて発表されるより重要な政策を、習近平氏の今回の開幕スピーチを基に推測するという程度である。

最高指導部の顔ぶれ

今回の全国代表大会では通例の多くが覆された。まず、習近平氏が異例の三期目を確定したことである。さらに、習近平氏が新しい中央政治局常務委員を率いて登壇した際における序列を踏まえると、国外では知名度の低かった李強・上海市党委員会書記が中央政治局常務委員序列でナンバー2の地位を獲得し、首相候補として推測される。歴史的には、副首相から首相が選出されており、副首相の経験がない李強氏が任命されることになれば、これも初のケースとなる。加えて、習近平国家主席を除く中央政治局常務委員6名の何れにも副首相が含まれていないため、誰が首相に任命されても前例のない結果となる。同常務委員に共産主義青年団(共青団)のメンバーが入っていないことも初めてであり、同団体にとっては痛恨の結果となった。今回の新常務委員の多くは、習近平国家主席が地方政治に従事していた頃から近い関係にあり、支えてきたメンバーである。

ポジティブな側面としては、新たに選出された政治局員(常務委員を含む24名)が科学とテクノロジーの経歴を備えている点である。金融の経歴が中心であった前回の政治局員とはこの点において異なる。このような局員構成は、科学とテクノロジーをより一段と重視するという政府の意図の表れと考えられる。

常務委員の顔ぶれが市場の主な懸念であることも事実である。過去、政治対経済という構図のように分散された権力に対して投資家は慣れており、権力がトップに集中することなく、より階級的な権力構成を選好していると言える。ただし、権力集中はより迅速かつ一貫した政策実行を可能にするとの考えに基づいて国内投資家は今回の権力構成のポジティブな側面に着目している。国内と海外投資家の間で、新指導部に対する評価が異なるようだ。

コロナ政策

前述の通り、全国代表大会は政策決定の場ではなく、党員のポジション、実績の評価、広範囲にわたる方向性の確認である。従って、ゼロコロナ政策が継続するか否かという点に関する手がかりは殆どない。市場では同大会におけるゼロコロナ政策の緩和を期待する向きがあったものの、当チームでは慎重な見方を持っており、2023年3月まではより明確な発表はないと予想している。実務レベルの委員が任命されれば、委員会が設置されてより明確な政策が発表されると見込まれる。現時点では、よりダイナミックなゼロコロナ政策が導入される可能性が高い。具体的には、都市全体のロックダウンではなく、感染の深刻度に応じた地区・コミュニティ毎の規制という方式である。ただし、ゼロコロナ政策自体は継続されるだろう。2023年3月には、同政策に対するある種の緩和策が実施される程度に留まり、その他諸国が実施してきたような完全な緩和は少なくとも同年第3四半期までは期待できないと見るのが妥当である。

資本市場

今後数年間にわたり、中国資本市場のボラティリティが継続する可能性が高い。国内と海外の投資家の間では重視する優先事項や同全国代表大会に対する見解が異なっているようだ。国内投資家は主に二つのポジティブ要因に重点を置いている。一つ目は権力集中が素早い政策実行を可能にし、習近平国家主席と共通した考え方の下でより効率的かつ効果的に実施されるという点である。二つ目は、政府の細かな議事録や発表を国内投資家は注視している。例えばデジタルインフォメーションシステムに政府が注力する中で、ソフトウェアセクターや同政策の対象となるその他セクターの株価が上昇したという現象が挙げられる。

対照的に、海外投資家は権力集中に対してネガティブな見方をしている。政策ミスや合理的な反対意見が出なくなるという潜在的な可能性が懸念されている。同時に、地政学的緊張の一段の悪化も市場では懸念されている。まず、同大会の開幕スピーチにおいて習近平国家主席が台湾問題を積極的に取り上げた点が挙げられる。そして、その他諸国との衝突を生みかねない自給自足政策も強調された。

中国株式は2021年以降に投資家に売却されてアンダーアロケーションされており、今後の新たなニュースはポジティブに受け止められる余地があるという意味において、当チームではポジティブな短期市場見通しを持っている。一方で、長期的な市場見通しの改善には今後予定される会合において抽象的な発言だけはなく、より具体的な発表が必要である。今後数四半期において、政策が明確化される情報が発表される可能性があるため、今後も引き続き注視する次第である。


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