本稿は2023年1月27日発行の英語レポート「Harvesting Growth, Harnessing Change」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

アジア株式は小幅下落


サマリー

  • 当月のアジア株式市場(日本を除く)は小幅に下落し、米ドル・ベースの月間リターンが-0.2%となった。米FRB(連邦準備制度理事会)は大方の予想通り0.50%の利上げを実施し、中国は新型コロナウイルス関連の制限を緩和する措置を発表した。
  • 中国市場は、ゼロコロナ政策からの脱却を続けるなか、月間リターン(米ドル・ベース、以下同様)が5.2%となった。香港市場は、予定されていた中国本土との往来再開や香港域内での新型コロナウイルス関連の制限緩和を発表したことを背景に、月間リターンが8.1%にのぼり、アジア域内で最も良好なパフォーマンスをみせた。一方、台湾と韓国市場は月間リターンがそれぞれ-5.5%、-5.2%となった。当月のアセアン諸国市場のリターンはまちまちとなり、インド市場は下落した。
  • 中国については、同国の戦略上重要な課題、具体的にはエネルギー安全保障、国内自給体制の強化、生活費低減や国内消費改善などと概ね連動する分野を選好している。インドにおいては銀行や消費関連銘柄を有望視している。アセアン諸国市場では、再生可能エネルギー事業、電気自動車向け素材、それらに関連するサプライチェーンといった分野を特に有望視している。

市場環境

当月のアジア株式市場は小幅下落
当月のアジア株式市場(日本を除く)は小幅に下落し、米ドル・ベースの月間リターンが-0.2%となった。米FRBは、12月の政策会合で大方の予想通り0.50%の利上げを実施した。足元では、2023年中に5.1%でターミナル・レート(利上げの最終到達点)に達するとの見方を示し、2023年にさらなる引き締めを行う意向を示唆した。中国では、新型コロナウイルス感染者数が過去最高水準近辺にあるなかでも大幅な制限緩和に踏み切り、1月上旬から入国者の隔離義務を撤廃するとの決定を発表した。

中国と香港市場がアウトパフォーム、台湾と韓国市場は低迷
北アジア地域では、ゼロコロナ政策からの脱却を続ける中国市場が上昇し、米ドル・ベースの月間リターンが5.2%となった。月初に、中国は無症状および軽症の感染者に対して自宅隔離を容認するなど、コロナ対応の最適化に向けて新たに10項目の措置を導入した。その後、中国政府は国境の再開と入国者の隔離義務撤廃を決定した。主要経済指標に目を向けると、外需の弱まりや、新型コロナウイルス感染状況の悪化を受けた生産中断や内需減少を背景に、中国の11月の輸出と輸入はともに減少幅が拡大した。香港市場は、予定されていた中国本土との往来再開や香港域内での新型コロナウイルス関連の制限緩和を発表したことを背景に、米ドル・ベースの月間リターンが8.1%にのぼり、アジア域内で最も良好なパフォーマンスをみせた。

一方、台湾と韓国市場は月間リターン(米ドル・ベース)がそれぞれ-5.5%、-5.2%となった。台湾の11月の輸出は、世界的な景気悪化を受けて前年同月比13.1%減となり、市場予想以上に落ち込んだ。電子機器部品の輸出総額は3年半ぶりに減少し、4.9%減となった。韓国では、12月の製造業活動が6ヵ月連続の縮小を示した。輸出についても、世界的な需要の冷え込みを受けて減少が続き、前年同月比9.5%減となった。2022年通年では輸出が6.1%増となる一方で輸入は18.9%増となり、貿易赤字額が472億米ドルと記録的水準に達した。

アセアン諸国市場のパフォーマンスは強弱両様
当月のアセアン諸国市場のリターンはまちまちとなった。タイは、中国人観光客数の回復期待の恩恵を最も受けた国の1つであり、月間市場リターン(米ドル・ベース、以下同様)が域内トップの3.8%となった。マレーシアは小幅に上昇して月間市場リターンが1.8%となる一方、シンガポール、フィリピン、インドネシアは下落して月間市場リターンがそれぞれ-0.9%、-2.1%、-4.5%となった。

マレーシアの11月の総合消費者物価指数は前月から横ばいの前年同月比4.0%となった。シンガポールの11月の輸出は、電子機器需要の鈍化が大きく響き、前年同月比14.6%減となった。当月、フィリピンとインドネシアの中央銀行は、インフレ率が前年同月比で上昇傾向にあるなか、主要政策金利をそれぞれ0.50%、0.25%引き上げた。

インド株式市場は下落
当月のインド市場は米ドル・ベースの月間リターンが-5.5%となった。インドの7~9月期の経常収支は、コモディティ価格高とインドルピー安を受けて赤字幅が拡大した。インド準備銀行は、主要貸出金利を0.35%引き上げて6.25%とする一方、今年度(2022~23年)の予想GDP成長率を6.8%へと下方修正した。当月発表されたその他の主要経済指標をみると、11月の小売価格インフレ率は5.88%へと鈍化して11ヵ月ぶりの低水準となった。

今後の見通し

インフレはすべてのアジア市場にとって有害なわけではない
高止まりするインフレ、そして景気回復の兆しがみえてくるまで世界が対処しなければならない経済的痛みについて、議論が続けられている。資産市場は、インフレが十分に収束し政策金利の据え置き/引き下げに転換できるようになる時期について、FRB自体がどのように推測しているかを推測することに気を取られている様子だ。幾度もの政策転換を経てバリュエーションが非常に低い水準にある中国市場は、特有の投資機会が数多く存在し、先進国とは異なる状況にあるとみている。中国は、アジア地域の経済活動における最大の牽引役であることから、同地域も結果として待望の追い風を得ることになると考えられる。

インフレは実質的には純消費国から純生産国への価値の移転であり、人口動態が良好で生産性が高まっているインドや一部のアセアン諸国にとっては引き続き追い風になると期待される。長期的な経済成長にとって安価で信頼できるエネルギーは不可欠である。それが特に当てはまるインドや中国のような発展途上大国は、ロシア産の安価なエネルギーの購入を継続する可能性がある。また、大部分のアジア諸国はエネルギーインフラの歴史が比較的浅いこともあり、エネルギーの「グリーン」化がますます進んでいる。インフラ構築の加速によって生産能力が高まるとみられているほか、その開発資金が財政赤字や、先進国で得られるよりも高いリターンを求める外国資本で賄われる場合にはインフレも抑制される可能性がある。

中国の戦略上重要な課題と概ね連動する分野を選好
注目すべき点として、中国で引き続き重視されているのは開発と改革であり、結局のところ、中国共産党の政治的正当性の根拠は経済開発と国民生活の向上にある。前例のない民衆の不満を受けた最近のコロナ規制の緩和が、これを明確に示している。中国の労働生産性は過去10年間で年率16%向上しているほか、現在の賃金水準は1992年の水準から20倍となっており、工場の組み立てラインのオートメーション化を進めることの説得力が過去よりも増している。現在の中国では、ロボットと人間の労働者のコストが実質的に同等となっている。したがって、習国家主席は「質の高い発展」に注力しており、中国の国益にとって重要な分野を中心に能力とイノベーションを強化する必要性を重視している。その例として、中国は一定規模以上の製造業企業の70%がデジタル化を実現することを目標に掲げている。当社では、こうした戦略上重要な課題、具体的にはエネルギー安全保障、国内自給体制の強化、生活費低減や国内消費改善などと概ね連動する分野を選好している。

一方、習国家主席は「祖国の完全な再統一」を目指す意向も改めて示し、中国の台湾再統一に対する強い意欲をみせた。そのような可能性を軽視すべきでないことは、ロシアのウクライナ侵攻から得られた教訓と言える。とは言え、当社では当面、中国の台湾進攻を基本シナリオとはしておらず、一方で需要への逆風が台湾の主力輸出分野である消費者向けテクノロジーに悪影響をもたらすことを懸念している。この懸念は韓国にも及んでいる。中国のコロナ関連規制の緩和は両国に恩恵をもたらすとみられるが、米国の需要鈍化がやや足かせになるとみられる。当社では、これらの市場において集積回路設計やヘルスケア、エネルギーインフラ分野で特有の投資機会を見出している。

インドの銀行や消費関連銘柄を選好
経済規模世界第5位のインドは、1950年代のように政治の安定を謳歌するとみられる。ナレンドラ・モディ首相は、中国の習国家主席が先日果たしたように再選され3期目入りする見通しだが、両国の間には多少違いがある。それは、インドが世界最大の民主主義国家であるという点だ。さらに、インドはデジタル決済件数において中国と米国を含むあらゆる国を上回っている。つい6年前まで現金依存度が高かった国にとって、これは驚くべきことである。インドで消費されるエネルギーの4分の1近くが今ではグリーンなエネルギーとなっており、再生可能エネルギーは化石燃料由来エネルギーに対する競争力が強まっている。最近導入されたPLI(生産連動型インセンティブ)スキームは、同制度への申請が活発化しており、サプライチェーンを中国以外にもグローバルに分散して再構成しようとする動きのなかで同国への投資が本格的に集まってきている。インドにおいては銀行や消費関連銘柄を有望視している。

アセアンについては選別姿勢を維持
マレーシアでは政治がメロドラマの様相を呈しており、それに比べると少しは落ち着いているもののタイの政治も同様に混乱しているが、政治情勢が改善すれば両国のテクノロジーや電気自動車のサプライチェーンの一部に投資妙味が出てくる可能性がある。シンガポールの政治の安定性は、北の近隣諸国とは違って確かに良好であるものの、その株式市場の命運はアセアン地域の周囲の経済動向に大きくかかっている。

そうしたなか、インドネシアに注目しており、程度は劣るものの、フィリピンも有望視している。特筆すべき点として、製造業というのは単独で存在しているわけではなく、それとつながる全体のサプライチェーンが存在する。したがって、サプライチェーン全体の再編は、単に新しい場所に製造設備を作るだけでは済まず、時間を要する。しかし、ひとたび再編が実現されると、当初の推定を大幅に上回るインパクトを経済へもたらす。ニッケル埋蔵量が豊富なインドネシアは、世界が交通を電動化していく上で極めて重要な存在である。より長い視点でみると、インドネシアは過去10年間でニッケルの輸出量が19倍に急増し、バッテリー製造工場の国内誘致も進めてきた。これらのプロジェクトは250億米ドル超の投資をもたらしている。インドネシアで正式に雇用されている労働力はわずか20%であり、外国資本が同国でのビジネス機会を追求するなかでも、大規模な労働力が正式に雇用されていくことで経済の生産性が向上するとみられる。

フィリピンは、英語を話す若年層の規模が大きく、デジタル手段を通じた金融サービスへのアクセスが着実に高まっている。現地で開発される「グリーン」なエネルギーの活用を着実に高めていくことで、エネルギー輸入への依存度は現在のGDP比2~3%から低下する可能性が高いとみられる。

アセアン諸国市場では、再生可能エネルギー事業、電気自動車向け素材、それらに関連するサプライチェーンといった分野を特に有望視している。


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