本稿は2022年12月8日発行の英語レポート「2023 Asian Rates and FX Outlook」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

2023年の展望

2022年は、インフレの高騰に拍車をかける打撃が起こり、世界の各中央銀行がタカ派姿勢にシフトした結果、金融環境が大幅に引き締められるとともに米ドルが非常に大きく上昇した。米FRB(連邦準備制度理事会)は、2022年2月以降にFF(フェデラル・ファンド)金利の誘導目標を合計3.75%引き上げ、総合インフレ率はすでに減速の兆候をみせつつある。実質利回りは大幅に上昇したが、米国経済にはまだ大きな影響が見受けられない。金融政策の運営が長期化し予測不可能なタイムラグが見込まれるなか、米国の景気後退リスクが高まっている。

米国の最近のデータでは、経済成長は2022年第3四半期に持ち直したことが示されたものの、その回復は主に純輸出の改善によるものであり、内需は依然として低迷している。金融環境の引き締めの影響を特に受ける住宅市場は鈍化が続くことが見込まれており、一部のより先行的な指標では全般的な景気鈍化の兆しが示唆され始めている。これらの要因は、米ドル高による輸入価格への影響とともに、今後インフレにより下方圧力がかかるとの当社の見方をサポートしている。

世界の市場はFRBの方針転換を待ち望んでおり、当社ではその初期段階が近いだろうとの確信を持っている。この方針転換は3段階となる可能性が高いとみており、FRBはまず金融政策の引き締めペースを減速し、それに続いて引き締め策による影響を評価するために利上げを休止し、その後インフレのトレンドが転換して利下げが差し迫っているとのシグナルを最終的に発するだろう。第1段階、つまり利上げ幅の縮小については、比較的ハードルが低い。利上げが実体経済に影響をもたらすには時間がかかることが多いため、ターミナル・レートの妥当な範囲に達し次第、利上げペースの減速は開始され得る。FF金利の誘導目標が約4%となっているなか、2022年12月の次回の米FOMC(連邦公開市場委員会)会合が開催され次第利上げペースを減速させる可能性がある。一方で、FRBが過去の過ちを避けようとするなか、政策転換の第2段階である今回の政策引き締めサイクルの一服を検討するには、労働市場のある程度の軟化やコアインフレがようやく和らいでいるとの説得力のある兆候が必要だろう。当社では、これは2023年の前半中に起こる可能性があるとみている。

最初の2つの段階とは対照的に、(FRBの政策転換の第3段階である)利下げのシグナルを発することのハードルについては、継続中の積極的な金融引き締めによる需要収縮の深刻さに主に左右されるだろう。インフレがFRBの予測期間の目標に向かって鈍化していることがある程度明らかでなければならないため、これは2023年末あるいは2024年序盤以降になると予想している。

市場の観点からは、2023年も引き続き金融政策の見通しが世界の金利動向の主なドライバーになると予想している。FRBの政策が転換すれば、世界の債券利回りは低下するだろう。そのため、当社ではFRBやその他先進国中央銀行のタカ派姿勢はピークを過ぎた可能性が高いとの判断のもと、デュレーション全体についてよりポジティブな見方にシフトしている。特に、FF金利の誘導目標が約4%であることを踏まえると、FRBは金融政策の引き締めペースを減速させる転換点にあるとみている。経済成長をめぐる懸念の高まりやインフレ期待の緩和が長期金利の下押し圧力となることから、米国債のイールドカーブは当面逆転した状態が続くだろう。とは言え、実際のターミナル・レートが現在市場の示唆する水準(すなわち5%超)に達しない場合は、FRBの政策転換の第1段階が起こるなかで、米国債利回りの短期部分がアウトパフォームし始める可能性がある。

アジアでは、インフレ率が依然として大半の中央銀行の許容水準の上限を上回っている。FRBの大幅利上げによって米ドルが大幅高となり、輸入品価格のさらなる上昇を通してアジアのインフレに高まりをもたらしている。FRBが引き締めペースを減速させるにつれて、米ドルに対する需要はインフレ期待とともに低迷することが見込まれる。これによって、アジアの金融当局(これまで政策の引き締めに比較的積極的であった中央銀行)には、利上げペースの鈍化や金融政策の引き締めを一服させる余地さえ、もたらされる可能性がある。

経済については、大半の国で2022年よりも成長ペースが鈍化することが見込まれる。ここ数年とは異なり、大半の国が国境を開放していることから、財政出動は2023年にアジア地域の成長を牽引する主因ではなくなるだろう。したがって、パンデミックによる経済支援の必要性が低下するなか、財政赤字は徐々に縮小すると予想している。中国は「ゼロコロナ」戦略からの脱却を開始したものの、数多くの感染者が発生すればその途中で若干の後戻りを余儀なくされる可能性があり、正常化への道筋は漸進的なものとなるかもしれない。したがって、中国経済は悪化を経て、改善するとみられる。

2023年は、タイやインドネシア、インドで政治的ノイズの高まりが予想される。タイでは、2023年5月に総選挙が行われる見込みであり、インドネシアとインドではその翌年に国政選挙が予定されている。これらの選挙に先立って何らかの形で財政支援が強化されるかもしれないが、効果は最小限にとどまる可能性が高い。一方、中国の政治は、国家主席や中央銀行をはじめとする様々な政府機関のトップ人事の変更が発表される2023年3月まで、注目が集まり続けるだろう。

アジア域内では、米国債利回りの安定化に対する感応度が相対的に高いシンガポールと韓国の国債を他国対比で有望視している。韓国国債は、FTSE Russell World Government Bondインデックスに採用される可能性があり、これがさらなる押し上げ要因になるとみられる。経済成長が低迷しインフレが抑制されているなかで、中国のオンショア債券利回りが最近上昇しているものの、少なくとも当面は安定的に推移するだろう。一方、インドやインドネシアの債券需要は下支えされる可能性が高い。世界の債券利回りに対する上昇圧力が和らぐなか、市場の注目が域内で相対的に魅力的な両国の実質利回りに移るからだ。

米ドルが2022年に大幅高となるなか、アジアの各中央銀行は資本が流入し米国が低金利であった時期に蓄積された多額の外貨準備を活用して、自国通貨を下支えした。大半のアジア諸国の外貨準備は減少したとは言え、引き続き十分な準備高がある。通貨については、FRBが方針転換すれば、米ドルに対する需要は後退するとみており、同通貨に対する見方をニュートラルからアンダーウェイトとしている。当社では、アジア通貨全般はドルをアウトパフォームすると予想しており、シンガポールドルについては高止まりするコアインフレを受けてMAS(シンガポール金融通貨庁)がSGDNEER(シンガポールドルの名目為替レート)をシンガポール高方向に維持するなか、他のアジア通貨をアウトパフォームする余地が高いとみている。また、中国の国境が再開され、タイへの観光客の流入がさらに増加すれば、タイバーツは需要が大幅に高まる可能性がある。

各国の展望

中国

中国は、2022年のGDP成長率が3.0~3.5%程度となり、2022年3月に掲げた政府の成長目標である「5.5%程度」を下回る可能性が高い。2023年については、コンセンサス予想では経済活動は4.8%まで持ち直す見通しとなっている。当社では、実質GDP成長率は、ゼロコロナ政策からの移行における同国の成功に大きく左右されるとみている。中央政府は制限的なコロナ規制の緩和に着手しているものの、数多くの感染者の発生によって医療システム崩壊の恐れが出てきた場合に、その途中で一時的な後戻りを余儀なくされるなど、正常化への道筋は漸進的なものになるとみている。最近実施された不動産デベロッパーの資金調達条件の緩和はポジティブな兆候ではあるが、世界の経済成長が鈍化するなか、中国も輸出減速への対処を迫られるだろう。一方、2022年12月に開催される中央経済工作会議や2023年3月に開催される全国人民代表大会では、経済政策の主要方針が示されるとみられる。

中国のインフレは依然として比較的抑制されている。直近の数値では、2022年10月の総合CPI(消費者物価指数)は2.1%となった。同月のコアCPI(食品およびエネルギー価格を除く)は0.6%の上昇にとどまった。一方、生産者物価指数は、2020年12月以降で初めてデフレ領域に落ち込んだ。今後、コロナ規制の緩和は、インフレを押し上げる可能性が高いが、中国は雇用が引き続き低調であるとともに世界的な需要の減退に伴い回復に時間がかかる可能性があることから、さらなる再開によるインフレへの影響は他国に比べると低いだろう。中国人民銀行はインフレ圧力を注視しているものの、積極的な利上げを迫るような大きな加速リスクは殆どないとみている。

経済成長が低迷してインフレが抑制されているなかで、中国オンショア債券の利回りは当面安定的に推移するだろう。コロナ規制の緩和と同国の再開は、センチメントの改善に伴って中国の通貨を押し上げるとみられる。そこで他のファンダメンタルズ要因が重石となってくるだろう。輸出の伸びは頭打ちとなった可能性があり、外国人投資家は政治情勢が自身の投資にどのように関連してくるかを見極めようとしているかもしれない。アウトバウンド観光の支出も、まだ先のこととなるだろうが増加する可能性は高い。とは言え、人民元は2022年第1四半期以降大幅に下落していることから、これらの要因の一部は既に織り込まれているとも言える。もっとも、世界経済の鈍化が見込まれるなか、人民元は中国経済の持ち直しが追い風になるとみられる。

大半の先進国、特に米国との外交関係は足下で緊張状態にあり、今後もこうした状況が続くものとみられる。半導体などの戦略分野で中国を切り離そうとする米国の試みは今後も続くだろう。これらのリスクはあるものの、中国は現在も多くの国にとって最も重要な貿易相手国の1つである。さらに、中国は国内経済の規模が大きいため、多くの外国企業にとって引き続き魅力的な投資先となっている。

韓国

韓国は、テクノロジー・セクターの下降サイクルや遅れて出てくる利上げの影響が重なるなか、外需の低迷が2023年の経済の主な足かせになるだろう。特に、半導体チップの輸出減少が続いたことなどにより、輸出の伸びは2022年10月にマイナスとなった。2022年のGDP成長率のコンセンサス予想は2.6%となっており、その後2023年は1.8%に減速するとみられている。

ある企業の短期手形の不渡りに伴う信用収縮を反映して、金融システムの資金調達圧力が高まっている。しかし、当局が迅速に流動性支援を提供していることから、当社の当面の基本シナリオでは今後も管理可能な状態が続くとみている。

総合インフレ率は、依然高水準にあるものの安定化の兆しを見せており、最近のデータは消費がピークに達している可能性を示唆している。アジアの他の中央銀行と比べてかなり早い時期に利上げサイクルを開始した韓国の中央銀行は、金融引き締めペースを減速させる可能性がある。直近の金融政策委員会会合では、2人のメンバーがより小幅な(0.50%ではなく0.25%の)引き上げを求めており、同中銀が今後利上げペースを鈍化させる可能性が示唆された。今後、同中銀にとっては、経済成長と金融安定化に対する懸念がより大きな検討事項となり始めるだろう。

成長見通しの鈍化とインフレの安定化は、韓国の長期国債に対する当社のポジティブな見方をサポートしている。中期的にポジティブな需給要因としては、来年の国債の純供給量がより少ないことやFTSE WGBI債券インデックスへの採用の可能性などがある。一方、韓国ウォンは最近の一連の貿易赤字とテクノロジー・セクターの下降サイクルを反映して、2022年の大半において域内で相対的にアンダーパフォームしてきた。当面の見通しが厳しいことに変わりはないが、投資家は米ドルに対する強気なセンチメントが反転することや多くの悪材料がすでに織り込まれている可能性があることを考慮する価値はある。

インド

インドは、内需が力強さを維持しており、堅調な消費の伸びが外需の低迷を打ち消している。また、政府の資本支出が投資の伸びを持続させるとみられる。2023年の経済活動は、消費の伸びが正常化し、金融政策引き締めの重石が家計の購買力に悪影響をもたらすなか鈍化が見込まれる。コンセンサス予想では、2023年度の経済成長率は約7%となっている。

インドの財政赤字は対GDP比で6%を上回っており、依然として財政状態は逼迫した状態にある。同様に、公的債務は現在も対GDP比で80%超と高水準にある。こうした統計を受けて、同国のこれらの債務水準の持続能力に対する懸念が広がっている。当社では、同国債務の持続可能性の鍵は、資本支出の戦略的な配分を通じて構造改革を実施する政策当局の能力にかかっていると考える。

総合インフレ率は、食品価格の安定化に伴って徐々にピークを付けるだろう。インド準備銀行は、コアインフレを抑制する意向を持っており、2023年序盤にかけて金融政策の引き締めを継続するとみている。ターミナル・レートは6.5%前後と予想しており、実質金利は徐々にプラス圏に浮上するだろう。

2023年を迎えるなか、インドは貿易赤字の悪化リスクの高まりに直面している。長期におよぶ世界経済の成長鈍化見通しは、輸出の鈍化を通じてインドの対外セクターに影を落とす可能性がある。これに加えて原油価格の高止まりによる輸入額の増加が、インドルピーの重石となる可能性がある。全般的に、通貨はドルのトレンド全般に加えて原油価格や株式資金フローの大きな動きに対して引き続き高い感応度を示すだろう。

インド国債の取引は、最近かなり安定している。インド債券に対する当社のポジティブな見方を支えている要因は複数あり、良好な利回り、インフレの鈍化、来年初めに利上げが一服する可能性などがある。インド国債は、新興国市場への資金流入の再開からも恩恵を受けるだろう。

シンガポール

MASは、2022年のGDP成長率が3~4%になると予想している。2023年は、世界で同時的に実施されている金融政策引き締めによる経済活動への重石が強まるなか、「潜在成長率を下回る」と予想している。インフレは、世界的なコモディティ価格ショックや国内の賃金圧力による上振れリスクがあり、高止まりすることが見込まれる。MASは2023年の総合CPIについて、物品・サービス税(GST)増税の一時的な影響を考慮すると、5.5~6.5%程度になると予想している。コアインフレ率は、当初2022年半ば頃にピークをつけると予想されていたものの、今後数四半期にわたり高止まりした後、2023年後半に緩和して、同年の平均は3.5~4.5%程度になると見込まれている。

MASは、2021年10月以降で5回という前例のないペースで相場水準をシンガポールドル高へと誘導し、積極的なインフレ抑制に動いている。しかし、労働市場が依然として逼迫していることから、賃金がコアインフレにもたらす影響は2023年にかけて続くだろう。こうしたなか、当社では、MASによる一段の政策引き締めを予想しており、特にコアインフレ率が現在の水準にとどまる場合は、2023年第1四半期に再び異例の動きをみせる可能性を排除していない。

金融政策がより引き締め的な設定となるなか、シンガポールドルは米ドルに対して底堅く推移し、2023年にかけてアジア地域の他の通貨をアウトパフォームするとみられる。シンガポールドルが他のアジア通貨に対して上昇することにより、シンガポールドル建て資産の需要が支えられるだろう。2023年に向かうなか、当社ではシンガポール国債に対してポジティブな見方をしている。シンガポールは2050年までにネット・ゼロを達成することを目指しており、ソブリン債および法定機関によるグリーンボンドの発行が増加する可能性が高い。

マレーシア

マレーシアは、新型コロナウイルスのパンデミックによる打撃から経済が急速に回復した。マレーシアの中央銀行は、2022年通年の経済成長率を6.5~7%と予想しており、その後2023年は4~5%へと減速するものの、国内要因が外需の急速な減速を打ち消すとみている。財政赤字の対GDP比率は、2022年の5.8%に対して2023年は同5.5%へと縮小するとともに消費者や中小企業を支援するべく拡張路線を維持する見込みとなっている。正式な予算案は2022年11月の選挙後に再提出される見込みである。

政府はコアインフレ率について、2022年第3四半期にピークを付け、2022年通年では2.0%~3.0%の予想レンジの上限に近づくとみており、インフレの上昇圧力は既存の価格統制や補助金、経済の余剰生産力などによって一部抑制された状態が続くと予想している。2023年に入るなか、食品インフレが引き続き物価上昇圧力の主因となる可能性が高いとともに、国境再開の追い風が続くなか労働市場の逼迫がサービス・インフレを押し上げるとみられる。

マレーシアの中央銀行は、今回の政策引き締めサイクルで政策金利を合計1.00%引き上げている。当社では、同中銀は2023年に0.25~0.50%の追加利上げを行うと見込んでいる。同中銀は、金融政策設定の調整は今後も「慎重且つ漸進的」とすることを強調し、物価安定の環境下で持続可能な経済成長を支えるために金融政策を確実に緩和的に維持するとした。

2022年11月に総選挙が行われ、現在同国はどの政党連盟も単独過半数を確保していない状態となっている。本稿執筆時点の初期結果によると、野党連合指導者のアンワル・イブラヒム氏率いる希望連盟が過半数を大きく下回るものの、最多議席を確保したことが明らかになっている。一方、イスマイル・サブリ・ヤアコブ首相(当時)が属する与党連合の国民戦線(統一マレー国民組織など)は、複数の地盤議席を失い予想外に確保した議席が最小となった。この結果、2023年度予算案は新政権によって再提出されることになるとみられる。いくつかの変更が行われる可能性はあるが、大半の要素は維持されるだろう。注目すべき重要な点は、対象を絞った燃料補助金制度の実施とGSTの復活である。

マレーシアの現在の外貨建て債務のエクスポージャーは、債務総額の5%未満である。総発行額は、(2022年の1710億マレーシアリンギットから)2023年に1800億マレーシアリンギットまで増加するとみられるものの、オンショアの特定のリアルマネー需要とEPF(従業員積立基金制度)からの安定した資金フローによって、供給は消化可能であると考える。その他、米ドルに対するリンギットの弱さは、FRBが引き上げを続け、マレーシアの中央銀行が漸進的な政策スタンスを維持するあいだは続くだろう。当社では、このトレンドはFRBの利上げサイクルの終了に向けて反転すると予想している。

タイ

タイは、観光の持ち直しが牽引する形で、パンデミックからの景気回復が2023年にわたって続くと予想する。観光業は2022年後半に回復して良好となっているが、海外からの訪問客数は依然としてパンデミック前の水準を大きく下回っている。比較してみると、タイは2019年の海外からの訪問者が4000万人近くあったのに対して、2022年の1~10月はわずか約700万人にとどまった。タイの観光セクターはこれまで中国人観光客に大きく依存してきたことから、中国のゼロコロナ政策に対する姿勢は、2023年のタイの経済成長見通しに対する最も大きな不確定要素の1つと言える。中国の国境再開が、タイの観光業の収益を大きく押し上げることは間違いないだろう。中国からの訪問が再開されるまでは、他国からの航空旅行の繰延需要が解放され、観光客の持続的な回復を支えると予想する。

観光収益の増加は、世界経済の減速に伴う原油価格の鈍化と相まってタイの経常収支を改善させるとみられ、当社では、経常収支は2023年に黒字に回復するとみている。一方、2023年の選挙を受けて新政権の陣容がより明確になるまでは、大規模な財政出動計画は見込まれないだろう。

タイの中央銀行は、2022年の総合インフレ率を6.3%、2023年は2.6%と予想している。当社では、インフレはピークを打ち、総合CPI上昇率は今後次第に鈍化するとみている。しかし、コアインフレ率は最低賃金の引き上げや観光の回復の影響によって高止まりする可能性がある。こうしたなかでも、当社ではタイの中央銀行がより積極的な利上げに転じる可能性は限定的とみており、来年前半には金融政策の引き締めを一服させる可能性もあるとみている。同中銀は、中期的なインフレ予想は十分に抑えられており、需要牽引型のインフレ圧力は抑制されているとして、漸進的且つ慎重な引き締めペースを繰り返し主張している。

政治面では、タイは2023年5月に総選挙を実施する予定となっている。最近の世論調査では、野党タイ貢献党の勝利が示唆されているが、当社では選挙に向けて政治動向を注視していく。

観光収益が増加するなか、経常収支の改善がタイバーツの追い風になるとの見方を維持する。一方、FRBが金融政策の転換を示唆し始めれば、タイの中央銀行は金融政策の引き締めを一服させる可能性があり、タイ国債の需要は十分に下支えされるだろう。

インドネシア

インドネシアは、旺盛な投資と堅調な消費に支えられ、経済成長は2023年も底堅く推移すると予想している。コモディティ価格の高騰は、インドネシアの2022年の経常収支を急速に改善させ、インドネシアルピアの域内の他通貨に対する回復を支えてきた。世界の経済成長の低迷を背景に、コモディティ価格は今後鈍化するとみられる。コモディティ価格の高騰による押上効果が後退するのに伴い、インドネシア政府は2023年の同国の基本的収支を支える上で、力強い海外からの直接投資に一段と頼らざるを得なくなるだろう。より長期の視点に立つと、インドネシアの成長ストーリーは、国内のニッケル加工・精製部門の発展やEV電池の国内生産など、予想される世界のEV産業の活況からより大きな恩恵を受ける計画にかかっている。

総合インフレ率は鈍化し始めているものの、コアインフレ率は依然として高止まりしている。当社では、インドネシアの中央銀行は2023年にかけて利上げを継続し、FRBが利上げサイクルを終了する時点で一服させると予想する。とは言え、為替をしっかりと安定させる必要性も、今後の金融政策アクションの重要な決定要因になるだろう。

2023年を迎えるなか、当社ではインドネシアの債券についてポジティブな見方を持っている。世界の債券利回りに対する上昇圧力が和らぎ、市場の注目が域内対比で魅力的な同国の実質利回りに向かうなか、需要は下支えされるだろう。また、政府は2023年に財政赤字の対GDP比率を3%未満に縮小させることを公約しており、これはインドネシア国債にとってポジティブと言える。しかし注目すべき点として、中央銀行は財政赤字を政府と分担する「バーデン・シェアリング(負担分割)」プログラムを2023年に停止するため、同国債券へのサポート要因はやや低減する。とは言え、FRBが金融政策の引き締めサイクルを終了するなか、2023年は海外からの資金流入が改善するとみている。為替については、コモディティ価格が鈍化するとの予想を反映して、相対的によりニュートラルな見通しをしている。

フィリピン

フィリピンの中央銀行は、景気回復について楽観的な見方を維持しており、2022年および2023年通年のGDP成長率をそれぞれ6.5~7.5%、6.5%と予想している(2023年については下方リスクを認識)。当社も、2022年に力強い回復をみせた後、2023年は成長モメンタムが弱まると予想している。域内の大半の国と同様に、利上げのタイムラグの影響と高止まりするインフレが、来年の内需を圧迫し得る主因と言える。企業の借入れは改善を続けるかもしれないが、高金利環境が足かせとなる可能性がある。世界経済の減速も、今後の輸出や送金を押し下げそうだ。

フィリピンの中央銀行は積極的なインフレ抑制に動いており、今回の政策引き締めサイクルでこれまでのところ政策金利を合計3.00%*引き上げている。その結果、インフレは来年緩和することが見込まれるが、総合CPIは国内消費の力強さがフィリピンペソの弱さと相俟ってインフレに上昇圧力を与えることから、引き続き中央銀行の目標レンジである2~4%を上回る水準で推移すると予想する。そのため、同中銀はインフレ重視の姿勢を維持し、通貨への注視を続けるだろう。同中銀のフェリペ・メダラ総裁は最近、同中銀が米国との政策金利差を1.00%程度維持するためには、FRBの利上げへの追随を続ける必要があるだろうとし、来年に政策金利の水準を5.5~6%へと引き上げる可能性があると述べた。

フィリピン政府は、パンデミックの結果膨れ上がった財政赤字を段階的に削減する計画であり、2028年までに対GDP比で3%へと縮小させる方針だ。この縮小については、主に(財政支出の削減ではなく)力強い歳入の伸びを頼りにする見込みとなっている。

2023年に向かうなか、FRBの金融政策の見通しが引き続きフィリピン国債利回りの主なドライバーになるとみている。FRBの方針転換は、フィリピンを含め世界の債券利回りを低下させるだろう。また、インフレがひとたび鈍化すれば、フィリピン国債の利回りは低下すると予想される。しかし、依然として大規模な財政赤字を背景に供給量が2023年に増加する可能性があり、上昇の一部を打ち消すかもしれない。為替は、米国のインフレが和らぎ、FRBが引き締めサイクルを転換させる用意があることを示唆すれば、ペソは他のアジア通貨とともに上昇する可能性があるとみている。しかし、フィリピンがインフラ支出に改めて注力することは、輸入の拡大につながるだろう。この点が、大幅な財政赤字と相俟って、通貨の上昇を打ち消す可能性がある。フィリピンの中央銀行は外貨準備を利用して通貨のボラティリティを管理し、下落を制限している。一方、国外で働くフィリピン人労働者の送金やビジネス・プロセス・アウトソーシングの収入で外貨準備高は積み上がり、健全な水準に保たれている。

フィリピンでは、双子の赤字が主なリスクとなっている。赤字の拡大とともに経済成長が予想以上に鈍化すると、世界的な格付け機関による見通しの下方修正につながる可能性がある。

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