本稿は2022年12月8日発行の英語レポート「2023 China equity outlook」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

2022年を振り返って:いつか見た光景

2022年の中国の状況は不気味なほど2021年に酷似しており、同国株式は2年連続で主要国中パフォーマンスが最も低い市場の1つになろうとしている。世界では多くの国が経済活動の全面的な再開に踏み切ったが、中国はゼロコロナ政策に固執し、ロックダウン(都市封鎖)と大規模な新型コロナウイルス検査の実施は3年目に突入した。政府はスタンスを変更し、「ダイナミック」ゼロコロナ政策に移行しているが、「ダイナミック」という言葉が世間の注目を集めているのとは裏腹に、中国の人々の置かれた状況はあまり変わっていない。それどころか、中国は最近、2020年の武漢での感染拡大以来、最も大規模なロックダウンを実施した。人口2,500万人超の大都市である上海を1ヵ月以上にわたって封鎖したのだ。上海は中国最大の経済圏で経済生産の4%超を占めることから、同市のロックダウンは経済活動に深刻な支障をきたした。その影響は広範囲に及び、中国の他の経済圏は上海から供給される高付加価値の重要部品を入手できなくなった。この事態は、テクノロジー、ヘルスケア、オートメーション、自動車などの産業が関わるエコシステムの脆弱性を浮き彫りにした。その後、ロックダウンは2022年6月に解除されたものの、経済への打撃は大きく、中国のGDPは新型コロナウイルスの感染拡大が始まって以来初めて、マイナス成長に陥った。その結果、中国は公式のGDP成長率目標である5%を達成できる見込みがなくなり、同目標の国内での重要性はここ数ヵ月で大きく後退した。2022年には様々な省や都市でロックダウンが頻繁に実施され、消費や製造などあらゆる面で経済を圧迫した。唯一明るい材料と言えるのは輸出セクターだったが、それも世界経済の鈍化を受けて成長が急激に勢いを失いつつある。

2022年の不動産セクターも既視感を覚える局面があった。2021年にプレセール(事前販売)の鈍化、債券のデフォルト(債務不履行)、株価の下落という三重苦に直面した不動産セクターでは、2022年も同様の状況が繰り返された。ただし、プレセールの減少度合いは、前年の水準が低いというベース効果によって緩やかになった。2022年には重要な変化がいくつかあった。それまで市場の救済を控えていた模様の政府がようやくスタンスを転換し、最終四半期に一連の融資措置と不動産セクターへの支援を発表した。これらの措置は、デフォルトしていない不動産開発企業だけを対象とするなど、過去に比べて的を絞ったものとなったものの、依然重要なステップと見なされ、政府は経済における不動産セクターの重要性を認識しているように見受けられた。また、今回の措置は、2021年に取られた対応と比較して、より断固としたものであるとみなされている。

米中間の地政学的緊張が緩和されるとの期待は、2022年に打ち砕かれた。米国政府が、中国の半導体および防衛関連企業に追加制裁を科すとともに、新疆ウイグル自治区での人権侵害疑惑に対して協調行動を開始したからだ。ペロシ米下院議長が台湾を訪問し、1970年代以来同島国に足を踏み入れた最高位の米政府高官となると、これも米中間の潜在的な火種となった。バイデン米大統領は2022年11月のG20サミットで中国の習近平国家主席と会談し、気候変動やロシア・ウクライナ戦争などについて話し合ったが、この協議からも全般的な関係融和を示す兆候は窺われなかった。

2022年の明るい材料としては、極めて重要な中国共産党第20回全国代表大会が順調に開催され、予想された通り習主席が前例のない3期目続投を確実とした。これは見方にもよるが、より重要な展開と言えるかもしれないのは、政治局中央委員会と政治局常務委員会が今や習派で固められたことだ。海外投資家はこのような体制をネガティブに捉えているようで、政府のトップ・レベルにおける意見や見解がバランスを欠くことになるのを懸念している。一方、国内投資家は、新体制の下で政策実行が迅速化されると、より楽観的な見方をしている模様である。中国市場は、党大会終了直後は売り込まれたものの、政策がいくつか発表されるとセンチメントが改善してすぐに回復した。

しかし最終的に、市場では国内外の資金流動性および企業収益と政策の不透明感とのあいだで綱引きが繰り広げられ、投資家を揺さぶることとなった。とは言え、当社では、中国の構造的成長セクターには依然投資機会が存在すると考えており、再生可能エネルギーや新素材、エネルギー関連、電気自動車部品といったセクターが超過収益をもたらすとみている。

戦略:ゼロコロナ政策と不動産セクターへの支援が相場上昇のカギ

ダイナミック・ゼロコロナ政策は、中国の景気回復にとって最大の障害となるかもしれない。製造業経済のあらゆる面で物流機能を阻害するだけでなく、消費や投資にも支障をきたす。いつロックダウンが実施されるかわからないなか、予告もほぼなく隔離されるかもしれないという不安が投資や消費を制限し、延いてはGDPの伸びを抑制するとみられる。ゼロコロナ政策の緩和・解除は、心理的に大きな後押しとなると想定される。例えば、2022年11月11日に政府がゼロコロナ政策の微調整を発表してから、中国株式市場は20%超上昇している。したがって、政府がゼロコロナ政策をさらに緩和し得るタイミングを注視していくことは、2023年の戦略において非常に重要なポイントになるだろう。2023年前半は、ゼロコロナ政策の緩和が行われるとすれば小刻みなものとなり、より大幅な規制緩和は第3四半期まで実施されないかもしれない。しかし、段階的な緩和ですら市場を押し上げるには十分だろう。過去2年間にわたって大幅に売り込まれてきたことを考えると、適切なインセンティブが与えられれば、市場は2023年に上昇トレンドに入る可能性がある。

不動産セクターについては、より楽観的な見方をしている。20年以上にわたり価格の上昇と販売件数の拡大が続いてきた当該セクターに対して、投資家のスタンスはより選別的となる可能性がある。不動産セクターの負債比率を抑制しようとする中国政府のアプローチは正しいと言えるかもしれないが、重要となるのは実際の政策の実行だろう。的を絞ったアプローチは効果を上げ得るが、中国のGDPの25%超を占めるセクターであるだけに、調整が小幅すぎればマイナスに作用するかもしれない。政府は、当該セクターが経済のアキレス腱とならないよう、断固たる措置を講じる必要があるだろう。当該セクターを好転させるためには、不動産開発企業に資金調達の三本の矢、つまり融資、債券発行、増資へのアクセスを提供することが極めて重要になるとみられる。

業界再編の進むセクターに注目、「中国特性」への投資

革新的テクノロジーに関する最近の世界の経験は、その多くが紆余曲折であった。2020年には収益を上げていない企業を寛容に受け入れる様子だった投資家も、2022年にはそのアプローチを逆転させたように見受けられる。中国でも状況は変わらない。当社では、株価バリュエーションが高い一方で収益が安定していない企業に対し、慎重な見方をしている。中国のテクノロジー企業は概して収益を上げており、米国の一部の新興企業が直面しているような深刻なキャッシュフロー問題はない。しかし、中国のテクノロジー企業は、株価バリュエーションが高いと言うことができるとともに、規制をめぐる不透明材料がより多い。ソフトウェア・インターネット・セクターは国内の規制問題に見舞われており、ハードウェア・セクターは地政学的な不透明感に悩まされている。しかし、2年間にわたって大幅な調整局面を経てきた多くのサブセクターには大きな上昇機会があると考えており、企業収益回復の兆しが表れ始めるとみている。これらのセクターを有望視できる根拠、すなわち国内代替動向、そしてテクノロジー・ハードウェアの世界的主要製造拠点である中国を置き換えることの難しさは、過去3年間変わっていない。また、業界再編が進んでいるサブセクターもあり、マクロ経済環境が改善すれば非常に興味深い投資機会を提供する。当社では物流、運輸、オートメーション、軽工業、材料部品といったセクターを選好している。

第20回党大会で習主席が「中国特性」を備えた経済に焦点を当てると、その後、各省庁では中国特性を備えた企業について語られるようになった。こうした動きを受けて、政府は国有企業に注目を集め、経済において大幅に重要な役割を担わせようとしている。国有企業は相対的に利益が低くコーポレートガバナンス関連リスクが高いことから、当社では選好していない。とは言っても、当社のリサーチによると、国有企業のなかには、一貫して高い利益を達成し市場優位性を確立しているものもある。このような国有企業は、工業関連の製造業者やインフラ保有企業であることが多い。これらの銘柄のPER(株価収益率)が(市場平均の11倍に対し)平均で5倍という水準にあるという事実を考え合わせると、投資家がその価値に気づいてすべての国営企業が同じではないことを認識すれば、これら銘柄は上昇相場シナリオを辿ることができるかもしれない。

ESG:脱炭素化の重要性は二の次になるか

2021年から2022年初頭にかけて人気を博した再生可能エネルギーや電気自動車、環境関連などのセクターは、供給過剰や地政学的制裁(新疆ウイグル自治区で生産されている太陽光パネルが問題視されている)などの要因により後退に見舞われている。これらのセクターはまた、地方政府が再生可能エネルギーを過度に追求し電力不足を招いたことからも、苦境に立たされている。しかし、脱炭素化は依然として強力な投資テーマである。2023年には、脱炭素化が形を変えながらも大きくカムバックする可能性がある。2021年から2022年にかけては、脱炭素化関連セクターがそのファンダメンタルズに関係なく全般的に上昇したが、2023年には投資家が恩恵を受けやすいサブセクターを吟味して見分けようとする可能性がある。当社では、上流素材やエネルギー貯蔵といったサブセクターが選好されやすいと考えている。太陽光発電など一部のセクターは、欧州を中心とする世界的な動向が追い風となるだろう。一方、風力発電は、中国のオフショア需要の拡大から恩恵を受けると予想される。

地政学的リスク

地政学的リスクは、台湾、新疆ウイグル自治区、米中間の外交的緊張、そして世界の2大大国間で過熱する半導体・テクノロジー競争といったテーマを中心に、中国に注目するすべての投資家の最大の関心事と言えるだろう。2022年にはロシアのウクライナ侵攻を受けて台湾海峡の緊張が高まり、投資家は中国と台湾の間で戦争が勃発する可能性に直面した。バイデン大統領は世界各国に働きかけ、オーストラリアや日本などの同盟国との関係を強化し、アジア太平洋地域での存在感を高めた。さらに、米国と欧州同盟国との関係は、トランプ政権時代よりも強くなっているとみられている。しかし、2022年11月の台北市長選挙では、台湾の野党である国民党(従来から中国寄りとみなされている)が予想外に善戦した。したがって、2024年の総統選挙までは、台湾をめぐる緊張がやや和らぐ可能性がある。米中関係は冷え込んだ状態にとどまっているが、最近の出来事からは、日本や韓国に加えてドイツをはじめとする欧州諸国が、半導体制裁について独自路線を歩みたいと考えていることが窺える。政治的緊張は2022年にピークを打ったかもしれないが、リスクは続くと考える。

コロナ、不動産と経済

中国政府は、イデオロギー的信念を脇に置いて経済を回復させようとしているように見受けられるが、すべてが計画通りにいくとは限らない。新型コロナウイルスは最も精通した科学者さえも驚かせており、感染拡大の制御は厄介なものとなっている。中国の地理・人口的規模を考えると、感染拡大の制圧は予想以上に時間がかかる可能性があり、市場に大幅なボラティリティと不透明感をもたらすかもしれない。もし新型コロナウイルスの死亡率が上昇したら、どうなるか。もしウイルスが変異し続けたら。もし医療制度が対応できなくなったら。新型コロナウイルスをめぐっては多くの「もし」があり、政府にとっては一歩進んで二歩下がるようなケースになりかねない。世界経済が鈍化するなか、中国の経済と不動産セクターは先行き不透明感が強い。また、コロナ関連規制を解除した多くの国と同様、インフレが中国を襲う可能性もある。

まとめ

当社では、2023年に中国市場がアウトパフォームすることを可能にする十分な景気サイクル的、テーマ的、構造的トレンドが存在しており、中国市場はリターンがリスクを上回ると考えている。MSCI Chinaインデックスは過去2年間でおよそ50%下落しており、バリュエーションも非常に魅力的な水準にあることから、少しでもポジティブな材料や展開があれば、同国市場はアウトパフォームすることができるだろう。

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