本稿は2022年12月8日発行の英語レポート「2023 Global fixed income outlook」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

2023年のコア市場、新興国債券市場およびグローバル・クレジット市場の見通しについて

コア市場の見通し

明けない夜はない。米国の物価上昇は2022年の夏場にピークを打った模様で、インフレというトンネルの終わりにようやく明かりが見えつつあり、グローバル債券にとって最近の記憶で最も困難な時期の1つが終わりを迎えようとしている。2022年の流行語が「transitory(一時的)」だとしたら、2023年のキーワードは「pivot(方針転換)」になるだろう。当社では、米国の大幅なディスインフレを見込んでおり、2022年11月の総合CPI(消費者物価指数)上昇率は引き続き前年同月比で鈍化し、その後2023年は数ヵ月にわたってさらに減速すると予想している。インフレは明確な鈍化傾向にあるものの、当社では米連邦準備制度理事会(FRB)が方向転換に乗り気だとはみていない。1970年代の時期尚早だったとされる方針転換による過ちを繰り返すまいとするだろう。一方、欧州ではインフレはさらに数ヵ月続いた後に、経済の縮小が予想されるなか、2023年の第1四半期にトレンドが変化するとみられる。FRBや欧州中央銀行は認めたくないようだが、両中銀は経済的な痛みなしにインフレを抑制することはできないということを容認しているとみられ、金利は上昇して逆イールドとなり、景気後退リスクが高まっている。ドイツ銀行は、インフレ率の伸びが2%を下回るときは、主要産業国の失業率は逆に上昇すると指摘しているが、現実の経済は新型コロナウイルスのパンデミックによって変化しているほか、労働市場から退出するベビーブーマーの数はますます増えており、今後しばらくは労働力不足が続くだろう。

当社では、世界的な住宅市場危機の可能性を引き続き懸念している。スウェーデンでは住宅価格がすでに下落しており、2022年6月のピークから14%落ち込んでいることについて警戒感を持っている。住宅ローン金利が約7%となっている米国では、住宅用不動産市場が停滞し、借り換えや購入活動が世界金融危機以来の低水準となっている。住宅市場の低迷はすでに進んでおり、住宅価格は2桁台の下落が予想されている。資産効果が個人消費を大きく押し下げるとみられるため、長期化する世界的な住宅市場の低迷は経済成長にとってリスクである。とは言え、住宅の純資産価値は現在も比較的堅固であり、失業率への影響についても継続する労働力不足によって限定的なものとなっている。

ドルは2023年に厳しい状況が続くとみられる。FRBが、同年12月に利上げサイクルを終了すると考えられるからだ。また、FRBは量的引き締め(QT)の転換を余儀なくされるかもしれない。QTのペースに沿って米国の銀行準備預金が減少を続けるなか、FRBはバランスシートの巻き戻しを2023年第2四半期中に停止すると予想している。このペースだと、準備金はFRBが最低目標とする2兆~2.5兆米ドルの範囲を下回る。

地政学面では、中国以外の各国が規制から脱却する一方で、中国は新型コロナウイルスによるロックダウンを続けていることに加え市民による混乱が起きていることから、ゼロコロナ政策を継続する能力が疑問視されており、同国は今後も例外的な状況が続くだろう。また、ロシアは今後も脅威であり続けるとみられる。しかし、ウクライナは、以前ロシアに占拠された主要地域の奪還を大きく前進させているようであり、現在のペースで領土を奪還し続ければ、2023年半ばまでに交渉による合意が成立するかもしれない。

2023年の序盤にインフレがピークを付けるとともに金利もピークに達する可能性があることから、債券市場は魅力的なキャリー・リターンと大きなキャピタル・ゲインの両方を生み出すことが見込まれる。

新興国市場の見通し

2022年は、多くの内在する緊張が高まり、新興国債券を含む大半の資産クラスにとって悪影響となるものが作り出された年となった。この悪影響をもたらした一因は、インフレの急激な進行に対する先進国中央銀行の遅れながらも急速な対応とQTであった。しかし、おそらく最も重要な出来事は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の政権に内在する不安定性が高まり、それが人道的・経済的に大きな打撃をもたらしたことだろう。実際、ロシアは、2022年2月にウクライナへの本格的な侵攻を開始した(これまでのところほぼ成功していない)。これに対して西側諸国は、ロシア経済の抑圧やロシア軍の西側のテクノロジーへのアクセス阻止を目的として、かつてない水準の金融・商業制裁を課した。ロシアは、これに対して欧州へのガス供給を断ち切るなど、コモディティの供給停止などを武器にしている。このことは、中国がパンデミックの対処に苦戦していることやその他サプライチェーンの混乱が継続していることと相まって、世界に数十年来の生活費ショックをもたらした。ウクライナにおける戦争も、食品価格の上昇を引き起こした。実際、ロシアとウクライナ両国は、世界の小麦の4分の1超を生産している。可処分所得が低めの傾向にある新興国市場では、食品に費やされる収入の割合が高めであるため、食品インフレの影響はより強く感じられ、幾つかのアフリカ諸国では社会不安の引き金にさえなった。

欧州の新興国は、安価なロシア産エネルギーへの依存度が従来高めであることから、当然ながら経済成長見通しが現在最も低い地域となっている。対照的に、コモディティを主に輸出している中東、東南アジア(インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナムなど)や中南米は、米国のFF(フェデラル・ファンド)金利の誘導目標が2023年に5%に達すると予想されているなかでも恩恵を受けている。全体的に、新興国の経済成長率は低水準であり、2000年代半ばの良好な時期をはるかに下回るとは言え、2019年の水準を上回る3.7%と底堅さを維持すると予想されている。その結果、新興国と先進国の成長格差は、2023年と2024年において共に2016年以来の水準に広がる見込みだ。潜在成長率をやや下回る成長とコモディティ価格の高止まりによって、2023年の新興国の経常収支は全般的に次第に縮小するだろう。インフレが頭打ちになる可能性があり、各中央銀行が利上げサイクルを終了させつつあることから、新興国の債券投資家にはやや楽観姿勢がもたらされている。一方、マイナス面としては、抑制的な金融環境が続くと予想される時期に、財政赤字の継続が新興国の債務比率の上昇に今後もつながる点が挙げられる。

アジアでは、成長モメンタムの面で底堅さを維持しているとみられ、予想上振れも見込まれることから、インド、インドネシア、マレーシア、フィリピンを有望視している。また、メキシコについては、米国経済とのつながりが密接であり、関連する送金の堅調な流入が見込まれるなか、ポジティブな見方を維持している。メキシコはエネルギー輸入への依存度が低く、外貨建て債務の水準が相対的に低水準であることから、世界の経済成長が予想を下回ったとしても、より底堅さを維持する可能性がある。湾岸諸国などのエネルギー輸出国は、明らかに現在の燃料価格の高騰が成長や対外収支の面で追い風になるとみられ、新興国の投資家に同資産クラス内である種の安全な逃避先を提供している。中南米については、ブラジルとウルグアイは、食品価格の高騰とコモディティ価格の下落から恩恵を受けるとの見方を維持している。対照的に、チリとペルーの経済成長は、中国との貿易のつながりが強いことから、より長期にわたって低迷を続けるだろう。したがって、現在当社ではこれらの国々の金利市場について良好な見通しを持っている。殆ど進展のみられていない中国のコロナ政策が打開されれば、成長が追い風となる資産(為替やクレジットなど)にまで良好な見方が広がる可能性がある。中央ヨーロッパでは、大半の国が景気後退に直面する可能性が高く、インフレは2023年第1四半期以降に鈍化するとみられるため、デュレーション戦略が為替戦略をアウトパフォームするとみている。また、米ドルの下落がユーロの下支え要因となり、それによって域内の金融安定リスクが軽減され、最終的に中央銀行はよりハト派姿勢に転じるだろう。

大半の中央銀行は政策金利をより長期にわたり高水準に維持するとみられるが、新興国の一部の中央銀行は、2023年に金融政策を緩和し始めるとみており、緩和サイクルは中南米(ブラジル、チリ、コロンビア、ペルー)やチェコ共和国、インドで開始される可能性がある。新興国のなかで利上げの着手に出遅れていたその他のアジア新興国は、2023年に金融政策を維持することが見込まれる。

グローバル・クレジット市場の見通し

2022年は世界のクレジット市場にとって厳しい年となり、すべての債券セグメントのトータルリターンがマイナスとなった。投資適格債は、金利感応度がより高いことから債券価格に圧力が加わり、ハイイールド債よりも苦戦した。社債に対する圧力は様々な方向からもたらされ、世界中の中央銀行の利上げがその1つとなった。2022年の世界のクレジット市場に影響を与えたその他の要因としては、クレジットファンドが記録的な資金流出に見舞われたことやインフレが企業収益に悪影響を与えるとの懸念など、需給要因が挙げられる。

このような環境下、特に大きな下落圧力に晒されたのは、不動産など金利感応度の高いセクターや素材などインフレの加速やサプライチェーンの混乱が打撃となったセクターであった。一方、エネルギー・セクターは、大半の企業がエネルギー価格の上昇による追い風を受けたため、クレジット市場のボラティリティの影響をあまり受けなかった。

2022年は、世界のクレジット市場にわたってスプレッドカーブがフラット化したが、デュレーションが短めの銘柄は、デュレーションが長めの銘柄に比べてトータルリターンが相対的に良好となった。

今後数ヶ月において重要となるのは、社債が安定化して再び良好なパフォーマンスをあげることができるかどうか、そして市場のどの分野がアウトパフォームする可能性があるかだ。

安定化のための1つの前提条件は、インフレがピークに達することであり、それに伴って金利もピークをつけるとみられる。当社では、これは2023年前半に起こると予想している。その後、クレジット市場は、2022年に高まった魅力的なリスク・プレミアムに注目が集まるだろう。現状を踏まえると、投資適格債のプレミアムはハイイールド債よりも魅力的であるため、当社では前者に注目している。ハイイールド債分野は今後数週間にわたってスプレッドが拡大する可能性があるため、当面は投資適格債をより有望視している。特に、クレジットカーブの短期部分は、トータルリターンを重視する投資家にとって魅力的にみえる。

セクター別では、不動産など大きな打撃を受けたセクターが、金利の安定化とともにアウトパフォームすると予想しており、銀行も良好なパフォーマンスを示すとみている。2022年は、堅調な決算が銀行にもたらした下支えは限定的だったが、今後数ヶ月で状況は変わると予想している。

一方、エネルギー・セクターの銘柄は、2022年にパフォーマンスが最も良好となったことを受けて、足元では割高に見受けられる。また、世界の各国政府が予算の拡充を試みるなか、公益事業は超過利潤税による悪影響が見込まれるため、慎重な見方をしている。

大半の企業が過去数年間にわたって債務をタームアウトしてきており、現在は社債のスプレッドがより有利な発行スプレッドに戻るまで待つことができるため、2023年は債券の供給による逆風は限定的とみている。とは言え、不透明な部分の1つは資金フローだろう。当該資産クラスのパフォーマンスの安定化によって、投資家の資金引き揚げが落ち着くのかどうかが重要な問題となる。従来、資金フローはパフォーマンスに追随するため、当社では資金流出は収まるだろうとの楽観的な見方を維持している。

チャート1

全体として、困難でボラティリティの高まった2022年は、大半の資産クラスのパフォーマンスがマイナスとなったものの、2023年を迎えるなか楽観的な姿勢を持っている。上述した通り2023年はパフォーマンスが安定し、特に投資適格社債が魅力的とみており、不動産および銀行セクターの短期部分を中心に有望視している。


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