本稿は2022年12月8日発行の英語レポート「2023 Global equity outlook」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

英国では11月から12月にかけて、ほとんどの家庭がクリスマス・プレゼントへの子供たちからの(ときに非現実的な)期待と、家計の経済的な現実に折り合いをつけることに終始する。株式市場も同様に期待と現実が入り混じっており、特に2022年はそれが顕著となっている。

投資家はパウエル米FRB(連邦準備制度理事会)議長や政策委員会メンバーからのクリスマス・プレゼントを期待している。厳しい年となった2022年を経て、投資家の多くは急速な金融引き締めからの脱却を「クリスマスに欲しいものリスト」の上位に挙げるだろう。ファンド・マネジャーへのポジショニング・アンケートによるとキャッシュ残高は高水準にあり、FRBが少しでも引き締め減速への転換姿勢を示せば、株式市場は大幅に上昇するとみられる。

しかし、これまでと同様、現実的でいることが重要で、パウエル議長は月末の記者会見で慎重な姿勢をしっかりと示している。同議長は、金利が従来の予想よりも上昇する(そしてその状態がより長く続き得る)可能性とその必要性を繰り返し述べた。このスタンスは市場にとって、予想の範囲内であり驚くべきものではなかった。自身のスタンスを何年もの間市場から試され続けてきたFRBが、インフレ・ファイターとしての信頼性確立への決意が固いことは明らかだ。ここ数年、金融政策が市場をリードできているのかあいまいで、株式市場やクレジット市場でボラティリティが高まる局面が金融政策の方向性を左右しているように見えるケースが多々あった。

人気者になるべく政策担当者の職に就くわけではないだろうが、現職の担当者がここ数ヵ月世論の支持を得ていないことは確かである。FRB はインフレという「魔人」を瓶に戻すべく(この魔人が生み出されるにあたり、FRB 自身が果たした役割についてはあえて言及しない)、ここ数か月でほとんど前例のない早いペースで金融引き締めを実施してきた。この間、利上げ(と今後も利上げが続くであろうという予想)を受けて米国の住宅ローン金利は7%を超えた。これは(多くの株式市場の参加者にとって、自身のキャリアの年月を裕優に超える)20年超ぶりの水準である。その過程で米国では、住宅ローンの月次返済に伴う諸費料が昨年の同時期に比べて50%増加した。このような生活コストの上昇は(エネルギー・コストの上昇とともに)、間違いなく長期にわたり消費へ重石となるだろう。

しかし、米国の消費者だけが金融政策制度の変化の痛みを感じているわけではない。量的緩和時代にFRBが積極的に購入した米国債の価値が大きく下落している。現段階では会計上の損失でしかないが、その額は数千億ドルに上る。

金融政策が経済活動(や投資家のリスク選好)に少しでも影響を与えることを可能とすべく骨を折ってきたFRBが、明確に危険は去ったと発表し、自らが変えようとしている状況からの後戻りを促す道理はない。むしろ、FRB のアプローチが変化するとすれば、それはかなりわずかなものになる可能性の方が高いと当運用チームではみている。少なくとも、FRBの行動をその発言と同じくらい注視していくことが重要になるだろう。

当運用チームでは、インフレはおそらくピークを迎え、金融政策のタカ派姿勢もピークが近いと考えている。では、次に何が起こる可能性が高く、何が起こりえないだろうか。お客様を驚かすことにはならないだろうが、当運用チームが強い確信を持っているのは「起こりえない」ことの予想である。その「起こりえない」予想とは、過去20年間の大半で行われてきた政策(あるいは経済)環境にすぐに戻ることだ。資本調達コストは長期にわたって上昇し、その影響は(FRBが利上げをやめた後も)今後数年にわたって続くと予想される。同様に、長年の金融緩和政策の下で積み上げられた投資家のポジションが、この新しい局面を反映するのには時間がかかるだろう。当運用チームは、過去数年間人気を博してきた(そして利益をもたらしてきた)馴染み深いテーマへすぐに戻れるといまだに期待している人が多いと感じている。テクノロジーおよび通信サービス・セクターの株価調整は、そのような期待が覆されるにつれてさらに進行するとみられる。

「必要なもの」と「望むもの」を切り分けるのは往々にして難しい。当運用チームでは、今後数年間は世界が「望むもの」ではなく「必要とするもの」が投資のカギになると考えている。ポートフォリオではこの見方を反映したポジションを継続しており、構造的に必要となる、より安価なエネルギーや安価な医療サービスなどへのエクスポージャーを増やしている。

まとめると、株式投資家にとって2022年は厳しい年となったが、引き続きFRBの政策ミスの可能性やウクライナ紛争の激化に至るまで、マクロ経済リスクが投資家の期待を冷え込ませている。2022年で特徴的だった要因のなかには、2023年に再び起こるとは考えにくいもの(新型コロナウイルスによるロックダウンに伴うサプライチェーンの強制停止など)もあるが、影響を与え続ける可能性が高いもの(特に、米国金利のピークが視野に入ってきているとしても想定される資本コストの上昇)もある。当運用チームでは状況を慎重に見る一方で、金融政策の積極姿勢の後退を受けて2023年は最終的に株式市場にとってより凌ぎやすい年になるというポジティブな見方をしている。しかし、克服しなければならないショックがまだ残る可能性はある。

このように不透明な環境の中で、当運用チームでは引き続き、キャッシュ創出の実績があり株式のリスク・プレミアムが高止まりしてもバリュエーションの魅力度が高い「フューチャー・クオリティ」企業に注目していく。これらの銘柄のなかには、過去10年ほどは市場を牽引してこなかったものもあるが、歴史に倣えばこれはプラス要素である。(2022年のような)下落相場の後の市場牽引役が、下落相場前の市場牽引役と全く同じであることはめったにないからだ。

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