本稿は2021年12月16日発行の英語レポート「2022 Global Multi Asset Outlook」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

長期的な成長見込みの足場は依然堅固

新型コロナウイルス感染拡大の潮の満ち引きとともに2021年を象徴したインフレの加速は、サプライチェーンのボトルネックの表れであるばかりでなく、十分な景気刺激策の継続に伴う需要の拡大も一因となった。一方、米FRB(連邦準備制度理事会)は平均インフレ率を目標とする政策に転換したが、これはつまり、長期平均が目標の2%近くに落ち着くとの前提で、インフレ率の短期的なオーバーシュートを容認するということである。インフレ率は30年ぶりの高水準にあり、どの部分が一過性なのかも不明であることから、市場は非常に不透明な政策正常化への道筋を臆測せざるを得ない状況に置かれている。

異次元的な緩和政策の解除は常にボラティリティの上昇を伴うものだが、最終需要や経済成長にとって重要なのは、政策が緩和的なものにとどまるかどうかということだ。政策は現在のところ緩和的であり、しばらくはその状態が続くとみられる。それでも、金利市場に歪みが生じていることから、今後12ヶ月でどのリスク資産が利益をもたらすかはあまり明確ではない。米国のイールドカーブは異常なほどフラットで、当面の利上げが早いペースで行われると織り込んでいる。一方、低水準の長期金利は、FRBが短期金利を迅速に引き上げる必要がある(そして結果的に経済成長が抑制される)という同じ想定の下で、長期の成長が失望的なものになることを示唆している。

金利市場は通常、差し迫ったFRBの政策変更を予測するにあたって十分に機能する。しかし、現在の思惑の対象はかなり先の話であり、そのような状況で先のことを見通そうとするのは、水晶玉を覗き込むようなものだと言えるかもしれない。この1年超にわたり、当社では長期金利は上昇するとの見通しを大前提としてきた。2021年第1四半期には長期金利はかなり唐突に上昇し、リフレ・トレードを促す一方で、テクノロジー銘柄などバリュエーションが割高となっていた優良銘柄に打撃をもたらした。しかし、米国債利回りはわずか1四半期のあいだに10年物で0.91%から1.74%へと上昇すると、その後は長期金利が勢いを失い、本稿執筆時点では1.43%に低下している。

それでも、しばらく先にFRBが引き締めサイクルを終えるまでには、長期金利は上昇すると考えている。インフレはFRBが当初想定していたほど一過性のものではなさそうだが、インフレ圧力が常態化しFRBが引き締めサイクルを加速させて経済に打撃を与えなければならなくなると考えるのは、非現実的であるように思われる。この前提に立てば、長期金利は緩やかに上昇し、リフレ資産がバリュエーションの割高な長期グロース株をアウトパフォームする追い風になると予想される。

リスク資産を左右する極めて重要な問題は、米ドルの先行きである。リフレを伴う成長はドル安を示唆するが、米国の実質金利が世界の他の国々よりも速く上昇した場合、この動きは米ドルにとっては追い風に、リフレを伴う成長にとっては逆風になる。

もちろん、最近経験したように、新型コロナウイルスは上記のシナリオをすべて変えてしまう可能性がある。オミクロン株の発見を受けてすぐに急上昇したボラティリティは、FRBが依然量的緩和の解除を加速させるべきと確信していることを材料としてさらに高まった。しかし、非常に興味深いことに、今回のボラティリティの急上昇はドル高を伴っておらず、これは稀なことだと言える。長期の時間軸で見ると、ドルは割安ではなく、前回のFRBのテーパリング(量的緩和の漸進的縮小)によって20%超上昇した後に2015年に出来上がったレンジに留まっているだけかもしれない。

つまるところ、新型コロナウイルスの感染拡大の新しい波が発生しているのに加えてインフレ指標が依然高止まりしていることを踏まえると、市場は政策を見通し得る通常の限界を超えて臆測していると言えるが、世界はまだウイルスと共存する術を学んでいる最中で政策は緩和的なものにとどまっており、リスク資産のサポート材料となっている。重要な点として、政策の引き締めを継続しながら規制強化を行うという厳しい1年を経た中国は、現在ハト派姿勢に転じている。投資機会とリスクの当面の転換点を見出すのが難しいことに変わりはないが、長期的な経済成長見込みの足場はそれなりに堅固であると思われる。

当社が現在2022年に向けて注視している主要テーマには、以下のようなものがある。

  • FRBの政策正常化の道筋:FRBの将来のアクションを予測するにあたって、上述した金利市場の試練がおそらくは前のめりの杞憂だとしても、金利、ドル、そして最終需要を左右し得る消費者・企業心理への最終的な影響の方向性を把握することは重要である。現時点では、当社は依然FRBが景気刺激策を徐々に後退させていくとみている。とはいえ、市場が崩れ始めていた2018年10月にパウエルFRB議長が中立的金利水準からは「まだほど遠い」と発言したことを思い出すと、早い段階での「自動操縦」シナリオは潜在的な下方リスクだと言える。
  • ドルの動きを注視:当社の長期的な見方は、世界の需要と経済成長が改善するのに伴いドルは下落するというものだが、そのような結末への過程は、FRBの政策正常化という不透明感の強い道筋を辿ることになる。FRBが緩和政策を解除する決意を堅持し続けた結果、世界需要を脅かすことになった場合(これは実質的にドルのサポート材料となる)は、同中銀は2018年12月の時と同様、最終的に政策正常化を撤回するのではないかと当社では考えている。当社の基本シナリオとしては、世界の需要および経済成長の正常化に伴いドルが下落基調を辿るとみている。
  • 労働市場の供給問題の解決:人と接する(つまりウイルスに晒される可能性がある)状態が常のサービス職種に戻ることをためらう人が多いことや、他にもベビーブーム後期世代が早期退職する道を選択していることなどから、労働供給における歪みの一部は長く続くことになるだろう。生産性の向上が追いつかなければ(企業が設備投資を行っているのは確かだが、果たして十分と言えるか)、実質賃金はFRBが政策引き締めを前倒しせざるを得ないと感じるほど上昇するのだろうか。もし世界がウイルスと共存する術を学んで不安のレベルが収まれば、予備の供給が需給ギャップを埋めることができるが、これは重要な問題として残る。
  • 政府のコロナ対応:「世界はウイルスと共存する術を学びつつある」とよく言うが、これは、人々が自分達の生活を続けるなかで新しい規制が概して直近よりも軽いものになると予想される、という示唆を遠回しに表現したものだ。オミクロン株が発見され「30ヵ所超の変異」と大々的に報じられただけで、ワクチン接種率が高いにもかかわらず各国政府が渡航制限や場合によっては国内の移動制限を行うに至ったのには、少々驚かされた。これらのアクションはウイルスと共存する術を学んでいると言えるものには見受けられないが、今のところ、新たな変異株に対する厳しい対応は限定的にとどまるだろうというのが当社の評価である。
  • 地政学:バイデン政権が対中関係の地ならしに現実的なアプローチをとっていることから、地政学的な脅威の再燃が市場に大きな影響を与えるリスクは非常に低いと依然考えている。緊張は和らいだと言うには程遠いが、ツイートを口火に市場が潜在的ダメージの大きさをすぐさま織り込もうとして大荒れになる時代は終わったとみられる。ロシアについてはどうか。ロシアとの対立は現在のところ深刻な様相だが、対中関係への焦点シフトや欧州のエネルギー危機への不安を考えると、全力で臨むにはタイミングがよくない。今回の危機は正常な解決に向かうのではないかと考えているが、注視していくべき重要ポイントであることに変わりはない。
  • 政治:言うまでもないが、米国をはじめ各国で政治の分断が進んでいる。米国では中間選挙が近づいており、多くのアナリストが、政権交代が起きた時によくあるように、共和党が下院や上院で幾分勢力を盛り返す可能性があると指摘している。奇妙なことに、このような動きは株式市場にとって概して追い風となる。より大きな変化をもたらそうとする取り組みが阻まれ、市場の観点からは現状維持が通常最善だからだ。

すべてを考え合わせた上で、当社では、不透明感の強いなかにあっても、①ワクチン接種率の高さが最新変異株対策として規制を戻すことの利点を上回り、世界はウイルスと共存する術を学ぶようになる、②中国の政策緩和策を受けて世界の需要が多少なりとも拡大する、③中央銀行がインフレ懸念への忍耐強さを示し(そのような姿勢を維持するのはもっともである)斬新的な緩和政策解除を行う、といった理由から、経済成長に対してポジティブが見方を維持している。この見通しに対する主なリスクは、FRBの政策の行方、労働市場の正常化、そして世界の消費者・企業心理をウイルスとの共存という正常な道筋へと戻すことにおける各国政府の力量である。

資産クラス別の見通し


株式

政策が依然緩和的で最終需要の回復が続いていることから、株式市場の見通しは引き続き明るい。とは言え、FRBの緩和政策解除への道筋が不透明な時はいつもそうであるように、市場は神経質になっている。今では株式のバリュエーションがすでに健全な水準に戻っており、サイクルにおいてより難しい局面にあると言える。課題となるのは、リフレのペースや金利およびドルの方向性に応じて適切なエクスポージャーを見つけることだろう。しかし、中国株式をはじめ、そのような型にはまったメカニズムに囚われない投資機会も存在する。中国では政策が規制・財政・金融面で引き締め状態にあることから、少しの緩和でもバリュエーションが魅力的な水準にある同国の株式市場とっては大きなプラス材料となる。

ソブリン債

先進国分野では、当社の経済成長予想と、FRBの利上げ開始に伴いターミナル・レート(利上げサイクルにおける終着点金利)が上昇する可能性の高さを考えると、債券は依然割高に見受けられる。特に中国が政策緩和に移行していることから、当社では中国の債券を選好している。また、新興国は先進国と異なりインフレ圧力に後手とならないよう引き締めを早いペースで進めているため、現地通貨建て新興国債券も選好している。不確実要素はドルで、ドル高は現地通貨建て新興国債券にとって逆風となる。それでも、リスク・リターンのバランスは良好とみており、ドルが上昇基調に戻った場合には為替リスクヘッジを行う用意がある。

クレジット

グローバル・クレジット市場は通常、政策がまだ緩和的で経済成長が改善している局面が最適な投資環境となる。スプレッドがタイトな水準にあるため、当該資産クラスの相対的な魅力度は2020年の時よりも低下しているが、政策が引き締められたり需要が逼迫したりするまでは、グローバル・クレジットへの投資は依然理に適っている。もちろん、政策の不透明感とスプレッドの相対的なタイトさを考えると、この資産クラスも政策正常化の過程においてボラティリティが高まるとみられる。

コモディティ

この資産クラスは、インフレ・リスクに対して自然なヘッジになると同時に、需要の回復から恩恵も受ける。2021年のパフォーマンスは、引き締め気味となった中国の政策とドル高に悩まされたが、今後については、中国の政策緩和が(過去の積極的な緩和推進時ほどの威力はないものの)コモディティの追い風となる。ドルの方向性は定かではないが、当社ではドルに対して長期的に弱気の見方をしており、また世界の需要が回復してきていることから、コモディティに対して強気な見方を維持する。

まとめ

当社はリスク資産に対してポジティブな見方を維持しているが、FRBをはじめ各国中央銀行が緩和政策を解除する過程を切り抜けていくにあたり、利益実現への道がよりさじ加減の難しいものになるであろうことも認識している。ドルのバリュエーションが依然比較的割高であるとともに世界の需要が回復していることから、最終的にはドル安になると思われるが、そうなるまでの道のりは不安定で時折リスクオフ圧力が高まるものとみられる。特に中国人民銀行が緩和に転じ始めたなか、相対的に高い利回りとディフェンシブな特性から中国債券を選好する。また、新興国では利回りが魅力的な水準にあり政策引き締めが先行して進んでいるため、現地通貨建て新興国債券も選好するが、ドル高局面ではヘッジが必要となるかもしれないことは念頭に置いている。コモディティも、インフレ・ヘッジ特性と中国の政策緩和および世界需要の回復に対する感応度の高さから、魅力的な資産クラスに映る。

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