本稿は2022年12月8日発行の英語レポート「2023 Global multi-asset outlook」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

投資機会が浮上しつつあるが、切り抜けなければならない難局は依然ある

2022年のことは忘れた方がいいのかもしれない。しかし、資本市場に携わる者にとっては、貴重な教訓を学んだこの年を決して忘れることはできないし、忘れるべきでもないだろう。インフレが猛烈な勢いで復活し、特に10年超続いた過剰な緩和政策(その最たるものがコロナ禍を受けた大規模な金融緩和および財政出動)の急速な解除と相まって、あらゆる資産クラスに大きな痛手をもたらしている。米FRB(連邦準備制度理事会)をはじめ各国の政策当局が、債券市場と株式市場に双子のバブルを生じさせたのは確かだ。調整の最悪期は過ぎたかもしれないが、その波及的影響と後遺症は長年にわたって続くとみられる。もちろん、ロシア・ウクライナ戦争という人道上の悲劇に見舞われた多くの人々は、2022年を忘れることはないだろう。戦禍に巻き込まれた方々にお見舞い申し上げるとともに、何かしらの解決策によって2023年に事態が好転することを願っている。

当社では、大幅な下落により、今後有望とみなされている投資機会に比べて割安に映る資産において、興味深い投資機会が浮上しつつあると考える。中国は、壮絶な米ドル高がついに終焉を迎えたように見受けられるなか、ゼロコロナ政策からようやく脱却しつつあるとともに景気支援策を強化している模様である。この2つの動きは、世界の他の国々にも活力をもたらす。資産価格は中国以外の国々でも大きく下落してきた。中国の需要が下振れし、FRBの引き締めの招くドル高が結果として世界中に実質的な引き締めをもたらす場合、こういった状況が起こりやすい。

とは言え、中国の需要回復とドル安という形で他の国々にもたらされるプラス効果は、引き締め政策の影響が出始める米国などの国々の需要減少によるマイナス効果と秤にかける必要がある。そのバランスがどのようなものになるかは、米国の景気鈍化がどの程度の広がりを見せるか、同国のリセッション(景気後退)がどの程度の深さになるかによる。当社の基本シナリオとしては、リセッションに陥る可能性は高いものの、現金貯蓄がまだ比較的潤沢で民間部門の負債比率が低く、雇用動向も(インフレの根強さの一因となっているとはいえ)追い風であるため、程度は軽く収まると考えている。

上記のような世界の景気動向の綱引きに加え、インフレの方向性や需要減少による企業収益の低迷を要因として、市場のボラティリティは高止まりするとみられる。ロシア・ウクライナ戦争を受けて脱グローバル化が加速しており、通常の需給パターンにすぐに戻ることがないのは確実と言っていいだろう。当社では、特に世界中でバリュエーションが低下している点から楽観的な見方をしているが、今後に控えている未知の世界に対して慎重さも維持している。

2023年に向けて当社が現在注視している主要テーマの一部は、以下の通りである。

  • 中国の需要は回復:当社では2021年にこのテーマに触れたが、中国がゼロコロナ政策を延長する一方で景気刺激策の実施に遅れをとったことにかなりの衝撃を受けた。しかし、現在は状況が異なり、ワクチン接種率がはるかに高く、新型コロナウイルスに関する知識も深まっている。また、重要な点として、国内景気が低迷していることと国民が繰り返される長期ロックダウン(都市封鎖)にかなりうんざりしてきていることから、当局は政策転換の圧力を感じている。完全な転換にはまだ時間がかかるかもしれないが、中国需要の回復見込みは他のアジア諸国やその他の国々の景気見通しにとっても確実に追い風となる。
  • インフレは減速も2%目標の達成は困難:インフレは、特に需要が本格的に弱まれば、今後自然に減速するはずである。しかし、供給サイドの動向から、インフレが過去の標準的水準である2%まで後退することは考えにくい。今後のインフレ鈍化の形が分からないため、上述のような展開が明らかになる時期を予想するのは難しいが、2023年後半か2024年には、FRBと投資家はこの問題に対処しなくてはならなくなるだろうと考える。景気が低迷する一方でインフレが不安なほど高い水準にとどまれば、FRBは難しい選択を迫られることになる。
  • ドル安:米国の金利上昇と経済成長率の相対的な高さが相まって、2022年の大半は米ドル高が続いてきたが、潮目は変わり始めている。FRBは非常にタカ派的なスタンスからほとんど転換していないが、米国以外の国々の景気見通しが改善してきている(例えば中国)ことや米国の引き締め政策が国内景気を鈍化させつつあることは、ともにドル安を促す要因となる。さらに、このような動きは、米国株式市場から(はるかに割安で経済成長見込みがより魅力的だと考えられる)他国市場への資金移動が進みやすくなることで、通常自ずと増幅される。
  • 米国の企業収益は鈍化:米国株は2022年10月の底値から上昇しており、パフォーマンスが比較的良好なように見受けられるが、景気の悪化が最終的に需要および企業収益の鈍化につながることを考えると、企業収益の見通しはあまり明るいとは言えない。米国株式市場では、コロナ関連の景気刺激策を受けて大幅な企業収益の伸びと株価バリュエーションの上昇が見られたが、後者がすでに修正されている一方で、前者は今後数ヶ月の間に鈍化すると予想している。もちろん、米国の需要が鈍化すれば他の国々にも影響を及ぼすので、この需要鈍化の度合いが重要な手掛かりとなる。
  • デュレーションに対する見方は微妙:米国景気の鈍化見通しを受けて債券市場は上昇し始めたが、一方、FRBが金利を引き上げ現在市場に織り込まれているよりも長期間にわたり金利を高水準に据え置く決意を堅持しているため、イールドカーブは長短逆転している。どちらの見方が正しいのだろうか。一概には言えないが、デュレーションは企業収益の伸びの鈍化に対する自然なヘッジとなるため、ポートフォリオである程度のデュレーション・ポジションを取るのは妥当である。
  • ロシア・ウクライナ紛争解決の可能性は?:戦争は多くの面で厄介なものだが、人的損失の深刻化(最も深刻なのは明らかに紛争地域の被害だが、エネルギー・コストの高騰とエネルギー不足という形で主に欧州の人々が払っている間接的犠牲もかなり重い)を考えると、何らかの形の合意が実現する可能性はあると考える。少なくとも表面では、NATO(北大西洋条約機構)加盟国が紛争を終わらせる方法について検討し始めている模様で、これは2023年に向けて大きなプラス材料となるだろう。
  • 多極化する世界における投資の新たな勝者:脱グローバル化は2018年の米中貿易戦争で始まり、新型コロナウイルスの感染拡大に伴うサプライチェーン危機で加速したが、ロシア・ウクライナ戦争の勃発以来、国際的な信頼や忠誠心は目に見えて変化している。この動きは、気候変動対策の継続的な取り組みと相まって、投資という形での新たな機会をもたらしているが(例えば資本財・サービスや基幹産業)、構造的なインフレ圧力や(意図的であるかないかにかかわらず)軍事行動がエスカレートするリスクももたらす。

資産クラス別見通し


株式 :株式市場の見通しはポジティブながらも微妙な部分があり、米ドル高と中国の需要鈍化を受けて過度に下落していたバリュー株が、そういったこれまでの逆風要因が追い風に転じることで、最もアウトパフォームするかもしれない。当社では、株価バリュエーションが割安な米国の非景気循環セクターや、世界の景気動向の変化から恩恵を受けやすいセクター構成となっている国など、米国の需要軟化の影響を受けにくい銘柄を選好している。

コモディティ関連株は、生産能力が引き続き制約されていることを考えると、バリュエーションと企業収益見通しから投資機会として妥当と言えるが、そのような供給サイドの有利な動向を、米国の需要鈍化と中国はじめ他の国々の需要回復という吉凶混在の需要サイドに照らして評価する必要がある。欧州の状況は戦争次第だが、解決・停戦に向けて確固たる措置がとられた場合は上昇の可能性あるとみている。

ソブリン債 :先進国市場のソブリン債は、FRBが現在の米国債10年物利回りを大幅に上回る水準への引き締めを計画していることを考えると割高に見えるが、債券市場が織り込んでいる程度まで景気が鈍化するか、それとも金利は上昇し長く高止まりするとのFRBの見立てが正しいか、見極めるには時間がかかるだろう。とは言え、債券は米国の需要および企業収益の鈍化に直面している株式に対して自然なヘッジとなる。新興国債券については、当該諸国の政策当局が警戒を怠らずインフレ動向に合わせた利上げを実施してきており、足元ではインフレが減速しつつあることから、よりポジティブな見方をしている。中国債券に対しては、同国の景気状況が改善してきているためそれほどポジティブではないが、同国の経済成長が下振れした場合に適切なヘッジの役割を果たす。

クレジット :米国と欧州の景気状況が悪化しているため、クレジットについてはあまりポジティブな見方をしていない。コロナ禍以降、信用は十分に供給されてきたが、多くの企業はその資金を投機的な投資ではなくバランスシートの強化に使ってきた。潜在的な問題の種がどこにあるのかを知るのは難しいが、成長鈍化と金利上昇から悪影響を受けやすい、バランスシートの脆弱性が明らかな発行体は、市場全体に影響が波及しかねない問題点が出現しないかを見極める上で、注視していくべき重要なポイントである。

まとめ

全体的には、バリュエーション面のサポート、そしてドル安を着実な追い風とする中国の景気見通し改善を主な材料として、当社ではポジティブな見方をしている。米国株式市場の一部は企業収益の悪化に見舞われる可能性があるが、米国が深刻なリセッション(つまりハードランディング・シナリオ)に陥らない限り、その他の国々は比較的良好な推移が見込まれる。民間セクターのバランスシートが、特に世界金融危機など過去の信用危機と比較するとかなり堅固であることから、ハードランディングの可能性は小さいと思われる。それでも、過剰な景気刺激策とその解除がもたらす意図せざる結果が、(2022年10月に英国の年金制度で救済が必要となったように)市場の予期せぬ分野で顕在化する可能性はある。世界が未曾有の過剰な景気刺激策から脱却しながら多極化という未知の領域に入っていくなか、リスクは数多くある。引き続き警戒を怠らず、こうした流動的なリスク動向の展開を把握し、適切にプロテクション策を講じていくことが重要となるだろう。

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