本稿は2023年2月13日発行の英語レポート「Harvesting Growth, Harnessing Change」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

アジア株式は大幅上昇


サマリー

  • 2023年のアジア株式市場(日本を除く)は好調な出だしとなり、当月の米ドル・ベースの月間リターンは8.2%に達した。中国株式に対する投資家センチメントの回復が支援材料となった。米国では、CPI(消費者物価指数)上昇率が6ヵ月連続で鈍化し、インフレ圧力が弱まり始めているとの期待が広がった。
  • 中国市場は、活動の停滞を招いていたゼロコロナ政策が解除されて初となる旧正月休暇を迎えて旅行や消費が急増するなか、引き続き上昇し月間リターン(米ドル・ベース、以下同様)が11.8%となった。台湾と韓国市場は月間リターンがそれぞれ12.7%、12.4%にのぼり、アジア域内で最も良好なパフォーマンスをみせる一方、香港市場は月間リターンが3.8%となった。当月のアセアン諸国市場のリターンは軒並みプラスとなったが、インド市場は月間リターンが-3.0%と劣後した。
  • 中国については、同国内をリードするブランドを中心に消費関連分野や、ヘルスケア、ソフトウェア、一部の資本財・サービス関連分野についてポジティブな見方を維持している。インドへの投資においては選別的な姿勢を強めており、アセアン諸国市場については、リターンの持続性に長期的影響を及ぼすファンダメンタルズ面の2つの重要な変化が見受けられる。

市場環境

当月のアジア株式市場は小幅下落
2023年のアジア株式市場(日本を除く)は好調な出だしとなり、当月の米ドル・ベースの月間リターンは8.2%に達した。中国の新型コロナウイルスや住宅、インターネット規制などの分野における政策転換を受けて、投資家の中国株式に対するセンチメントが回復したことが追い風となった。米国では、12月のCPI上昇率が前年同月比6.5%と6ヵ月連続で鈍化し、インフレ圧力が弱まり始めているとの期待が広がった。

中国、台湾、韓国市場が急上昇
北アジア地域では、活動の停滞を招いていたゼロコロナ政策が解除されて初となる旧正月休暇を迎えて旅行や消費が急増するなか、中国市場が引き続き上昇し月間リターン(米ドル・ベース、以下同様)が11.8%となった。経済活動再開をめぐって当初は新型コロナウイルス感染拡大懸念が高まったものの、中国の複数の都市において感染拡大のピークを過ぎた可能性がある兆しもみられ始めたことで、そうした懸念も後退した。中国の2022年第4四半期のGDP成長率が前年同期比+2.9%と市場予想を上回ったほか、12月の経済活動指標も同様に市場予想を上回った。香港市場は、中国本土との往来が正式に再開され、入境に伴う隔離義務も廃止されたことが好感され、月間リターンが3.8%となった。

台湾市場は、主力の電子機器セクター、特に半導体関連の大型株が株価上昇を牽引して月間リターンが12.7%にのぼり、アジア域内で最も良好なパフォーマンスをみせた。当月、インデックスに占める構成比率が高いTSMC(台湾積体電路製造)は、2022年第4四半期決算において先端半導体の売上好調を背景に純利益が78%増となったことが好感され、株価が急上昇した。韓国市場は、外国人投資家がより容易に投資できるようにするべく、今年中に現地株式市場の複数の規制を廃止する計画を政府と規制当局が発表したことを受けて、株価が12.4%上昇した。韓国の中央銀行は政策金利を0.25%引き上げ、また、発表した声明においてインフレは間もなくピークを迎える可能性があると示唆した。

アセアン諸国市場は軒並みプラス・リターン
当月のアセアン諸国市場のリターンはいずれもプラスとなった。月間市場リターン(米ドル・ベース、以下同様)はシンガポールが域内トップの7.5%にのぼる一方、他の市場ではより小幅な上昇にとどまり、フィリピンが5.4%、タイが3.8%、インドネシアが3.3%、マレーシアが2.9%となった。

シンガポールでは、12月の総合インフレ率が前年同月比6.5%へと鈍化した。フィリピン経済は好調に推移し、インフレが急加速するなかでも国内消費が底堅さを維持したことから2022年の成長率が7.6%に達した。タイの中央銀行は、観光業や内需の回復を追い風に景気回復が引き続き加速していると発言した。一方、インドネシアは2022年の貿易黒字が過去最高の544.6億米ドルに達し、また、マレーシアの中央銀行は主要政策金利を2.75%に据え置き、これまでの政策調整の影響を分析評価していくとした。

インド株式市場は下落
当月のインド市場は米ドル・ベースの月間リターンが-3.0%と劣後した。当月最終週に同国の新興財閥アダニ・グループの株式に対する売り圧力が強まったことで市場の下落に拍車がかかった。アダニ・グループ関連株は、空売りで知られる米国の投資会社ヒンデンブルグ・リサーチにより、株価操作やマネーロンダリング行為の蔓延を非難されたことを受けて、株価が急落した。インド経済については、当年度の成長率(速報値)が7%に達するとみられている。

今後の見通し

中国が引き続き注目ポイントに
現在、欧米諸国がさらなる金融引き締めによって景気後退に陥る可能性が見込まれる一方で、世界第2位の経済大国である中国では経済活動再開のペースが速まっている。大半の国にとって現在の中国との貿易額は、米国とEUの両方の合計額を上回っている。こうしたなか、当面のアジアの見通しは比較的良好であり、バリュエーションも大部分にわたって依然割安な水準にあることから、持続可能な高収益とファンダメンタルズのポジティブな変化の両方が見込まれる優れた長期の投資機会が豊富に存在すると考えている。足元では引き続き中国に焦点が置かれているが、他の国の経済活動が上向いてくるにつれ、程度に差はあるだろうがアジア地域全体へ注目が広がっていくとみられる。

中国の消費関連、ヘルスケア、ソフトウェア、その他の一部の分野に対するポジティブな見方を維持
中国の経済活動再開のペースに加え、発言内容の顕著な変化や不動産市場への政策支援の強化は、多くの中国ウォッチャーにとって予想外の展開となった。今後の政策の方向性について次に大きな手がかりが得られるのは3月になってからとみられる。中国では、コロナ禍を通じて多数のサービス関連業界の再編が進んできたが、旧正月休暇期間を通して、サービス業の複数の分野にわたって消費需要が大幅に上向いている兆しがみられ始めている。昨年は余剰貯蓄が大幅に積み上がり、また、不動産は投機のためのものではなく住むためのものという方針が維持されるとみられるなか、中国の家計がどのように資金を配分していくかに高い注目が集まるだろう。当面は、同国内をリードするブランドを中心に消費関連分野や、ヘルスケア、ソフトウェア、一部の資本財・サービス関連分野についてポジティブな見方を維持している。

北アジアの他の国では、韓国は株主総利回りの向上と長年続いている外国資本投資の課題に対処するために、より協調的な取り組みを行っていることから、これが同国の株式市場に大きな変化をもたらす可能性がある。また、中国の国内経済が回復して在庫消化がさらに進むと期待されるなか、テクノロジーサイクルに一部底入れの兆しが出てくるかもしれない。当社では、医療機器受託製造企業を引き続き選好しており、企業固有のハードウェア技術に投資機会のある銘柄への注目を強めている。

インドについては選別姿勢が妥当
インド経済は2023年も世界屈指の高成長を遂げると期待されるものの、ポジティブな変化がすぐに見込まれる訳ではない。これに加えて、特にアジアの他の地域と比較してバリュエーションがすでに割高な水準にあることから、インドに対しては選別姿勢を強めるべきだろう。加えて、米国の投資会社ヒンデンブルグ・リサーチが調査レポートで新興財閥アダニ・グループを批判したことを受けて、インド企業全般の相対バリュエーションやコーポレートガバナンスの両方を見直す動きが出てくる可能性が高い。しかし、これはインドにおける負債の積み上がりを示す例であるものの、依然としてかなり特異なケースであり、同国全体では与信動向はかなり低水準で推移している。インドの国家予算はバランスが取れたものとなっており、国内設備投資の拡大推進も目標に掲げられている。したがって、インドはアジア地域でも特に優れた持続的リターンとポジティブな変化をもたらすと期待され、当社では同市場に対して投資資産を配分していくより良い好機を求めて注視していく方針だ。

アセアンではファンダメンタルズの変化が重要な長期的リターン・ドライバーとなる可能性
同じく2022年のパフォーマンスが相対的に堅調だったアセアン諸国市場については、リターンの持続性に長期的影響を及ぼすファンダメンタルズ面の2つの重要な変化が見受けられる。1つ目は、サプライチェーンの分散化・確保をめざす欧米諸国からの投資が増加していることだ。この恩恵を最も幅広く受けてきたのはベトナムだが、他のアセアン諸国への投資も増加してきている。第2の重要な変化は、中国からの投資を受けて複数の国で対内直接投資が増加していることである。それが現在最も顕著にみられるのは、電気自動車産業の下流部門における生産能力拡大をめざしているインドネシアである。これらのファンダメンタルズの変化はともに、長期にわたってアセアン諸国市場を牽引する重要なドライバーになると期待される。また、中国人観光客の訪問再開に伴い、タイやシンガポールといった人気観光地では待望の観光収入が再び増加してくるとみられる。


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