本稿は2023年2月20日発行の英語レポート「On the ground in Asia」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

FRB は利上げ一服の可能性、中国の再開を受けてポジティブなセンチメントが広がる

サマリー

  • 1月の米国債市場は利回りが低下し、月末の利回り水準が2年物の指標銘柄で前月末比約0.226%低下の4.203%、10年物の指標銘柄で同0.366%低下の3.511%となった。
  • 当月は、マレーシアの中央銀行が政策金利を据え置く一方、韓国やタイ、インドネシアの各中央銀行は政策金利を0.25%引き上げた。
  • アジア諸国の12月のインフレ指標はまちまちとなり、中国やタイ、インドネシア、フィリピンの総合CPI(消費者物価指数)上昇率が加速する一方、インドやシンガポール、マレーシアのインフレ率は鈍化した。
  • 中国は、2023年1月8日に国境を再開した。中国の政策当局は、同国の不動産セクターに対する支援策強化も発表し、また劉鶴副首相は、不動産業は中国経済の柱であると述べた。
  • 当社では、インフレ圧力は世界的に一段と鈍化する可能性があるとの見方を維持している。アジアの現地通貨建て債券では、シンガポールや韓国、インドネシアの債券を選好する。通貨については、人民元、シンガポールドル、タイバーツを選好する。
  • アジアのクレジット市場は、米国債利回りが低下し、信用スプレッドが約0.1745%縮小するなか、月間リターンが2.98%となった。格付け別では、ハイイールド債の月間市場リターンが7.15%となり、同2.22%の投資適格債をアウトパフォームした。
  • 中国以外のアジア諸国では、マクロ経済および企業信用のファンダメンタルズが堅調さを維持するだろう。米国債利回りが低下するとともにファンダメンタルズが引き続き底堅いなか、アジアの信用スプレッドは年序盤に縮小した後、レンジ内での推移を続けるとみている。

アジア諸国の金利と通貨

市場環境

1月の米国債利回りは低下
1月の米国債は、2022年末の軟調な動きから反転して上昇(利回りは低下)した。米国債市場のイールドカーブはツイストフラット化し、中長期債がアウトパフォームした。米国のコアCPI上昇率が一段と減速したことを受けて、米国の中央銀行が金融政策引き締めサイクルの休止に近づいているとの見方が強まった。その後、日銀は政策の変更が予想されていたなかで、現在のイールドカーブコントロール政策を据え置くことを決定したほか、米国で複数の国内指標が低調となり景気減速懸念が強まったことを受けて、米国債は続伸した。月末にかけては、2月上旬の米FOMC(連邦公開市場委員会)を控えて投資家のあいだで様子見姿勢が広がり、総じて小動きの展開が続いた。月末の利回り水準は、2年物の指標銘柄で前月末比約0.226%低下の4.203%、10年物の指標銘柄で同0.366%低下の3.511%となった。

チャート1

韓国、タイ、インドネシアの中央銀行が利上げを実施、マレーシアの中銀は政策金利を据え置き
当月は、韓国やインドネシア、タイの中央銀行が政策金利を0.25%引き上げる一方、マレーシアの中央銀行は政策金利を据え置いた。インドネシアの中央銀行は、今回の引き締めサイクルにおける累積2.25%の利上げは、2023年前半のコアインフレ率を目標レンジ内に確実にとどまらせるのに「十分である」として、今回が最後の利上げとなる可能性を示した。対照的に、タイの中央銀行の政策声明はよりタカ派的なトーンとなり、「政策金利は長期的に持続可能な成長に合致する水準まで正常化されるだろう」として、追加利上げが示唆された。また、政策声明では、コアインフレ見通しにおいて上振れリスクが強まったことが強調された。他では、韓国の中央銀行は、利上げに反対する2人のメンバーが政策金利の据え置きを支持し、ハト派的な動きと受け止められた。韓国の金融当局は経済見通しに対してより弱気な見方に転じ、2023年のGDP成長率予想が2月の会合で下方修正される可能性があると政策声明で指摘した。マレーシアの中央銀行は、「金融政策が経済にもたらす影響には時間差があるため、政策金利を据え置くことによって金融政策委員会はこれまでの政策金利調整の影響を見極めることができる」との考えを示した。

12月の総合CPI上昇率はまちまち
域内の12月のインフレ指標はまちまちとなった。総合CPI上昇率は、中国やタイ、インドネシア、フィリピンで加速する一方、インドやシンガポール、マレーシアで鈍化した。インドネシアの総合インフレ率は、航空運賃や家賃、食品価格の上昇加速などを一因に前年同月比5.51%となり、市場予想を上回った。フィリピンの12月の総合インフレ率も同様にやや加速し、食品・飲料、衣服・履物の物価上昇ペースが速まるなか、前年同月比8.1%となった。対照的に、マレーシアの12月の総合CPIは、食品価格の上昇ペースが鈍化したことから前年同月比3.8%と、前月の同4.0%から小幅に減速し、シンガポールの総合CPIは、主に民間輸送費の上昇率鈍化によって、同様にペースを緩めた。

中国が国境を再開、不動産セクターの追加支援措置を発表
中国は、3年前に新型コロナウイルス感染症の流行開始を受けて国境を閉鎖した後、2023年1月8日に再開した。また、中国の政策当局は、苦境にある同国の不動産セクターに対する追加支援策を発表した。1月初旬に、中国当局は「システム上重要な」デベロッパーのバランスシート改善措置を検討していると報じられた。その他、住宅用不動産開発のためのプライベート・エクイティ・ファンドの資金調達再開を容認するとともに、住宅都市農村建設相は、中国政府が頭金比率と住宅ローン金利の引き下げを通じて住宅の初回購入の需要を強力に支援し、アップグレード需要も適度に支援することを明言した。その後、中国の規制当局が金融機関に対して、「システム上重要な」デベロッパーの債務延長や運転資本の融資提供を奨励していることが明らかになった。月末にかけて、劉鶴副首相は、不動産業は中国経済の柱であると述べた。

今後の見通し

デュレーション全般に対して強気な姿勢を維持、シンガポール、韓国、インドネシアの債券を選好
当社では、インフレ圧力は世界的に一段と減速するとの見方を維持している。2023年の世界の経済成長見通しが低迷していることもあり、米FRB(連邦準備制度理事会)は第1四半期末までには利上げを一服させる可能性がある。こうした環境下、アジアの大半の中央銀行は利上げサイクルの終盤に近付いているとみられることから、当社では域内の債券に対して全般的に強気な姿勢を持っている。域内では、米国債利回り安定化への感応度が相対的に高いシンガポールや韓国の国債を有望視する。また、インドネシアの債券は、海外からの資金流入の回復が需要の追い風になるとみている。世界の債券利回りに対する上昇圧力が和らぐなか、域内で相対的に魅力的な同国の実質利回りに再び注目が向かうだろう。インドネシアの中央銀行が、今回のサイクルで最後の利上げである可能性を示唆したことは、同国の債券にさらなる追い風をもたらしている。

人民元やシンガポールドル、タイバーツを選好
通貨については、FRBが方針転換すれば、米ドルに対する需要が後退するとみているため、同通貨に対する見方をニュートラルからアンダーウェイトとしている。また、中国の予想よりも早い国境の再開は、コロナ措置の撤廃と相俟って域内の経済成長を後押しし、外国為替市場のセンチメントを下支えするだろう。当社では、アジア通貨全般はドルをアウトパフォームして、タイバーツとシンガポールドルは他のアジア通貨をさらにアウトパフォームすると予想している。シンガポールでは、コアインフレが高止まりしていることを受けて、MAS(シンガポール金融通貨庁)はシンガポールドルのNEER(名目為替レート)の上昇誘導スタンスを維持するとみられる。タイでは、中国人観光客の戻りによって、経常黒字が良好な状態に回復するとの楽観的な見方がタイバーツの好材料になるだろう。また、世界経済の減速が予想されるなかでも、人民元は中国経済の持ち直しが追い風になるとみられる。

アジアのクレジット市場

市場環境

アジアのクレジット市場は中国経済の回復に対する楽観的な見方から市場心理が上向き信用スプレッドが縮小
アジアのクレジット市場は、米国債利回りが低下し、信用スプレッドが約0.1745%縮小するなか、月間リターンが2.98%となり3ヵ月連続でプラス・リターンとなった。リスクセンチメントがポジティブなものとなるなか、格付け別ではハイイールド債が投資適格債をアウトパフォームした。投資適格債はスプレッドが約0.0368%拡大したものの、米国債利回りが低下するなか月間市場リターンが2.22%となり、ハイイールド債はスプレッドが1.6308%縮小して月間市場リターンが7.15%となった。

当月のアジアの信用スプレッドは着実に縮小して、11月からの上昇局面が継続した。米国のインフレがピークを脱したとの楽観的な見方が強まったことや、中国ですべてのコロナ規制が実質的に解除されるなか同国の経済が堅調に回復するとの期待が広がったことが、需要の追い風となった。また、中国の政策当局による不動産セクターへの追加支援決定が、ポジティブなリスクセンチメントをさらに後押しした。1月初旬に、中国当局は「優良であり」また「システム上重要な」デベロッパーのバランスシート改善措置を検討していると報じられた。これに続いて、政府は金融機関に対して債務延長や運転資本の融資提供を奨励していると報じられた。加えて、住宅都市農村建設相は、中国政府が頭金比率と住宅ローン金利の引き下げを通じて住宅の初回購入の需要を強力に支援し、またアップグレード需要も適度に支援することを明言した。こうしたポジティブな報道を受けて、中国の不動産セクターのクレジットものはスプレッドが大幅に縮小した。リスクセンチメントが世界的に上向くなか、アジアを含む新興国への資金流入が加速し、アジア・クレジット分野の新規発行はグローバルでみると依然低調ではあるものの、1月は幾分持ち直した。月末にかけては、空売り手法で知られる投資会社がインドのアダニ・グループに関するレポートを発表したことを受けて市場のボラティリティがやや高まったが、こうした動きは概して一部のインドのクレジット内にとどまった。最終的に、当月はインドやインドネシア、マレーシア、韓国を除くアジアの主要国セグメントでスプレッドが縮小した。

1月の発行市場では起債活動が回復
アジア・クレジットの新規発行は1月に大きく回復し、月間の新発債発行は合計で31件(総額231.9億米ドル)にのぼった。投資適格債分野では、韓国輸出入銀行(3トランシェで総額35億米ドル)や香港のソブリン債のディール(4トランシェで総額40億米ドル)、フィリピンのソブリン債のディール(3トランシェで総額30億米ドル)、インドネシアのソブリン債のディール(3トランシェで総額30億米ドル)を含め、計26件(総額220億米ドル)の新規発行があった。一方、ハイイールド債分野の新規発行はより大幅に低調となり、計5件(総額11.9億米ドル)にとどまった。

チャート2

今後の見通し

2023年序盤は需給要因や底堅いファンダメンタルズ要因がアジアの信用スプレッドの追い風に
当社では、アジアの信用スプレッドは2023年序盤に縮小すると予想していたが、FRBが利上げペースを減速する可能性や中国の重要分野における政策転換といった好材料を受けて、予想通りの動きとなっている。中国の主要都市では新型コロナウイルス対策の出口戦略に伴う感染拡大の波のピークは過ぎたとみられ、また不動産およびインターネット・プラットフォーム・セクターで成長や市場を重視した政策スタンスにシフトしていることと相俟って、中国経済がより早期に且つ急速に回復することが示唆されている。これは、市場センチメントを支えるだけでなく、例えば観光客の動きや物品・コモディティの輸出の追い風などを通じて、他のアジア諸国により広範にわたって大きなプラスの波及効果をもたらす。地政学的な緊張が完全に解かれる可能性は低いとみられるものの、中国の指導部は外交政策の姿勢も軟化させているようだ。

中国以外のアジア諸国では、マクロ経済および企業信用のファンダメンタルズが、2022年よりはやや低迷するとは言え、堅調さを維持するだろう。インドとアセアン諸国は、観光業の回復や国内の経済活動の再開を追い風に、輸出依存度の高い北アジア諸国に比べて好調な景気動向が予想される。米国債利回りが低下するとともにファンダメンタルズが引き続き底堅いなか、アジアの信用スプレッドは2023年序盤に縮小した後、レンジ内での推移を続けるとみている。

この基本シナリオには下方リスクも存在する。その主なものは、主要経済国全般にわたってインフレが予想以上に根強く、利上げサイクルのさらなる長期化や政策金利のターミナルレート(最終到達点)の上昇を招くリスクや、先進諸国の景気減速がさらに深刻化するリスクだ。こうした下方リスクの1つ以上が現実化すれば、アジアの信用スプレッドは足元の水準よりも拡大するかもしれない。


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