当レポートは、英語による2022年11月24日発行の英語レポート「The case for China bonds」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
中国オンショア債券市場の投資機会を紹介
主なポイント
- 中国債券市場は時価総額が現在140.26兆元1(約19.7兆米ドル)、世界第2位の規模の債券市場であり、無視するには規模が大きすぎる存在と言える。
- 市場の自由化、流動性の向上、グローバル債券指数への採用を受けて、近年は外国人投資家の市場参加が増えている。
- 従来から、当資産クラスは相対的に有利なリスク調整後リターンをもたらしており、伝統的な資産クラスとの相関性が比較的低く、したがって一定の分散効果をもたらしている。
米国に次ぐ市場規模
中国の債券市場は大幅に拡大してきており、依然として米国よりは小さいものの、他の主要債券市場を大きく上回る規模となっている(チャート1参照)。中国債券市場は、日本や英国の債券市場よりも大きく、ドイツとフランスの合計市場規模を上回っている。
12022年9月30日現在
中国債券市場の内訳
中国の債券市場は以下セクターによって構成されている。
- オンショア人民元建て債券 (CNY)
- オフショア米ドル建て債券 (USD)
- オフショア人民元建て債券 (点心債、CNH)
外国人投資家による中国債券市場への投資は、主にオフショア市場へ振り分けられてきた。したがって、従来から容易にアクセス可能であったオフショアのドル建て債券や点心債については、幾分馴染みがある海外投資家も多い。しかし、注目すべき点は、オフショア市場は中国債券市場全体のほんの小さな部分にすぎないということだ。チャート2は、オフショア債券市場に対するオンショア債券市場の規模の巨大さを説明したものであり、海外投資家が取り込んでいない投資機会の多さを如実に表している。
中国のオンショア債券市場
オンショア市場への馴染みのなさは、この市場分野への資産配分に対する投資家の消極的な姿勢をもたらしてきた。オンショア債券は銀行間市場と債券取引市場を通じて取引されており、大まかに3つの区分に分類される。
1. 政府債
政府債は中国債券市場の3分の2程度を占めており、以下によって構成されている。
- 国債:ソブリン債であり、中国債券市場の15~20%程度を占めている。
- 地方債:省または地方自治体の政府(おおまかには米国の州に相当)が発行する債券。これらの債券は概して、中国本土の投資家からは無リスクとみなされているが、流通市場の流動性は国債に比べて大幅に劣る。ソブリン債を小幅に上回る利回りを提供している。
- 政策銀行債:政策銀行が発行する債券。政策銀行は、国が出資する金融機関で、民間銀行が貸し渋るかもしれない分野へ融資を届ける役割を果たしており、公的セクターの資金が貿易やインフラ、農業などの重要分野へと向かうよう後押しすることを目的としている。政策銀行は、中国国務院によって定められた政策上の強力な役割を担っており、暗黙の政府保証を享受している。中国国家開発銀行、中国輸出入銀行、中国農業発展銀行が発行する債券の信用格付けはS&Pから「A+」、Moody’sから「A1」、Fitchから「A+」を付与されており、ソブリン債格付けと同等となっている。一方、政策銀行債は、国債を約5~20bps上回る利回りを提供している(チャート3参照)。こうしたスプレッド水準となっている大きな要因は、信用リスクに対する中国本土投資家の見方というよりも、税制上の取り扱いの違いといったテクニカルなファクターにあると考えられる。
2. 短期金融商品
中国債券市場の約13%は、金融機関や事業会社が発行する短期金融商品が占めている。これらには非転換社債、コマーシャルペーパーおよび短期コマーシャルペーパーなどが含まれ、通常、残存期間が最長1年までのものとなっている。概して流動性が高く、ソブリン債よりも若干高い利回りを提供することから、資金運用先やマネーマーケットファンドの投資先として特に有用である。
3. クレジット債
クレジット債または社債は、オンショア市場の債券時価総額の大部分を占めている。クレジット債は、以下の規制枠組みのもとで発行することができる。
- 中期手形(MTN):中央銀行が所管しており、中央銀行による承認が必要とされる金融商品。
- 公司債:上場企業によって発行され証券取引所に上場する債券であり、証券規制当局が承認。
- 企業債:国家発展改革委員会(NDRC)から承認を得た企業が発行する債券。これらの債券の満期は通常1~3年だが、より強固な基盤を持つ発行体は満期5年の債券を発行することができる。今のところ、最大規模の国営企業のみがより期間の長い債券を発行可能。より短いデュレーションを好む現地投資家が多いことから、プッタブル(買取請求権付)の特徴を備えているのが一般的。これは、グローバル債券において(プットよりも)コーラブル(繰上償還権付)債の方がより一般的である状況と対照的である。
- その他種別のものに転換社債や資産担保証券が含まれる。転換社債は、中国債券市場の0.5%程度を占めており、店頭市場にもよるが、売買高が高水準であり非常に高い流動性が期待できる。
国債、政策銀行債、国有銀行が発行する非転換社債は、中国債券市場への投資を検討している投資家にとって良いスタート地点とみられている。これらは流動性が高く、信用力も高い。流動性が若干低くても許容できるのであれば、大規模な国有企業の債券はいくらかの上乗せ利回りを提供している。これらの発行体のなかには、投資適格格付けを持つものや、Moody’s/S&P/Fitchから格付けを付与されたオフショア債券を発行しているものもある。
開放が進む中国オンショア市場
オンショア債券市場は、海外投資家への門戸開放が進められてきている。過去には外国人による中国への投資が制限されていたことから、中国オンショア債券への投資は主に国内投資家によって行われてきた。つい数年前でさえ、海外からの中国債券へのアクセスは、中国当局に認可された一部の外国人投資家だけに与えられていた。しかし、当局は債券市場の開放を拡大しており、今や外国人投資家は、中国銀行間債券市場(CIBM)、ボンドコネクト、適格外国機関投資家(QFII)/人民元適格外国機関投資家(RQFII)などのアクセスを得るための制度に登録するだけで、オンショア債券に投資することができる。このようにより容易となったアクセスを支えているのが、取引決済期間の延長、外国為替の柔軟性拡大、市場アクセス改善に寄与してきた取引時間延長などの市場改革である。
また、中国債券は現在3つの主要グローバル債券指数(Bloomberg Global Aggregate Index, JP Morgan GBI-EM Index、FTSE World Government Bond Index)に採用されている。その構成比率は5~10%の間で様々に異なる。WGBIへの採用は重要な動きである。WGBIは先進国債券指数とみなされており、債券が採用されるには、FTSEによる流動性要件などの採用基準を満たすとともに、信用格付けの最小基準(S&Pで「A-」、Moody’sで「A3」)を満たす必要がある。同指数への中国債券の採用は、世界の債券投資家に向けて同国債券市場の信頼性を示すものとなっている。先進諸国に並ぶ成熟した債券市場へと中国が移行していく上で重要なステップなのである。
こうした動きを受けて、資産運用会社は、この重要な市場へ容易にアクセスすることができるオープンエンド型ファンドを含め、様々な投資ソリューションを提供可能となっている。そうしたなか、外国人投資家はソブリン債を中心に中国オンショア債券へのエクスポージャーを大幅に拡大している。チャート4は、中国国債の外国人保有状況およびその拡大傾向を示したものである。
さらなる進化を遂げる余地が大いにあると考えており、また、オンショア・クレジット市場など他の分野における継続的な進歩やオンショア金利デリバティブ市場の開放もみられている。こうした明るい進展によって、同資産クラスの成長がさらに支えられると期待されている。
投資機会
分散効果
中国債券は、先進国と新興国の両方を含む他の主要債券市場との相関性が低い。チャート5が示すように、主要債券市場との相関係数の過去データは0.25を下回ってきた。これはポートフォリオの十分な分散効果を達成するために有利に働くとみている。
そうした低相関関係は、世界の市場ではなく、中国国内の景気サイクルや政策サイクルに対する同資産クラスの感応度を反映している。中国は国内経済の規模が大きく、その景気サイクルは必ずしも世界の他の国々と一致しない場合がある。
2022年3月、新型コロナウイルスの流行拡大を受けて市場のボラティリティが高まり、米国国債市場をも含め債券市場は流動性難に陥った。それに対して中国オンショア債券市場は落ち着いた状況が続いた。この理由は、外国人投資家の保有割合が低く、したがって現地投資家が売りの流れを容易に吸収できたことにある。
外国人投資家の参加が増えるにつれ相関性が高まり分散効果が弱まる可能性はあるものの、外国人投資家が大きなプレゼンスを築き上げるには時間を要するだろう。足元における海外投資家の保有比率は、中国オンショア・ソブリン債で10%未満、オンショア債券市場全体では5%未満である。したがって、当分の間は分散効果に変わりはないと考えている。
2China Bonds = JPM Jade Broad Diversified China Index, Asia Bonds (HC) = JPM Asia Credit Index, Asia Bonds LC = JPM Jade Broad Diversified, EM Corp (HC) = JPM CEMBI, EM Bonds (LC) = JPM GBI EM Global Diversified, EM Bonds (HC) = JPM EMBI Composite, Global HY Bonds = Bloomberg Global HY Bonds, Global IG Bonds = Bloomberg Global Aggregate, US HY Bonds = Bloomberg US HY Bond, Global Bonds = FTSE World Government Bond Index
従来からボラティリティが相対的に低く、リスク調整後リターンが良好
中国オンショア債券のボラティリティは、概して他の国の債券よりも低い水準を維持している。さらに、中国の中央銀行は流動性管理を大幅に改善しており、確実にボラティリティが低減されてきている。2018年以降、オンショア債券市場の流動性が逼迫する状況はほぼなく、従来のような逼迫度に達する状況は訪れていない。
中国債券は歴史的に、債券分野の他の主要資産クラスと比べて、相対的に競争力のあるボラティリティ単位あたりリターンを提供してきた。チャート6は、世界の主要資産クラスの年率リターンと年率ボラティリティを示したものである。
世界的に利用が拡大している中国人民元
中国人民元は主要国際通貨としての評判が高まってきており、このことはオンショア債券にとってプラスに働くとみられる。過去10年間において人民元の国際化が進み、世界的に利用が拡大してきている。現在、中国は100ヵ国超との間で人民元での貿易決済が可能となっている。さらに、中国では2022年1月から9月までの9ヵ月間において、クロスボーダー決済代金の支払いおよび受け取りの42%が人民元決済となっている(チャート7参照)。
3Bunds: BBG Germany Govt All Bonds, EM Bonds (LC): JPM GBI-EM Global Diversified Composite Unhedged, JGB: Nomura BPI JGB Total Index, Global Bonds: FTSE World Government Bond Index, EM Bonds (HC): JPM EMBI Global Composite, China Equity: Shanghai Composite Index, US Treasuries: BBG UST Unhedged Index, Europe Equity: Euro Stoxx 50 USD, Asia Bonds (HC): JPM JACI Composite, Asia Bonds (LC): iBoxx ALBI Unhedged USD, US Bonds: BBG US Aggregate Index Unhedged, HY Bonds: BBG Global High Yield Index Unhedged, EM Equity: MSCI Emerging Market Index, Asia Equity: MSCI Asia Pacific ex Japan Index, China Bonds (USD returns): ALBI China Index USD Hedged, China Bonds (CNY returns): ALBI China Index CNY Hedged, US Equity: SPX Index, Hedge Fund index: HFRX Global Hedge Fund Index, JPM Jade Index: JP Morgan JADE Broad – Asia Diversified Broad Index (LC), JP Equity: Nikkei 225 Index
また、人民元は70ヵ国超で準備通貨として保有されており、そうした傾向は拡大してきている(チャート8参照)。
目下の人民元安がもたらしている投資機会
2022年に入って、米国連邦準備制度理事会(FRB)のタカ派転換を受けて急激にドル高が進むなか、中国人民元は対米ドルで大幅に下落している。中国の国際収支は引き続き黒字であり、輸出も底堅く推移しており大幅な貿易黒字となってきている。中国は世界第二位の経済大国で、主要諸国にとっては重要な貿易相手国である。そのため、当分の間は人民元の台頭や需要が崩れる可能性は低いとみられ、したがって長期的な視点から人民元には依然として投資妙味があると考えている。
中国人民銀行は、景気の回復や人民元需要の刺激を促す緊急流動性供給措置を含め、準金融政策的な様々なツールを用いることができる。また、東南アジア諸国の中央銀行はここ数年間において中国人民銀行との協定の見直しを進めている。これにより、実質的にクロスボーダー決済におけるドル利用が減少しており、当該諸国によるドル依存度は低減されている。今後、米国の利上げペース減速期待や中国による金融緩和策の継続に伴い、人民元の下落リスクは低下していくと期待される。
結論
当社では、中国債券の長期的な見通しは引き続き明るいとみている。この世界第二位の規模を誇る債券市場は大いに成長余地があり、成長へと導く追い風も豊富に存在する。中国の債券市場は他の資産クラスとの低い相関性を示しており、歴史的にボラティリティも相対的に低く、人民元の国際化の継続が追い風となっているほか、世界的に認知されている指数への中国採用の恩恵を享受している。したがって、当社では、世界中でますます注目を集めている中国債券市場は、投資家に良質な投資機会を提供していると考えている。人民元安局面を迎えているなか、足元の市場環境は長期的な時間軸を持つ投資家に好機をもたらしている。
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