本稿は2023年1月24日発行の英語レポート「Balancing Act」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

相対的な経済成長見通しは米国よりも他の国々にとって有利に変化

投資環境概観

2022年はインフレが上振れした年であったが、2023年は先進国の多くにとってリセッション(景気後退)の年になるだろうとの強力なコンセンサスが形成されつつある模様だ。投資家は強い確信を抱いているようだが、これは経済指標がコロナ禍の混乱した影響を依然受けており予測困難であることとは相容れないように思われる。おそらく、過去のリセッションを先取りしたのと同じ先行指標が同様の警告を示すだろうが、今回の「コロナ禍の10年」ではそのような予測に伴う不確実性がより大きくなると考えられる。とは言え、当社でも景気減速を予想しており米国の企業収益は悪化するとみているが、民間セクターのバランスシートが堅固であることから悪影響は比較的小さくとどまると考えている。先行指標である景況感統計はリセッションを示唆しているように見受けられるが、実際の経済活動統計はまだそのような懸念を裏付けてはいない。企業収益へのダメージについては、まもなく始まる第4四半期の決算発表シーズンで本格的に評価できるだろう。

中国は厳格なゼロコロナ政策から経済活動の完全再開へと大きく舵を切ったが、それに伴って新型コロナウイルスの感染者数が大幅に増加し、医療セクターにストレスの兆候が見られている。他国のオミクロン株の経験からすれば、中国もコロナ禍から脱却するにしたがって需要が回復する可能性がある。まだその段階には至っているわけではないが、中国株式がこの明るいシナリオに反応しているのは確かだ。

当社では、ドル高からドル安への変化は相対的な経済成長見通しが米国よりも他国にとって有利となったことを意味すると考えており、有望な分野が欧米から東洋へ(そしてグロースからバリューへ)、また東洋の需要から恩恵を受けやすい国々へとシフトするとみている。多くの資産クラスや地域にわたってバリュエーションが大幅に低下していることに加え、中国の需要が回復しつつあることを主な理由として、ポジティブな見方を維持する一方、米国株式については、割高なバリュエーションと今後予想される企業収益見通しの下方修正を考慮して、慎重なスタンスを続けている。

クロス・アセット

当月は、グロース資産とディフェンシブ資産の双方についてスコアをマイナスに据え置いた。11月に投資家の期待を高めたリリーフ・ラリー(安堵感からの相場上昇)は、12月には息切れしてしまったようだが、その一因は、インフレ指標が鈍化しているにもかかわらず各国中央銀行がタカ派トーンを強めたこと、そして通常流動性が低下しやすい年末年始に向けて日本銀行がイールドカーブ・コントロールのレンジを拡大したことにある。

欧米で主要経済指標が弱まる一方、中国はゼロコロナ政策から完全に方向転換しており、足元の新型コロナウイルス感染拡大の波が収まり始めれば需要の回復が見込まれる。米国では景気動向が悪化していることから、第1四半期の企業収益見通しは弱含むとみられる。しかし、これを相殺する材料として、中国の需要回復が同国と同国の需要から恩恵を受ける国々(主に中国に輸出しているアジアなどの新興国)を下支えするだろう。

グロース資産では、先進国株式のスコアを中立へと引き下げ、その分、新興国株式のスコアのプラス幅を拡大した。コモディティ関連株は、中国の需要回復と依然タイトな供給環境が追い風となり得ることからスコアをプラスに維持する一方、金利の変動を受けてボラティリティが高止まりしている上場インフラ資産とリートについては、ともにスコアをマイナスに据え置いた。ディフェンシブ資産のなかでは、金とソブリン債のスコアをプラスに維持する一方、引き続き米国の需要減退から悪影響を受けやすいハイイールド債および投資適格クレジットのスコアをマイナスに据え置いた。

マルチアセット・チームのクロス・アセット見解は、(1)グロース対ディフェンシブ、(2)グロースおよびディフェンシブ資産内でのクロス・アセット、(3)各資産クラス内での相対的な資産の見方、という3つの異なる段階で示しています。これらの段階は、選好順位の水準は資産クラスが予想可能な形で似た動きあるいは異なる動きを見せるという当社のリサーチおよび直感的認識を表しており、したがって、資産クラスのクロス・アセットでのスコアリングは理に適っているとともに、最終的により熟考された堅固なポートフォリオ構築につながると考えます。

資産クラスの選好順位

当社の見方

グロース資産

2022年の終盤にかけて市場の「予言者」達のあいだで概ね一致していた見方は、2023年の前半は困難な(景気が悪化する)状況が続くものの、後半には米FRB(連邦準備制度理事会)が引き締めサイクルを終え、おそらくは緩和に転じるというものだった。このシナリオは、リセッションに入って企業収益が底に近づいた時に市場が底値を打つという典型的な弱気相場のパターンを米国株式が辿る想定だが、コロナ後の景気サイクルが通常のようなものになるとはとても思われない。

米国がリセッションを回避するという想定は、民間セクターのバランスシートが堅固であること、中国の需要増加が見込まれること、そして欧州がこれまでリセッションを回避していることを考えると、今のところ妥当なシナリオと言える。外需の回復に加えてドル安が進めば、米国企業の海外収益拡大が促される可能性もある。つまり、当社が予想するように米国の企業収益が悪化を続けるとしても、その大部分は市場に織り込み済みであるが、まだ織り込まれていないのは米国がリセッションに陥る可能性で、これが起こるかどうかは依然はっきりしないままだ。

当社では、株式のより有望な投資機会は主に米国以外の国にあると考えている。中国市場は大幅な反発を見せているが、過去の高値からは依然程遠く、今後の見通しが改善しているにもかかわらず、企業の収益予想はすでに約19%下方修正されている。欧州株式は2022年9月下旬の安値から3分の2程度を回復しているが、中国需要の回復が見込まれることを考えるとまだ比較的割安に見える。もちろん、ユーロ安は当該地域の競争力を高めることになる。これは、過去10年の大半において実質賃金が高止まりし世界での競争力に欠けてきた欧州にとって、切実に必要であった重要な経済調整である。

多くのリスクがあるのは確かだが、2022年の年末にかけての市場センチメントがこれ以上悪くなりようがないほど悪かったのに加え、過去1ヵ月の景気動向は良い方向に転じている。当社では、バリュエーションがネガティブなセンチメントを反映した極端な水準から正常化し企業収益の伸びが改善するのに伴って、2023年前半に株式市場が大きく上昇するとみており、この見方に沿ったポジションを取りたいと考えている。

欧州の投資機会

(過去10年に概ねそうであったように)ドル高になると、世界の株式市場は米国に対してアンダーパフォームしやすくなる。これは、ドル高が一般的に世界の需要の低迷を意味し、投資資金が米国に流れやすくなるからだ。この傾向は、FRBの引き締めと世界的なリセッションへの懸念を背景に、2022年の大半を通じて加速した。しかし、インフレが頭打ちとなって引き締めサイクルの終盤を示唆したこと、また中国がゼロコロナ政策から脱却し世界の景気見通しが大きく改善したこともあり、ドルは10月中旬にピークを打った。ドルが反転するとよくあることだが、世界の株式市場は米国を着実にアウトパフォームしている。

チャート1

欧州が中国の需要回復の恩恵を受けることは確かだが、重要なのは、同地域がほぼ確実視されていたリセッションを明らかに回避したことで、これまでのところの暖冬とエネルギー価格の下落により、エネルギーの逼迫も回避できている。欧州株式市場にとって2022年は厳しい年となったが、企業収益が市場予想よりもはるかに持ち堪えたことなどから、打撃は米国ほど大きくはなかった。需要は予想されたほど弱まっておらず、ユーロ安も欧州企業の収益および競争力にとって重要な追い風となっている。

チャート2

当社の株式市場に対する見通しは、非常に魅力的なバリュエーションを受けてポジティブさを増しているが、割安な投資機会の大半が見出されるのは引き続き米国以外で、それらの国々は、中国需要の回復とドル安を追い風に景気見通しが有利であることから、企業収益が相対的に有望だと思われる。中国需要からの恩恵を受けやすく、暖冬のため経済成長の上振れも見込まれる欧州は、先進国市場の中で特に妙味のある投資機会だと言える。

また、欧州企業は、多くの逆風にもかかわらず2022年を通じてすでに十分な収益を上げてきたところに、ユーロ安が競争力向上と収益改善の後押しとなる。もちろん、リスクは数多く残っており、特に米国景気が一段と悪化する可能性は引き続き2023年に注視していくべき重要点である。

グロース資産に対する確信度の強い見解

  • 中国需要とドル安の恩恵を受けやすい国に対して強気な見方:FRBが(引き締めサイクルにあるが終盤に入っている)世界の金融政策を左右する主要なドライバーであり続けている一方、中国は世界の需要を左右する主要なドライバーであり続けており、大幅な回復が見込まれている。当社では、先進国と新興国の両方で、中国需要、そして世界的な流動性環境の緩和に伴うドル安が追い風となるクオリティの高い国の市場を選好している。
  • コモディティ関連株に対しては依然ポジティブ:供給サイドの制約が続いているとともに中国からの需要が回復しつつあることから、エネルギー価格の下落は終わりに近づいている可能性がある。バリュエーションが非常に魅力的で企業収益見通しもまずまずのコモディティ関連株は、妙味ある投資機会を提供していると考える。
  • 強まるドル安:当社では、投資資金フローの変化と相対的な経済成長機会からドル安になるとの見方を示してきたが、この動きは自己増幅する傾向があるため、さらに強まっている。これはリスク資産にとって最終的に強気材料となると考える。

ディフェンシブ資産

ソブリン債は、2022年12月以降の利回り上昇によって買いやすい水準となっており、当面の見通しが改善したと考えている。各国中央銀行は予想された通り12月に政策金利を再び引き上げ、大半が今後も引き締めを継続するとした。このメッセージに対する市場の反応はまちまちで、欧州の債券利回りはECB(欧州中央銀行)のタカ派発言を受けて当初急上昇したもののその後再び低下し、一方で米国債券はFRBの警告をほとんど材料視しなかった。いずれにせよ、世界の景気は鈍化し始めており、インフレもコロナ禍下の高水準から鈍化しつつあることから、ソブリン債にとってはより好ましい環境となってきている。

1月のグローバル投資適格クレジット市場は、これまでのところ好悪まちまちのパフォーマンスを見せているが、市場平均ではリターンがほぼ0%となっている。中央銀行はインフレ対策として再び金融引き締めを実施したが、市場は2023年の利上げ見通しについて迷いを深めている。とは言え、景気は世界的に減速し企業はビジネス環境悪化の影響に対処し始めており、すでに実施された引き締めは意図した効果を発揮し始めているように思われる。このため、当社ではクレジット・エクスポージャーに対して慎重なスタンスを続けており、ソブリン債のデュレーション・リスクを選好している。

金については、貴金属に対する2つの主な逆風が和らぎつつあるため、ポジティブな見方を維持している。中央銀行が現在の金融引き締めサイクルの終盤に近づくにつれ、ドルが下落し始めており実質金利の上昇も止まっている。また、各国政府が外貨準備の分散をさらに進めようとしているなか、金は公的セクターによる購入が追い風になるとみられる。

見通しの乖離

金融政策の将来的な方向性に関するガイダンスは、長年にわたって中央銀行のツールキットの主力となってきた。FRBは、市場や企業、一般世帯が予想しておくべき将来の金利水準や借入れコストの指針を提供すべく、ガイダンスという形のコミュニケーションを用いている。これが「確立された」金融政策ツールになった時期を正確に特定するのは難しいが、アラン・グリーンスパン元FRB議長がこの戦略を早くから提唱し、歴代の指導者がその伝統を受け継いできたのは確かだ。

今日のフォワード・ガイダンスは、FRBの公式声明・予想から高官の講演・コメントに至るまで、様々な形で行われている。時には市場にほぼ教義のように受け取られることもあるが、本質的には予想される経済展開と金融政策戦略に関するFRBの見解にすぎない。そして、見解があるところには、必ずと言っていいほどほかの対照的な見解も存在する。したがって、市場参加者はFRBの見解から乖離した見解を持つことがあり、時にはその乖離が大きくなることもある。現在はそのようなケースの1つであるように思われる。FRB高官は、パウエル議長自身を含め、FF(フェデラル・ファンド)金利が5%超へと上昇し2023年いっぱいはその水準にとどまるという見通しを、一貫して発信してきた。チャート3は、市場に織り込まれた今後1年間のFF金利予想を示したものである。

FRBのフォワード・ガイダンスに反し、市場は、FF金利が5%を下回る水準でピークを打った後まもなく緩和サイクルが始まり、1年後にはFF金利が現在の4.35%を下回る水準へ低下する、と予想している。結果として、2024年1月時点のFF金利水準は、市場とFRBとのあいだで1%近い乖離が生じている。

チャート3

FRBの見通しと市場の見通しを比較するもう一つの方法は、金融環境の測定指標を見てみることだ。これを行う目的は、例えば米ドルの価値や株価、信用スプレッドなど、金利以外にも幅広い指標を考察することにある。FRBの政策は、短期金利や債券利回りだけでなく、他の資産の価格にも影響を及ぼすと予想されるからだ。広く使われているインデックスの1つに、ゴールドマン・サックス社が算出しているものがある(チャート4参照)。

チャート5

金融環境は、FRBが2022年3月に利上げサイクルを開始する前から予想ですでにタイト化し始め、FRBのアクションによってその傾向が強まった。環境が最もタイト化したのは2022年10月で、その後はFRBのフォワード・ガイダンスから乖離し始めた。FRB当局者は、金融環境の早すぎる緩和によって、インフレを同中銀の目標である2%へ戻すことがより難しくなりかねないと考えている。しかし、市場はFRBの度重なる警告を気にかけていない模様で、金融環境は最近の米国インフレ指標の好転を受けて緩和している。この見解の乖離は最終的に、今後発表されるインフレ・経済活動の統計を受けて解消されることになるだろう。


ディフェンシブ資産に対する確信度の強い見解

  • 金利リスクに対してよりポジティブな見方:各国中央銀行は引き締めサイクルの最終段階に近づいており、財のインフレ率の平均回帰を受けてインフレ指標が好転しつつある。
  • クレジット物よりもソブリン債を選好:世界的な金融引き締めの影響で世界の景気が減速するのに伴い、企業の信用クオリティへの圧力が増すとみられ、スプレッドの拡大が続く可能性がある。
  • 金は良好なパフォーマンスが続く可能性:金は、実質金利の上昇と米ドル高というダブルの逆風が急速に後退しつつあり、価格へのサポートが強まっている。

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

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