本レポートは、2023年1月20日発行の英語版「Consumption potential in China’s lower-tier cities」の日本語訳です。内容については英語の原本が日本語版に優先します。

はじめに

世界第2位の経済大国である中国にとって、2022年は過酷な年だった。第4四半期になるまで厳格な新型コロナウイルス対策を維持し、それによって企業の活動が妨げられ経済成長が抑制された。1年余り前の中国デベロッパー大手・恒大集団の債務問題をきっかけに同国不動産セクター全体へ広がった危機は悪化の一途を辿った。米国との間で貿易をめぐる緊張が度々高まり、両国関係の混迷や不安定さを再認識させられた。幸いにも2022年11月に、中国当局は低迷する経済を支え、いくらか正常な状態へと戻していく取り組みを打ち出した。当局は経済活動再開に向けた措置を加速させ、その迅速な行動は市場にとってサプライズとなった。こうした大きな浮き沈みは混乱のもととなり得るものの、その本質的なところに目を向けると、中国における消費者の特徴の変化や消費の質の向上という形での成長ポテンシャルが存在することがわかる。そうした傾向は下級都市の間で特に顕著に見受けられる。

消費の最前線へ躍り出た下級都市

中国の都市を等級別に分類する公式のリストは存在しない。しかし、中国本土の都市は通常、GDP、人口、政治行政などの要素によって非公式に4等級に分類されている。一級都市は、経済・人口規模や行政上の重要度において中国最大級の都市によって構成されており、上海や広州などの一握りの都市のみが含まれる。二級都市の特徴は省都であることで、一級都市よりは規模が小さいものの大都市であることに変わりはない(武漢など)。三級都市は概ね地級市や県級市の市政府所在地であり、四級都市に含まれるのは地級市や県級市の他の都市で、人口が比較的少なく、GDPが一級都市の何分の1ほどにとどまる都市である。繁栄する大都市ではなく、なぜ下級都市に注目するべきなのだろうか。下級都市は数が数百にのぼり、中国人口14億人の約70%が居住している。三級都市に住む人の数は計3.3億人を超える1。つまり、中国人口の過半数が下級都市に現在住んでおり、そうした見落とされがちな都市エリアにおける消費者関連セクターの急速な発展を可能にしているのだ。また、下級都市の若者人口(18~30歳)は一級都市および二級都市の3倍以上にのぼる。

ただし、注目すべきは人口の多さだけではない。

下級都市の賃金は、広州や上海のような一級都市に後れを取っているものの、資産や可処分所得の水準は概して徐々に高まってきている。そうした生活水準の高まりは、スポーツウェア、消費者向け電子製品、食品・飲料などの分野の追い風となっている。また、若い世代は大きな購買力を持ち、消費意欲の高い者の割合が相対的に大きい。下級都市では、2019年において若者人口の70%が月収の80%超を支出したのに対し、一級都市および二級都市の若者の場合はそれが63%にとどまった2

2030年までに中国の個人消費が2倍超の12.7兆米ドルに達する見込みであるなか、下級都市での消費動向が中国全体の消費拡大の原動力となり得る兆しはすでに他にもみられている3。2022年は新型コロナウイルス流行を受けてロックダウン(都市封鎖)が実施されるなか、下級都市の消費は比較的底堅く推移する一方、上級都市の消費はより大きな打撃を受けた。政策も追い風となっている。中国政府はインフラを強化し接続性を改善する計画であり、それが下級都市の消費や繁栄の原動力になると期待される。中国には古くから伝わる「要想富先修路(豊かになりたいのであれば、まず道を整備せよ)」という言葉がある。政府は、接続性を改善し都市を跨いだ経済やテクノロジーの発展を強化していく重要な道としてインフラを位置付けている。国務院は、2025年までに中国の高速鉄道網を2020年比32%拡大し総距離5万キロメートルまで伸ばす計画を掲げている4。ちなみに、その延伸距離は日本、スペイン、フランス、ドイツ、フィンランドの高速鉄道網を合わせた総距離を上回ることになる。

消費者態度の変容も、下級都市の消費者関連セクターの拡大をさらに後押しすると期待される。今の消費者はより目が肥えており、どれを買うべきか決める前に詳細なリサーチや徹底的な比較を行っている。より厳選して買い物をするようになっているほか、消費者は国内ブランド志向へと変わってきている。それでは次に、そうした消費者の考え方の変化について詳しく説明し、中国人消費者のマインドを深堀していくこととする。

下級都市の消費者像とは

下級都市の若者(中国語では「小镇青年」として知られている)には、「996工作文化」に嫌気がさし、生活の質向上を求めて一級都市や二級都市から故郷へ戻った人々が含まれている5。こうした若者は1日の勤務時間が平均8時間未満で、家族や社交活動、オンラインやオフラインのエンターテイメントにより多くの時間を割く6。加えて、下級都市は住居費がより安いことから家計の負担もより小さい。2021年のデータをみると、家計所得に対する不動産価格の比率は一級都市で約18倍、それに比べて二級都市では8倍、下級都市では6倍であった7。下級都市の消費者は、住宅ローンや生活費の負担が軽いとみられており、ファーストフードよりもきちんとした食事を好む。また、家族での外食頻度もより高い傾向にあり、より上級の都市での一人客に比べて飲食店での注文品数も多くなっている。

中国ブランドのホームアドバンテージ

長年の間、他国の市場が成熟期にあるなかで希望の地とみられていた中国市場を席捲しようと、野心的な計画を打ち出す欧米企業や多国籍企業を耳にすることは珍しくなかった。しかし、莫大な資金を持つ米国の巨大企業を含め海外の消費者向けブランドは現在、化粧品から食品・飲料に至るまで様々な分野において市場シェアを拡大していく上で熾烈な競争に直面している。様々な商品を1ヵ所で購入できるワンストップショップ型のソリューションではニーズに合致しなくなっており、海外ブランドは中国人消費者のニーズの理解に苦戦している様子だ。下級都市の消費者は、一級都市や二級都市の消費者とは異なるニーズを持っている。その上、国産ブランドのイメージが改善しているなか、中国では海外ブランドに対する見方が変わってきている。

国内ブランドは、洗練されてきている消費者とそのニーズをより理解しているとみられており、中国の伝統的スタイルや文化的遺産を取り入れている。若い世代の消費者は自国の文化面の強みが増していることを認識しており、単に海外製らしく高級感の漂う商品を欲しがるといったことはない。そうした商品が大きな人気を集めていたのは過去のこととなっている。

さらに、国内ブランドはコストパフォーマンスやクオリティ、商品デザインといった面で出し惜しみをしていないため、中国消費者のニーズの進化に対応することができる。もちろん、海外ブランドの商品やサービスの問題点をあからさまに大きく取り上げることの多い中国メディアや地政学的緊張(特に米国との間)も、国内商品を後押しする一助となって消費者の好みに大きく影響してきたかもしれない。

フローラシス(花西子)は、こうしたトレンドを活かして成功を収めた企業の一例である。中国語名にある「花」は美しい花を意味し、「西子」は中国の伝説に登場する有名な四大美女のうちの1人の名前だ。伝説によると、西子(「西施」としても知られている)はそのあまりの美しさに、魚は泳ぐのを止めて沈み、鳥は彼女を見るや否やその存在に魅了されて空から落ちたという。フローラシスは、花やハーブのエッセンスを抽出し、アジア人女性に合わせた化粧品を作ることにフォーカスしている。さらに、そのメイクアップセットは中国風の複雑な模様が施されたデザインになっており、同商品が提唱する受け継いだ伝統というイメージをさらに強めている。また、消費者へさらにアピールしていくために、利用者を「エクスペリエンス・オフィサー」として招いて商品の共同プロデュースを展開し、ブランドロイヤルティを生み出している。研究開発(R&D)も重視している同社は、今後5年間でR&Dに10億元を投資すると発表している。

注目ワードはコストパフォーマンスと斬新さ

当社では、中国で顕在化しつつある(または、すでに進行中の可能性もある)もう1つの行動トレンドについても強く認識している。中国の消費者の間では、(ラグジュアリーなアイテムを所有したくない人はいないだろうが)ステータス・シンボルとしてロゴ入りの服を着るよりも、コストパフォーマンスの良いアイテムで買い物かごを一杯にする傾向が強まってきている。一見するとコストパフォーマンス重視は最安値商品重視のようにみえるが、中国の消費者はさらに踏み込んで、使う金額に対して最大限の価値を得ることに神経を集中している。価格だけでなく品質も重視される。これは、消費者の好みの洗練度が増していることを映し出している。こうした変化は、新型コロナウイルスの世界的大流行を受けて加速の一途を辿った。メディアが消費の話題を取り上げるときは贅沢な生活を謳歌するビジネスマンにスポットライトが当てられるが、実際には、価格に敏感な中国の消費者はコストパフォーマスの良いブランドに惹かれているように見受けられる。他の世界中の国々と同じなのだ。平均的な消費者はもう少しよく検討しながら買い物をしているようにみられ、それほど衝動的ではなく、予算を超える支出は控える傾向にある。コストパフォーマンスおよび品質重視の傾向にあることは、特に強調しておきたい。

さらに、若い世代の消費者は革新的な商品の方を好む傾向が強まっている。求めているのはユニークなブランドであって、必ずしもトップクラスの高級ブランドではない。とりわけZ世代の消費者は新しい商品やサービスを体験したいという気持ちがより強いように見受けられる。その大きな要因には、インターネット、ソーシャルメディア、eコマース・プラットフォームの爆発的普及が挙げられる。Z世代の消費者と言えば、自分のアイデンティティに対する意識が強く、また、カスタマイズ可能な「斬新」なアイテムや自分の要望に合わせてくれるサービスを購入することで自己表現する傾向がある。

サターンバードコーヒー(中国語表記:三顿半咖啡)は、ユニークな商品ラインナップによって若い世代の消費者の心を掴んだ国内ブランドだ。同社はインスタントコーヒーの大きな難点を特定した。それは作ったコーヒーをスプーンで混ぜる必要がある点で、多くの職場には共用のスプーンが置かれているが消費者はそれを使うのを嫌がっていた。同社は2018年に、挽きたてのコーヒーの味を保ち、スプーンを使わなくても簡単に溶ける「Super Extraction™」という技術を用いたプレミアムなスーパーインスタントコーヒーを考案した。鮮やかな色使いや目を引くパッケージも相まって、2019年には中国最大のECプラットフォームTmall(天猫)の「独身の日」セール期間中にインスタントコーヒー・カテゴリーの売れ筋ランキングで外資大手ネスレを追い抜き、それ以降前進し続けてきた。

最後に

足元では中国全体にわたって消費者センチメントが悪化しているかもしれないが、同国の消費者関連セクターの長期的な見通しは引き続き魅力的であると考えている。台頭してきている中国の下級都市は、かつて巨大都市に大きく依存していた成長エンジンを支える存在となりつつある。消費の質の向上を求める動きに加え、富裕化の進展や人口動態の傾向、商品普及率の改善といった様々な社会経済的動向が組み合わさることで、中国の下級都市の台頭を後押ししているとみられる。

消費者のマインドの変化にも注目すべきである。海外ブランドと言えば高品質でステータスがあり、国内ブランドは下にみられた時代は過ぎ去っている。また、中国の消費者はより厳選して買い物をするようになっており、コストパフォーマンスが重要な検討事項となっている。


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1“China 360, Small Cities, Big Aspirations”, UBS, October 2022.

2“Helens Initiation”, Goldman Sachs, April 2022.

3Morgan Stanley Research, January 2021.

4South China Morning Post, January 2022.

5「996工作文化」とは、午前9時から午後9時まで週6日勤務(週72時間労働)のことを表す

6“Helens Initiation”, Goldman Sachs, April 2022.

7“China 360, Small Cities, Big Aspirations”, UBS, October 2022.


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