本稿は2023年3月8日発行の英語レポート「Harvesting Growth, Harnessing Change」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

インフレや金融政策に対する投資家の予想が変化するなかアジア株式は大幅下落


サマリー

  • 当月のアジア株式市場(日本を除く)は大幅に下落して米ドル・ベースの月間リターンが-6.8%となり、前月の上昇分がほぼ打ち消された。米国で市場予想を上回る経済指標が発表されるなか、中国の経済活動再開や金利がピークに達したとの前月の高揚感は短期的なものにとどまり、金利は一段と上昇して高金利がより長期化するとの不安が広がった。
  • 中国市場(米ドル・ベースの月間リターンが-10.4%)は、米国との外交関係をめぐる緊張が高まるなか前月の上昇分を吐き出した。香港(同-7.1%)や韓国(同-7.0%)、インド(同-4.6%)は、アジア地域の他の市場が下落するなかで連れ安となり、アセアン諸国市場はリターンが軒並みマイナスとなった。インドネシア市場(同-1.0%)と台湾市場(同-1.1%)は、当月アジアで最も底堅いパフォーマンスをみせた。
  • 中国については、国内をリードするブランドを中心に消費関連分野や、ヘルスケア、ソフトウェア、一部の資本財・サービス関連分野についてポジティブな見方を維持する。インドについては様子見姿勢とする一方、アセアンでは電気自動車のサプライチェーンに引き続き注目している。

市場環境

アジア株式市場は失速して大幅下落
2023年が始まると急ピッチで上昇してきたアジア株式市場(日本を除く)は当月失速して大幅に下落し、米ドル・ベースの月間リターンは-6.8%となった。当月は、労働市場や個人消費のデータを含め米国で市場予想を上回る経済指標が発表されたことを受けて、投資家のあいだでインフレや金融政策に対する予想が変化し、それまでの相場の上昇が打ち消された。米FRB(連邦準備制度理事会)の金融引き締めが予想よりも長く継続されるのではとの懸念から、月中に市場のリスク回避姿勢が広がった。

中国市場は大幅下落、台湾はアジアで最も底堅い市場の1つに
北アジア地域では、中国の気球が偵察用と疑われ米軍によって撃墜される結果となった騒動を受けて米国との外交関係をめぐる緊張が高まるなか、中国市場は前月の上昇分を吐き出して月間リターン(米ドル・ベース、以下同様)が-10.4%となった。中国の1月のCPI(消費者物価指数)上昇率は、同国の経済再開を受けて旧正月の休暇が需要に拍車をかけたことから、12月の前年同月比1.8%から同2.1%へと加速した。また、中国人民銀行は、大方の予想通り1年物および5年物のLPR(「ローンプライムレート」、最優遇貸出金利)を据え置いた。香港市場は月間リターンが-7.1%となった。香港は予算案を公表し、新型コロナウイルス感染症のパンデミック後の景気回復を押し上げるための措置に加えて、企業や市民を支援するためのインセンティブを発表した。

台湾は、インデックス提供会社のMSCIが「MSCIオール・カントリー・アジア・インデックス(除く日本)」に占める同国の比率を0.03%引き上げて15.79%としたことを受けて、月間市場リターンが-1.1%とアジアで最も底堅さをみせた市場の1つとなった。台湾の1月の輸出額は、テクノロジー製品の需要が世界的に低迷するなか前年同月比21.2%減の294.2億米ドルとなり、2009年以来最大の落ち込みとなった。輸出関連株の占める割合の高い韓国市場は、貿易収支が市場予想を下回ったことが重石となり、月間リターンが-7.0%と大幅に下落した。1月の貿易収支は、輸出が前年同月比16.6%減となるなか月間の赤字幅が過去最大となる126.9億米ドルに達して、前月のほぼ3倍に膨らんだ。半導体需要の世界的な低迷により、1月は半導体の輸出が44.5%減と大きく減少した。

アセアン諸国市場は軒並み下落、インドネシアがアウトパフォーム
当月のアセアン諸国市場のリターンはいずれもマイナスとなった。タイ(米ドル・ベースの月間市場リターンが-9.2%)とマレーシア(同-7.2%)が下落を主導する一方、シンガポール(同-5.2%)やフィリピン(同-5.1%)、インドネシア(同-1%)は相対的に健闘した。タイは、観光業が回復しているものの輸出の低迷が響き、2022年第4四半期の経済成長が予想以上の減速となった。マレーシアは、持続可能な経済成長、制度改革、社会的不平等の是正に焦点を当てた修正予算案を発表した。シンガポールも2023年度予算案を発表し、国民への給付金の増額案に加えて高額の不動産や規模の大きい多国籍企業に課す税金の引き上げ案などを示した。フィリピンでは、国内のインフレが高止まりしていることを受けて、フィリピンの中央銀行が主要政策金利を0.50%引き上げた。インドネシアは、インフレ率が5ヵ月ぶりの低水準に減速し、同国の中央銀行が今回のサイクルでさらなる利上げは必要ないとの姿勢を示すなか、域内でパフォーマンスが相対的に最も良好な市場となった。

インド株式市場は下落
インド市場は、当月も下落して米ドル・ベースの月間リターンが-4.6%となった。同国の第4四半期のGDP成長率は、製造業セクターの低迷継続や個人消費の需要鈍化によって前年同期比+4.4%へと一段と鈍化した。インドの1月のインフレ率は前年同月比6.25%と、インド準備銀行の許容上限を超えていることから、同中銀は主要政策金利を0.25%引き上げた。

今後の見通し

中国は最も優れた成長機会を提供
中国の経済活動再開や金利がピークに達したとの前月の高揚感は短期的なものにとどまり、当月のアジア株式市場(日本を除く)は反落して1月の上昇分をほぼ吐き出した。中国の経済再開は景気を押し上げており、その効果は年後半に表れる可能性が高い。インフレがこれまでの予想よりも持続するなか、金利は一段と上昇して高金利がより長期化するとの見方に変化している。

アジアの見通しは引き続き比較的良好とみており、バリュエーションは依然として大部分にわたって割安な水準にある。中国は、特に政府が国内のヘルスケアやテクノロジー、産業サプライチェーンへの設備投資を促進することに重点を置いており、最も優れた成長機会を提供している。

新型コロナウイルスの感染が急速に落ち着きをみせるなか、中国は政策や規制のイニシアティブによって、確実な債務の管理および主要産業の投資促進を急いでおり、また、より高いGDP成長率の実現を目指している。成長をもたらすポジティブな変化が選択的に再び議題になっており、消費は優先度が高い分野となっている。過去2年において、中国の人々は大幅な貯蓄超過を積み上げてきた。当社では、この手控えられていた資金は株式市場に加え旅行のような生活必需品以外への支出へと流れ始めて、徐々に不動産市場に戻ってくると予想している。当面は、同国内をリードするブランドを中心に消費関連分野や、ヘルスケア、ソフトウェア、一部の資本財・サービス関連分野についてポジティブな見方を維持する。

韓国と台湾ついては、見通しにあまり大きな変更はない。当社では国内市場よりも海外の収益比率が高めの企業を有望視している。

インドについては様子見姿勢
インドでは、引き続きインフレが課題となっている。インド準備銀行は追加利上げを実施して政策金利を6.5%とし、金利の上昇が貸出市場の一部にストレスをもたらしている。その他、アダニグループは、投資家向け説明会をグローバルで開催して疑惑に反論を示した。当社では、インドについて様子見の姿勢を維持しており、ポジティブな変化と魅力的なバリュエーションを伴う投資機会を探し出す考えだ。

アセアンでは電気自動車のサプライチェーンに引き続き注目
1月に比較的小幅な上昇となったアセアン諸国市場は、当月反落して低調なパフォーマンスとなった。当社では、引き続きインドネシアを中心として電気自動車のサプライチェーンへの投資に注目している。フィリピンやマレーシア、タイではたいしてポジティブな変化がみられず、これらの市場については注視を続ける。

アジアは優れた長期投資機会が豊富
現在、欧米諸国がさらなる金融引き締めによって景気後退に陥る可能性が見込まれる一方で、世界第2位の経済大国である中国では経済活動再開のペースが速まっている。今や、大半の国にとって現在の中国との貿易額は、米国とEUの両方の合計額を上回っている。こうしたなか、当面のアジアの見通しは比較的良好であり、バリュエーションも大部分にわたって依然割安な水準にあることから、長期的な観点から持続可能な高収益とファンダメンタルズのポジティブな変化の両方が見込まれる投資機会が豊富になるだろう。足元では引き続き中国に焦点が置かれているが、他の国の経済活動が上向いてくるにつれ、程度に差はあるだろうがアジア地域全体へ注目が広がっていくとみている。


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