本稿は2023年2月17日発行の英語レポート「Balancing Act」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

景気見通しは改善

投資環境概観

景気見通しは改善しつつある模様で、2023年は前半に景気が鈍化して後半に回復するとの確信が市場で強かった2022年終盤に比べると、大きな変化である。米FRB(連邦準備制度理事会)が積極的な引き締めを行ってきたのは確かだが、資金流動性と民間部門のバランスシートの強さという点からすると、システムには景気刺激策の余波がまだ結構残っていると言えるだろう。中国の経済活動が回復しつつあるのに加え、欧州がエネルギー危機を回避できそうなこと、各国中央銀行が引き締めサイクルの終わりに近づいている可能性があることから、世界の需要見通しはファンダメンタルズ面で改善している。そこで重要となるのは、米国経済の成長鈍化が浅いままで済むよう、FRBが引き締めという景気へのブレーキを緩められるようなペースでインフレが減速し続けるかどうかだ。

米国の企業決算は予想された通り失望的な内容となったが、月を通じて弱気ポジションの巻き戻しが起こりリスクの積み増しに余念がなかった市場にとって、大きな逆風とはならなかった。これは米国株式の新たな強気相場の始まりなのだろうか。その可能性はなきにしもあらずだが、2008年や2000年以来の大幅な企業収益見通しの下方修正が起きている一方で市場のバリュエーションが依然割高な水準にあることを考えると、急速なショート・スクイーズ(空売りポジションの買い戻しが相次ぐこと)は当面は持続しないように思われる。現在のように割高なバリュエーションと企業収益の悪化が共存している状況から、はたして強気相場が生まれ得るだろうか。

インフレの継続的減速に対する高い期待がサポート材料となっている模様で、この点で失望が生じるようであれば市場に嫌気されることになるだろう。一方、米国以外の株式市場は(特に相対ベースでは)引き続き割安であり、企業収益も改善するとみられる。米国のテクノロジー・セクター(ましてや赤字のテクノロジー企業)が年初来見せている急反発は印象的だが、資金は今後も米国以外のより魅力的な投資機会へと流れていく可能性が高い。

ドルのモメンタムは10月中旬のピークから明らかにマイナスに転じており、この傾向は米国から他の国々への資本シフトによって強まると当社では考える。もちろん、周期的に起こるリスク回避の動きによって短期的にドルが上昇する可能性はある。国債は従来のプライシング・パターンから乖離しているため難しいが、マイナス成長のサプライズに対するヘッジとしては有用と考える。国債市場の見通しはインフレの減速ペース次第であり、当社では景気の上振れとインフレが予想以上に長引く可能性をリスクとして今後数ヵ月注視していく方針である。

クロス・アセット

当月は、グロース資産とディフェンシブ資産のスコアのマイナス幅をそれぞれ縮小した。米国(およびその影響を受ける他の国々)が深刻なリセッション(景気後退)に陥る可能性は依然懸念材料だが、当社の基本シナリオとしては、米国はハードランディング(景気の急激な失速)を回避することができ、他の国々では、中国の経済活動再開とこれまで暖冬となっている欧州のエネルギー危機回避見込みを受けて、需要が大幅に拡大する可能性が高いとみている。

通常、景気環境の改善はディフェンシブ資産にとってマイナス材料となるが、インフレが減速するとともに景気への懸念が続いているなか、ディフェンシブ資産はマイナス成長というサプライズが起きた場合にプロテクションとして有用な役割を果たせるはずだ。ディフェンシブ資産のリスクは、インフレが市場が予想しているほど、あるいはFRBが目指しているほどのペースでは減速しないことだが、このリスクはインフレ指標の今後の展開次第であり、結果がわかるまでには時間がかかると考える。

グロース資産のなかでは、主に米国以外で景気見通しが改善していることから先進国株式およびコモディティ関連株のスコアを引き上げ、その分、景気循環性が相対的に低いとみなされる上場インフラ資産およびリートのスコアを引き下げた。ディフェンシブ資産では、金のスコアのプラス幅を若干減らし、その分、米国以外の国々では景気循環面が追い風となる投資適格クレジットのスコアのマイナス幅を縮小した。

マルチアセット・チームのクロス・アセット見解は、(1)グロース対ディフェンシブ、(2)グロースおよびディフェンシブ資産内でのクロス・アセット、(3)各資産クラス内での相対的な資産の見方、という3つの異なる段階で示しています。これらの段階は、選好順位の水準は資産クラスが予想可能な形で似た動きあるいは異なる動きを見せるという当社のリサーチおよび直感的認識を表しており、したがって、資産クラスのクロス・アセットでのスコアリングは理に適っているとともに、最終的により熟考された堅固なポートフォリオ構築につながると考えます。

資産クラスの選好順位

当社の見方

グロース資産

1月の株式市場の上昇は印象的だったが、新たに生じた楽観ムードはすぐに織り込まれてしまい長続きしそうにないため、上昇相場の持続は難しいかもしれない。最も大きく上昇したのはテクノロジー・セクターと消費関連の景気敏感株だったが、少なくとも部分的には12月の安値からのショートカバー(空売りポジションの買い戻し)だった模様で、業績やガイダンスの低迷はほとんど材料視されなかったようだ。当社では、2022年までの10年間のようにテクノロジーが他のセクターをアウトパフォームする状況が復活したとは考えていない。テクノロジー・セクターの大部分は、特に2023年には収益が横這いから減少となる可能性が高いことを考えると、依然として割高に見受けられる。

2023年の包括的な成長テーマは、地理的にも、バリュエーションが依然魅力的なセクターという面からも、中国の需要の恩恵を享受できる分野になると予想している。この恩恵を受けるセクターのなかで、コモディティ関連株は引き続き重要な構成要素である。米国の景気鈍化は、同国がリセッションに陥らないか浅いリセッションで済んだ場合、特にエネルギー・セクターにとって逆風になるとみられているが、中国の繰延需要・活動が十分に相殺するだろう。2022年後半に中国における度重なるロックダウン(都市封鎖)と不動産セクターの不振を受けて苦戦した金属セクターも、需要が回復するはずだ。エネルギーと金属の両セクターは、いずれも構造的な生産不足に悩まされてきており、設備投資も依然低水準にある。

コモディティ関連株はバリュエーションと収益見通しの点で魅力的だが、ポートフォリオにおいてもインフレ・リスクに対するヘッジという重要な役割を果たす。一般のコンセンサスでは、インフレは減速を続けるとみられているようだ。しかし、中国の需要が回復する一方で米国がリセッションに陥らないとすれば、インフレ長期化のリスクは現実のものとなり、債券や(テクノロジーなど)低配当株といった特定の資産にとって逆風となり得る。コモディティ関連株は、そうしたリスクに対する適切なヘッジになると当社では考えている。

エネルギーおよび金属セクターの投資機会

原油価格は2022年前半、ロシア・ウクライナ戦争の開始を受けて大幅に上昇したが、戦争によるエネルギーの混乱が予想されたほど深刻とはならず、2022年6月にFRBが積極的な引き締めサイクルに入ったのに伴って米国のリセッション・リスクの高まりを市場が織り込みにいったことから、年前半の上昇の大半は年後半に巻き戻された。エネルギー株は2022年半ばに起きたエネルギー価格のボラティリティの急上昇に呼応したが、最終的に株価は企業収益動向に追随し、エネルギー企業の場合はその収益が堅調さを維持した(チャート1参照)。その後、原油価格は2023年に入ってからおそらく中国需要の見通し改善を理由として安定化しており、企業収益は引き続き下支えされるとみられる。加えて、エネルギー関連株はバリュエーションが依然割安な水準にある。

チャート1

金属・鉱業セクターについては、企業収益の金属価格への依存度がより大きく、中国需要が引き続き世界的な需要・価格を左右する主な要因となっている。2022年は、中国の度重なるロックダウンや不動産関連の引き締め政策を受けて金属価格が低迷したことから、企業収益見通しも悪化した。産業用金属の価格は2022年7月に底を打ち、その後、中国の経済活動再開と今では不動産市場を支援する政策にも十分支えられた需要回復を追い風に、上昇に転じている。予想収益も安定しつつあり、回復が見込まれている(チャート2参照)。

チャート2

先行きは依然不透明だが、中国で経済活動が再開されたことと、米国経済が2、3ヵ月前の予想に比べるとまだ比較的持ちこたえていることから、需要は回復するとみられる。需要の回復における主なリスクは、インフレ問題が未だ解決されていないことだ。生産能力はコモディティ分野全体にわたって依然逼迫しており、需要が安定しておそらく回復するとすれば、インフレは市場が現在織り込んでいないリスクとして再浮上する可能性がある。

インフレが多くの人が予想しているように過去の標準的水準に戻ることがなければ、ボラティリティが様々な資産クラスにわたって再び顕在化する可能性が高いため、コモディティ関連株は引き続きインフレ・ヘッジとして重要である。コモディティのリスクは、米国がリセッションに陥り他国からの新しい需要を相殺してしまう可能性だと弊社では考えている。これらは今後数ヵ月注視を続けていく必要がある。

グロース資産に対する確信度の強い見解

  • 米国株式に対して慎重:テクニカル的には、米国株式はレジスタンスを超え弱気ゾーンを抜け出しており、新たな強気相場が到来する可能性を示唆している。しかし、1月の力強い上昇は弱気ポジションの大幅な巻き戻しの結果であり、経済成長を犠牲にすることなくインフレを減速させられるという「ゴルディロックス」(過熱せず低迷もしない適度な経済状態)的シナリオへの過剰とも言える楽観ムードから、買われ過ぎの感がある。そのようなシナリオが実現する可能性はあるものの、企業収益が急速に悪化しておりバリュエーションも依然割高ななか、当該シナリオが完璧な実現を遂げなければ上昇相場を持続させるのは無理だろう。こうした理由から、当社は当面の米国株式に対して非常に慎重である。
  • 中国需要から恩恵を受ける分野を有望視:欧州がエネルギー危機を回避するとともにドル安によって世界の資金流動性が緩和されたのに加え、中国の需要回復を受け景気見通しが改善したことを主因として、米国以外の国々の株式市場は前四半期に米国をアウトパフォームした。米国以外の国々については、企業収益見通しが良好でバリュエーションも依然魅力的な水準にあることから、当社では楽観視している。しかし、上昇相場は2023年に入っても活発に続いており、今後数週間のうちに何らかの踊り場を迎えても意外ではないだろう。
  • ドル安は一服の可能性も:10月半ばの高値から大きく下落してきたドルは、2月上旬に米国の景気指標の改善を受けて調整局面を迎えた。これは妥当な調整と言えるが、経済成長は米国以外の国々の方が相対的に高い状況が続くとみられるという、ドル安を促す長期的な命題は変わっていない。当社では、2023年もドル安が続き、これがグロース資産の追い風になると引き続き考えている。

ディフェンシブ資産

ソブリン債をより有望視する当社の見方は今月も変わらない。中央銀行は2022年から行ってきた利上げの終了を検討しており、岐路に近づきつつある。市場は現在、インフレが減速の兆しを見せ続けているのに伴い、足元の引き締めの動きが最後となってこの後すぐ世界的な緩和サイクルが始まることを織り込みつつある。このような見通しにはリスクが残るが、金融政策の決定は経済指標に左右される度合いが強まるとみられ、今後数ヶ月の市場は中央銀行のフォワード・ガイダンスへの依存度が低下する可能性がある。

リスク選好度がリベンジとも言えるような回復ぶりを見せるなか、2023年序盤のグローバル・クレジット市場は良好なパフォーマンスを示した。このようなリスク選好度の回復は、世界的な景気鈍化や今後のリセッションの可能性に対する懸念が高まっている状況とは矛盾するように思われる。いずれにしても、クレジット市場へのサポートが維持され得るかについては、当社では引き続き疑問視している。ドル圏諸国の経済は2022年第4四半期まで堅調な成長を維持した模様だが、欧州および英国ではすでに金利上昇と高インフレによる疲弊が顕在化しつつある。各国中央銀行も金融引き締めを通じたインフレ抑制目標の追求を継続するとみられ、企業の事業環境はさらに厳しさを増すだろう。

金価格は2023年に入って上昇したが、その後は上昇分の大半を吐き出している。このようにボラティリティは高いものの、金については複数のソースからサポート材料が継続的に生じるとみられるため、ポジティブな見方を維持している。FRBが引き締めのペースを緩めつつあることから、ドル安が続いて金への追い風になると予想される。また、金は投資家と投機家の両方から需要が強く、公的外貨準備で進んでいる分散化からも引き続き恩恵を受けると予想している。

金はディフェンシブ資産のなかで最上位

ボラティリティの高かった1年を経て、当社では金に対しポジティブな見方を強めている。金は2022年2月にロシアがウクライナに侵攻した直後に1トロイオンス当たり2,050ドルへと急騰し、その後反落した。戦争によって「安全な避難先」資産としての需要が高まる一方、実質金利の上昇とドル高が逆風となった。ここ数ヶ月は、地政学的緊張が依然ニュースの見出しを占め続けている一方で、2つの逆風要因がともに追い風に転じている。米国のTIPs(物価連動国債)10年物の利回りで見た実質金利は、ここ3ヶ月間、1.2~1.5%のレンジで安定している(チャート3参照)。過去10年を通じて金価格を左右する重要な要因となってきた実質金利は、2022年にFRBが過去数十年で最も積極的な金融引き締めを行ったことから大幅に上昇した。依然時期尚早ではあるものの、インフレはピークを打ち始めたという初期兆候が見られており、各国中央銀行に引き締めのペースを落とし今後数ヵ月で一旦停止し得る理由を与えている。

チャート3

実質金利が低下するとともに、ドルも11月以降大幅に下落している。この変化の要因は、中国の予想外のコロナ政策転換を受けて世界の景気見通しが改善したことにあると当社ではみている。中国の政策転換は当初は紆余曲折あったものの、今では中国にとってコロナが過去のものになったことは明らかである。経済活動は急速に回復しており、当局はこの勢いを維持することに本腰を入れている模様で、さらなる刺激策を講じる可能性も検討しているようだ。このことは、自国の経済成長を中国の需要に依存している世界の多くの国々にとっても景気見通しを明るくする材料であり、特に欧州は恩恵を受けやすい。エネルギー価格がロシア・ウクライナ戦争前の標準的な水準に戻っていることも、多くの国々にとって安堵材料であるとともに欧州経済にとっては特に重要である。このように景気見通しの改善が米国以外の国々に広がることは、通常ドルにとってマイナス材料、延いては金にとってプラス材料となる。

長期的には、特に新興国の中央銀行のあいだで、外貨準備における金への配分の増加が続き、より構造的なトレンドとなっていくと予想している。ウクライナ戦争への対応として欧米がロシアの外貨準備を凍結したことが前例となり、他の国々も安全資産としてのドルへの依存を真剣に再考するようになった。チャート4が示す通り、中央銀行は2022年にすでに外貨準備の金への分散を加速させている。

チャート5


ディフェンシブ資産に対する確信度の強い見解

  • クレジット物よりもソブリン債を選好:中央銀行は引き締めサイクルの終盤に近づきつつあり、物品インフレの平均回帰によってインフレ・シナリオは改善してきている。
  • 金は良好なパフォーマンスが続く可能性:金は、実質金利の上昇と米ドル高というダブルの逆風が急速に後退しつつあり、価格へのサポートが強まっている。
  • プロセス

    リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

    リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

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