本稿は2023年4月14日発行の英語レポート「Harvesting Growth, Harnessing Change」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

混乱した市場環境の中での目覚ましい回復


サマリー

  • 世界各国が労働力不足の影響もあって成長力が不足する中で、その両方を備えるアジア諸国は、長期的成長のための強固な足場を具備していると考える。現在のアジア株式市場は非常に魅力的なバリュエーション水準にあり、米国が主導している金利引き締めサイクル、及び弱体化している欧米諸国の金融機関の処理が終了した後の先行きは明るくなると考える。
  • 当月のアジア株式市場(日本を除く)は、月の前半は米国の地方銀行数行の破綻を受けて下落したが、後半に入って金融界全般への伝播の懸念が和らいだことを受けて、米ドル・ベースで3.5%上昇し、下落分をすべて取り戻した。
  • 北アジア地域では、韓国市場(米ドル・ベースの月間リターンが4.8%)、中国(同4.5%)、台湾(同3.0%)が高いパフォーマンスを挙げ、アセアン諸国の中ではシンガポール(同5.0%)、タイ(同4.4%)、インドネシア(同3.6%)が良好なパフォーマンスとなり、その他では、フィリピン(同2.4%)、香港(同1.2%)、インド(同1.2%)、マレーシア(同1.0%)がまずまずの結果となった。
  • 中国については、国内をリードするブランドを中心に消費関連分野や、ヘルスケア、ソフトウェア、一部の資本財・サービス関連分野についてポジティブな見方を維持する。インドとインドネシアについては、優良な銀行や国内消費に関連する企業を引き続き選好する。一方、韓国と台湾については、テクノロジーサイクルにおける底入れの兆しが更に明確になるまでは選別的な見方をする。

市場環境

アジア株式市場は月前半の下落分を取り戻しただけでなく、更なる上昇へ
当月のアジア株式市場は混乱した市場環境の中で目覚ましい回復を遂げた。月の前半は米国の地方銀行数行の破綻を受けて下落したが、後半に入って金融界全般への伝播の懸念が和らいだことを受けて、下落分をすべて取り戻した。

当月前半にシリコンバレー銀行(SVB)、シグネチャー銀行、シルバーゲート銀行の3行が破綻し、後にクレディ・スイスの破綻が明らかになり(19日にUBSが買収を発表)、世界の株式市場を動揺させた。しかし、米規制当局が銀行預金全額を保護することを再三表明し、また、米FDIC(連邦預金保険公社)がファースト・シチズンズ・バンクシェアーズによるSVB買収を仲介したことで投資家が落ち着きを取り戻したことが、当月後半の市場の力強い上昇に拍車をかけた。

当月に米FRB(連邦準備制度理事会)とECB(欧州中央銀行)がそれぞれ0.25%と0.5%の利上げを実施したにもかかわらず、アジア株式市場(日本を除く)指数が米ドル・ベースで3.5%上昇したことは、市場のセンチメントが一変したことをよく表していると考える。

韓国市場と中国市場が北アジア地域の上昇を牽引
北アジア地域では、経済成長の見通しが好転したことや、中国のアリババやテンセントといったテクノロジー企業の株価が急進したことで、中国市場は4.5%(米ドル・ベース、以下同様)、香港市場は1.2%上昇した。また、世界のハイテク株の反発を受けて、ハイテク企業が多い韓国市場(4.8%)と台湾市場(3.0%)も大きく上昇した。中国のeコマース大手のアリババに関しては、事業分野別に6社に分社化する計画を発表したことを受けて株価が急上昇した一方、インターネット関連大手のテンセントは、通年収益が予想を上回ったことで株価が急上昇した。

当月中、中国は経済成長を支えるために銀行の預金準備率を0.25%引き下げる金融緩和策を発表した一方、2月の前年同月比のCPI(消費者物価指数)が過去12ヵ月で最も低い上昇率となった。同様に、香港、韓国、台湾においても、2月の前年同月比のインフレ率が前月比で低下した。それにもかかわらず、台湾の中央銀行はインフレ抑制のために政策金利を0.125%引き上げた。

アセアン諸国市場は軒並み上昇、シンガポールとタイがアウトパフォーム
当月のアセアン諸国市場は、欧米の金融懸念がアセアン地域に伝播する懸念が和らいだことを受けて、軒並み株価が上昇した。シンガポール(5.0%)、タイ(4.4%)、インドネシア(3.6%)が上昇を牽引し、一方、フィリピン(2.4%)とマレーシア(1.0%)はまずまずであった。インフレに関しては、シンガポール、タイ、フィリピンの2月の前年同月比インフレ率が前月から低下した一方、マレーシアは前月から横ばい、インドネシアは前月からわずかながら加速した。当月中、タイは0.25%の利上げを実施したが、インドネシアとマレーシアは金利を据え置いた。その他の動きとしては、タイでは議会下院が解散し、5月に総選挙を実施することが決定した。

インド株式市場の上昇率は低水準
インド市場は前月比で1.2%上昇したが、アダニグループのスキャンダルに対する投資家の警戒感は払拭されていない。2月のインドのCPIは前年同月比6.44%と1月の同6.52%からわずかに鈍化したが、インド準備銀行の目標範囲である2〜6%を依然として上回っている。このため、同中銀が4月に再利上げを実施する可能性が高まったものと考えられる。

今後の見通し

将来にわたってアジアに持続可能なリターンをもたらすポジティブな大きな変化
欧米銀行の混乱がアジアの株式市場に伝播するという投資家の懸念が残っているものの、欧米の脆弱な銀行に対するアジアの直接的なエクスポージャーは限定的と考えられる。アジアでは利上げの規模が小さいこと、各国の金融規制当局による慎重な舵取り、銀行の高い自己資本比率および総資産に占める有価証券投資比率の健全性を勘案すると、現在の世界的な銀行混乱にアジアの銀行が巻き込まれる可能性は低いと考えられる。世界各国が労働力不足の影響もあって成長力が不足する中で、その両方を備えるアジア諸国は、長期的成長のための強固な足場を具備していると考える。米国が主導している金利引き締めサイクル、および弱体化している欧米諸国の金融機関の処理が終了した後の先行きは明るくなると考える。現在のアジア株式市場は非常に魅力的なバリュエーション水準にあり、ポジティブな大きな変化が将来にわたって持続可能なリターンをもたらすことが期待されている。

投資の安全な避難先としての中国
中国が新型コロナウイルス感染症の悪夢から立ち上がって経済を再開させており、成長余力、金融の健全性、政策の規律を考えると、中国が投資の安全な避難先として他の国を凌駕していると当チームはみている。力強い景気回復を背景とした雇用の拡大が所得の増加、消費の拡大につながるという好循環が期待される。この好循環は、パンデミック直後に、その間に蓄積されたかなりの過剰貯蓄が引き起こした消費ブームを持続させる役割を果たすと考えられる。更に、年次の「両会(全国人民代表大会と全国政治協商会議)」において成長と発展を回復軌道に戻すことを担う新たな経済チームが正式に決定されたことを受けて、政策見通しが好転した。中期的には、李強新首相が、ビジネス寄りの実用的な政策を採用すると予想する。当チームは、国内をリードするブランドを中心に消費関連分野や、ヘルスケア、ソフトウェア、一部の資本財・サービス関連分野についてポジティブな見方を維持する。

今日のアジアは中国だけではない
当チームは中国に多くの投資機会があるとみているが、今日のアジアは中国だけではないと考える。インドとインドネシアでは、力強い国内消費と改革の進展に伴うたゆみない構造的変化が長期的な成長シナリオを辿る要因であると考える。韓国と台湾は、ハードウェアの技術やバイオテクノロジーの分野における世界的なイノベーションの先頭を走っており、世界で有数のイノベーション大国に数えられる。

インドとインドネシアの魅力を高めている構造改革
インドやインドネシアのような国々は、多くの点で恵まれてきているようにみえる。インドやインドネシアには、世界が必要とする安価な労働力が単に数多く存在するだけでなく、構造改革によって生産性が向上した結果、労働者の熟練度が以前では考えられないほど向上している。また、構造改革は、地政学面の「チャイナ・プラス・ワン」政策に沿った対内直接投資が、以前問題となっていたボトルネックを取り払う効果を発揮しており、現在では、企業はビジネス機会を多く獲得できるようになった。このような理由で、国内消費に重きを置くインドとインドネシアの優良な銀行や企業を選好する。

韓国と台湾は選別的姿勢を維持
イノベーションを牽引する韓国と台湾の企業については建設的な見方をしているが、国単位では、テクノロジーサイクルにおける底入れの兆しが更に明確になるまでは選別的な姿勢を維持する。とはいえ、市場調整を受けたバリュエーションはかなり魅力的な水準にあり、マイナス要素を市場が十分すぎるほど織り込んでいるとみている。当チームは、医薬品製造受託企業に加え、一部のテクノロジー系のハードウェア企業を有望視している。


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