本稿は2023年3月13日発行の英語レポート「Thoughts on the 2023 China National People’s Congress」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

目標は保守的であり上振れの余地も


2023年の政策方針と主要な経済目標を発表

3月5日、中国の全国人民代表大会(全人代)の年次総会が開催された。中国の李克強首相(方針発表当時)は、9日間にわたる会議の幕開けとして、2023年の政策方針と主要な経済目標を示す「政府活動報告」を発表した(表1参照)。

公式のGDP成長率目標「5%前後」は多くの外部予想より低く、財政政策も市場予想や2022年のものに比べて緩和的ではないように見受けられる。当社では、このような保守的な目標は上振れの余地を残すものであり、予期せぬ事態に対する慎重さと経済を過度に刺激したくない意向を反映していると考える。とは言え、中国には、国有企業からの利益還流の拡大や地方政府特別債の発行枠増額、政策銀行による条件付き貸付けなど、必要に応じて活用できる多くの財政政策手段がある。

金融政策のガイダンスについてはほぼ変更なく、マネーサプライ(M2)および信用の伸び率の目標を概ね名目GDP成長率と同水準とした。インフレ圧力は引き続き穏やかなものにとどまると予想され、必要となれば中国人民銀行が支援を提供できる余地をもたらすだろう。ただし、そのようなサポートは主に流動性の拡大と的を絞った貸し出し支援を通じて行われると予想する。

例年同様、活動報告で表明された提言は大まかで概括的なものとなった。詳細は新指導部の就任後に明らかにされるとみられる。

活動報告の他のハイライト

1. 消費浮揚を強調

活動報告では「消費の回復・拡大」を優先することが明言された。サービス関連消費の回復が促進され、都市部および農村部の住民の所得を増加させるべく複数の手段が講じられるだろう。今年の雇用創出目標が引き上げられたのは、消費と(一般的に労働集約性の高い)サービス産業を押し上げる意図を反映しているのかもしれない。

2. 金融リスク(具体的には住宅分野および地方政府から生じるリスク)の回避

中央政府は予想された通り、不動産セクターについてこれまでと概ね同様の政策基調を示した。特筆すべき点として、活動報告では「大手不動産開発業者のリスクを解消してバランスシートを改善する」必要性が言及されたが、当局が開発業者による「無秩序な拡大の防止」を目指すことも明言された。

地方政府の債務については、中国は財政規律を維持し、新たな債務の積み増しを防ぐとともに既存債務を削減する解決策を見出すことを目指す。一例を挙げると、今年の予算は予想されたほど緩和的ではなく、資金調達において中央政府の債券発行による負担分を増やすことを目標としている。地方政府の資金調達は、(過去の事例に倣って)債務のスワップや再編といった手法に再び頼ることになるだろう。経済成長を生み出す必要性を考えると、問題は複雑だが、政府が真剣に取り組んでいる兆候は心強いと言える。

3. 民間資本と外国直接投資の呼び込み

民間企業への支援策が奨励され、参入障壁が低減される見込みである。具体的には、民間企業と国有企業に対する政策面での扱いを平等にする必要性が繰り返し述べられている。3月6日の会議では、習近平国家主席も民間企業への支援を約束した。当局は中国における外資系企業のプロジェクト推進や工業セクターの近代化を支援するものとみられる。

中国の金利と為替への影響

金利

比較的慎重な経済成長目標は、中国の景気回復が急激なV字型とはならず高インフレを招くものともならない可能性を再認識させるものだ。当社では、インフレが(活動報告で述べられているのと同様)落ち着いた水準にとどまり、その結果として中央銀行が緩和的スタンスを保持できるという基本シナリオを維持する。このような環境下、(2022年に債券利回りが世界的に上昇したのとは対照的に)中国の金利はレンジ内で推移する可能性が高いとみられる。

為替

月次発表の経済指標や最近の購買担当者景気指数の数値は、中国のゼロコロナ政策からの脱却が進んで経済活動が回復していることを示している。不動産販売は低水準から持ち直してきており、当面の景気の勢いを持続させる一助となるかもしれない。中国経済の回復は、(全体として中国から資金を引き揚げていた)外国人投資家にとって、特に今年景気が世界的に減速した場合、同国が依然魅力的な投資先と考えられることを意味する。したがって、当社では人民元に対してポジティブな見方をしている。今後は、景気回復のペースを引き続き注視するとともに、海外旅行の復活が投資資金の流入を相殺する可能性にも継続的に留意していく。


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