本稿は2023年4月28日発行の英語レポート「Balancing Act」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

起こり得る景気減速の様相や程度は推測し難いが資産クラス間のリスク・バランスは妥当

投資環境概観

3月半ばに米国で地方銀行が破綻して以来、続いてすぐにCredit Suisseが混乱に陥り結果的にUBSとの合併を余儀なくされるなど、市場の状況はかなり大きく変化してきた。政府が迅速かつ大規模な対応を見せる一方、中央銀行はある程度通常運行で金融引き締めに戻るメッセージを発しようとしたが、市場はそれを信じてはいないようだ。

「米FRB(連邦準備制度理事会)に逆張りする」のは通常賢明ではないが、今回は妥当な賭けと言えるかもしれない。これまでの大掛かりな引き締めサイクル(そして今では銀行による信用引き締め)の影響が経済に波及し始めており、一方で、利上げ継続と「金利上昇の長期化」がまさに銀行を苦しめている痛みをもたらしているという考えは、こじつけとは思われないからだ。

債券と金が上昇を続ける一方、株式資産クラスは急速に反転し、銀行株とバリュー資産が実体経済の洗礼を受け、代わりに、大型テクノロジー株や公益事業株など金利感応度の高いクオリティ資産が有利となった。マルチアセット・ポートフォリオにとってのメリットは、株式と債券が再び負の相関に転じ、デュレーションが株式の下方リスクに対し再びプロテクションとして作用するようになったこと、そして、ドル安と政策ミス・リスクの高まりを背景に、金が新しい安全資産となったことである。

今後の景気減速の様相や程度を把握するのはまだ難しいが、今では株式・債券・キャッシュ・金が妥当なリスク・バランスにあり、様々なシナリオ下でより高いリスク調整後リターンを提供しやすくなるとみている。

クロス・アセット

当月は、グロース資産のスコアを引き下げてディフェンシブ資産のスコアを若干引き上げたが、これらはともに、金利の高止まりという既存の逆風に加え、米国およびEU(欧州連合)の銀行セクターのストレスが積み重なって今後信用環境のタイト化という困難をもたらすことにより、経済成長への逆風が強まることを反映している。グロース資産のスコア引き下げは3~6ヶ月の見通しの変更を反映したものだが、3月下旬には、市場が銀行の状況に対して単純に弱気すぎるという想定から、株式に対してよりポジティブな見方をしていた。米国での地方銀行の破綻とEUにおけるUBSと経営不振のCredit Suisseとの合併は、世界金融危機を彷彿とさせるかもしれない。しかし、金利上昇に伴う銀行の債券ポートフォリオの評価額下落によってストレスが引き起こされた(つまり流動性の問題)の今回と、銀行が極端なレバレッジによって肥大化したクオリティの低い資産を抱えて苦しんでいた2008年とでは、状況がまったく異なると考える。

希望の光は、中央銀行の引き締めサイクルがすでに終わったか終わりに近づいていること、そして景気減速懸念がインフレ懸念を上回り債券と株式が負の相関に転じたこと(当社ではこの傾向が持続可能と考える)だ。グロース資産では、中国の景気回復を相殺する当面の景気への逆風を考慮し、新興国株式とコモディティ関連株のスコアを引き下げた。ディフェンシブ資産では、クレジットのスコアを引き下げてマイナス幅を拡大するとともに、現地通貨建て新興国債券のスコアを中立へと引き下げ、その分、景気減速とやがて起こる中央銀行の政策転換の見通しを受けてディフェンシブ資産としての魅力度が増している先進国ソブリン債および金のスコアを引き上げた。

マルチアセット・チームのクロス・アセット見解は、(1)グロース対ディフェンシブ、(2)グロースおよびディフェンシブ資産内でのクロス・アセット、(3)各資産クラス内での相対的な資産の見方、という3つの異なる段階で示しています。これらの段階は、選好順位の水準は資産クラスが予想可能な形で似た動きあるいは異なる動きを見せるという当社のリサーチおよび直感的認識を表しており、したがって、資産クラスのクロス・アセットでのスコアリングは理に適っているとともに、最終的により熟考された堅固なポートフォリオ構築につながると考えます。

資産クラスの選好順位

当社の見方

グロース資産

株式市場は案の定、3月半ばに銀行危機の様相を呈したが、銀行株が圧力に晒され続ける一方で、「超大型テクノロジー株」(MAGMAN:Microsoft、Apple、Google、Meta、Amazon、Nvidia)など市場の他の分野は、すぐに過去1年超ぶりの水準へと回復した。市場では何が起こっているのだろうか。MAGMANなどの強固な企業は、論理的に、(タイト化している)信用や景気循環的需要への依存度がより高い時価総額が小さめの企業よりも安全な資産とみなされており、また、金利感応度の高い資産であることから債券利回り低下の恩恵を受けやすい。当社では、バリュエーションの割高さと収益の平均回帰に伴う悪化の可能性から、2022年の序盤以降、グロース株に対して慎重な見方をしてきたが、この判断については、特にAI(人工知能)に関連する発展の急成長に鑑み再考している。

過去のサイクルは次に起こるかもしれないことを把握するのに有用な類似例となり得る。今サイクルのテクノロジー・ブームは、1990年代終盤から2000年代序盤にかけての「ドットコム」ブームに似ているが、バリュエーションや収益の相対的脆弱性など、重要な相違点もある。1990年代終盤のテクノロジー・セクターの多くは、単純に収益性が低く、また深刻なダメージを受けたインターネット・エコシステムからの需要に依存していた。今日の同セクターは、バリュエーションが依然割高ながらもドットコムの水準を大きく下回っており、収益が経済全体に分散している。もちろん、米国が深刻なリセッション(景気後退)に見舞われれば収益源はリスクに晒されるが、リセッションが軽微なもので済めば、設備投資の継続需要への影響は小さなものにとどまる可能性がある。

ポートフォリオ全体の観点から見ると、現在は2000年当時に比べて安全資産が減少していると言え、バランスシートとキャッシュフローの堅固な企業が、他により良い選択肢がないなかで資金を惹きつける安全性特性を有している可能性がある。2000年当時、米国債10年物の利回りが6.5%、インフレ率がピーク時で3.7%の水準にあり、実質利回りは差し引き2.8%だったが、その後インフレ率の低下に伴い4%へと上昇した。米国債はまさに安全資産であり、投資家はこぞって米国債を購入した。今日、インフレ率がピーク時の9%から5%弱に低下している一方で米国債の利回りは3.5%を切っており、実質利回りは-1.5%となっている。これは確かに魅力に欠ける水準であり、インフレに先行き不透明感が残るなかで、米国の債務残高の対GDP比が2000年の55%から現在では130%へと2倍超に拡大していることを考えると、なおさらである。このような考え方は一般的ではないが、この先に待ち構えているかもしれない嵐を乗り切る最適なポートフォリオを考えるにあたって、心に留めておく必要があるだろう。

長期グロース株の再評価

テクノロジー企業の長期グロース株としてのテーマは、電気自動車から代替エネルギー、機械学習、コネクテッド・デバイス(インターネットに接続できるデバイス)まで、破壊的技術が現実世界に大きな影響を与え始めるとともに、より高速で強力なプロセッサがイノベーション(革新)の飛躍的発展を可能にするなか、2015年辺りから本格的に始まった。2020年のコロナ禍からの大きな追い風と仕事・余暇の習慣の変化が相まって、テクノロジー企業に膨大なチャンスが生まれ、その収益とバリュエーションは急上昇した。しかし、そのような幸運は長く続くものではなく、実際2022年には、テクノロジー企業は業績が悪化し、金利上昇を受けてバリュエーション調整に見舞われた。これで淘汰は終わったのだろうか。

チャート1


バブルが崩壊したのは確かで、価格面ではNASDAQがそれまでの高値から35%下落した2022年後半に近いように見えるが、一部の人が期待したようなすべての淘汰が終わったわけではない。2023年に入ってから、NASDAQは本稿執筆時点で約21%上昇しているが、これは並外れた反発であり早すぎるとも言える。上のチャート1でNASDAQ指数とEPSを並べて見ると、ともにコロナ前のトレンドに合致する水準まで下がっているが、これで調整は終わったのだろうか。

両方のバブルを経験したMicrosoftは、ケース・スタディとして興味深い。チャート2は、同社株の過去4年間のPER(株価収益率)をドットコム・バブルの相当する好不況期と比較したものだが、2000年代のバリュエーションが異次元であったのは明らかだ。

チャート2


2000年代前半、株価が底を打ったのは2002年だったが、MicrosoftのPERが17倍弱で底を打ったのは、業績が回復し始めたものの市場がまだテクノロジー株の購入を躊躇していた2004年だった。もちろん、PERは今後も低下し続ける可能性があり、(特にリセッションが深刻化した場合は)業績が引き続き悪化して株価がさらに下落する可能性もあるが、2022年後半から世界を席巻しているAIなどの新しいイノベーションにより、現在の収益見通しは2000年代前半にくらべて遥かに有利である。

また、安全資産の供給が限られていることも考慮すると、最終的に、クオリティの高い企業の方が、特にインフレ加速へのヘッジとなり得る明らかな売上げ成長が見られている場合は、実質利回りがマイナスである債券よりも優れた価値の貯蔵先とみなされるということなのかもしれない。当社では、全体的な景気見通しに対してネガティブな見方をしているためとても強気にはなれないが、長期グロース株はインカムと成長をともに目指す全体的なポートフォリオ戦略において妥当な役割を果たす可能性があり、検討に値する。

グロース資産に対する確信度の強い見解

  • バランスの取れたリスクと息の長い成長:景気への懸念がインフレ懸念を上回っているため、債券と株式の負の相関は持続すると考える。この観点から、デュレーション資産(および金)を、長期的成長分野を含め収益の息が長い株式、また来たる景気減速を乗り切るためのヘルスケア、生活必需品、公益事業といったディフェンシブ・セクターと組み合わせたポートフォリオを勧める。
  • 銀行に対して慎重なスタンス:銀行セクターの問題は米国の地方銀行と欧州の一部の銀行に限定されているように見受けられるが、同セクター内の相互関連性は世界中の銀行にとって重荷となり続ける可能性がある。したがって、当社では銀行セクターに対してより慎重な見方をしており、生活必需品やヘルスケア、公益事業、素材など、様々な地域でより有望視できる他のセクターを選好している。
  • 中国については待ちの姿勢:当社では、アジアから欧州その他に至るまで、中国の経済活動再開から恩恵を受ける国々を引き続き選好しているが、活動の回復が有意義な新規需要につながるにはまだ至っていないため、当該テーマはこれまでのところ少し失望的な結果にとどまっている。中国やその他の市場は依然割安で景気見通しも改善しているが、実現するには時間がかかるかもしれないため、前述したようなテーマを通じてポートフォリオの分散向上を図っている。

ディフェンシブ資産

ディフェンシブ資産では当月、ソブリン債のスコアを引き上げてプラス幅を拡大した。3月初め、市場は経済指標の新規発表と一連の中央銀行政策会合に期待を寄せていた。金融政策会議の大半では市場の予想通り追加利上げが実施されたが、その途中で米国の銀行2行が破綻しスイスの大手銀行に救済措置が講じられたため、世界の銀行システムの健全性に対する懸念が高まり、「安全への逃避」として世界的にソブリン債買いが誘発された。また、この銀行不安の余波で、中央銀行の金融引き締めの終了が予想よりも早まる可能性が出てきた。

クレジット市場にとっては金利の上昇がすでに大きな逆風となっていたが、この流動性・信用環境のタイト化は、最近の銀行システムの混乱によって悪化の一途を辿ると考える。ポジティブな材料としては、2023年初めの信用クオリティは健全な状況にあったため、企業には今回の嵐を乗り切る余力が幾分あると予想される。しかし、最終的には、信用への圧力は強まる一方でリスク選好度は低迷が続くとみている。クレジット市場のなかでは、投資適格債よりも発行体の負債比率が高いハイイールド債が、現在の環境下で資金調達難の影響をさらに受けやすくなるだろう。金融政策の効果が波及するには昔から時間がかかるものだが、これは今回の金融引き締めの影響が世界経済に表れるのはまだこれからであることを意味しており、したがって当社では社債に対しネガティブな見方を維持する。

銀行セクターへの懸念が長引くとともに、中央銀行が外貨準備の分散を進めるなか、金は好調なパフォーマンスを続けている。リセッション・リスクの高まりとドル安の可能性がともに強力な追い風となることから、貴金属は引き続き投資資金を惹きつけると予想している。

米国がリセッションに陥る確率

主要国の中央銀行の一部が引き締めサイクルを一時停止し、他の中銀もそれに追随するとみられるなか、市場はこの利上げの流れが世界経済に与える影響に大きく注目している。米国については、FRBが過去1年に行った積極的な利上げの動きに対し、経済成長が今のところ耐性を示している。しかし、これは基本的に過去に目を向けた評価であり、重要なのは、米国経済が景気を減速させようとするFRBの試みに耐え続けられるかどうかである。

この問いに対する当社の答えは市場コンセンサス同様「ノー」であり、また米国経済が今後数ヵ月で大幅な減速の兆しを見せ始めるという見方についても市場コンセンサスと概ね一致している。当該疑問を考察するもう1つのやり方は、今後12ヵ月間に米国がリセッションに陥る確率という観点から答えを組み立てることだ。ブルームバーグが実施した直近のアンケートによると、市場エコノミストが予測するリセッション確率の中央値は65%であった(55名の回答に基づく)。この予測に回答者の主観的分析がある程度含まれていることは間違いないが、市場アナリストはリセッションの確率を予測するにあたって、より客観的な指標もいくつか開発している。

チャート3は、米国債のイールドカーブの形状を利用した3つの一般的な指標を示している。このうち、3ヵ月金利と18ヵ月先の3ヵ月金利の格差、3ヵ月金利と米国債10年物利回りの格差の2つは、FRBがよく言及する指標である。3つ目の指標は市場が好んで使うもので、米国債の2年物と10年物の利回り格差である。見てわかるように、これらのイールドカーブ・ベースの指標はすべてリセッションの確率を60%超と示しており、最も高いものは86%となっている。また、今世紀の初めを振り返ってみても、これらの指標はいずれも米国のリセッションの前兆を知らせることにおいて優れた実績がある。

チャート3


他のリセッション指標では、イールドカーブの形状だけでなくより幅広い変数群が使われており、そのようなリセッション確率指標のうちBloomberg Economics(BE)とMorgan Stanley(MS)の2つをチャート4に示した。これらはともに、金融変数に加えてマクロ経済変数を利用し、米国が12ヶ月以内にリセッションに陥る可能性を予測する指標である。BEの指標は昨年8月以降リセッションが迫っていることを警告しており、一方、MSの指標は上昇しているもののリセッションを予測する水準には至っていない。

チャート4


どのリセッション確率予測を選んでも、リセッション警報がここ6ヵ月で高まってきていることを示している。FRBはこれまで、インフレ抑制のために金融引き締め推進のほぼ一点に注力し、需要鈍化の兆候を軽視してきた。しかし、FRBが自ら予想するFF(フェデラル・ファンド)金利のピークに近づくにつれ、こうした景気減速の兆候により敏感になるものと予想する。


ディフェンシブ資産に対する確信度の強い見解

  • クレジット物よりもソブリン債を選好:中央銀行の引き締めサイクルの終盤は、信用スプレッドと信用クオリティにとって不利な局面となりやすい。したがって、ソブリン債を選好する。
  • 金は良好なパフォーマンスが続く可能性:金は、実質金利の上昇とドル高というダブルの逆風が急速に後退しつつあり、投資資金の安全な避難先としての妙味も高まっていることから、価格へのサポートが強まっている。
  • プロセス

    リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

    リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:


    個別銘柄への言及は例示のみを目的としており、当該戦略で運用するポートフォリオでの保有継続を保証するものではなく、 また売買を推奨するものでもありません。


    当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。