本稿は2023年6月9日発行の英語レポート「Harvesting Growth, Harnessing Change」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

下落相場のなか、台湾、韓国、インドがトレンドに反して上昇


サマリー

  • 先進諸国が引き続きインフレと経済成長の低迷に苦しむなか、アジアはインフレが十分に抑制されており、金融政策サイクルが欧米諸国に先駆けてピークを迎えているなど、その見通しの明るさが際立っている。また、先進諸国が相対的に高い経済成長を遂げる傾向が10年間にわたり続いてきたが、今後数年はこの傾向が反転しアジアの経済成長が欧米を上回るとみられる。
  • 当月のアジア株式市場(日本を除く)は、中国のコロナ後の景気回復ペースが鈍化していることや米中間の対立が強まっていることなどが重石となって下落し、米ドル・ベースの月間リターンが-1.8%となった。
  • 北アジアでは、中国市場(米ドル・ベースの月間リターンが-8.4%)や香港市場(同-8.7%)が下落を主導する一方、テクノロジー関連株の占める割合が高い台湾(同7.3%)や韓国(同4.8%)の株式市場は上昇した。また、アセアン諸国市場は軒並み下落したほか、インド市場は米ドル・ベースの月間リターンが2.9%となり健闘した。
  • 中国では、国内をリードするブランドを中心に消費関連分野や、ヘルスケア、ソフトウェア、一部の資本財・サービス関連分野についてポジティブな見方を維持する。インドやインドネシアでは、国内消費や設備投資サイクルから恩恵を受けやすいクオリティの高い銀行や企業を引き続き有望視する。

市場環境

アジア株式市場は中国経済に対する懸念を受けて下落
当月のアジア株式市場(日本を除く)は、中国のコロナ後の景気回復ペースが鈍化していることや米中間の対立が強まっていることなどが重石となって下落し、米ドル・ベースの月間リターンが-1.8%となった。米国の債務不履行回避に向けた連邦債務の上限引き上げ交渉を投資家が注意深く見守るなか、当月の市場は世界的に総じて慎重な動きをみせた。

北アジアでは中国や香港が下落を主導する一方、韓国や台湾は上昇
北アジアでは、世界第2位の経済大国である中国で最近多くの経済指標が市場予想を下回り、景気回復ペースが失速しているとの懸念が強まったことを受けて中国および香港の株式市場が下落し、月間リターン(米ドル・ベース、以下同様)がそれぞれ-8.4%、-8.7%となった。最近発表された中国の指標の大半は、製造業PMI(購買担当者景気指数)、鉱工業生産、小売売上高、固定資産投資などを含め、いずれも市場予想を下回った。

米中間の緊張の高まりも、中国株式のセンチメントの打撃となった。当月、中国は米国への報復的な動きとして、中国企業が米国の半導体メモリーメーカーMicron Technologyの製品を調達することを禁止し、両国間の不和が強まった。その他、中国人民銀行は、低迷している中国経済を下支えするために預金準備率の引き下げ圧力に晒されているものの、主要貸出金利を据え置いた。

一方、テクノロジー関連銘柄の占める割合が高い台湾および韓国の株式市場は、世界のテクノロジー株が力強く反発したことや、AI(人工知能)システム用半導体の需要が急拡大するなか半導体市場の回復期待が高まったことが追い風となり、月間リターンがそれぞれ7.3%、4.8%と大幅に上昇した。また、中国政府がMicron Technologyの製品の調達を禁止したこともSamsung Electronicsなどアジアの大手半導体メーカーの上昇を促し、同銘柄は韓国の株式市場を押し上げた。その他、韓国でインフレが減速するなか、同国の中央銀行は当月に主要政策金利を3会合連続で据え置いた。4月のCPI(消費者物価指数)上昇率は韓国が前年同月比3.7%となり、台湾は同2.35%と(前月と同水準)なった。また、両国では輸出額が引き続き低迷した。

アセアン諸国市場は軒並み下落
当月のアセアン諸国市場は軒並み下落した。シンガポール(米ドル・ベースの月間市場リターンが-6.5%)とマレーシア(同-5.4%)が下落を主導する一方、フィリピン(同-4.3%)やインドネシア(同-3.4%)、タイ(同-3.0%)は相対的に健闘した。

シンガポールの2023年第1四半期の経済成長率は、製造業および金融セクターが重石となり前年同期比0.4%増となった。マレーシアでは、中央銀行が5月上旬に市場の予想外に主要政策金利を0.25%引き上げる一方、フィリピンは主要政策金利を6.25%に据え置き、ここ数年で非常に積極的な引き締めサイクルを一服させた。インドネシアの2023年第1四半期の経済は、コモディティ価格や世界的な需要の低迷から輸出が打撃を受けたものの、国内消費の力強さを受けて前年同期比5.03%増となった。タイでは、新政権の選出に向けた総選挙が行われ、親軍政権への強い非難が示された。しかし、実際に政権が発足するには、投資家は少なくとも7月下旬まで待たなければならない可能性がある。

インド株式市場は堅調
インド株式市場は、金融・消費関連銘柄が牽引役となり、米ドル・ベースの月間リターンが2.9%となった。インドの第1四半期のGDP成長率は、製造業に対する政府の補助金やサービスセクターの輸出拡大が寄与して前年同期比6.1%増となり、予想外に金利上昇への耐性を示している。同国の4月のインフレ率は、食品価格の大幅な鈍化を受けて前年同月比4.7%と前月の同5.7%から大きく減速して、インド準備銀行の許容レンジ内に引き続き収まった。

今後の見通し

アジアは見通しの明るさが際立っている
先進諸国が引き続きインフレと経済成長の低迷に苦しむなか、アジアはインフレが十分に抑制されており、金融政策サイクルが欧米諸国に先駆けてピークを迎えているなど、その見通しの明るさが際立っている。また、先進諸国が相対的に高い経済成長を遂げる傾向が10年間にわたり続いてきたが、今後数年はこの傾向が反転しアジアの経済成長が欧米を上回るとみられる。さらに、消費についても、中間所得層の拡大や貯蓄の大幅な積み増しを受けて、構造的な伸びが予想される。ヘルスケア、環境テクノロジー、産業技術分野におけるイノベーションを受けて、持続可能な高い収益を達成しファンダメンタルズのポジティブな変化を遂げるクオリティの高い企業が今後も多数生まれてくるだろう。足下でバリュエーションが割安な水準にあることから、これらの企業は今まで以上に魅力が高まっている。

中国では、消費関連やヘルスケア、ソフトウェア、一部の資本財・サービス分野を選好
中国の景気回復は、市場で予想されていたよりも緩やかなものになるであろうことが鮮明になってきている。米国におけるコロナ後の景気回復とは対照的に、中国の消費者は財政政策による富の移転という恩恵を受けず、同国は依然として不動産市場や金融市場のだぶつき感の抑制に取り組んでいる最中にある。米国の積極的な財政政策が結果としてインフレ圧力をもたらしたことを認識している中国政府は、景気重視の実利的な政策アプローチをとっているものの、同じ過ちを繰り返さないように長期的な視点を重視していく構えだ。こうしたアプローチは中国経済の長期的な持続可能性にとってプラスに働くものの、その反面、当面の景気回復力はより弱いものとなる。しかし、中国が消費主導経済に向けて構造改革を進めるなか、同国経済において消費者の果たす役割の重要性が大きく高まっていくことは確かだろう。当社では、同国内をリードするブランドを中心に消費関連分野や、ヘルスケア、ソフトウェア、一部の資本財・サービス関連分野についてポジティブな見方を維持する。

インドやインドネシアは構造改革と設備投資サイクルによって魅力が向上
長期的にみると、世界が必要とする安価な熟練労働者を供給できるインドやインドネシアなどの国々の見通しが明るいことに変わりはない。構造改革により生産性が引き続き向上しており、「チャイナ・プラス・ワン」(生産拠点を中国へ集中させることによるリスクを回避すべく中国以外の国・地域へも分散させる動き)戦略の結果として企業の間ではインドにサプライチェーンを移す動きがみられている。インドについては、住宅市場の拡大サイクルが長期にわたって続いているほか、設備投資サイクルへの期待も引き続き高まっている。総固定資本形成の名目GDPに占める割合が高まり始めており、民間セクターの新規プロジェクト発表件数も引き続き増加しているなど、明るい兆しがみられ始めている。企業のバランスシートも15年超ぶりの健全な水準にある。このような要因から、インドやインドネシアでは、国内消費や設備投資サイクルから恩恵を受けやすいクオリティの高い銀行・企業を引き続き有望視する。

韓国と台湾については選別的な姿勢を維持
韓国と台湾の革新的テクノロジーをリードする企業については長期的にポジティブな見方を維持しているものの、欧米諸国では経済成長が鈍化しており、消費者向けテクノロジー分野の需要の先行きが不透明であることから、当社では選別的な姿勢を維持している。



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