本稿は2023年4月10日発行の英語レポート「Consumption in Asia from a new perspective」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

アジアの消費トレンドが大きく変化するなか国内ブランドに注目


アジアの消費トレンドは、かつて欧米の影響を強く受けると考えられていたが、もはやそうではない。 アジアの消費者は多様な嗜好および影響力を持っており、世界のトレンドをただ吸収するのではなく、影響をおよぼし始めている。アジアのブランドは、この新しいパラダイムに良く対応できる状況にあると当社ではみている。


大きな消費成長の可能性

アジアの人々は、世界で最も重要な消費市場を形成している。さらに、急速な経済成長を遂げている多くのアジア諸国では可処分所得が増加している。市場調査会社ユーロモニターのレポート「アジア太平洋地域の所得と支出(Income and Expenditure in Asia Pacific)」によると、アジア太平洋地域の総可処分所得は、2021年から2040年の間に実質ベースで2倍超に達し、依然として世界最低水準ながらも、他のどの地域よりも急速なペースで増加している。アジアの消費者は、今後10年以内に世界の消費成長の半分を占めると予想されている。コンサルティング会社マッキンゼーがアジアには「10兆ドルの消費成長機会」があるとみているのも不思議ではない1

過小評価すべきではないアジアの多様性

世界で最も人口が多く、地理的にも多様な大陸には、様々な文化や民族、宗教、言語、政治体制などがあり、その多くは互いに根本的に異なっている。多様な国・文化があるアジアでは、起きている様々な文化的ダイナミクスを把握することが重要だ。インドは、例えば宗教的信条、文化的慣行、社会構造などの点で、インドネシアと大きく異なる。比較的類似している欧米諸国よりも、アジアにはずっと繊細な違いがあると言えるだろう。

アジアの消費は、人口ボーナスや国内ブランドの台頭、下級都市(大都市よりは小さいものの、急速な成長・発展を遂げている都市)の重要度の高まり、環境・社会問題への意識の強まりという点で、パラダイムシフトを遂げている。パンデミックは、これらの変化を深め、加速させる手段となった。

若年層と人口ボーナス

アジアの多くの国は、「人口ボーナス」(年齢層が若く、人口増加によって消費や経済の生産性が押し上げられること)が大きな追い風となっている。アジアには、労働人口に加わる若年層の数が増えており、豊富な労働者と顧客が存在している。これが特に当てはまるのが、アセアン諸国とインドだ。Y世代(1981年から1996年の間に生まれた世代)としても知られているミレニアルズや、Z世代(1996年から2010年の間に生まれた世代)は、いずれもテクノロジーの利用に慣れているのが特徴である。マッキンゼーによれば、アジアのZ世代とミレニアルズの20%~30%が、1日に6時間超をオンラインで費やしている2。これらのデジタル世代の生活において、ソーシャルメディアが重要であることは明らかだ。

また、Z世代の消費者はアイデンティティの意識が強く、消費を通して自分自身を表現する傾向がある。この点において、こうした若い世代は、一般的にアイデンティティよりも実用性を重視するとみられるアジアのより上の年齢層とは著しく異なる。さらに、若年層の消費者は、新製品や新サービスを試そうという意欲がより強く、よりイノベーティブな商品を次第に好むようになっている。彼らが求めているのはユニークなブランドであり、必ずしも高級さで知られているブランドとは限らない。そのため、彼らが購入する商品ははっきりとした自己表現の形である場合が多く、消費者の多くはソーシャルメディアのインフルエンサーからスタイリングのヒントを得ている。

このように、若年層の消費者はより影響を受けやすく、より多くの時間をソーシャルメディアに費やすことから、インフルエンサーを通じたマーケティングは、往々にして欧米よりもアジアでより重要だと考えられる。地域の若年層を引き付けることができる企業は、実際に近年最も破壊的な成長の一部を遂げている。

Cimoryは、インドネシアで最も成功している乳製品・加工食品会社の1社であり、テレビや広告用掲示板などを使用した従来型のATL広告から移行した後、市場シェアを積極的に獲得して売上を2年で3倍に伸ばした。同社はデジタルマーケティングに注力しており、何百人ものインフルエンサーを活用して、若年層の消費者にソーシャルメディアなどで多くの注目を集める投稿を行っている。インドでは、商品回転率の高い消費財(FMCG)を扱う企業は、現在衛生用品やおむつの販売を、インフルエンサーを通じて行うことを選択している3。こうした商品をマスメディアで宣伝することは、かつてはタブーであったが、インフルエンサーはこれらの企業にダイレクト・トゥー・コンシューマーと呼ばれる消費者に直接向けた広告チャネルを提供している。

アジアの国内ブランドの台頭

かつてアジアは発展するにつれて、音楽や映画、ファッション、食べ物、芸術など西洋文化の主な特徴を取り入れて、必然的に西洋化していくと考えられていた。しかし、Z世代はこの考えが間違っていることを証明している。アジアの若者たちは、自身のルーツや文化に対する自信を強めている。アジアの若者は、インドや中国を中心として、国民としての自己意識がより強い。海外ブランドは、アジアの消費者ニーズの把握に苦労しており、アジアの消費者にあわせたカスタマイズを殆どすることなく、画一的な商品を投入する傾向にある。こうした緻密さに欠ける海外ブランドのアプローチが、国内ブランドへの関心の高まりを促した。アジアのブランドは海外ブランドほど有名ではないものの、海外ブランドに比べて消費者のニーズをしっかりと把握し、満たすことができるとの見方が広がりつつある。

中国では、国内ブランドが中国の伝統的な側面を取り入れている。これは、中国文化の美点をより認め、愛国心の感覚が強まるなかで、消費者にますます強いアピールをもたらしている。例えば、化粧品会社の「Florasis(Hua Xi Zi)」はこのトレンドを活用している。「Hua」は中国語で花を意味し、「Xi zi」あるいは「Xi Shi」」は中国の古代4大美人のうちの1人の名前である。同社は、花やハーブエッセンスを抽出し、アジアの女性に適していると考えるメイクアップ商品を作ることに注力している。同社のメイクアップ用品には、中国にまつわる複雑な模様の彫刻が施されている(写真1)。

さらに、アジアの国内ブランドのなかには、海外進出の機会を模索して大成功している企業もあり、欧米ブランドだけが世界規模で事業の展開・競争ができるという、誤りでありながら長年思い込まれてきた想定を覆している。台湾のレストランチェーンで、小籠包や麺類を専門に扱う鼎泰豊(Din Tai Fung)は世界13ヵ国、170ヵ所超の店舗で人気を集めている。

下級都市で高まる消費トレンド

この数十年間、アジア諸国では農村部から都市部への移住が実際に起きてきた。しかし、これとは逆の傾向がみられ始めており、ワーク・ライフ・バランスの向上や経済的負担の軽減、生活や環境の質の改善を求めて、中国を中心として下級都市に移住する市民が増えている。この逆移住は、下級都市の消費水準を向上させており、その結果、消費関連企業はより高い成長と利益を求めて、下級都市に注ぎ込む資本を拡大している。下級都市では、金額に見合った価値を求める考え方が非常に目立つ。モノやサービスの消費は、単に最高のクオリティのものを得るだけでなく、価格に見合う最高のクオリティを確保することでもある。

インドの農村部におけるFMCGの需要は、堅調な農業収入やパンデミックによる混乱の少なさ、政府支援の強化(これには食糧穀物の無償支給、直接的な資金移転、農村部の雇用保証プログラムが含まれる)などの結果、都市部よりも底堅く、急速に拡大している。インドを代表する食品ブランドの1つBritannia Industriesは、近年力強い成長を遂げているが、その多くは農村部市場への戦略的な進出によるものだ。同社は、低単位のパッケージ化した基本およびプレミアム商品を競争力のある価格で提供して、下級都市でリードしている。同社の販売モデルでは、直接販売および(配送センターと小売店の間の距離を縮めることにより、「在庫ゼロ日」で運営する)ゼロデイ在庫モデルを軸としており、農村地域への商品配送の効率性やコスト効率を徹底している。

中国やインドのような大規模な市場のほかに、インドネシアの下級都市にも成長機会が豊富にあると当社では考えている。インドネシアのeコマース企業Bukalapakは、下級都市にある何百万もの小規模な売店(インドネシア語で「warungs」)などのデジタル化支援に注力している。インドネシアの下級都市におけるデジタル化の成長率は、ジャカルタのような主要都市よりもかなり速く、またこうした成長にかかるコストがより低いため、Bukalapakは同業他社よりも早期に収益達成に向かう可能性がある。

環境・社会問題への意識によって変化する消費パターン

環境・社会問題に対する意識の高まりは欧米だけの現象ではなく、アジアの消費者のあいだでも意識されつつある。コンサルティング会社Bain & Companyの2022年の研究によると、アジアの消費者はサステナブルな物を購入したいと考えており、そのために高めの価格を支払ってもよいと考えているものの、情報が不十分でサステナビリティの謳い文句の信頼性が欠けているなどの理由から、誰もが実際に購入に至るというわけではないこと(言動ギャップがあること)が分かっている4

ソーシャルメディアの時代は、アジア企業にとってレピュテーションへの打撃が大きくなるリスクが高まっている。サステナビリティ問題への認識や取り組みは、アジアの消費者のあいだで最も急速に高まっているとみられる。したがって、言動ギャップを縮める企業は、成功が見込まれる。Bain & Companyは、アジア太平洋地域における環境・社会的意識の高い消費者5人のうち4人が、自身の好きなサステナブル商品を積極的に推奨しており、これらの消費者の半数を上回る人たちが10人超に商品を推奨する「スーパー・プロモーター」であるとの見方を示している5

サステナビリティに積極的に取り組んでいる企業は、自社のブランド・エクイティも向上させているようだ。責任ある成長への長期的なコミットメントを示すことによって、サステナビリティ問題に積極的な姿勢を持っているとみなされている企業は、顧客や投資家、その他のステークホルダーにとってますます魅力が高まっている。

サマリー

現在、アジアでは消費が大きく伸びている。若年層の生産性向上や国内ブランドの台頭、下級都市の重要度の高まり、環境・社会問題への意識の強まりというパラダイムシフトは、いずれも構造的な性質を持っている。こうした構造的なシフトを支えているのは、基本的な生理的ニーズを超えた個人の本質的な願望とみられる。これらの願望が社会経済の発展とともにより顕著になるにつれて、アジアの有力な消費者向けブランドには大きな成長機会がもたらされるだろう。

アジアがさらに発展するにつれて、アジアの消費者の願望は進展し続けるとみられる。アジアの消費者は、自分たちのアイデンティティと愛国心の感覚に共鳴するブランドを今後も選ぶとみられ、共感できないブランドについては受け入れないだろう。消費関連セクターの優れた企業とは、より若い消費者層の文化的、社会的、倫理的な考えに沿って、自社の携わる市場を本質的に把握し、独自の販売チャネルを展開していく企業だとみている。

アジアは多様かつ複雑で、多くの様々な国や文化が存在している。したがって投資の観点から、変化の速いダイナミクスを分析する最善の方法は「地域に根差した」アプローチだと考えている。また、この消費の大きな潮流からの追い風が期待できるブランドを特定する最善の方法でもあるとみている。


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1https://www.mckinsey.com/featured-insights/future-of-asia/videos/driving-asias-10-trillion-consumption-growth-opportunity

2https://www.mckinsey.com/featured-insights/future-of-asia/videos/driving-asias-10-trillion-consumption-growth-opportunity

3FMCG企業には、食品・飲料、パーソナルケア、家庭用品、製薬会社が含まれます。

4https://www.bain.com/insights/unpacking-asia-pacific-consumers-new-love-affair-with-sustainability/

5https://www.bain.com/insights/unpacking-asia-pacific-consumers-new-love-affair-with-sustainability/


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