当レポートは、英語による2023年5月24日発行の英語レポート「Exploring fast-growing Asian REITs」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

アジアの不動産市場の投資機会を考察する


主なポイント

  • アジア・リートは、引き続きアジア域内で最も急速に成長を遂げている資産クラスの1つである。
  • アジア・リートは良好な分配金利回り水準、持続的なインカム収入源、域内の最大級の不動産オーナーへのエクスポージャーを提供。
  • 従来、この資産クラスはリスク調整後リターンが相対的に良好であるとともに伝統的資産クラスとの相関性が低いため、一定の分散投資効果をもたらしてきた。

アジア・リート市場の規模

不動産投資信託(リート)とは、幅広い不動産セクターにわたり、インカム収入を生み出す不動産物件の所有や資金調達を行う上場法人である。投資家に分散投資効果をもたらすとともに不動産市場への直接投資に比べて必要投資額が小さいリートは、直接購入することなく不動産にアクセスできる素晴らしい手段となっている。リートの投資先である不動産資産はキャピタルゲインと、賃料を源泉とした定期的な分配金支払いによる安定的なインカム収入をもたらす。

アジア・リートはアジア域内で群を抜いて急成長を遂げている資産の1つである。取引コストが低く、比較的「小口」から投資可能、直接投資に比べて管理・事務が煩雑でないことから、この流動性の高い市場には世界中の投資家が集まっている。市場の厚みと幅がともに拡大しており、過去10年間で上場銘柄数や時価総額合計が著しく増加してきた。こうした傾向はアジア域内の様々な市場へと拡大しつつあり、最近ではマレーシア、タイ、インド、フィリピン、韓国などへ広がりがみられている(チャート1参照)。当社では、アジア地域のより多くの国々がリートを提供するようになるとみている。

アジアには魅力的な成長ストーリーが存在しており、リートは拡大している中間所得層の消費者、金融ハブ、観光といった様々な高成長セクターや人口動態へのエクスポージャーを提供している。下表1が示すように、IMF(国際通貨基金)は2023年から2024年にかけてアジアのGDP成長率が他の地域を上回ると予想している。

アジアの多数の国における大規模かつ増加中の労働者人口は、今後10年間において成長の押し上げ要因になると期待されている。それに伴って技術的に進歩し、生産ハブや消費者ハブを備えた新都市群が必要とされているなか、都市化の拡大がみられており、リート市場に恩恵をもたらしている。アジア域内のリート市場の規模をみると、日本に次いでシンガポールが第2位、香港が第3位となっている。

シンガポールは、優秀な人材や安定的な政府政策、アジア諸国へのアクセスの良さを背景に、引き続き海外からの投資資金の流入が加速している。金融機関やハイテク企業はともにシンガポールへの投資を拡大している。こうした流れがアジア最大級の物流ハブとしての地位を強固にしており、多数の多国籍企業がシンガポールに中心拠点を構築している。アジア域内では倉庫施設に対する需要が引き続き拡大していくと予想している。

香港は、中国にとって金融分野での世界への玄関口となっている。香港証券取引所の時価総額の約80%は中国企業が占めている。大湾岸圏(香港、マカオ、広州)のさらなる融合が中国企業による香港オフィス需要の高まりにつながると期待されている。中国のハイテク企業や銀行の多くは、新型コロナウイルスの世界的大流行下においてもオフィスのリース契約を行っていた。

他と異なるリターン特性

歴史的に相対的に低いボラティリティと魅力的なリスク調整後リターンを提供

シンガポールと香港のリートは、世界の他のリート市場と比べても比較的競争力のあるボラティリティ1単位当たりリターンをもたらしてきた。チャート2は、主要なリート、株式、債券市場の年率リターンと年率ボラティリティを示している。チャートによると、シンガポールと香港のリートは、それぞれの株式市場と同様のリスク水準で魅力的なリターンを提供してきている。株式の比重が大きい投資家にとって、リートは分散投資効果をもたらすと期待される。

分散投資効果

アジア・リートはどちらかと言えば債券代替のような存在であるという印象を持つ投資家もいるかもしれないが、それは正しくない。下表2が示すように、歴史的にみて主要債券市場との相関性はかなり低く、アジア・リートは実際には株式に多少近い相関性を示している。アジア・リートは先進国市場とも新興国市場とも低相関の関係にある。当社では、こうした低い相関性はポートフォリオの十分な分散効果を達成する上で有利に働くとみている。また、アジア・リートはシンガポールや香港の成熟し安定した不動産市場セグメントへのエクスポージャーを提供するほか、中国やインド、インドネシア、フィリピン、タイといったより成長性の高い不動産市場セグメントへのエクスポージャーも提供している。

魅力的な分配金利回り

シンガポールと香港のリートは、大部分の先進国のリート市場と比べて魅力的な利回りを提供している(チャート3参照)。歴史的に他の地域のリート市場よりも利回り水準が高く、このことが市場のボラティリティの高い局面においてバッファーの役割を果たしてきた。

債券利回りは上昇傾向にあるものの、依然として各地域のリートのトータルリターンはそれぞれの債券や他のインカム収入を生み出す有価証券に比べて相対的に魅力的な水準にあると見受けられる。

足元の環境は好機をもたらしている

2022年には金利の上昇がリートの価格に打撃を及ぼした。借入れコストの上昇を受けて以前よりも物件取得が多少困難にはなっているものの、当社では引き続き、アジア・リートはボラティリティの高い状況の継続に十分に対処していける状況にあると考えている。FTSE EPRA NAREIT ex Japan REITs Indexの構成銘柄については、借入れの71%が固定金利型であると推定される。これによって当該リート銘柄は金利上昇の影響からある程度守られる可能性があるとみている。加えて、アジア諸国がリセッション(景気後退)に陥らなければ、インフレ環境における賃料収入増加もリートの追い風となる可能性がある。

目下、アジア(日本を除く)リートのバリュエーションは魅力的な水準で推移している。Bloombergのコンセンサス予想によると、足元においてFTSE EPRA Asia ex Japan REITs Indexは簿価に対して11%割安な水準にあり、予想分配金利回りは6.0%となっている。この利回りは今後1年で6.23%へ、今後2年では6.43%へ上昇すると予想されている。

結論

アジア・リート市場は金利が高止まりするなかでも引き続き成長を遂げ、底堅さを発揮していくと考える。顕在化しているアジアの成長へのエクスポージャーを提供するリートは、流動性の高い資産クラスにアクセスできる有望な投資機会をもたらしている。アジア・リートは引き続き分配金利回りが良好な水準にあり、リスク調整後リターンが魅力的、そして値上がり益も期待することができる。他の資産クラスとの相関性が低いことが示すように、十分な分散投資効果が得られる。アジア(日本を除く)リートは簿価に対して11%割安な水準にあり、予想利回りが6%を超えることから、当社では引き続き当該資産クラスに対して強気な見方をしている。


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