本稿は2023年8月10日発行の英語レポート「Harvesting Growth, Harnessing Change」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

株式市場が世界的に上昇するなか中国やマレーシア、シンガポールがアジアの上昇をけん引


サマリー

  • 中国経済にデフレの兆候があるなか、このタイミングで同国政府が成長重視の指示を最近示したことは非常に歓迎すべき兆しだったと言える。こうした政策が実施されれば、構造的な変化につながり、消費者の景況感や中国経済の成長につながる可能性がある。
  • 当月のアジア株式市場(日本を除く)は、米国のインフレ指標が市場予想を下回り、リスク選好姿勢が強まったことを受けて大幅に上昇し、米ドル・ベースの月間リターンが6.1%となった。中国で景気刺激策が強化されるとの楽観的な見方も、域内株式の追い風となった。
  • 当月は、中国(米ドル・ベースの月間市場リターンが10.8%)やマレーシア(同9.7%)、シンガポール(同9.3%)が上昇をけん引する一方、台湾(同0.8%)やインドネシア(同1.4%)は他の市場に対してアンダーパフォームした。当月のアジア株式市場は軒並みプラスリターンとなり、良好な月となった。
  • インド市場が構造的要因から魅力的であることに変わりはない。インドは、企業収益の伸びが堅調で、インフレは抑制され、金利が安定しており、引き続き投資資金が集まっている。他では、アセアン諸国市場の見通しは、エネルギー・トランジションの素材に対する需要やそうしたことが国内経済にもたらす影響と結びついている。

市場環境

アジア株式市場は米国のインフレ指標の鈍化や中国への楽観的な見方から大幅上昇
当月のアジア株式市場(日本を除く)は、米国のインフレ指標が市場予想を下回りリスク選好姿勢が強まったことを受けて大幅に上昇し、米ドル・ベースの月間リターンが6.1%となった。中国で景気刺激策が強化されるとの楽観的な見方も、域内株式の追い風となった。米国の6月のCPI(消費者物価指数)上昇率は前年同月比3.0%となり、前月の同4.0%から鈍化した。米FRB(連邦準備制度理事会)は、当月の会合において市場予想通り政策金利の誘導目標を0.25%引き上げ、追加利上げについてはデータ次第との見方も示した。一方、市場ではFRBの積極的な引き締めサイクルが終わりつつあるとの期待から、今回の利上げは材料視されなかった。

北アジアでは中国と韓国が上昇をけん引
中国株式は、月間リターンが米ドル・ベースで10.8%となった。最近の政治局会議で、低迷する同国経済にてこ入れするべく、内需の押し上げと苦境にある不動産市場の支援に重点を置き政策支援を強化すると指導部が表明したことが好感された。中国の2023年第2四半期のGDP成長率は前年同期比6.3%増にのぼったものの、市場予想は下回った。香港の株式市場は、月のはじめに急落した後に反発し、米ドル・ベースの月間リターンが2.8%となった。

韓国市場は、電気自動車用バッテリー関連株の反発や同国の経済成長の加速を受けて上昇し、米ドル・ベースの月間リターンが6.5%となった。韓国の2023年第2四半期の経済成長率は前期比0.6%増となり、2023年第1四半期の同0.3%増から加速した。一方、台湾は米ドル・ベースの月間市場リターンが0.8%となり、他の域内市場に対して劣後した。指数構成比率の高いTSMC(台湾積体電路製造)が四半期ベースで4年ぶりに減益(前年同期比)となり、2023年の売上見通しを下方修正したことを受けて株価が調整し、市場の重石となった。

アセアン諸国市場のパフォーマンスは堅調
当月のアセアン諸国市場は、軒並みプラスリターンとなった。大幅な上昇をみせたのはマレーシア(米ドル・ベースの月間市場リターンが9.7%)やシンガポール(同9.3%)、タイ(同8.1%)で、一方、フィリピン(同3.1%)やインドネシア(同1.4%)はより小幅なリターンとなった。マレーシアでは、国内のインフレが沈静化するなか、中央銀行が政策金利を3%に据え置いて利上げサイクルを一時停止し、またアンワル・イブラヒム首相はマレーシア経済を押し上げる計画を発表した。シンガポールの2023年第2四半期の経済成長率(速報値)は前年同期比0.7%増、前期比0.3%増と予想外の伸びを示し、テクニカル・リセッション(2四半期連続のマイナス成長)を回避した。タイでは、議会が前進党のピター・リムジャラーンラット党首を首相指名選挙の候補として認めないことを決めるなど、政治の膠着状態が続いた。他では、フィリピンの中央銀行は、エルニーニョや賃金上昇の影響によりインフレが高止まりする可能性があると警告し、またインドネシアの中央銀行は7月の会合で6回目となる政策金利の据え置きを決定した。

インド株式市場は堅調
インド市場は、投資家のあいだで同国経済の成長ポテンシャルの再評価が続くなか、米ドル・ベースの月間リターンが3.0%となった。IMF(国際通貨基金)は、国内投資が好調であるとして、インドの2024年度(2023年4月~2024年3月)の成長率見通しを6.1%へと上方修正した。一方、インドの6月のCPI上昇率は前年同月比4.81%となり、5月の同4.31%から5ヵ月ぶりに加速した。

今後の見通し

中国政府による成長重視の指示が今後も市場心理を上向かせる見込み

当月は世界中でシナリオの変化がみられた。これらの変化は2023年の今後の経済成長を下支えしていくとみられる。市場が特に大きく反応したニュースは中国当局の発表で、今後数ヵ月のうちに当局は住宅ローン金利と取引手数料の引き下げによる不動産市場の下支え、民間資本による投資を呼び込むための取り組み、個人消費の促進、国有企業の収益性と利益の重視といった指示を発表する意向であることを示した。中国経済にデフレの兆候があるなか、このタイミングで成長重視の指示が示されたのは非常に歓迎すべき兆しだったと言える。こうした政策が実施されれば、構造的な変化につながり、消費者の景況感の改善や中国経済の成長につながる可能性がある。とは言え論より証拠であり、地方や都市レベルで実行可能な政策の展開が待たれる。

外国人投資家は中国株式のアンダーウェイトを維持しており、中国政府の最近の発表受けて同国株式が急上昇したのは、外国人投資家によるショートカバーが要素としてあったことが示唆されている。成立する政策の強力さ次第では、センチメントの回復に伴い外国人投資家による買いが強まるだろう。

インドはバリュエーションが割高ながらも引き続き魅力的、アセアンのバランスシートはここ何年もの間で最も健全
中国への資金流入は、これまで中国からの流出の恩恵を受けてきたインド市場に影響をもたらす可能性があるが、インド市場が構造的要因から魅力的であることに変わりはない。インドは、企業収益の伸びが堅調で、インフレは抑制され、金利は安定しており、引き続き投資資金が集まっている。但し、インド市場のバリュエーションは、過去10年の平均を10%上回る割高な水準で推移しており、このことが逆風要因となる可能性がある。

アセアン諸国市場の見通しは、エネルギー・トランジションの素材に対する需要やそうしたことが国内経済にもたらす影響と結びついている。インドネシアは、エネルギー・トランジションを先導し、シンガポールとともにアセアン諸国市場で最も良好なパフォーマンスをみせている。企業のバランスシートも15年超ぶりの健全な水準にある。

このような要因から、インドネシアやインドでは、国内消費や設備投資サイクルから恩恵を受けやすいクオリティの高い銀行・企業を引き続き有望視する。

韓国と台湾については選別的な姿勢を維持
韓国と台湾の革新的テクノロジーをリードする企業については長期的にポジティブな見方を維持しているものの、欧米諸国では経済成長が鈍化しており、消費者向けテクノロジー分野の需要の先行きが不透明であることから、当社では選別的な姿勢を維持している。とは言え、サイクルの底に到達しつつあるかもしれない。

域外では、インフレは安定または減速傾向にある。しかし、ロシアがウクライナ産穀物の輸出合意の履行を停止したことや、需要見通しが高まるなかでもOPEC(石油輸出国機構)が供給を増やしていないことから、インフレの食品・エネルギー分野のリスクは予想以上に根強くなることが見込まれる。



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