本レポートは、2023年6月13日発行の英語版「On-the-ground view of post-COVID China」の日本語訳です。内容については英語の原本が日本語版に優先します。

最近行った中国への旅行で、世界第2位の経済大国がコロナ禍から立ち直るのに伴う同国の技術の進歩、消費パターンの変化、新たな社会規範を目の当たりにすることができた。

逆カルチャーショック

最近、家族とともに行った2週間の中国旅行は、ある種の「帰郷」であった。飛行機、列車、自動車で(東洋の真珠と呼ばれる)上海、青島1、合肥2、銀川3を巡り、外灘(バンド)として知られる絵のように美しいウォーターフロントの遊歩道で有名な上海へと戻った。

幼少期を中国で過ごし、思春期にはシンガポールへ、成人期には英国へと移住した筆者にとって、中華人民共和国に帰る旅は意義深く感傷的なものだった。父方の祖母を奪われた悲惨な新型コロナウイルスの感染拡大以来、5年ぶりの中国訪問だった。また、筆者の子供たちにとっては初めて中国訪問で、多くの親戚や家族ぐるみの友人に会う機会となった。

当然ながら筆者は、中国の急速な発展に加え自身の入り混じったアイデンティティーと認識により、海外にしばらく住んでから帰国する際によくある感情的・心理的反応の「逆カルチャーショック」を経験した。自分を真の中国本土の人間とみなすことはもはやないが、中国とのつながりや親族・友人との結びつきを通じ、「内部のアウトサイダー」および「外部のインサイダー」として中国を認識・観察することができる。一言で言うと、最近の中国訪問で際立った重要なテーマは、概して同国のコロナ後の新しい社会規範、技術の進歩、消費パターンの変化であり、本稿ではそれらをすべて掘り下げてみたい。

コロナからの立ち直り

2022年終盤に中国が経済活動を再開して以来、中国の人々は表面的にはコロナ禍から立ち直っているように見受けられる。飲食店やレストランの一部の従業員を含め、中国の人々は大半がもはやマスクを着用していない。ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の確保)やマスク着用に関する公示もなくなりつつある。しかし、興味深いことに、大皿料理で取り分け用の箸の使用を勧め個人の箸の使用を悪習慣と糾弾してきた、衛生意識の高い人々の声にようやく耳が傾けられるようになったのは、コロナ後に中国社会の衛生習慣が改善されてきてからだ。

我々が出席したすべての会食では、料理を取り分けるのに取り分け用の箸を使っていた。5年前はこのような状況ではなく、多くの中国の人々がまだ取り分け用の箸ではなく自分の箸を使って大皿料理を取り分けていた。公衆衛生の面で中国国民が現在より懸念しているのは、一般市民の間で季節的流行を見せているA型インフルエンザと帯状疱疹である。

現地の心情としては、今回のコロナ禍を受けて、国民のなかには感染拡大への対応を様々な角度から評価する向きが出てきたかもしれない。新型コロナウイルスは人々の生命と生活に大きな打撃を与えた。一般市民は2020年から2022年末にかけて断続的なロックダウン(都市封鎖)と社会的行動制限に見舞われたが、その後突然、経済活動が再開された。今後は、生産性と景気を向上させるために、社会と政府の強固な関係が必要となるだろう。

技術の進歩

中国では、新型コロナウイルスの感染拡大によって技術の進歩が加速し、特にロボット工学と顔認識の分野ではそれが顕著である。中国の日常生活ではロボットの利用が普通となっており、例えば、配達員は配達する品物をロボットに入れ、ロボットがマンションやアパート内の最終配達を行う。任務を遂行するにあたり、ロボットはWi-Fiを使ってエレベーターのボタンを押したり、同乗者に道を空けてもらうよう頼んだりすることができる。配達先の家や部屋に着くと、ロボットは電話で受取人を呼び荷物の受け取りを依頼する(写真1参照)。

中国では、コロナ禍のおかげで商業化に至った興味深い技術革新が他にもある。合肥(新一線都市)で乗り継ぎをした際、空港のエレベーターにはホログラム・ボタンが設置されていた。このようなホログラム・ボタンにより、新型コロナウイルスの感染拡大中、エレベーターの乗客はウイルスが付着している可能性のある表面に触れずに済んだ。中国の国営メディアと香港の新聞によると、合肥では病院でもタッチレス受付・支払機に同様のホログラム・ボタン(写真2参照)が使われているが、これらはすべて中国のハイテク企業である安徽省東超科技(Anhui Easpeed Technology)が開発したホログラム画像技術によるものである。

さらに、中国の都市には、顔のスキャンで代金を支払うことができる顔認識技術を採用したハイテク自動販売機が数多くある。例えば、こうした新世代型自動販売機(写真3参照)で飲み物を買うには、インターフェイス画面の前に立って顔認証を開始するだけでよく、順調に処理されれば選んだ飲み物が取り出し口に落ちてくる。現金もスマートフォンの決済アプリも必要ない。

中国の都市で移動する際、国産のスポーツ用多目的車に乗る機会が何度かあった。具体的には吉利(Geely)や比亜迪(BYD)の車で、同国の大手テクノロジー企業である華為技術(Huawei)の製品など、国内で開発されたナビゲーション・システムが使われている。Huaweiは自動車は製造していないが、バッテリー・電子制御システムや対話型音声コントロールなどのスマートカー・ソリューションを提供している(写真4参照)。注目すべき重要点は、中国のハイテク分野の製品、ソリューションおよびシステムにおいて、その多くが国内企業によって製造されていることだ。これは、大手半導体メーカーを含め自国企業に中国企業への半導体チップやAI(人工知能)技術の提供を禁じた米国とのあいだで技術競争が激化するなか、科学・技術面での自立を目指している中国にとって良い兆候と言える。

消費パターンの変化

筆者たちが中国に行ったのは、労働節の大型連休(2023年4月29日~5月3日)の1週間前から当該連休にかけてであったため、当然ながら街は人でごった返していた。観光地では長蛇の列ができ(大半が国内からの観光客で溢れかえっていた)、レストランは(予約を入れてくれた地元の人によると)かつてないほどの満席(「爆満」、爆発的な満席)状態だった。コロナ後の中国における飲食関連の「リベンジ」消費、つまり繰り延べ支出は健在で、特に多世代が集う家族の集まりやレストランの個室での宴会が盛んであった。

中国では整形手術も人気を集めている。女性を中心に35歳未満の人の多くが美容整形を受けているのには驚いた。オンライン統計プラットフォームStatistaの最近のレポートによると、中国では2020年に整形手術を受けた人の数105万人と推定されており、Statistaでは中国の美容医療市場の規模が2023年に前年比で17.5%拡大すると予想している。この傾向を受けて、中国では形成外科専門病院の数が増加しており、筆者たちが上海の新天地で宿泊した先の近くにも形成外科専門病院があった(写真5参照)。

中国の若い消費者の多くは、こだわりが強く流行を追いかける傾向がある。ソーシャルメディアの時代である現在、こうした消費者はお金はあまり使わないが自己顕示欲が強く、「ネットで有名」な店(网红店)で自撮りをしてソーシャルメディア・プラットフォームに投稿する。

「ネットで有名」な店の一例として挙げられるのが、中国の美容関連小売企業の話梅(Harmay)だ。同社の高級化粧品・美容関連製品は中国の若く裕福な消費者のあいだで人気が高まってきている(写真6参照)。Harmayは、情報に通じた国内の若い消費者をターゲットとしている数多くの中国国内小売企業の1つで、ソーシャルメディアでのマーケティング・キャンペーンやネット上のインフルエンサーを広く活用している。

中国におけるもう1つの消費トレンドは「モノ」から「コト」への消費シフトで、子供と一緒に人生を豊かにするような経験をすることにお金を惜しまない若い家族のあいだで、このパターンが次第に広がってきている。

コストが高く苦労の多い中国での子育て

中国での子育てや家計のやりくりは、シンガポールよりもはるかに難しいと筆者はみている。全般的に、中国では子供を3歳で保育園に入れることができるが、預かってくれるのは半日だけで、その費用は為替換算後でシンガポールの保育園の2倍である。皮肉なことに、シンガポールの1人当たりGDPは中国の6倍を超える。中国の小学校は(筆者の時代とは異なり)もはや全日制ではない。家事ヘルパーは雇うのはコストが非常に高く、中・上流階級の母親が稼ぐフルタイムの給料と同じくらいかかる。中国の若い家族の多くは、子供の祖父母の援助を仰いで子供をエンリッチメント・クラス(保育と習い事を兼ねた教室)に通わさざるを得ないが、これには保育の倍のコストがかかる。中国が出生率、生産性、そして長期的な消費の成長を向上させるためには、子育てにかかる高コストと不便さの問題を解決する必要があると考える。

まとめ

全体として、筆者たちは最近の中国への旅行で見たり経験したりしたことに非常に感銘を受けた。中国は、技術の進歩、そしてモノやサービス(主に飲食と自動車・交通)の質の面で大きく前進している。急速な進歩と近代化が大都市だけでなく銀川のような三線都市でも見られており、同市は驚くほどのペースで発展している。

しかし、大半の人々にとって、生活は厳しいように見受けられる。背景には生活費の高さ(特に幼い子供を持つ人々にとって)や労働環境の厳しさがあるが、これらは長期的な消費の成長にとって逆風となる可能性がある。アジアの活気ある消費関連セクターを担当する株式アナリストである筆者にとって、今回の旅行では中国の目を見張るような変化を見出す機会となり、アジア地域最大の消費者市場である中国について、現地での貴重な知見を与えてくれた。また、中国の消費関連銘柄を分析するにあたっての新たな視点・側面を得ることができ、これらをボトムアップのファンダメンタルズやその他の市場ファクターの観点からより注視していきたいと考える。


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1中国東部の山東省の黄海に面した港湾都市

2中国東部の安徽省の省都

3中国北中部、ゴビ砂漠の端に位置する寧夏回族自治区の首府


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