本稿は2023年9月19日発行の英語レポート「Harvesting Growth, Harnessing Change」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

世界的に市場が低迷するなかフィリピンや中国、香港がアジアの下落を主導


サマリー

  • 域内の市場で中国の景気低迷に注目が集まるのは無理もないが、市場に広がっている懸念の影に隠れているものの、アジア地域には長期的に持続可能なリターンをもたらすポジティブな変化の機会が存在すると当社では考えている。中国が乗り越えなければならない問題は克服できないものではなく、システマティック・リスクや社会不安リスクにつながることはないだろう。
  • 当月のアジア株式市場(日本を除く)は、米国のインフレ指標が市場予想を下回り、リスク選好姿勢が強まったことを受けて大幅に上昇し、米ドル・ベースの月間リターンが6.1%となった。中国で景気刺激策が強化されるとの楽観的な見方も、域内株式の追い風となった。
  • 当月のアジア株式市場(日本を除く)は、債務を抱える中国の不動産セクターが再びストレスに晒されるなか、同国のマクロ経済指標の低迷が下落圧力となり、月間リターンが-6.4%となった。米FRB(連邦準備制度理事会)によるインフレや金利へのタカ派的な発言も、リスク選好姿勢を後退させた。
  • 当月は、フィリピン(米ドル・ベースの月間市場リターンが-9.3%)や中国(同-9.0%)、香港(同-8.6%)が下落を主導する一方、域内市場が大幅に下落するなかでもインドネシア(同-1.4%)やインド(同-1.9%)、タイ(同-2.8%)は相対的に健闘した。
  • 当社では、市場の下落によって中国で長期的投資機会がもたらされている可能性があると考える。インドやアセアン諸国も有望な構造的成長ストーリーを提供し続けており、また北アジアのテクノロジー企業はAI(人工知能)主導の成長の波に乗っている。

市場環境

アジア株式市場は中国の景気低迷や不動産セクターの逆風を受けて下落
当月のアジア株式市場(日本を除く)は、債務を抱えた中国の不動産セクターが再びストレスに晒されるなか、同国のマクロ経済指標の低迷が下落圧力となり、月間リターンが-6.4%となった。ジェローム・パウエルFRB議長が、米国のインフレ率はまだ高すぎであり、必要な場合にFRBは追加利上げの用意があると述べたことも、リスク選好姿勢を後退させた。当月のアジア通貨は、全面高となった米ドルに対して下落した。

北アジアでは中国と香港が下落を主導
中国および香港市場は、懸念を強めた投資家が世界第2の経済大国である中国の株式エクスポージャーを削減したことを受けて月間リターンが米ドル・ベースでそれぞれ-9.0%、-8.6%となり、数ヵ月ぶりの大幅下落となった。中国の景気低迷および不動産市場のさらなる悪化をめぐる不安に加えて、中国政府による積極的な景気刺激策の欠如が、中国株式市場における投資心理の重石となり続けた。月中に、中国は経済成長を促進するとともに低調な株式および不動産市場を支えるために利下げを実施し、株式取引にかかる印紙税を半減するとともに住宅購入および住宅ローンの規制を緩和したものの、投資家心理を押し上げるには至らなかった。

テクノロジーセクターの比率の高い韓国および台湾市場は、AI関連株のブームが続くなかでも、指数構成比率の高いSamsung ElectronicsやTSMC(台湾積体電路製造)の調整が重石となるなど、利益確定売りに押されて下落し、米ドル・ベースの月間リターンがそれぞれ-7.6%、-4.5%となった。韓国ではインフレが緩和を続けるなか、同国の中央銀行は政策金利を3.5%に維持し、5回連続で据え置いた。その他、台湾の2023年第2四半期の経済成長率は前年同期比1.36%増となり、前四半期の同3.31%減から回復した。

アセアン諸国市場は軒並み下落、フィリピンは9%超の大幅下落
当月のアセアン諸国市場は、世界経済が落ち込み外需が不振となるなか軒並み下落した。インドネシア(米ドル・ベースの月間市場リターンが-1.4%)は、2023年第2四半期の経済成長率が家計消費の堅調さや政府支出の拡大に支えられ前年同期比5.17%増へと加速したことを受けて、相対的に小幅なマイナス・リターンとなった。タイ (同-2.8%)では、総選挙から数ヵ月後を経てタイ貢献党のセター・タウィーシン氏が首相に就任し、政治的懸念が後退した。マレーシア(同-3.1%)は2023年第2四半期の経済成長率が前年同期比2.9%増へと減速し、シンガポール(同-8.5%)では7月の非石油地場輸出が前年同月比20.2%減となり、10ヵ月連続で輸出が低迷した。フィリピン(同-9.3%)は、経済成長が約12年ぶりのペースへと減速するなか、域内で最も低調なパフォーマンスとなった。

インド株式は相対的に良好
インド市場は、食品価格の上昇加速を主因に7月の小売インフレ率が15ヵ月ぶりの高水準となる7.44%へと急加速したことなどを受けて、米ドル・ベースの月間リターンが-1.9%となった。インドの7月の貿易収支は、世界的な需要の鈍化を受けて輸出が引き続き低調となったのに加え、自国通貨安を受けて輸入額が増加したため、赤字幅が207億米ドルへと拡大した。同国の4月~6月期のGDP成長率は、サービスセクターや政府の設備投資が堅調となるなか前年同期比7.8%増となった。

今後の見通し

中国では市場の調整を受けて割安な投資機会がもたらされている

域内の市場で中国の景気低迷に注目が集まるのは無理もないが、市場に広がっている懸念の影に隠れているものの、アジア地域には長期的に持続可能なリターンをもたらすポジティブな変化の機会が存在すると当社では考えている。中国が乗り越えなければならない問題は克服できないものではなく、システマティック・リスクや社会不安リスクにつながることはないとみている。市場の下落によって中国で長期的投資機会がもたらされている可能性があるのに加え、インドやアセアン諸国も有望な構造的成長ストーリーを提供し続けており、また北アジアのテクノロジー企業はAIによる成長の波に乗っている。

中国当局は、7月末に経済成長を支え不動産・LGFV(地方政府の資金調達事業体)市場の潜在リスクを抑制する方向への大幅な政策転換を示唆したものの、それ以降は具体的な緩和策が打ち出されないままで、市場は忍耐を失いつつあるとみられる。しかし、当局が実施してきたことと市場で予想されていることにずれがあるという事実は、中国のようなトップダウン経済においては予想外のものではないとみている。通常、政府が指令を出してから実体経済で変化が起きるまでにはタイムラグがあり、例えば、昨年の第4四半期にゼロコロナ政策の終了が発表されてから経済活動が再開されるまでには、1ヵ月の遅れがあった。緩和策の正確な実施時期やその程度を判断することはほぼ不可能であるものの、特筆すべき点として習近平国家主席の在任中を通して、政策措置は政策ガイダンスと極めて整合的となっており、今回も変わりはないとみている。

他では、苦境に陥っている投資信託の問題は不動産市場の低迷の現れに過ぎず、その影響は概して富裕層に限定されるとみている。何よりも重要な点として、市場の調整によって、リターンが長期的に持続可能でファンダメンタルズ面でポジティブな変化を遂げている高クオリティ銘柄に割安に投資できる機会がもたらされている可能性がある。当社が特に注目している分野は中国の工業化2.0が見込まれる電気自動車、オートメーション、ロボティクス、再生可能技術などである。

インドやアセアンは世界のサプライチェーンシフトからの好影響が追い風に
また、アジアの成長テーマは中国に限定されるべきではなく、世界で最も魅力的な成長ストーリーを伴う銘柄の一部はインドやアセアン諸国などで見出すことができる。世界のサプライチェーンのシフトによる好影響が足下で特に鮮明に感じられるのは、インドとアセアン諸国だ。インドとインドネシアでは、改革によってこうしたファンダメンタルズ面の変化が特に積極的に促進されており、また、国内の金利サイクルがピークを打つのに伴って景気循環も追い風になるとみられる。インドについては、複数年にわたる住宅市場の拡大サイクルに加え、大規模な設備投資サイクルも期待できる。このような要因から、インドやインドネシアでは、国内消費や設備投資サイクル、電気自動車のサプライチェーンから恩恵を受けやすいクオリティの高い銀行・企業を引き続き有望視している。

韓国と台湾はAI主導の成長トレンドに乗じている
テクノロジーセクターの比率が高い韓国・台湾市場も、AIが主導する世界のハードウェア構築のトレンドに乗り続けるだろう。ハイパースケーラーを中心としたこの構造的な需要の伸びは、引き続き見受けられているパソコンやスマートフォンの最終需要の低迷の一部を十分に相殺するとみられる。とは言え、この分野内では、個人投資家主導のテーマ選好に左右されることを避けるため、バリュエーション指標に対して極めて規律を持った姿勢を維持している。



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