本レポートは、2023年9月12日発行の英語版「India’s transformational trends」の日本語訳です。内容については英語の原本が日本語版に優先します。

構造改革、エネルギー転換への投資、消費の拡大、そしてインフラ、生産性および製造業セクターの大幅な改善により、インドは経済成長と発展の次の段階に拍車がかかると期待される。


インドの台頭

今年はこれまでのところ、インドにとって重要な年となっている。3月、インドは第95回アカデミー賞において歌曲賞(アクション映画「RRR」)と短編ドキュメンタリー賞(「エレファント・ウィスパラー:聖なる象との絆」)の2部門で受賞するという快挙を成し遂げた。その1ヵ月後、国連はインドが中国を抜いて世界で最も人口の多い国になったと宣言した。さらに最近の8月には、インドは世界で初めて月の南極付近に探査機を着陸させた国となり、またしても歴史に名を刻んだ。

IMF(国際通貨基金)によると、インドは大国のなかで2023年の経済成長率が世界で最も高く、同基金は先ごろ、国内投資の好調さを理由にインドの2024年度の成長率予想を6.1%へと引き上げた。このため、インド株式がアジアで最もパフォーマンスが良好な市場の1つとなっている(2023年8月末時点)のは意外ではなく、市場ではインド経済の潜在成長力が再評価され続けている。

政府の支援的政策や旺盛な投資流入、構造改革が相まって、インドは今後も持続的な経済成長と発展を享受し続ける可能性がある、と当社ではみている。インドの最近の経済的成功は、世界の経済情勢の変化に対する同国の耐性と適応能力の証である。国内製造業の促進、再生可能エネルギーの奨励、二酸化炭素排出量の削減から、インフラの改善、教育・医療へのアクセスの促進に至るまで、インドは世界が今日直面している最大の課題のいくつかに取り組むべく措置を講じている。

当社では、インドの成長における次の段階に拍車をかけ得る重要な変革トレンドをいくつか特定した。これには、より的を絞った構造改革、エネルギー転換への熱心な投資、消費の拡大、同国のインフラ・生産性・製造部門のさらなる改善などが含まれる。

継続的な改革

インド経済は1991年に始まった一連の改革によって自由化された。2014年以降、インド政府はナレンドラ・モディ首相の下で改革路線を堅持し、透明性、公的資金の効果的な支出、汚職の抑制に注力してきた。加えて、モディ政権は国内におけるビジネスのしやすさの改善にも注力しており、事業・不動産登記、建設許可、電力調達、信用の確保、越境取引などの分野で官僚主義的手続きを軽減するシステムやプロセスを導入している。

インドは厄介な官僚主義とお役所仕事で知られてきた。例えば、ムンバイで住宅を建設する場合、レンガを積み始められるまでに規制当局による承認が58件も必要であった。また、事業者登録や工場設立、電力調達にあたっても、同様の官僚的煩雑さや複雑な行政・規制手続きが存在した。しかし近年では、国内でのビジネスのしやすさが改善されてきている。行政改革により、以前は手続きに12~18ヵ月もの時間がかかることもあったインドでの新工場設立は、適切な書類が準備されていれば簡単かつシームレスに行えるようになった。

ここ数年で導入された主な改革には、「デジタル・インディア」の実施、直接現金給付、物品・サービス税、破産・倒産法、不動産規制法、法人税減税などがある(これらの改革の詳細については表1を参照)。

表1

インド政府は今後、同国が直面する課題と機会に対応すべく、さらなる改革を実施していく可能性が高いと当社ではみている。今後の改革策は、経済成長の促進に加え、インフラ整備、医療、教育、農業、テクノロジーなどの分野における投資の拡大およびビジネスのしやすさの向上を目的としたものになると考える。当社ではかねてより、インドの改革を投資機会として捉える最良の方法として、クオリティの高い金融機関や不動産開発企業を有望視している。

エネルギー転換への投資

広大な国土を有し農業経済を営む大国インドは、概して地球温暖化や天候不順の悪影響を受けやすい。また、高度の大気汚染に苦しんでおり、世界で最も大気汚染が深刻な都市の多くを抱えている。インドの二酸化炭素排出量は、国民1人当たりでは少ないが、国としての絶対量ベースでは高い(表2参照)。したがって、より環境に優しい未来に重点を置くことは、正しい方向への一歩と言える。

表2

インドでは、伝統的なエネルギー源(つまり石油、ガス、石炭などの化石燃料)からより環境に優しい電力への移行が加速しつつある。過去5年間で、インドは容量およそ60ギガワット(GW)の再生可能エネルギー設備を設置しており、以前は14%にも満たなかった国内発電容量に占める再生可能エネルギーの割合が、今では25%を占めるに至っている。さらに重要な点として、同国は2030年までに再生可能エネルギー容量を450GWまで拡大するという野心的な目標を掲げている。また、2030年までに二酸化炭素排出原単位(経済活動量当たりの二酸化炭素排出量)を2005年比で33〜35%削減することにもコミットしている。

インド政府は、電気自動車(EV)の購入と充電インフラの整備に奨励金を支給する「ハイブリッド・EV車生産・普及促進(FAME)」制度を開始した。さらに、同国はスマートグリッド(電力供給側・需要側双方からの自動制御により使用電力量を最適化する次世代型電力網)技術の導入を推進し、電力供給の質を向上させ、送配電ロスを削減している。最終的に、インドのエネルギー転換への取り組みは、化石燃料への依存度を減らし、持続可能な開発を促進して、気候変動に関するパリ協定へのコミットメントを果たすことを目的としている。

世界がより環境に優しくなるのに伴い、インドではエネルギー転換への大きな投資機会が生まれると予想している。そのような投資機会は、再生可能電力、充電スポット、ルーフトップ型太陽光発電、EV、電気バッテリーおよび蓄電などの分野に見出されるだろう。当社では現在、インドの自動車セクター、エネルギー・セクター、および当該テーマに関連する産業サブセクターを選好している。

インドの消費者の台頭

インドの人口は14億人を超えたが、その多くを占める若年層は所得水準が上昇しつつあり、近い将来の消費支出の原動力となるだろう。現在、インドにおけるさまざまな財・サービスの国民1人当たりの消費額は、他の発展途上国に比べて低い水準にとどまっている(チャート1参照)。インド国民が豊かになるにつれてその願望も高まり、これを受けて様々な財・サービスに対する需要が高まるだろう。だからこそ、当社では重要なトレンドの1つとして、インドの消費者の台頭に注目している。

チャート1

中期的な観点からは、インドの様々な消費セグメントが投資家に大きなアルファ(超過収益)機会をもたらすと考える。これらの消費セグメントにはポテンシャルを秘めたセクションの例が多くあり、当社では、まだ普及していない様々なカテゴリーに大きな長期的機会が存在すると考えている。また、インドの消費者の傾向として、プレミアム化(企業が自社の既存製品・サービスのこだわりを高めて高付加価値化・価格引き上げを図ること)が今後も続くとみている。したがって、消費者のニーズに対して価値を提供することを重視する企業は、大きな恩恵を受ける可能性がある。

インフラと生産性の向上

インドのもう1つの重要なトレンドは、インフラと生産性の向上である。ここ数年、インドはインフラ整備に一斉に取り組み、道路や港湾、空港、病院、学校などに大規模な投資が行われてきた。例えば、政府が立ち上げたいくつかの取り組みとして、バラットマラ計画、サガルマラ・プロジェクト、スマートシティ・ミッション、若返りと都市変革のためのアタル・ミッション(AMRUT)などが挙げられる。

バラットマラ計画は、66,000km超の幹線道路を建設して全国に経済回廊ネットワークを構築することを目指す道路開発プログラムで、一方、サガルマラ・プロジェクトは、貿易・商取引を促進すべく、国内港湾の近代化と物流ハブ・ネットワークの構築を目的としている。スマートシティ・ミッションは、国内に100のスマートシティを構築し、テクノロジーとデータを活用して国民の生活の質を向上させることを目指している。こうした取り組みに加え、政府は国内の航空・鉄道インフラについても改善策を講じてきた。地域間の空路接続を促進するため、航空会社に対して発着便数の少ない空港への便を運航するための金銭的インセンティブを提供しており、また、鉄道についても同様に、貨物専用鉄道建設プロジェクトや高速鉄道プロジェクトなど、複数のプロジェクトを展開している。

このように改善策が講じられてきたものの、インドのインフラ水準は依然として世界の平均を大きく下回っている。同国は、経済成長を続けるのに伴い、インフラの整備および質の向上を絶えず求められていくだろう。同国政府は、経済成長と雇用創出の重要な原動力と見なされているインフラ整備に多額の資金を割り当てており、当社ではこの傾向が今後も続くとみている。

高等教育による生産性の向上も、インド政府の重点分野になると見込まれる。同国は中間所得層の規模が大きく、自身の子供に全人的教育を受けさせたいと考える家庭が増えている。また、同国政府は最貧困層の就学にも引き続き力を入れている。全体として、同国の教育水準は上昇を続けており、ケララ州のように識字率100%を達成した州もある。

生産性・教育の向上と並んで、近年インドで根本的に変化したのは、電気や飲料水、調理用の液化石油ガス(LPG)といった基本的生活必需品へのアクセスが向上したことだ。今では国内すべての村で電気が利用できるようになっており、また農村部世帯の推定60%に水道が設置され、飲料水を利用できるようになっている(ジャル・シャクティ(水資源)省による)。同様に、エネルギー・環境・水評議会が2020年に実施したインド住宅エネルギー消費調査(IRES)によると、LPGを主要調理燃料として使用する国内世帯の割合は、2011年の33%から2020年には71%へと拡大した。

基本的生活必需品へのアクセスが向上することで、インドの労働人口における女性の参加が促進され、経済成長の加速につながると期待されている。同様に、基本インフラの改善と教育水準の向上は広範囲に及ぶ影響をもたらすとみられ、これによってインド経済は今後長年にわたり持続可能な高成長を遂げられると予想する。こうしたファンダメンタルズ面の変化は、病院やマイクロファイナンス企業、オンライン保険販売会社を通じて確認できるものと考える。

インドの製造業力の強化

近年、世界はファンダメンタルズ面で大きな変化を経てきている。コロナ禍による混乱と地政学的緊張の高まりを受けて、グローバル企業はサプライチェーンの安全性と分散を強化する必要に迫られている。大規模な労働力を擁しインフラが改善しつつあるインドは、中国と並ぶ「世界の工場」になり得ると考える。

ビジネスのしやすさの改善や法人税率の引き下げとは別に、2020年3月に創設された生産連動型インセンティブ(PLI)制度がインドの製造業の意欲を後押ししている(PLIスキームの詳細については下の欄を参照)。現在、インドのGDPに占める製造業の割合は15%強に過ぎず、この割合は10年超にわたって停滞している。また、世界の製造業に占めるシェアは、中国が30%を超えているのに対して、インドはわずか3〜4%にとどまっている。当社では、インドの製造業が今後10年間で大きく成長すると予想している。

インドのPLI制度について

  • PLI制度は、国内の製造能力を強化し世界の製造ハブとなることを目指すインド政府のプログラムである。この制度は2020年に開始され、当時の対象は自動車、電子機器、医薬品、繊維などの13セクターだったが、その後14セクターに拡大された。この制度によって、インドは製造能力が向上しグローバル・サプライ・チェーンの主要プレーヤーになることが期待されている。
  • この制度では、インド国内で特定の製品を製造する企業が、売上高の増加分に応じて奨励金を受け取ることができる。奨励金は5年間支給され、企業の投資および生産の水準に連動する。当該制度は、企業による新技術への投資を促すとともに、国内での生産拡大と雇用創出を図ることを目的としている。
  • PLI制度は国内の製造業セクターに大きな投資をもたらしている。地元企業以外にも、Apple、Samsung、Foxconn、トヨタ、Dell、Boschなどのグローバル企業による同国への投資も誘致している。

インドの携帯電話生産はPLI制度の成功例の1つであり、近年、同国の携帯電話端末の純輸出が大幅に増加するのに貢献している。今日インドは、携帯電話端末の生産台数の国別ランキングにおいて第2位を占めている。

リスクとESG面の考慮点

当社ではインドの変革トレンドから長期的な投資機会を数多く見出しているが、一方で、同国の発展計画の成果を遅らせたり、変えてしまったり、あるいは頓挫させたりし得る潜在的リスクも存在する。たとえば、インドの膨大な人口動態および経済の潜在力を引き出すためには、深く根付くような構造改革を継続する必要があり、改革が惰性的となったり停止したりすれば、経済を動かすエンジンが止まってしまう可能性がある。

さらに、他の多くの新興国と同様、インドも経済や社会、環境に影響を与え得る数多くの環境・社会・ガバナンス(ESG)リスクに晒されている。インドが直面する主なESGリスクとしては、以下のようなものが挙げられる:

— 気候変動:インドは気候変動に対して最も脆弱な国の1つであり、気温の上昇、水不足、異常気象といった現象は同国の農業やインフラ、公衆衛生に重大なリスクをもたらす。

— 大気汚染:インドの大気汚染は世界でも有数の深刻な水準にあり、公衆衛生や環境に重大な影響を及ぼす可能性がある。エネルギー転換への取り組みが行われているものの、人口の多さや急速な都市化、産業の発展によって、同国の公害問題は一段と悪化し得る。

— 労働者の権利:児童労働、強制労働、特定の産業における劣悪な労働環境など、インドは労働者の権利に関する重大な課題に直面している。

— 汚職:インドでは政府や公共機関、民間セクターにおける汚職の水準が依然として高く、贈収賄と不正が引き続き重大な課題となっている。

だからこそ、インドに投資するにあたっては、ESG分析(ESGのリスクおよびリターンのファクターを含む)を投資プロセスに組み込んで一体化することが極めて重要であるとみている。また、ファンダメンタルズの変化を追い風に持続可能な収益を実現できる割安株投資に焦点を当てるボトムアップ型、ファンダメンタルズ重視型の銘柄選択を行う当社は、持続可能でより高い収益の達成には強固で改善傾向にあるESGファンダメンタルズが不可欠であると考える。インドはESGに関する限り正しい方向に向かっていると考えるが、同国に対する当社のあらゆる投資においては、ESGファクターが重視され警戒信号として機能する。

まとめると、インドは持続可能な高成長を実現しており、改革やエネルギー転換、消費拡大などの長期的な変革トレンドを原動力にファンダメンタルズ面で大きな変化を遂げつつあることから、当社では同国に対して構造的にポジティブな見方を維持する。


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