本稿は2023年9月25日発行の英語レポート「Balancing Act」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

グロース資産のスコアのプラス幅を縮小、ディフェンシブ資産のスコアは中立に維持

投資環境概観

米国債10年物利回りが2022年10月の最高水準である4.24%を超えて上昇するなど、市場は「高金利の長期化」を織り込みにいっており、グローバル株式を取り巻いていた熱いセンチメントは中立領域へと後退しつつある。インフレ圧力は雇用市場をリセッション(景気後退)に陥らせることなく和らぎ続けており、米FRB(連邦準備制度理事会)は依然ソフトランディング(リセッションを回避した緩やかな景気減速)を達成できる方向にあるようだ。しかし、債券利回りの頭打ちがまだ確実視されてはいないなか、市場でやや神経質な状況が続いているのも意外ではない。

これまでのところ、世界の成長動向の乖離は、景気が政策により助長された米国(財政政策)や日本(金融政策)など一部の国において実質的に成長を下支えすると同時に、一方で中国の成長失速と今やテクニカル・リセッション(前期比での実質GDP成長率が2四半期連続でマイナスとなること)に陥った欧州を主因として、世界のインフレ圧力を和らげている。

まだら模様の世界の経済状況は依然興味深い成長機会を提供しており、当社としては見方をほとんど変えていないが、原油価格が6月下旬の1バレル=72米ドルから9月上旬には1バレル=92米ドルへと持続的に27%上昇していることを含め、インフレ動向については引き続き注視している。エネルギー価格の上昇によってインフレの方向性が不明瞭になっているものの、中央銀行のタカ派的姿勢は後退すると依然予想している。しかし、早期の利下げ期待も後退する可能性があり、これを受けて債券利回りは(フェアバリューにかなり近い水準からではあるものの)じりじり上昇するかもしれない。

クロス・アセット

当月は、グロース資産のスコアのプラス幅を縮小するとともに、ディフェンシブ資産のスコアを中立に据え置いた。米国の財政出動や全般的に堅調な投資を背景に、経済成長環境は依然として十分良好であることから、グロース資産に対してはポジティブな見方をしているが、債券利回りの上昇(特に景気にとって逆風となりがちな実質利回りの上昇)を考慮し、若干ながらより慎重なスタンスをとることにした。

2022年10月の安値からテクノロジー・セクターを中心に上昇してきた度合いを考えると、グローバル株式は反落のタイミングだったと言える。市場の調整を先導したのはテクノロジー株だが、特にAI(人工知能)への投資ラッシュが続いていることを示したNvidiaの圧倒的好決算からして、ストーリーは変わっていない。

奇妙なことだが、FRBがインフレ対策として積極的な引き締めを行ってきた一方で、経済の観点からは大幅な財政出動が金融引き締めを相殺しているようだ。それでも、この大幅な財政出動は、企業収益と景気見通しを支えている原動力となっているように見受けられる。ただし、バランスシートの脆弱な企業が資本コストの大幅な上昇への対応に苦慮しているなか、クオリティを重視する必要がある。もちろん、金融政策の効果の波及は時間差を伴うため、継続的なモニタリングが極めて重要であることに変わりはない。

資産配分の観点からは、中道辺りにとどまる、つまり、選別的なグロース資産の投資機会と、成長が頓挫した場合にある程度のプロテクションを提供する利回りが高めのディフェンシブ資産とでバランスを取り続けることが、依然として妥当な判断であるように見受けられる。グロース資産のなかでは、エネルギー価格の上昇が金利上昇につながるリスクを低減する目的もあり、エネルギー・セクターを中心にコモディティ関連株のスコアを再度引き上げ、その分、先進国株式と新興国株式のスコアを若干引き下げた。ディフェンシブ資産のなかでは、クオリティ重視のスタンスを反映した変更として、投資適格クレジットのスコアをマイナスから引き上げて中立とし、その分、ハイイールド債のスコアを引き下げた。

マルチアセット・チームのクロス・アセット見解は、(1)グロース対ディフェンシブ、(2)グロースおよびディフェンシブ資産内でのクロス・アセット、(3)各資産クラス内での相対的な資産の見方、という3つの異なる段階で示しています。これらの段階は、選好順位の水準は資産クラスが予想可能な形で似た動きあるいは異なる動きを見せるという当社のリサーチおよび直感的認識を表しており、したがって、資産クラスのクロス・アセットでのスコアリングは理に適っているとともに、最終的により熟考された堅固なポートフォリオ構築につながると考えます。

資産クラスの選好順位


当社の見方

グロース資産

景気見通しは、地域によってまちまちではあるものの、依然として明るいと当社では考えている。しかし、インフレの減速に伴って「まもなく」金利が低下するというゴルディロックス(過熱せず低迷もしない適度な経済状態)的ストーリーは、調整局面を迎えている。米国の8月のインフレ率は市場予想から上振れしたが、これは根強いインフレの復活を意味するのだろうか。当社はそうとは考えていないが、インフレ減速の追い風であったエネルギー価格の下落は鈍化した模様だ。したがって、総合インフレ率の数字が示唆する限りは、追い風が逆風に変わりつつあるのかもしれない。

インフレを左右する要因は他にも数多くあるが、エネルギーは依然として重要な要因のひとつである。ゆえに、エネルギー価格の上昇に伴う米国債利回りの上昇を受けて、市場では利下げ時期の予想の織り込み直しが進むかもしれず、また、一旦立ち止まって株式投資の適正バリュエーションを検討すべきタイミングと言えるかもしれない。とは言え、需要が欧米で鈍化しつつあるとともに中国で非常に低迷したままであることから、エネルギー価格の上昇は景気の過熱を示すというよりも調整に近いものである可能性がある。

債券価格と株式の相関が高まることはマルチアセット運用の観点からは歓迎できないが、現在の動向は、FRBが政策正常化に大幅に立ち遅れ、市場がフェアバリューの織り込みを始めることすらできないまま債券利回りが大幅上昇を余儀なくされた2022年の動向とは、かなり異なっている。債券利回りはさらに上昇し得るが、そのような上昇は限定的なものになると予想する。このような見方はリセッションのリスクがさらに遠のいていることも示唆しており、通常、株式にとっては好材料となる。

当社ではグロース資産に対して依然ポジティブな見方をしているが、引き続き適切な投資機会を厳選するようにしている。米国は強力な財政出動により、日本は改革と依然緩和的な金融政策により、ともに景気重視の政策スタンスがとられている。もちろん、世界の経済成長バランスが非常に重要なことに変わりはないが、これまでのところ、中国と欧州の景気低迷は、世界の需要の純減を促す要因というよりは需要を相殺する要因とみなされている。

株式についてはポートフォリオ構成が重要であり、当社では一部のグロース資産の投資機会を選別的に選好する一方、リスク低減の観点から、株式市場のなかで金利上昇の影響を受けにくい他のセグメントも有望視している。そのようなリスク低減役の候補としては、バリュエーションが魅力的で、エネルギー価格が安定すれば収益見通しは十分良好と言えるエネルギー株が挙げられる。

金利上昇に対するヘッジとしてのエネルギー株

エネルギー株は2022年にパフォーマンスが最も良好な資産の1つとなった。コロナ後の需要回復に、年前半にエネルギー市場を混乱させたロシア・ウクライナ戦争による大規模な影響が加わって、エネルギー価格が上昇したからだ。この期間、エネルギー株は極めて好調な収益が続いたが、一方でバリュエーションはかなり妥当な水準にとどまっていたため、債券利回りの上昇を受けて株式市場が全体的に調整したにもかかわらず、エネルギー・セクターの株価は大幅に上昇した。原油価格は2022年6月に1バレル=123米ドルでピークを打ったが、エネルギー株は、各国中央銀行が最もタカ派色を強めて近くリセッションに陥るとの懸念を煽った9月中旬まで、市場全体をアウトパフォームし続けた。

チャート1


2023年3月に起きた銀行危機は、信用収縮を背景にリセッションが早晩到来するとの市場の確信を強めたが、当該リスクの織り込みは景気が堅調さを維持するにつれて徐々に薄れ、まず5月に債券市場で米国債10年物の利回りが3.35%まで低下、次いで6月に原油価格が1バレル=73米ドルで底打ちし、そして最後にエネルギー株が、当社が同資産クラスのスコアを最初に引き上げた7月下旬から、市場全体をアウトパフォームし始めた。

債券利回りは現在フェアバリューに近い水準にあるが、キャッシュレートを下回っているため、リセッションのリスクと利下げがさらに先へと後ずれするのに伴い、水準が上昇傾向となる可能性がある。インフレ率の着実な減速は、リセッションに陥る前にFRBに利下げを実施できる余地が与えられるかもしれないという期待をもたらしてきたが、今後は、エネルギー価格が上昇すると同時にインフレの「根強さ」が高まるリスクを、多くの市場参加者が注視していくことになるだろう。

もちろん、OPECプラス(石油輸出国機構加盟国とロシアなど非加盟主要産油国で構成する組織)による減産のように供給サイドからの圧力もあるが、今のところ、原油価格の上昇は世界的な需要の堅調さを反映している可能性も否めない。したがって、エネルギー株は十分な上昇の可能性と金利上昇に対するヘッジ機能を引き続き提供するとみている。

グロース資産に対する確信度の強い見解

  • 日本と米国を引き続き選好:日本株を選好する理由は、同国で株式市場にとって特に有利となる大幅な改革が実施されており、景気動向が追い風となっていることにある。米国は、財政出動によって金融引き締めにもかかわらず需要が維持されており、またAI関連の新たなテクノロジー投資ブームが展開し続けている。
  • コモディティ関連株を金利上昇へのヘッジとしてとして選好:エネルギー価格におけるリセッション・リスクの織り込みが後退するにつれ、債券利回りには上昇圧力がかかるため、コモディティ関連株、特にエネルギーは、金利上昇とインフレ長期化の可能性(当社の基本シナリオではないが)に対してヘッジ機能を果たす。
  • 中国と欧州に対して依然慎重:両地域とも苦境が続いているなか、中国は純粋にバリュエーションが極めて低水準にあることから投資配分を増やしたくなるが、そのきっかけとなる材料を見出すのは難しい。欧州は、需要の鈍化に加えて金融引き締めからの圧力もあり、当面は株価上昇を促す材料がほとんど見られない。

ディフェンシブ資産

ディフェンシブ資産では、ソブリン債のスコアを中立に据え置いた。米国の景気が予想以上に堅調なことを受けて、グローバル債券をめぐる市場センチメントはポジティブからネガティブへと転じた。しかし、他の経済圏は米国と同水準の財政政策による支援を得ているわけではなく、結果として米国以外の国では景気が悪化している。この乖離は、米国では「高金利の長期化」路線の政策が維持される可能性があるが、他の地域ではおそらくそうはならないことを示唆している。こうして、ソブリン債にはプラスとマイナスの材料が混在することとなり、したがって中立の見通しとなる。

当月は、投資適格クレジットのスコアを若干のマイナスから中立へと引き上げた。最近の株式市場の上昇と米国の経済指標の上振れを受けて、スプレッドは世界的に好調なパフォーマンスを続けている。以前は世界経済の状況と資金調達環境のタイト化がスプレッドの拡大を招くと予想していたが、これまでのところクレジット市場は底堅く推移しており、米国経済がリセッションを回避する可能性があることから、年内は投資適格債のスプレッドが縮小するかもしれない。

ディフェンシブ資産のなかでは投資適格クレジットの選好を継続し、ハイイールド債のスコアをマイナスに維持している。ハイイールド債のスプレッドは、欧州中で景気減速が起きているにもかかわらず、今年は良好なパフォーマンスを維持している。このように当該資産クラスはモメンタムがプラスだが、バリュエーションはスプレッドが長期平均をやや下回っており幾分割高となっている。大規模な金融引き締めが実施されてきて企業倒産が増加する可能性があることを考えると、ハイイールド債はパフォーマンスが悪化するリスクがあるとみている。しかし、当面の米国のリセッション懸念は和らいでいるため、短期的にはスプレッドが縮小する可能性がある。

金については、マクロの観点からはより慎重になっているが、全体としてはポジティブな見方を維持している。金はここ数ヶ月、実質利回りの上昇とドル高という圧力に晒されている。当社の見方では、金はシステミック・リスクおよび(米国の財政支出によって引き起こされ得る)インフレに対するヘッジとして活用するには魅力的な水準にある。各国中央銀行が金を積み増している一方で、投資家による金の保有水準は十分でないように見受けられる。

ハイイールド債に話を戻すと、当該資産クラスはディフェンシブ資産のなかでは依然として最も敬遠している。リセッションが近いとの懸念が続いたにもかかわらず、ハイイールド債のスプレッドは今年に入ってから特に好調なパフォーマンスを見せてきた。しかし、景気先行指標の鈍化や金融引き締めがスプレッドの拡大につながる可能性があるなか、最終的にハイイールド債の見通しは不透明と言える。当該資産クラスがこれまで底堅く推移してきたことは認めるが、最近のスプレッド縮小によって、リセッションが起きた場合にネガティブな結果をもたらす可能性がより高くなっており、また今後のパフォーマンス向上余地も小さくなっている。

英国の乖離

2022年にグローバル債券市場の下落が始まって以降、英国債は10年物利回りが4.75%まで上昇し、最もパフォーマンスの低調な債券市場の1つとなった。同国年金のソルベンシー(支払い余力)に焦点が当たった2022年の市場混乱を覚えている人も多いだろうが、インフレ率がBOE(イングランド銀行)の目標である2%をかなり上回っていることから、10年債利回りはその後も上昇を続けている。市場では、英国のキャッシュレートが5.60%程度でピークを打ち、その後1~2年で低下すると予想されている。下のチャート2が示すように、この「高金利の長期化」ストーリーを受けて、英国はキャッシュレートが米国よりも0.25%低いにもかかわらず、10年債利回りが米国よりも高い水準にとどまっている。

チャート2


インフレの観点から見れば、この金利差は理解できる。英国は現在の総合CPI(消費者物価指数)上昇率が前年同月比6.8%であるのに対し、米国は同3.2%に過ぎない。また、米国ではCPI上昇率の高さに寄与しているのが主にサービス業であるのに対し、英国では物品、食品・飲料、サービスのすべてが強い上昇圧力に晒されている。このようなインフレ要因の幅広さを受けて、BOEはインフレが2%へと減速するには2025年までかかると予想しており、「インフレ予想最頻値をめぐるリスクは上方に偏っている」としている。

しかし、このようにインフレ圧力がより高いものの、英国経済には腰折れの初期兆候が見られている。同国の過去4四半期のGDP成長率はいずれも前期比0.2%以下で、過去12ヵ月における経済成長率は前年同期比0.4%という低水準を記録した。さらに、製造業PMI(購買担当者景気指数)も低下傾向が続いており、43とリセッションを示唆する水準をつけている。小売売上高は前年同月比で減少し、企業の倒産件数は30年ぶりの高水準へと増加している。さらに、失業率が概ね安定している米国とは異なり、英国の失業率は2022年7月につけた最近の最低水準である3.5%から2023年6月には4.3%に達した。このように英国では、インフレ見通しが明らかに悪化している一方で、利上げの影響がより早く経済に波及し活動を抑制しているように見受けられる。

チャート3


ここで生じる疑問は、経済成長率の鈍化と失業率の上昇によってBOEの決意が試され始めるであろうなか、英国があとどれくらいのあいだ金利を他の先進国よりも高い水準に維持できるだろうかという点だ。この動向は英国債への注目度を高めることになる。景気減速は米国よりも英国で発生する可能性が高いからだ。加えて、市場で英国債の利回りプレミアムが後退し英国経済がリセッション入りし得る時期が論じられるようになるのに伴い、最近のポンド高が収まり始める可能性がある。


ディフェンシブ資産に対する確信度の強い見解

  • オーストラリア債券は引き続き魅力的:同国のイールドカーブは依然順イールドであり、他の先進国の多くに比べて投資魅力度が高い。また、同国の投資適格債のスプレッドは先進国のなかでも最も大きい部類に入り、他国市場に比べて平均を上回る上乗せ利回りを提供している。
  • 中国国債の安全性:中国の足踏み状態の景気回復と一段の金融緩和は、少なくとも同国がより底堅く持続可能な経済成長を示すまでは、中国国債の追い風となり続けるだろう。
  • 新興国債券の利回りは魅力的:現地通貨建て新興国債券の実質利回りは総じて非常に魅力的であり、ドルの全面安を受けて当社ではクオリティの高い新興国通貨を選好している。

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:


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