当レポートは、英語による2023年9月28日発行の英語レポート「Navigating China markets amidst property sector headwinds」の日本語訳です。

日興アセットマネジメントの運用専門家が、中国の経済低迷と不動産セクター弱体化から生じるリスクおよび機会について掘り下げる。


専門家の見方

日興アセットマネジメントでは、中国の低迷する経済と不調な不動産市場の全体像を把握するとともに、同国の様々な資産クラスへの見識を深めるべく、以下の債券・株式の専門家の見解をまとめた:

  • デイビッド・ガン/シニア・クレジット・アナリスト(アジア債券)
  • イアン・チョン/シニア・ポートフォリオ・マネジャー(アジア債券)
  • トルーマン・ドゥ/シニア・ポートフォリオ・マネジャー(アジア株式)
  • エリック・カオ/シニア・ポートフォリオ・マネジャー(アジア株式)

これらの見解が、複雑さを増す中国市場を切り抜けるにあたっての参考として皆様のお役に立てば、幸甚である。

経営難に苦しむ不動産開発企業、碧桂園(Country Garden)の影響について

デイビッド・ガン:Country Gardenはすでに米ドル建て債券のクーポン支払いが遅延している。また、オンショア債の満期を延長しており、さらに他のオンショア債の満期についても延長を交渉中と報じられている。場合によっては、同社の顧客やサプライチェーン、債権者(米ドル建て債券を含む)など、様々なステークホルダーに波及的影響が及ぶ可能性があるだろう。

クレジット市場をよくご存じの投資家の方々にとって注目に値するかもしれないのは、債務に関する問題や債務再編が及ぼす影響は、クレジット市場よりもCountry Gardenの顧客やサプライチェーンの方が大きいとみられることだ。同社の契約債務(未完成物件に対して顧客が支払い済みの代金)とサプライチェーン関連の仕入債務・未払金は、いずれも有利子負債より額が大きいので状況次第では中国の不動産システムへの信頼は全体にわたって一層悪化し、顧客が他の不動産開発企業から物件を購入する意欲が後退するとともに、サプライヤーや債権者は不動産開発企業に対する与信条件を厳しくするだろう。さらに、中国の地方政府は、不動産開発企業がプロジェクトを完遂するのに十分な資金をプロジェクト段階の預託口座にキープしていることを担保すべく、当該口座のキャッシュに対し管理を強化する可能性がある。これらの影響により、中国の不動産開発企業は当面の資金流動性がタイト化し得る。

規模の点では、Country Gardenは経営難に陥っている恒大集団(Evergrande Group)に比べて様々な点で小さい。しかし、単一の発行体としては大きな規模を誇る。したがって、Country Gardenの進展は状況次第では中国の不動産セクター全体に影響を及ぼす可能性があり、同セクターは当面のあいだ低迷が続くとみている。

Country Gardenから物件を購入した顧客はどうなるのか

ガン:Country Gardenのプロジェクトは、当初の予定より遅れるかもしれないが、最終的には完成する可能性が高い。中国の不動産市場全体に対する政策支援は高い水準にはないが、物件の完成と購入者への引き渡しを確実にするための措置はとられてきた。実際、過去2年間に中国でデフォルトに陥った不動産開発企業の多くは、デフォルト後も物件の引き渡しを継続している。全国的な統計を見ても、販売や新規不動産投資が低調であるにもかかわらず、不動産建設の完成は2023年も続いていることが示唆されている。しかし、たとえ不動産プロジェクトが完成したとしても、プロジェクトの仕上がりの質は当初意図されたよりも大幅に低いものとなり得る。また、これらのプロジェクトは物件の価格が大幅に下落する可能性もある。その一因となるのは、不動産開発企業が、プロジェクトの完成に必要な資金を調達するために、売上げとキャッシュフローを増やそうとして物件の価格を引き下げることだ。最終的に、顧客は完成した物件を手に入れられる可能性が高いが、当該住宅は質が劣るであろうし、市場価値が大幅に損なわれるものとみられる。

中国が展開する不動産支援策についての考察

ガン:最終的に、2023年は中国当局による不動産政策緩和の流れが起きているが、8月以前の措置は市場の期待や予想をはるかに下回るものだった。8月に入り、住宅購入の頭金や住宅ローン金利が大幅に引き下げられるとともに、初めて住宅を購入する者としての認識条件が緩和されるなど、国の各監督当局からより協調的な緩和策が発表された。

このように最近は協調策が講じられているものの、当社では政策支援は依然不十分であるとみている。中国の不動産セクターを本格的に回復させるには、より大規模な「バズーカ砲」型の支援が必要かもしれないというのが当社の見方だ。しかし、中国政府は不動産セクターに対し大型の刺激策をまとめて打ち出すのに消極的であることが示唆されているため、追加の政策支援は、都市レベルでの購入制限や住宅ローン条件の各種緩和など、小規模で段階的な的を絞った措置が中心になると予想している。こうした小規模で的を絞った緩和策はすでに過去1、2年続いているが、全国的な不動産需要を有意義な形で押し上げるには至っていない。

リスクは地方政府の資金調達機関やシャドーバンキングにも広がっているか

イアン・チョン:不動産セクターは、関連セクターも含めると、中国経済の約20~30%を占めている。また、中国の不動産開発企業、地方政府、富裕層、そして富裕層や小規模企業向けの信託商品を運用する信託会社のあいだには、相互に絡み合った関係がある(チャート1参照)。

中国の信託会社は不動産開発業者に融資を行い、不動産開発業者は地方政府から土地を賃借・購入する。地方政府は、土地の売却代金を含む収入を用い、LGFV(「地方融資平台」、中国の地方政府の資金調達プラットフォーム)を通じてインフラなどの公共プロジェクトに資金を供給する。もちろん、中国の不動産開発企業には、社債や銀行融資といった他の資金調達手段もある。中国の不動産開発企業がデフォルトに陥れば、上述のような資金のつながりに影響が及び始めるだろう。

最近では、8月に信託商品の支払いを滞らせた中栄国際信託公司(Zhongrong International Trust Co)のように、良くない理由で話題になった中国の信託会社がすでにいくつかある。経済的により苦しい地域や規模が小さめの都市でも、税外収入への依存度が高いところを中心に、一部のLGFVが苦境に立たされ始めるかもしれない。

富裕層や堅実さに欠ける小規模企業を投資による金銭的損失から救うことは優先事項ではないため、中国政府が問題を抱えた信託商品を救済する可能性は低いと当社ではみている。一方で、地方政府の債務は懸念材料であり、中国政府は7月の政治局会議で、地方政府の債務リスクに関する問題に対処すべく複数の措置を講じると述べた。これらの措置は多面的アプローチとなり、様々なステークホルダーが融資を延長して一定の損失を被ることになるだろう。地方のSOE(国有企業)も資金調達面での支援を求められ得る。

ここ数週間、LGFVの高金利債務を返済するために市や省政府に低金利債券の発行を認めるという債務スワップについて、憶測が飛び交っている。銀行も融資の延長を行っている。ニュースではあまり取り上げられないが、信託商品の連動対象となっているLGFVも、やはり融資が延長されている。不動産開発業者、地方政府、信託会社など、当該資金フローの輪に関わるすべてのステークホルダーが負担を負うことになると当社では考えている。おそらく、ステークホルダー間での解決に非常に時間がかかるようであれば、結果として中国の経済成長は鈍化する可能性がある。しかし、少なくとも今目にしている状況からして、経済成長の面で大幅な悪化が起こるとは考えにくい。

不動産セクターの低迷による中国の銀行への影響

トルーマン・ドゥ:中国の銀行は不動産市場の低迷から一定の影響を受けるだろうと考える。しかし、その影響は限定的で対処可能なものになるとみている。当社の見るところ、中国の銀行には依然、今後不良債権化が予想される資産からの損失を吸収できる十分な資本がある。不動産開発企業への融資はおよそ14兆人民元と、中国の銀行の総資産において4%を占めるに過ぎず、巨額とは言えない。最近は、中国の不動産開発企業の一部が資金繰りに行き詰まっており、不動産開発企業関連の不良債権が増加している。しかし、これらのローンには担保が設定されており、今後、中国の不動産開発企業の多くがデフォルトに陥るようなことはないと考える。中国の不動産開発企業は概して引き続き地方政府から支援を受けており、保有キャッシュも依然十分な水準にある。

その他では、住宅ローンが現在約40兆人民元と中国の銀行の総資産において14%程度占めており、銀行は住宅ローンを引き続き安全資産とみなしている。現在、中国の家計における借入れは多額ではなく、住宅ローンが家計の総債務に占める割合は50%程度である。これらの住宅ローンは住宅が担保となっており、したがって中国の銀行にとって大きなリスクにはならないと考える。不動産セクターからの不良債権額が増加する可能性はあるが、中国の銀行はそのような不良債権からの損失を吸収できるとみている。

さらに、中国の銀行の自己資本比率は15%と、世界平均の約10%を大きく上回っている。そのため、中国の不動産市場が急激かつ長期的な悪化に見舞われない限り、中国の銀行が増資を行う必要はない。中国の不動産市場は今後安定化し回復に向かうと予想しており、中国の銀行にとって大きな問題にはならないと考えている。

人民元の見通し

チョン:第1四半期に楽観ムードがピークに達してからこれまで、人民元は対米ドルで約8%下落している(8月末現在)。指摘しておきたい点として、DXY(米ドル指数)が貿易加重通貨バスケットに対しても上昇していることを考えると、人民元の対米ドル・レートの動きが示唆するほど人民元は弱くない。実際のところ、対通貨バスケットでの人民元の下落幅はかなり小さい。

最近、中国当局は人民元高を誘導し始めており、日次で発表される人民元の基準値を通常の計算式で算出される水準よりも高く設定している。日次の基準値算出にいわゆるカウンターシクリカル(反循環的)・ファクターが導入されたことは、ニュースでもよく耳にする。また、8月中旬にはオフショア人民元の流動性を絞り始めた。オフショア人民元は市場規模がオンショア人民元よりはるかに小さく、したがって当局が大きな影響力を行使できる。この動きによって、中国当局は人民元の空売りコストを事実上やや引き上げたことになる。このシグナルを受けて、人民元は最近1米ドル=7.3人民元前後の水準を維持している。

人民元の中期的な見通しを考えるにあたってより重要なのは、中国の国際収支など、通貨のファンダメンタルズに注目することである。中国は経常収支が黒字だが、これは中国が「世界の工場」であり財貿易が多い結果である。同国の経常黒字は安定しており、短期間で消えるようなことはないだろう。このような動向のおかげで、人民元は(現在同通貨にとって多少の下方圧力となっている)ある程度の投資資金の流出を乗り切ることが可能となる。

しかし、ここ数四半期における中国へのFDI(外国直接投資)の減少には懸念を抱いている。一部の多国籍企業は敢えて中国以外の国へ進出しているが、これは地政学面の懸念に関係している可能性がある。しかしそれでも、EV(電気自動車)メーカーのTeslaのように、中国への投資を拡大している企業もある。

市場では現在、人民元のショート(空売り)・ポジションは中から高水準にある模様で、悲観的な見方が多いことを示している。人民元のバリュエーションは魅力度を増しており、米FRB(連邦準備制度理事会)のタカ派色が後退すれば、人民元は他のアジア通貨や新興市場通貨とともにその恩恵を受ける可能性がある。加えて、貿易相手国の通貨バスケット対比で見た人民元は、他の新興国通貨に比べてはるかに安定的に見える。

中国の国債およびハイイールド債に対する見方

チョン:中国の銀行も継続的な買い手として知られている。中国政府が数年前に投資商品の黙示保証を事実上禁止して以来、中国国債や政策銀行債などの安全資産への需要が高まっている。結果として、中国国債に対する国内での需要は実際に高まっており、国内投資家のあいだでは間違いなく国債や政策銀行債への購入意欲がある。

最近は人民元と中国に関してネガティブなニュースが続いているものの、中国国債のボラティリティと他資産との相関性は低水準にとどまっており、分散効果という点であらゆるポートフォリオに適した構成要素となっている。当社では、今後、中国経済の再調整が続き成長率が(大幅には悪化することなく)鈍化するとみている。中国はインフレ率も低いことから、必要となれば金融緩和を実施する余地は十分にあり、中国国債はそのような展開となった際の妥当な選択肢と言えるかもしれない。

ガン:中国のハイイールド債の不動産セクターは、最近の下落により、債券価格がすでに極めて低い水準に達している。当該債券セクターでは、ディストレスト水準(債務デフォルトのリスクが高いと見られている、もしくはデフォルトに陥った)の価格で取引される銘柄の割合がますます増えている。デフォルトに陥っていない中国不動産銘柄であっても、その大半は現在、額面の40%以下で取引されている。つまり市場は、存続している中国の不動産開発企業の多くについて、すでに50%超のデフォルト確率を織り込んでいることになる。状況がまだ悪化する可能性はあるが、過去2年間のリターンがすでに大幅なマイナスであったことを考えると、当該セクターの悪材料の多くはすでに織り込み済みと言えるだろう。

また、注目すべき点として、アジアのクレジット市場に占める中国の不動産セクターの割合は以前に比べてはるかに小さくなっている(チャート2参照)。近年の不動産セクターのデフォルトは主に民間の不動産開発企業によるものであったため、今では同セクターに占める国有企業の割合が大きく高まっている。今年の不動産販売成約数を見ると、国有開発企業は、そして存続している民間開発企業の一部ですら、今年の市場不振下でも比較的好調に推移している。

アジアのクレジット市場で注目すべきもう1つの点は、中国の不動産開発企業からは巨額のデフォルトが発生したものの、中国の不動産セクター以外ではアジアの債券のデフォルト水準は依然として非常に低いということだ。過去2年半におけるデフォルトはほぼすべて中国の不動産セクターの発行体によるもので、アジアの他のハイイールド債は比較的好調に推移している。

中国株式は依然投資する価値があるか

ドゥ:皆さんご存じの通り、中国の株式市場は最近ボラティリティが非常に高まっている。個人投資家主導の市場であるため、ボラティリティは概して他の市場よりも高いが、最近のボラティリティが高まっている要因は、不動産市場の低迷をはじめとする中国経済の先行き不透明感と米ドル高・人民元安が、中国からの資金流出を促していることだ。

この2年間、中国政府は不動産、教育、インターネット、さらにはヘルスケアなど、さまざまな業界で再編と規制強化を進めてきた。中国は質の高い成長を求めており、そのためには一部の業界を再編する一方で他の業界の成長余地を広げる必要がある。当社では、業界再編は長期的には中国にとってプラスになるとみている。しかし短期的には、不動産、教育、インターネット、ヘルスケア業界における収益の伸びは引き続き困難に見舞われる可能性がある。とは言え、中国政府は2022年第4四半期から業界の規制強化措置を緩め始めている。規制強化対象となってきた業界は、向こう1、2四半期はまだ低調さが幾分残るかもしれないが、今後回復に向かうものと確信している。

長期的には、2022年終盤の中国の経済活動再開以降続いている消費の回復を背景に、中国株式市場に対してポジティブな見方を維持している。中国の不動産市場に安定が見られるようになれば、市場センチメントと企業収益の伸びは回復が予想される。これこそが中国株式市場を押し上げる最大の要因であり、現在の中国株式は底値買いの好機にあると考える。当社ではイノベーション(革新)関連セクター、つまりTMT(テクノロジー、メディア、電気通信)やカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量を実質ゼロに抑えること)および消費関連セクターを引き続き有望視している。加えて、AI(人工知能)主導型のイノベーションは中国をはじめ世界各国の経済にとって非常に大きなテーマ・牽引材料になるとみられることから、イノベーション関連セクターの選好を継続する。一方、景気敏感セクターや金融セクターに対しては慎重な見方を維持している。

中国は日本が1990年代に直面したような構造的問題に対峙しているのか

エリック・カオ:皆さんご存じの通り、中国の株式市場は最近ボラティリティが非常に高まっている。個人投資家主導の市場であるため、ボラティリティは概して他の市場よりも高いが、最近のボラティリティが高まっている要因は、不動産市場の低迷をはじめとする中国経済の先行き不透明感と米ドル高・人民元安が、中国からの資金流出を促していることだ。:中国には長期的な課題があると考えるが、これらは乗り越えられないものではない。短期的には、中国は消費者・企業心理の問題に直面している。消費者・企業心理を大きく悪化させてきた要因の1つは不動産セクターの低迷だが、同国がこれを好転させるとともに妥当な改革をいくつか実施することができれば、今後10~15年は順調な状況が続くだろう。

最近、中国は経済成長が低迷していることから、かつての日本と比べられることが多い。いくつか類似点もあるが、最初に理解しておかなければならないのは、今日の中国は1990年代の日本とは大きく異なるということだ。まず、中国の潜在的GDP成長率は日本よりもはるかに高い。

次に、中国の資産インフレは、1990年代の日本で見られたような極端なものではない。当時、日本の不動産価値は自国のGDPのおよそ5.6倍であったが、中国の場合、この数字は現在2.6倍に過ぎない。さらに重要な点として、中国の株式市場は1990年代初頭の日本のような巨大なバブル状態にはない。なぜなら、外国人投資家は中国に対して常に健全な懐疑心を抱いており、中国株式のバリュエーションが非常に低い水準に抑えられているからだ。

さらに、日本では1990年代初頭にバブルが崩壊すると、金融・財政引き締めが極端な形で始まった。一方、中国の政策環境はまだ非常に緩和的であり、さらなる緩和余地もある。加えて、1990年代に200%を超える円高が進行した過去の日本とは異なり、中国は現在、通貨が安定している。

ニュースの見出しでは、中国が債務問題を抱えていると言及されることがよくある。しかし、中国の問題は債務が多すぎることではなく、少なすぎることだと当社では考えている。債務問題が(不動産など)特定の分野に集中しているという見方もできるが、今日の中国の問題は貯蓄の大きな不均衡にあると指摘したい。現在、中国の貯蓄率はアジア地域で最も高い水準にあるとともに、投資需要が長期的に低下した影響で、貯蓄率が投資率を大幅に上回っている。このことが意味するのは、過剰貯蓄を有する中国は負債水準を引き上げる必要があるということだ。国全体の民間債務の水準を見ると、米国や韓国、日本をはじめ多くの他国よりも低いことがわかる。同様に、IFM(国際通貨基金)のデータによると、中国のGDPに対する公的債務の比率は約7割に過ぎず、日本や米国よりもかなり低い。したがって、中国には負債比率を上げる余地がかなりあるとみている。

つまり言いたいのは、経済において貯蓄率の高い中国は債務の創出と蓄積を増やす必要があるということだ。貯蓄が増えれば増えるほど、中国の金融仲介のためには借入れと融資を増やさなければならなくなる。貯蓄は国内投資に転換するか、海外への融資に回す必要がある。かつて中国は、余剰貯蓄を海外に輸出することができた。しかし現在、中国の輸出は地政学的状況によって制限されている。中国政府にとっては、歳出が過剰貯蓄を回す唯一の方法かもしれない。

多くの人々が心配しているもう1つの問題は、人口減少による中国の人口動態の悪化である。同国は、労働人口が数年前にピークを迎えるなど、人口動態面での課題をいくつか抱えている。しかし当社では、今後10~15年の中国の人口動態を依然不安視していない。なぜなら、中国では定年退職の年齢が女性は55歳、男性は60歳だからだ。これは国際的に見て低い水準であり、定年を引き上げる余地は十分にある。

要するに、中国の長期成長計画は、消費拡大に重点を置く欧米諸国の定石とは大きく異なり、EV、オートメーション、ロボット工学、再生可能エネルギー技術を中心とした「産業化2.0」が焦点となっている。EVを例にとってみると、自動車総販売台数に占める割合で見た中国のEV普及率は他の多くの国に比べて高く、また中国は現在EVを海外に輸出している。例えば、中国のEVメーカーである比亜迪(BYD)は、輸出台数が年初来ベースで約6.5倍に増加しており、販売先は現在50ヵ国に上る。

「産業化2.0」は中国に多くの潜在的成長機会を、そして投資家に投資機会をもたらしていると考える。しかし、中国には、経済を不動産・インフラ依存からハイエンド製造業および消費へとシフトさせるような改革が必要である。また、地方政府の資金調達チャネルを改革し、土地売却への依存度を低減させる必要もある。今後の展望としては、中国は改革に成功し、世界第2位の経済大国として、今後10~15年にわたり十分に良好な成長を遂げることができるとみている。


本稿の主要ポイント

  • 中国の不動産セクターは、市場が政府からのより強力な支援を待つなか、低迷が続くとみている。
  • 中国の経済成長は鈍化するだろうが、大幅には悪化しないとみられる。
  • 人民元は対ドルでさらに下落する可能性があるが、中期的には安定すると予想する。
  • イノベーション関連の株式セクター、つまりTMTやカーボンニュートラルおよび消費関連セクターに対して、ポジティブな見方を維持する。
  • 中国は、オートメーション、ロボット工学、再生可能エネルギー技術を中心とした「産業化2.0」に注力しており、イノベーションが同国経済を牽引すると予想する。

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