本レポートは、2023年10月23日発行の英語版「Modern versus traditional alpha」の日本語訳です。内容については英語の原本が日本語版に優先します。


ジョージ・ソロスやジョン・ポールソンのような伝説的投資家には多くのエピソードがあるが、彼等をそれぞれ有名にしたのはたった1つのトレードだったと言える。ソロスについては、英ポンドの下落に賭けたポジションで、1992年にポンドを買い支えていたイングランド銀行がこれに屈することになった。ポールソンの場合は、世界金融危機直前のクレジット・バブルのピーク時に、米国のサブプライム・ローン証券市場を空売りしたことで一躍有名になった。

これらはいずれも魅力的なエピソードで、ポールソンのケースはハリウッド映画のヒントになったとも言われているが、今日の機関投資家は異なる方法で超過収益を創出している。ソロスやポールソンは伝統的なやり方で利益を上げたが、資産運用業界は「現代の超過収益創出方法」へと移行している。

現代の超過収益創出には複数の源泉があり、そのため伝統的な「大きなポジション」を張るやり方よりも安定的かつ継続的である。大半の投資手法では、超過収益の主な源泉となるのはファンダメンタル・リサーチだが、安定性を向上させるには、ファンダメンタル・リサーチにクオンツ戦略を組み合わせて超過収益の源泉を増やすのが理に適っている。

クオンツ戦略は、パフォーマンスを最大化するように調整されているわけではなく、市場サイクルを通して最良のリスク調整後リターンを達成するよう構築されている。こうした戦略は、パフォーマンスの最大損失を低くとどめて相対的に高いシャープ・レシオを達成することを特色としており、また、デリバティブを利用することで、パフォーマンスを向上させたいあらゆるポートフォリオに、超過収益部分のみを市場エクスポージャーから切り離して提供すること(「ポータブル・アルファ」)ができる。このような戦略の一例として挙げられるのが、当社のスマート・キャリー戦略である。これはCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を利用したシステム運用戦略で、債券ポートフォリオやマルチ戦略ポートフォリオでクレジット・リスクのプレミアムを獲得するために用いられている。

当社ではこの戦略を、CDX North America Investment Gradeインデックスを用いて運用している。このインデックスは、構成発行体数が125と分散されているとともに、クオンツ戦略にとって取引コストを最小化する上で重要な要件の1つである流動性が現物債券よりも遥かに高い。さらに、6ヶ月ごとに流動性リスト下位の発行体が除外されより上位の発行体と入れ替えられるため、伝統的なポートフォリオよりもデフォルト・リスクが低い。

スマート・キャリー戦略は「キャリー」を主なパフォーマンス・ファクターとし、重大なボラティリティ・ショックに先んじてリスクを中立にすることを目指す。クレジット・リスクをロングまたはニュートラルのいずれかとするように設計されており、各時点で、予め決められた条件の有効性に基づき、マルチフィーチャー・モデル、自己回帰和分移動平均(ARIMA)モデル、スプレッド・モメンタム・モデルの3モデルのいずれか1つを使用する。

すべてのクオンツ戦略では最初にバックテストと統計データ・パッケージの作成を行い、これに基づいて開発チームが戦略の「実効性」を判断する。とは言え、開発チームが通常の市場環境における戦略の真の有効性を評価できるのは、実際に運用を開始して流動性の制約や不測の事態に直面してからだ。スマート・キャリー戦略は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大やウクライナでの戦争といったイベントにより市場のボラティリティが高まった局面で有効性を発揮できることを、過去2年間にわたって証明してきた。

前述したように、スマート・キャリー戦略は3つの異なるモデルを活用している。大抵の場合は、シグナルの生成に多数の市場ファクターを用いることができるよう、マルチフィーチャー・モデルのシグナルを使用している。しかし、一定の市場局面においては当該モデルの予測力が許容できない水準まで低下することがわかっており、そのような場合はルールに基づいてARIMAモデルへの切り替えが行われる。ARIMAモデルが一定の前提条件を満たせない場合は、投資判断にスプレッド・モメンタム・モデルが用いられる。後にマルチフィーチャー・モデルの信頼性が回復した時点で、戦略のシグナル生成は再び同モデルに切り替えられる。

単一のモデルではなく複数のモデルを活用することも、バックテストや「実際の」運用実績を見ればわかる通り、継続的で安定したリターンの提供を目指す当戦略の目標に寄与している。

ポータブル・アルファ戦略の主な利点は、カスタマイズされたソリューションを求めている機関投資家に柔軟性を提供できることだ。スマート・キャリー戦略はどのようなポートフォリオとも組み合わせることができ、顧客のリスク許容度に応じて潜在的超過収益の水準を調整することができる。CDSインデックス市場の幅広さと流動性から考えて、リスク・プロファイルは容易に変更することが可能である。

現代の超過収益創出は、伝統的な超過収益創出のようにハリウッド映画の題材にふさわしいエピソードを生み出すことはないかもしれないが、人的なバイアスやエラーを最小限に抑えてより高いシャープ・レシオを実現できる。クオンツ戦略は、その安定性や柔軟性、ポータブル性から、当社がポートフォリオ構築で用いる超過収益の源泉の幅を広げるにあたって、優れた追加戦略となっている。


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