本稿は2024年1月25日発行の英語レポート「Harnessing Change」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
12月のアジア株式市場は中国を除いて上昇
サマリー
- 金利がピークを打ち、また米ドルが高値をつけた可能性があることは、市場全般の好材料になる可能性があり、特に流動性の影響を受けやすい市場や利下げ余地が大きい国、ファンダメンタルズのポジティブな変化が見過ごされてきた分野でこのことが言える。重要な転換期を迎えている中国経済は、高度な製造業やテクノロジー、自給自足、海外のよりハイエンドな市場での成長を促進する経済へと軸足を移しており、当社ではこれらの分野を有望視している。
- 当月のアジア株式市場(日本を除く)は上昇し、米ドル・ベースの月間リターンが3.5%となった。米FRB(連邦準備制度理事会)がFF(フェデラル・ファンド)金利の誘導目標を据え置き、さらに2024年に一連の利下げを実施する見通しを示して積極的な利上げサイクルは終了したとの明確なメッセージを発信するなか、今後の金融緩和に対する楽観的な見方が強まり、市場は上昇した。
- 国別では、インド(米ドル・ベースの月間市場リターンが8.1%)やシンガポール(同7.2%)、韓国(同6.6%)が上昇をけん引する一方、中国(-2.4%)やマレーシア(同1.6%)は相対的に劣後した。
- 中国以外で持続可能なリターンをもたらす最も優れた投資機会の一部は、インドやインドネシアなどポジティブな改革を推進している国と、台湾や韓国といった国際競争力のある北アジアの輸出国にあるとみている。
市場環境
12月のアジア株式市場は上昇
当月のアジア株式市場(日本を除く)は米ドル・ベースの月間リターンが3.5%となり、中国以外の市場が力強く上昇して2023年を締めくくった。FRBはFF金利の誘導目標を3会合連続で据え置き、さらに2024年に一連の利下げを実施する見通しを示して積極的な利上げサイクルは終了したとの明確なメッセージを発信するなか、投資家心理が押し上げられた。幾つかのアジア諸国は、これに追随して2024年に利下げを実施する可能性がある。
中国は域内市場の上昇に逆行安
中国市場は、月間リターン(米ドルベース、以下同様)が-2.4%となった。オンラインゲームに費やす時間や支出額に制限を設ける新たな規制案が示され、規制当局が再びゲーム産業を厳しく取り締まろうとしているとの懸念が強まるなか、中国の巨大なゲーム産業は打撃を受けた。中国の景気回復は依然まだら模様となっており、鉱工業生産は市場予想を上回ったものの、小売売上高は市場予想を下回った。世界第2の経済大国である中国はデフレ悪化に見舞われており、11月のCPI(消費者物価指数)は前年同月比-0.5%と2023年で3回目のマイナスとなった。当局はまた、北京市と上海市の住宅購入規制を緩和し、住宅市場を支援するべく主要都市で導入する取り組みを拡大した。香港市場は健闘して、月間リターンが5.3%となった。
韓国市場は、半導体需要の回復を牽引役に11月の輸出額が前年同月比7.8%増となるなか、2024年の韓国経済の見通しおよび世界の貿易に対する楽観的な見方が強まったことを受けて上昇し、月間リターンが6.6%となった。韓国の11月の半導体産業は生産と出荷の両方で数年ぶりの伸びとなり、半導体生産は前年同月比42%増、出荷は同80%増を記録した。台湾市場も良好なパフォーマンスを示し、輸出受注が1年超ぶりに増加するなか、月間リターンが5.5%となった。台湾の中央銀行も、インフレの沈静化を予想して政策金利を据え置いた。
アセアン諸国市場は上昇
アセアン地域では、シンガポールとタイが特に良好なパフォーマンスをみせ、月間市場リターンがそれぞれ7.2%、5.9%に上った。また、フィリピン、インドネシア、マレーシアの月間市場リターンはそれぞれ4.4%、4.2%、1.6%となった。シンガポールの11月の主要輸出は1年超ぶりに増加に転じ、NODX(非石油地場輸出)は主に比較対象となる前年の水準が低かったことによるベース効果により前年同月比1%増となった。タイの11月の消費者物価は、政府の価格抑制策によってエネルギー価格が抑えられたことや食品価格が下落したことにより2ヵ月連続で伸び率がマイナスとなった。フィリピンでは、中央銀行が12月に政策金利を6.5%に据え置き、またインフレ率を目標水準に戻すために、金融政策は「十分に引き締まった」状態を維持しなければならないと述べた。インドネシアも同様に政策金利を6%に維持して、ルピアを下支えするとともにインフレを引き続き抑制するとしたものの、2024年後半に金融緩和の余地があることを示唆した。マレーシアのインフレ率は伸び率が鈍化傾向となり、10月の前年同月比1.8%から11月は同1.5%となった。
インド株式はアウトパフォーム
インド市場は、インドの中央銀行が12月に今年度(2023年3月~2024年3月)のGDP成長率見通しを6.5%から7%に引き上げ、政策金利を5回連続で6.5%に据え置くことを決定するなか、月間リターンが8.1%と大幅高となった。インドの11月の小売インフレ率は、前年同月比5.55%へと大きく加速した。また、インドの与党BJP(インド人民党)は3つの重要な州議会選挙で勝利し、そのうち2つの州で野党を破り、3期目入りを目指すナレンドラ・モディ首相にとって弾みがついた。
今後の見通し
金利がピークを付けたことは市場全般にとって好材料
向こう1年を展望するには、まず2023年の主な特徴に注目する必要がある。銀行危機(米国では地銀、欧州ではクレディ・スイスなど)、生成AIの誕生によるテクノロジーの根本的な変化、中国の成長重視の政策、そして世界的に金利がピークを付けた可能性などだ。金利がピークを打ち、また米ドルが高値をつけた可能性があることは、市場全般の好材料となる可能性があり、特に流動性の影響を受けやすい市場や利下げ余地が大きい国、ファンダメンタルズのポジティブな変化が見過ごされてきた分野でこのことが言える。
アジアでこれに該当する国の一部は、双子の赤字を抱えながらもポジティブな改革が行われている国、すなわちインドやインドネシアだとみられる。ここ数年圧力に晒されてきた、流動性環境の影響を受けやすい分野としては、再生可能エネルギーなどがある。また、これらにはヘルスケアやテクノロジー(ハードウェアやインフラストラクチャーのサプライチェーンの多くで2023年に業績が拡大し、すでに好調となっていたAI関連分野を除く)など、複数のセグメントにわたるイノベーションも含まれる。
中国は高度な製造業、テクノロジー、自給自足、海外のよりハイエンドな市場での成長を促進する経済にシフト
中国では、経済を重視する政策が明らかに復活しているものの、これまでのところ国内経済と市場の足かせとなっている主な問題、つまり不動産セクターと消費者心理に上手く対処できていない。12月下旬に報じられたオンラインゲーム分野のかなり厳しい政策案は、中国に投資する価値の有無をめぐる懸念を鎮める効果はほとんどなかった。オンラインゲーム分野の政策案の発表はタイミングを誤った可能性が高いが、これはオフラインの活動と消費を促進するための幅広い取り組みの一環とみられる。これまでと同様に、中国は消費について的を絞った方針を維持している。より幅広く見れば、中国は明らかにもうひとつの重要な経済的転換期を迎えている。不動産やサービス分野の役割を縮小させる経済から、高度な製造業やテクノロジー、自給自足、海外のよりハイエンドな市場での成長を促進する経済へと軸足を移しており、当社ではこれらの分野を有望視している。
持続可能なリターン機会をもたらすアジアのその他の有望な分野
中国に対して懸念があるのは無理もないが、アジアの他の国・地域がもたらす明るい投資機会を見逃すべきではない。当社では、持続可能なリターンをもたらす最も優れた投資機会の一部は、インドやインドネシアなどポジティブな改革を推進している国と、台湾や韓国といった国際競争力のある北アジアの輸出国にあるとみて、引き続き重視している。またセクター・レベルでは、ヘルスケア産業に注目している。同分野は、バリュエーションがより大幅に魅力的で、ポジションが比較的低水準であり、支持的な政策があるとともにバイオシミラー開発の第2波に突入するなど、複数のポジティブな要因が揃い始めている。
一方で、今後のリスクの一部やネガティブなファンダメンタルズの変化が見込まれる分野にも留意しなければならない。市場ではすでに大幅な利下げが織り込まれており、さらなる景気低迷がなければこれらは見直される可能性がある。中国は支援的な政策アクションを強化しているものの、不動産市場と経済の両方について確信できるほど安定化させるには至っていない。また、2024年は非常に多くの選挙が予定されており、1月の台湾を皮切りに、インドやインドネシア、そして年末にかけて米国で選挙が実施される。また、地政学的リスクが広がりをみせているが、これは投資家にとって好材料とも悪材料ともなる。当社では、こうしたリスクを管理することが、アジア株式で持続可能なリターンを実現する鍵になると考えている。
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