本稿は2024年1月19日発行の英語レポート「On the ground in Asia」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

マクロ経済と企業の信用状況に関するファンダメンタルズは底堅さを維持する見込み


サマリー

  • 12月の米国債市場は、発表された様々なデータを受けて米FRB(連邦準備制度理事会)が2024年に利下げに踏み切るとの市場の見方が引き続き支えられるなか上昇した。FRBは、12月に3会合連続でFF(フェデラル・ファンド)金利の誘導目標を据え置き、また2024年に3回の利下げを行うことを示唆した。月末の利回り水準は2年物の指標銘柄で前月末比0.431%低下の4.25%、10年物の指標銘柄で同0.447%低下の3.88%となった。
  • 米国債利回りが安定し、低下し始めるとみられるなか、2024年はアジア現地通貨建て国債にとって、ボラティリティが低下してリターンが向上する年になるとみられる。当社では、アジアの債券市場に対するセンチメントはポジティブさを増し、資金が流入して、2023年に概して欠如していた需給要因の追い風がもたらされるとみている。一方、FRBの利上げサイクルが終わりを迎えるなか、米ドルの需要が後退するとみており、2024年はアジア通貨の対ドルでの上昇が全体的なテーマとして広がりをみせると予想する。
  • 12月のアジアのクレジット市場は、信用スプレッドが約0.09%縮小するとともに米国債利回りが大きく低下したことを受けて、力強く上昇した。格付け別では、投資適格債はスプレッドが約0.07%縮小して月間市場リターンが2.69%となり、ハイイールド債はスプレッドが約0.13%縮小するなか月間市場リターンが2.01%となった。
  • 経済成長は今後減速が見込まれるものの、中国を除くアジア地域のマクロ経済や企業の信用状況に関するファンダメンタルズは財政・財務面で余裕があることから底堅さを維持するだろう。アジアの銀行システムは引き続き強固で、安定した預金基盤や強靭な資本基盤、および引当金計上前の収益性の好調さなどが、今後の緩やかな信用コストの上昇による影響を相殺する役割を果たすと考えられる。需給面では、発行体はコストが割安な国内市場で資金調達を続けており、新規債券発行額がネットベースで減少していることが、アジアのクレジット市場の大きな下支え要因になるとみている。

アジア諸国の金利と通貨

市場環境

12月の米国債市場は引き続き上昇
12月の米国債市場は、FRBがタカ派的な姿勢を緩和させるなか前月に続いて上昇した。12月の米FOMC(連邦公開市場委員会)会合で、FRBは3会合連続でFF金利の誘導目標を5.25%~5.50%に据え置いた。FRBは政策声明で経済成長の鈍化とインフレの緩和を認め、フォワードガイダンスを微調整して、政策金利が利上げ局面のピークか、それに近い水準にあることを示唆した。最新のFRBのドットチャート(FOMC参加者らの政策金利見通し)では、2024年に0.75%の利下げが実施されると予想されており、前回のガイダンスで示唆されていた0.50%の利下げから拡大した。また最新のドットチャートでは、2025年に1.00%、2026年に0.75%の利下げが予想されている。11月の米非農業部門雇用者数は前月比19万9,000人増と市場予想の同18万5,000人増を上回り、10月の同15万人増から増加した。11月の失業率は予想外に10月の3.9%から3.7%へと低下した。また、米国の11月の消費者物価は概して市場予想通りとなり、総合インフレ率は前年同月比3.1%、コアインフレ率は同4%となった。月末の利回り水準は、2年物の指標銘柄で前月末比0.431%低下の4.25%、10年物の指標銘柄で同0.447%低下の3.88%となった。

チャート1

インド、インドネシア、フィリピンの中央銀行は政策金利を据え置き
12月はインドやインドネシア、フィリピンの中央銀行が金融政策を維持した。インドの中央銀行は政策金利を5回連続で6.5%に据え置いた。同中銀はインフレ見通しを維持しする一方で経済成長見通しを上方修正し、2024年度(2023年4月~2024年3月)の総合インフレ見通しを5.4%に据え置く一方、2024年度のGDP成長率見通しを6.5%から7%に引き上げた。インドネシアの中央銀行は、市場予想通り政策金利を2ヵ月連続で6%に据え置いた。政策声明では、ルピアの安定化と資本流入の状況改善に言及するとともに、「出現しうるリスク」に慎重に対処して、ルピアの安定を確保する考えを示した。同中銀は、FRBが追加利上げを行う可能性は低く、2024年後半に0.50%の利下げを行うとみているものの、ペリー・ワルジヨ総裁は政策会合後の記者会見で、同中銀が金融政策スタンスにおいて引き続き「慎重」であることを強調した。その他、フィリピンの中央銀行は政策金利を6.50%に据え置いた。同中銀は、今回の決定の主な根拠として、過去2ヵ月間にわたってインフレ率が減速したことを挙げた。また、同中銀は2024年のインフレ予想について従来の4.4%から4.2%へと引き下げたが、2025年の見通しは3.4%に据え置いた。こうしたなかでも、同中銀はインフレリスクは依然として「上方にある」とみており、主に交通運賃、電気料金、食品および原油価格が上昇すれば、物価上昇圧力をもたらすと予想している。

11月の総合CPI上昇率はまちまち
11月は、アジア地域の大半の国においてインフレが緩和した。例外となったのはインドとインドネシアで、インドネシアのインフレ率は食品価格の上昇加速を受けて10月の前年同月比2.56%から11月は同2.86%に加速した。一方、変動の大きい項目を除いたコアCPI(消費者物価指数)は、10月の前年同月比1.91%から11月は同1.87%へと減速した。インドでもインフレが加速し、食品価格の上昇加速により、11月の総合インフレ率は前年同月比5.55%に上昇した(市場予想の同5.78%は下回った)。他では、シンガポールの11月のインフレ率は、輸送価格の上昇鈍化を受けて、急上昇した前月のペースから減速した。総合CPIは、食品や住宅価格、公共料金の上昇が鈍化するなか前年同月比3.6%となり(市場予想は同3.9%)、前月の同4.7%を大幅に下回った。コアインフレ率は市場予想通り前年同月比3.2%となり、10月の同3.3%を小幅に下回った。マレーシアの物価上昇圧力は一段と弱まり、11月の総合インフレ率は前年同月比1.5%と、市場予想の同1.7%を下回り、10月の同1.8%から伸びが減速した。比較対象となる前年の水準が高かったことや食品価格の伸びが鈍化したことが総合インフレ率減速の一因となった。マレーシアのコアインフレ率は2022年4月以来初となる2%に鈍化し、10ヵ月連続で減速した。タイの消費者物価は2ヵ月連続で下落して、総合インフレ率は10月の前年同月比-0.31%から11月は同-0.44%へとマイナス幅が拡大し、またコアインフレ率は10月の同0.66%から11月は同0.58%となった。フィリピンの11月の総合インフレ率は食品項目の上昇ペース鈍化などを受けて前年同月比4.1%と、10月の同4.9%から減速した。また、韓国の総合インフレ率は、10月に前年同月比3.8%となったのち、11月は同3.3%となり、市場予想の同3.5%をやや下回った。コアインフレ率は10月が前年同月比3.2%だったのに対して11月は同3.0%となった。

今後の見通し

2024年はアジア現地通貨建て国債にとってボラティリティが低下し、リターンが向上する年となる見通し
米国債利回りが安定し、低下し始めるとみられるなか、2024年はアジア現地通貨建て国債にとってボラティリティが低下し、リターンが向上する年になるとみられる。当社では、アジアの債券市場に対するセンチメントはポジティブさを増し、資金が流入して、2023年に概して欠如していた需給要因の追い風が(外国人投資家による投資資金の流入を通じて)もたらされるとみている。

当社ではインドの長期国債について、キャリーが魅力的で、需給要因が良好であることから、明るい見方をしている。2024年6月からインド国債がJPモルガンのガバメント・ボンド・インデックス‐エマージング・マーケッツ(GBI-EM)に組み入れられることから、これが当該債券の追い風になるだろう。

FRBの利上げサイクルが終わりを迎えるなか、当社では米ドルの需要が後退するとみており、2024年はアジア通貨の対ドルでの上昇が全体的なテーマとして広がりをみせると予想する。当社の投資テーマに対する主な下方リスクとしては、エネルギー価格が予想を上回って上昇することや地政学的な不確実性が強まることなどが挙げられる。

アジアのクレジット市場

市場環境

12月のアジア・クレジット市場は上昇
12月のアジアのクレジット市場は、信用スプレッドが約0.09%縮小するとともに米国債利回りが大きく低下したことを受けて、力強く上昇した。格付け別では、投資適格債はスプレッドが約0.07%縮小して月間市場リターンが2.69%となり、ハイイールド債はスプレッドが約0.13%縮小して月間市場リターンが2.01%となった。

11月にリスク資産が上昇したのに続いて、12月に入り市場ではFRBが今後数ヵ月においてよりハト派的な道のりを辿るとの見方が織り込まれ、金利が世界的に低下するなか、アジア・クレジット市場はリスクセンチメント全般の向上が続いた。さらに、中国の不動産セクターのポジティブなニュースがセンチメントの向上に寄与し、当面の流動性リスクが低下し、返済リスクを低減するために資産売却を行おうとする動きが強まった。12月の中旬に、中国で開催された中央経済工作会議では、より積極的な財政政策と柔軟な金融政策に焦点が当てられた。月の後半には、中国の政策当局が新たな措置を実施し、北京市と上海市における1軒目と2軒目の住宅について頭金比率を引き下げた。一方、格付け機関ムーディーズは、中国と香港のソブリン格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げたが、これは予想外の動きだった。同時に、様々な中国の銀行や国有企業、一部の電気通信・メディア・テクノロジー(TMT)企業に対する格付けの見直しが行われたものの、ムーディーズによる格付け変更は中国の大半のクレジットものにほとんど影響をおよぼさなかった。ホリデーシーズンに向けて市場の流動性が薄かったこともポジティブなリスクセンチメントを後押しし、また米国の11月のCPIがインフレ圧力の緩和を明確に示す結果となり米国債利回りの低下を促したことも支援材料となった。

FRBがハト派姿勢を示したことが12月の市場の大きなテーマになるとともに、新興国債券ファンドからの資金流出が減速したことも、アジア債券を押し上げる要因となった。これらの要因は、新規供給がほとんどなかったことと相俟って、すべての主要国セグメントにわたってスプレッドのさらなる縮小を支えた。

12月のFOMCでFRBがハト派的な姿勢に転換したことや、米国経済の減速に対する見方が強まったことから、12月の米国債市場は上昇した。FRBはFF金利の誘導目標を据え置き、経済成長の鈍化とインフレの緩和を認め、政策金利が利上げ局面のピーク水準にあるか、それに近いことを示唆した。ドットチャートでも、2024年に0.75%の利下げが示唆されており、2025年は1.00%、2026年は0.75%の利下げが示唆されている。月後半に一部のFOMCメンバーが大幅な利下げを織り込む市場をけん制しようとしたものの、ハト派的な内容のFOMC会合を受けて米国債利回りは急低下が続いた。月末の利回り水準は、10年物の指標銘柄で前月末比0.447%低下の3.88%となった。

発行市場の起債活動は引き続き低調
12月の発行市場は閑散状態となり、新規発行は約14億1,000万米ドルとなった。投資適格債分野では計3件(総額8億米ドル)の新規発行にとどまり、ハイイールド債分野の新規発行は計7件(総額6億600万米ドル)となった。

チャート2

今後の見通し

アジアのマクロ環境は良好、安定したクレジットのファンダメンタルズによって利回りを確保する歴史的な機会
主要国の経済成長率見通しが低調なままであるとともに2024年に向けてインフレの高止まりがやや見受けられるなか、足元のマクロ・市場環境はほとんど変わらないか、わずかな変化にとどまる可能性がある。

ファンダメンタルズ(基礎的条件)は、引き続きアジアのクレジット市場の下支え要因になっている。中国では、最近の財政措置の強化を受けて、政策当局が厳しい状況を認識していることが示唆されている。これは、中国の政策当局が景気回復を拡大し、2024年の経済成長率を押し上げるために追加措置を実施するという見方を一段と裏付けている。一方、中国を除くアジア地域の経済成長は2024年前半に減速することが見込まれるものの、財政・財務面の余力があることから、同地域のマクロ経済情勢と企業の信用状況に関するファンダメンタルズは底堅さを維持するとみている。企業収益の伸びが鈍化し、資金調達コストが徐々に上昇するなか、非金融企業の負債比率やインタレスト・カバレッジ・レシオ(借入金などの利息の支払い能力を測るための指標)がやや悪化する可能性があるものの、投資適格企業を中心に大半の企業については、格付けを維持するための十分な余裕があるとみている。アジアの銀行システムは強固さを維持しており、安定した預金基盤や強靭な資本基盤、および引当金計上前の収益性の好調さなどが、今後の緩やかな信用コストの上昇による影響を相殺する役割を果たすと考えられる。

需給面では、発行体はコストが割安な国内市場で資金調達を続けており、新規債券発行額がネットベースで減少していることが、アジアのクレジット市場の大きな下支え要因になるとみている。一方、年金基金や生命保険会社が魅力的な利回りの確保を図っていることから、高格付けの債券に対する需要は国内投資家からの旺盛な需要に引き続き支えられている。さらに、アジアの投資適格債がリスク調整後ベースで相対的に堅調に推移し続けていることが需要を押し上げているとみられ、アジア地域のマクロ環境が良好で、ファンダメンタルズ面でも十分に余裕があることから、アジアのクレジット市場は魅力を増していくとみられる。ただし、市場は過去2ヵ月間に急上昇してこれらの好材料を概ね織り込んだ状態にあり、世界経済の予想以上の悪化など一部のネガティブなリスク要因が顕在化した場合は、アジアの投資適格債のバリュエーションにある程度の下押し圧力がかかる可能性がある。


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