本稿は2023年12月6日発行の英語レポート「China equity outlook 2024」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
中国が先端製造業やテクノロジー分野の自給自足へと軸足を移すなか豊富な投資機会が存在
2023年の振り返り:経済再開をめぐる期待が薄れ、景気不安が広がる
中国株式市場にとって2023年は非常にボラティリティが高い年となり、年間リターンはマイナスとなった。2023年の序盤には、新型コロナウイルス大流行の収束を受けて中国経済の活動再開が急速に進むとの楽観論や大きな期待が広がるなか、中国株式市場のリターンが回復してより安定的かつ堅調に推移していくとの見方が優勢となった。こうした期待は春の終わり頃から夏にかけてピークに達した。中国の第2四半期GDP成長率が前年同期比+6.3%となり、中国政府が掲げる成長率目標の5.0%を上回ったことを受けて、多くの投資家が通年のリターン予想や成長率予想を引き上げた。
しかし夏の終わりには、中国の製造業購買担当者指数が50を割り込むとともに貿易成長率もマイナス圏に落ち込むなど、過度に高まった期待に現実が追い付いていないことが鮮明となった。これを受けて中国政府は、高金利の地方債の借換えを目的として総額1~1.5兆元の特別再融資債を発行し、省・市経済への流動性供給を拡大した。こうした措置や他の支援策が追い風となり、2023年第3四半期の実質GDP成長率は前年同期比+4.9%に達し、市場予想の同+4.5%を上回った。
年末にかけて、中国中央政府はインフラ投資を支援するために1兆元の追加国債発行を発表するなど、経済の下支えに向けて財政出動を強化した。この最新の支援策の効果により、中国政府が掲げる2023年の成長率目標である5%が達成される可能性は高まるとみられる。
中国の不動産問題は1990年代の日本と同じ道を進むか?
中国の不動産セクターの悪化は引き続き中国経済の弱点となっており、市場全体のセンチメントの足かせとなり続けている。最近、一部のエコノミストや市場観測筋は、中国の不動産価格下落と1990年代の日本の状況との類似性を指摘し始め、中国株式市場はバブル崩壊後の日本株式市場が経験したような長期的な下落サイクルをたどる可能性があると示唆している。
いくつかの類似点はあるかもしれないが、非常に重要な相違点もある。重要なポイントとして、日本株式市場は1989年のピーク時にPER(株価収益率)が60倍という高水準で推移していたのに対し、中国株式市場は2021年初めの高値時のPERが20倍だった。2つ目のポイントとして、1980年代後半の日本企業の利益成長率は、足元における中国企業の利益成長率を大幅に下回っていた。また、1985年のプラザ合意*の後、円の価値は2倍に上昇し、市場のピークを過ぎた後も円高が続いた一方、足元の中国人民元は割安な水準にあるとの見方が一般的だ。さらに、中国の家計部門による株式へのエクスポージャーは現在、1990年代の日本の水準よりも低い状況にある。
しかし、その他の指標によると、多くの問題を抱える中国不動産市場については依然慎重な見方が必要である。例えば、中国の一級都市の住宅価格は国民の平均所得の20倍にのぼる。一方で、日本では、バブル期のピーク時においても主要都市の最高住宅価格は国民の平均所得の11倍にとどまっていた。また、保有資産に占める不動産の割合は中国の都市部世帯で70%と推定されているが、1990年代の日本の世帯では54%に過ぎない。このように問題は山積しているが、中華人民共和国の政府は不動産不況の影響に対処しようと積極的に取り組んでおり、住宅購入制限の撤廃、頭金比率や住宅ローン金利の引き下げ、「城中村再開発」プログラム(城中村とは「都市の中の村」という意味)など、国内不動産市場を安定させるための様々な措置を発表している。こうした積極的な対策によって、中国不動産市場の緩やかな回復に向けた下地が整うものと期待される。
*プラザ合意とは、フランス、日本、イギリス、アメリカ、西ドイツの5カ国によって1985年9月22日にニューヨークのプラザホテルで調印された合意で、外国為替市場への介入によって意図的に米ドルを当該各国通貨に対して下落させることを目的としたもの。
米国規制への対処、米中関係の再構築
地政学面では、米国と中国のあいだで緊張が高まり続けており、特にAI(人工知能)時代において対立が見受けられ続けている分野は、テクノロジーのアクセスである。米国は、2023年にテクノロジー関連の規制をさらに強化し、軍事関連と見なされる中国企業が増加した。その結果、中国企業は特に世界的なAI半導体メーカーであるNvidiaのAI半導体や高性能なゲーム用半導体の利用が制限されるようになった。米国による直近の対中テクノロジー制裁は戦略的なものになっているようで、2022年11月に米商務省が前回の一連の規制を発表した直後に、Nvidiaは中国市場向けにAI半導体「H800」を開発したが、米国はこの「抜け穴」を塞ぐものとみられる。
しかし、たとえ規制が強化されたとしても、米国や中国の企業は従来のように、この新たな環境に適応する手段を模索し、事業を商業的に成長させる最も効果的な方法を見つけ出していくと当社では考えている。これを明確に示す例として、Lenovoのような中国の大手テクノロジーコングロマリットの多くは、米国の新たな規制を遵守するために法務・リスク部門の体制を整えて、可能な限り収益性を維持しようとしている。
テクノロジーの利用規制は今後も米中間の障害となり続けるだろうが、他の分野では両国は近い将来共通の立場を見出す可能性がある。多くの米国の政府高官やビジネス界のトップが、中国との関係を修復する方法を模索し続けており、例えば、カリフォルニア州知事は通常の訪問の職務以外に、最近中国各地を訪問し、非常に上級レベルの多くの中国高官と面会した。ジャネット・イエレン米財務長官やジーナ・レモンド米商務長官など他のトップレベルの政府高官も中国を訪問しており、米中間の関係が徐々に歩み寄りをみせつつあることを示唆している。これに加えて、2023年11月にサンフランシスコで開催されるAPECサミットで習近平国家主席とジョー・バイデン米大統領が会談することにより、2つの超大国間が今後関与を深め、より協調的な時代が進むことが期待される。特に気候変動のような対立の少ない分野で、米中間の関係の発展が期待できるだろう。近年、軍事的緊張が危険なほど高まっていることから、防衛分野でも両国間のコミュニケーションが改善される可能性がある。
高度なテクノロジーや先端製造業で優位性を築く
規制環境の厳しさが増すなか、中国は「リープフロッグ(一足飛びに発展する)テクノロジー」に焦点を当てて、高度なテクノロジーの独自開発に懸命に取り組んできており、これが同国の自給力を高めて世界的な競争優位性をもたらすとみられる。中国のテクノロジーが成功を遂げている証拠が2023年に示されており、Huaweiは自社設計した7ナノメートルチップを搭載した新スマートフォン「M60」の需要が良好となるなど持ち直している。Huaweiの最近の成果やXiaomiの独自モバイル・オペレーティング・システムの立ち上げに加えて、様々な中国のテクノロジー企業がテクノロジー面の障壁を自力で乗り越えて成功を収めていることから、中国は多くのテクノロジーや消費者向け製品において今後も強力な国際競争相手であるという確信が投資家に引き続きもたらされている。
今日、中国は多くの主要セクターにおいて、優れた生産力と技術力で世界をリードし続けている。例えば、中国はEV(電気自動車)生産で世界を先導しており、現在、世界のEVの60%が中国で生産されているとともに同国は世界有数のEV輸出国となっている。また、高速鉄道機材の生産でも世界をリードし、機関車とその技術の専門性について発展途上国を中心として世界に輸出し始めている。加えて、中国はバッテリー、太陽電池、モジュール生産など、多くのグリーン・エネルギー製品でも世界的リーダーとなっている。概して、中国はこれらの戦略的分野でブランド認知を築き続けている。例えば、EV大手の比亜迪(BYD)は現在、数多くの世界市場で有数のグローバルEVブランドとなっており、自動車メーカーのVolvo、MG、Polestarといった国際的なブランドは、いずれも中国企業の傘下に入って国際市場に進出している。
さらに重要なこととして、中国は過去20年間にわたり、輸出製造業主導の経済から、より国内消費主導の経済へと移行を遂げてきた。この流れが長く続くとともに、中国の成長の次の柱となっているのが先端製造業である。オートメーションは以前から中国経済拡大の重要な領域となってきたが、新型コロナウイルスの流行による混乱や「チャイナ・プラス・ワン」(生産拠点を中国へ集中させることによるリスクを回避すべく中国以外の国・地域へも分散させる動き)による脱グローバル化の圧力を受けて、世界第2位の経済大国である中国にとって現在課題となっているのは、効率性や競争力のさらなる向上だ。
最近、中国の世界的メーカーと面会した際に、関税や地政学的な懸念を理由に製造拠点の一部を中国からASEAN諸国に移転していることがわかった。とは言え、これらのメーカーは、中国国外の多くの生産拠点の効率性は、中国国内の生産拠点に比べて約50%も低いことを認識している。その原因は、規模の経済やオートメーションのレベル、サプライチェーンの成熟度合いなどが重なり合っていることであり、こうした点はいずれも中国を拠点とする製造業にとって引き続き相対的に大きな優位性となっている。
投資機会が見込まれる分野とリスク
中国国内でのこのような調整が進むなか、当社では多くの投資機会があるとみている。特に、中国がテクノロジー面で自給自足できるようになるにつれて、中国のテクノロジーメーカーが国内のベンダーからより多くの部品やシステムを調達しようとするなか、専用ハードウェア製品、半導体、ソフトウェア・アプリケーションなどのサブセクターで成長見通しがより良好になる可能性が高い。
その他に高い関心を持っているのは、BYDのように適応力や競争力があり、革新的で、グローバル化を一層目指している中国の国際的企業だ。中国企業のガバナンス意識が高まるにつれて、キャッシュリターン指標や経営陣のインセンティブを重視する動きも見られる。一部の中国企業はすでに足下の低バリュエーションを利用して自社株買いを発表しており、また配当の引き上げを発表している企業もある。その他、継続的なテクノロジーのアップグレードのトレンドとイノベーションにも注目しており、これは以前述べたように、EVやスマートフォン、医薬品などの分野を中心として中堅企業の競争優位性につながっている。
一方で、中国における投資で過度にテーマに沿った見方をすることには落とし穴がある。例えば、再生可能エネルギー(太陽エネルギーや風力エネルギーの生産やそれぞれのサプライチェーン)は、中国で長いあいだ有望視されてきた分野であり、中国企業はこれらの分野で比較的優位性があるが、国際的な市場に参入するにつれて課題が山積し始めている。米国はソーラーパネルに高い関税を課しており、また欧州へのEV輸出は関税の対象となる可能性がある。
こうしたなかでも、中国の優良企業はこれらの障害を十分に認識しており、自社の長期計画に織り込んでいる。例えば、関税に対処して貿易の障壁を克服するためにベトナムやメキシコのような国に海外子会社を設立するなど、厳しいグローバル環境のなかで事業を行う方法を見出し続けている。(当面は困難な状況が見込まれるものの再生可能エネルギー分野を中心として)中国の生産規模の大きさ、専門技術やノウハウ、特許、ブランド認知の高まりを考えれば、気候変動に起因する需要が高まるなか、国内外を問わず特に長期的な観点での成長余地は引き続き大きいとみている。
新興国や中国の投資家にとって、2024年以降も地政学が中心的なリスクであり続けることは間違いないだろう。ロシア・ウクライナ戦争によって2023年にすでに高まっていた地政学的緊張は、イスラエルとハマスのあいだで大規模な紛争が勃発したことにより一段と高まった。大中華圏では、台湾海峡がさらなる世界的紛争の引き金になる可能性が依然としてあるが、当社では中国による台湾侵攻のリスクは極めて低いとの確信を強く持っている。中国は経済的・政治的問題に対して一貫して実用主義的であり、軍事的な選択肢は(挑発された場合にのみが取られる可能性が高く)、最悪の選択であることを理解しているとみられる。
中国との対話再開に向けた最近の米国の動きも両国の緊張緩和を狙ったものとみられ、両国の軍事面におけるコミュニケーションが再構築されつつあり、これらに関する今後数ヵ月の進展が注目される。その他、2024年1月中旬に予定されている台湾総統選も、特に政権交代につながる場合は中国との緊張緩和に寄与するかもしれない。但し、与党民進党の候補が世論調査でリードしていることを考えると、その可能性は疑わしいと言えるだろう。
まとめとして、当面の(政治的・経済的に)困難な状況に屈することのない投資家にとって、中国は長期的に持続可能なリターンを引き続きもたらすとみている。すべてではないにせよ、大半の中国株式指数が数年来の安値で取引されているなか、再生可能エネルギーやEVの生産など世界をリードする中国のテクノロジー銘柄は、足下で非常に割安な価格で「売り出し中」のように見える。こうしたなか、2024年に何らかのポジティブな変化があれば、足下であまり選好されていない中国株式市場はアウトパフォームする可能性がある。
個別銘柄への言及は例示のみを目的としており、当該戦略で運用するポートフォリオでの保有継続を保証するものではなく、また売買を推奨するものでもありません。
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