本稿は2023年12月6日発行の英語レポート「ASEAN equity outlook 2024」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
2023年12月
アセアン地域は2024年に成長加速が期待される
2023年は世界的な金融引き締めと際立つドル高に注目が集まり、これらがアセアン諸国を含む大部分の新興国にとって大きな逆風要因となった。2024年の焦点は金利引き上げから成長、より具体的には世界経済が減速するなかで成長が見込まれる分野を見つけることに移るとみている。アセアン地域は、成長ストーリーが比較的良好であり政策環境がより緩和的であることから、相対的に好調に推移すると予想する。
アセアン地域の経済成長率は、2023年の推定4.0%から2024年には4.5%へと小幅に上昇する見込みだ。概して成長鈍化が予想されている世界の他の地域と比較すると、アセアン地域の経済成長は緩やかながらも相対的に好調なものとなる可能性がある。アセアン諸国の成長加速が期待される背景としては、国内消費の底堅い推移や2024年後半にテクノロジー分野主導の輸出回復が見込まれることが挙げられる。特にテクノロジーセクターの輸出回復の恩恵を受けると期待されるのはシンガポール、マレーシア、ベトナム、タイなどの輸出主導型経済である。インドネシアやフィリピンなどのより内需主導型の経済は、政府の積極的な財政政策に支えられて消費が安定的に推移または消費拡大が加速すると期待される。
緩和的政策が維持されるなかバリュエーションは魅力的な水準に見受けられる
アセアン諸国のほとんどは緩和的な政策環境にあり、概して各国中央銀行はインフレリスクについて楽観している様子である。2024年に目を向けると、世界的な金利の安定やコアインフレ率の減速がアセアン諸国の政策当局に他の地域よりも良好な追い風をもたらし、政策環境による後押しを受けてアセアン地域の株式市場は2023年よりも堅調に推移すると予想される。もしコアインフレ率が下振れし、中央銀行が金融緩和を実施できれば、アセアン諸国の経済は良好な流動性環境の恩恵を受けることになるとみている。
アセアン株式市場のバリュエーションは魅力的な水準にあると見受けられ、その予想PER(株価収益率)は12倍と、過去平均よりも約1標準偏差低い水準で推移している。2024年もバリュエーションは魅力的な水準が続き、景気見通しの改善によって域内の企業収益の伸びが下支えされるとみている。金利がピークに達する見通しであるなか、アセアン地域の企業収益も上方修正の動きが期待される。
アセアン地域で特に優れた成長性とクオリティを提供する企業
高金利と引き締め的な金融政策を背景に、2024年は世界的に景気が鈍化すると予想している。このことは成長の重要性を裏付けている。世界経済の成長が緩やかなものにとどまり、資金流動性が抑制されている状況下においては尚更である。現金・現金同等物などのリスクフリー資産が1桁台前半の魅力的なリターンを生み出していることも、株式のリスク・プレミアムの魅力を低下させている。
アセアン地域は、マクロとミクロの両方の視点からみて相対的に高い成長性を備えた優位な状況にある。域内で特に楽観視している分野は、外国直接投資(FDI)ストーリーと、テクノロジー・サプライチェーンおよびエネルギー・トランジションに向けた投資機会である。高い確信を持つこれら2つの分野は、ポジティブな構造的変化を促すドライバーが引き続き存在しており、持続可能な成長とディフェンシブ性の高いキャッシュフローをもたらすとみている。
テクノロジーセクターはサプライチェーン分散化の動きが追い風に
アセアン地域では景気回復の芽が現れ始めており、2024年のテクノロジー輸出の見通しが改善している。在庫水準の減少や米国におけるテクノロジー製品の買い替えサイクルは、アセアン地域のテクノロジーセクターに有利に働くとみている。こうした回復の恩恵を受けると思われるテクノロジー企業、特に高付加価値製造業へのシフトの一翼を担う企業を選好する。これらの企業には、半導体、医療・工業用テクノロジーの機会、アセアン地域の先進製造業に関連する企業が含まれる。
アセアン地域のテクノロジー・サプライチェーンは、米中関係の緊張を背景とする世界のサプライチェーンの構造転換や貿易体制の再編が大きな追い風となっている。こうしたシフトはまだ初期段階にあると考える。中国からの分散化の流れは今後3年から5年の間に引き続き加速し、アセアン地域は主要な移転先となってサプライチェーン分散化の恩恵を受けるとみている。当社では、域内への大規模なFDI流入の恩恵を受けると期待されるシンガポール、マレーシア、タイ、ベトナムの半導体・電子機器セクターを選好する。
インフラブームに乗る資本財・サービスセクター、グリーンへの移行
インドネシアやフィリピンにおいて2024年も旺盛なFDIやインフラ投資が続くなか、資本財・サービスセクターは相対的に堅調に推移するとみている。インドネシアやフィリピンのような新興国が長期的に成長を遂げるためには、インフラ投資と「ボトルネック解消」(経済活動の流れを阻害している部分を発見して効率を改善すること)が鍵となる。アセアン諸国の政府が引き続きインフラ支出を優先し、交通、水、エネルギーなどの国家インフラ・システムへの投資を進めているなか、資本財・サービスや素材セクターには投資機会が存在するとみている。その一例として、インドネシアでは最近、金属鉱石加工における国内製造業の高付加価値化を推進しており、同国の輸出は引き続き勢いを増すと予想される。これを受けて、同国の交通エコシステム(特に電気自動車関連)の発展がさらに促進される可能性がある。
アセアン諸国のエネルギー・トランジション、そしてグリーンエネルギーおよび電力への設備投資の拡大傾向は、我々が強く注目しているもう1つのテーマである。特にシンガポールとマレーシアの資本財・サービスセクターにとっては、これが好成長やポジティブな変化のカタリストになるとみている。こうした動きが起こっている背景として、世界的にエネルギー市場が逼迫し、アセアン諸国政府にとってエネルギー安全保障の重要性が高まっている。エネルギー・トランジションが進められるなかで最も大きな変化を遂げる可能性があるのは、シンガポールとマレーシアの公益事業だ。代替エネルギーや再生可能エネルギーへの移行と、アセアン地域の一部の電力市場で見受けられる逼迫状態は、今後数年間における魅力的な成長機会をもたらしている。エネルギー・トランジションは、シンガポールや他のアセアン諸国における重要な戦略的テーマとして注目している。ここ2年間において、エネルギー・トランジションは当社の戦略シナリオの重要な部分を占めるようになった。2022年10月、シンガポールは2050年までに温暖化ガスの排出量を正味ゼロにするという目標を打ち出した。それ以来、同国政府は再生可能エネルギーの発電容量拡大や近隣諸国からのグリーンエネルギーの輸入など、一連のエネルギー転換計画を発表してきた。シンガポールの企業は、こうした動きを活かし、その恩恵を享受していくことができる有利な状況にある。当社では、従来のブラウンエネルギーからグリーンエネルギーへの移行を進める発電事業者や、風力発電のエンジニアリング・ソリューションを提供する企業に引き続き注目している。
まとめ
2024年に向けて、当社ではアセアン地域に対して相対的に明るい見方を維持している。域内のマクロ経済見通しは引き続き有望であり、世界的にマクロ経済面の逆風がみられるなかで企業収益の回復力や底堅さ、そして成長性とクオリティを取り込む投資機会をもたらすと考える。インフレリスクの低下を受けて、アセアン諸国はより緩和的な政策環境にある。バリュエーションは魅力的な水準にあり、収益成長がまだ十分に織り込まれていないことからポジティブ・サプライズも期待される。
アセアン地域内では、FDIストーリーと、エネルギー・トランジション、インフラおよびテクノロジー・サプライチェーン関連の投資機会について、特に楽観的な見方を維持している。アセアン地域の様々なセクターの中でも有望視しているこれらのセクターは、2024年も引き続きポジティブな構造的変化が進み、持続可能な成長を遂げ、健全な財務基盤を維持し、ディフェンシブ性の高いキャッシュフローをもたらすとみている。
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