本稿は2023年12月6日発行の英語レポート「Singapore equity outlook 2024」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

2023年12月


概要

2023年のシンガポール株式市場は、年初の予想よりも低調となった。しかし、2024年のシンガポール株式市場は、ポジティブなドライバーが増える可能性がある。当社では、シンガポール経済のテクノロジーおよびサービス・セクターの両方を有望視しており、外需は概して堅調さを増すとみている。また、シンガポールの企業収益は、2年にわたる非常に好調な成長を経て、2024年も引き続き拡大するだろう。

2024年は豊富な投資機会が見込まれ、シンガポールの将来を象徴するセクターや企業に焦点を当てる当戦略の「ニュー・シンガポール」シナリオは、ポートフォリオ構築の観点から引き続き重要だとみている。「ニュー・シンガポール」シナリオの中では、データやテクノロジー、ヘルスケア、物流、観光、フード・ソリューションに加えて、エネルギー・トランジション分野の重要性が高まっている。また、一部の有望なREIT(不動産投資信託)にも引き続き注目しており、これらは2024年に金利のピークがより明確になれば追い風を受ける可能性がある。

低調な1年の振り返り

2023年の初めの時点で、当社ではシンガポール株式市場は比較的良好なパフォーマンスをみせると予想していた。シンガポール経済については2021年と2022年の堅調な拡大を経て、成長が減速するとみていた。米国経済は金利上昇の影響によって減速する一方、中国経済はCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミック後に経済が再開され始めるなかで強まると予想した。シンガポールの製造業セクターについては、3年間非常に好調だったパフォーマンスが減速し、その場合、観光業の継続的な回復に支えられてサービス業が減速の一部を打ち消すとみていた。しかし、2023年のシンガポール市場のパフォーマンスは予想以上に低迷した。

シンガポール株式の2023年のトータル・リターンは本稿執筆時点でほぼ横ばいで、より広範なアジア株式のパフォーマンスとほぼ同等となっている。2023年のシンガポールの経済成長率は、年初時点で2%程度と予想していたが、1%程度になりそうである。2023年の米国の経済成長は予想以上に底堅く、同国のインフレと金利は予想以上に高止まりした。一方、中国の経済成長は予想よりも低調となり、中国からシンガポールへの訪問観光客数は予想を下回った。

2024年の中国経済はより堅調に、米国は景気減速の可能性

2024年に入るなか、シンガポールの経済成長率は2%程度まで緩やかに加速すると予想している。米国経済はいずれ減速し、2024年後半には一時的に景気後退に陥る可能性さえあるとみている。とは言え、世界最大の経済大国である米国が深刻な、あるいは長期的な景気後退に陥ることはないだろう。中国では、政府は2024年に経済成長の支援にこれまで以上に重点を置くとみられる。こうしたなか、2024年の中国経済はより堅調な成長を遂げるとみている。

テクノロジー・セクターは回復の兆しが強まり、サービス・セクターは成長余地が拡大

2022年後半に始まったシンガポールの急激な製造業不況が、2023年後半に底を打ち始めている兆しが見受けられるようになった。製造業活動は2024年にかけて引き続き底堅く推移し、物流やトレード・ファイナンスなどの関連セクターにもプラスに働くとみられる。

製造業の回復を支えているのは世界的な消費の正常化であり、消費者はCOVID-19のパンデミック後に行っていた旅行やサービスへのリベンジ消費から脱却している。テクノロジーのサプライチェーン全体の在庫減少も製造業の回復を支えている。携帯電話やパソコンなどの主要テクノロジー分野における買い替えサイクルがようやく加速してきていることも追い風となっている。さらに、企業がAI(人工知能)を搭載した機能や製品への投資を続けるなか、AI関連の高性能なハードウェアの需要が今後も高まる可能性がある。

2024年のシンガポールのサービス・セクターについては、2022~2023年のペースに比べればかなり鈍化すると思われるものの、観光業の回復が続くと予想されるなか、引き続き成長余地があるとみている。2023年9月末時点で、シンガポールを訪問する観光客数は2019年比77%となったが、中国からの訪問者数は2019年比55%にとどまった。旅客のフライトキャパシティが増加し、航空券の価格が下がり、中国経済が堅調さを増せば、シンガポールへの観光客数は継続的に回復する可能性がある。

企業収益はより穏やかなペースで成長、バリュエーションは引き続き魅力的

シンガポールの上場企業の収益は、金利上昇が銀行の貸出利ざやに好影響をもたらした他、世界的なパンデミック後の経済再開がけん引役となり、2022年から2023年にかけて堅調なペースで成長した(シンガポールの株式市場は銀行銘柄が多く、インデックスに占める割合が高い)。2024年の上場企業の収益は、より穏やかなペースながら、引き続き拡大すると思われる。高金利の長期化シナリオがあるなか、銀行の貸出利ざやは高水準を維持し、信用コストは引き続き抑制される可能性が高い。テクノロジーおよび製造業の関連企業に加えて、観光セクターの企業は収益の回復が見込まれる。

シンガポール経済と企業収益が概して良好な中、シンガポール株式市場のPER(株価収益率、ストレーツ・タイムズ指数で測定)は、近年の平均が約14倍なのに対し、本稿執筆時点で約10倍となっており、バリュエーションは魅力的に見える。バリュエーションは、企業収益や経済成長の持続可能性に対する懸念によって押し下げられるかもしれない。当社のポジティブな予想が現実となれば、2024年にバリュエーションは再評価されて高まるだろう。

「ニュー・シンガポール」シナリオは引き続き重要

2024年に銀行の収益がこれまでよりも低調になることが見込まれるなか、比率の高い銀行セクターがアウトパフォームする可能性は低いと考えるが、2024年は他のセクターが幅広い投資機会をもたらすとみている。当社では、将来のシンガポール経済の代表的存在となるであろうセクターや企業から成る「ニュー・シンガポール」シナリオに合致する銘柄を引き続き有望視している。

当社が初めて「ニュー・シンガポール」という言葉を作り出したのは、シンガポールが独立50周年を迎えた2015年であった。当時、これらの株式やセクターは、その将来性が市場で評価されるにつれて、優れたリターンをもたらすとみていた。「ニュー・シンガポール」のコンセプトは2024年においても、2015年当時と同様に重要であるとの確信を維持している。今日、「ニュー・シンガポール」シナリオに含まれるのは、エネルギー・トランジション、データ、テクノロジー、ヘルスケア、物流、観光、フード・ソリューション分野の銘柄だと考えている。

エネルギー・トランジションは「ニュー・シンガポール」の重要な柱

この2年間で、エネルギー・トランジションというテーマは、「ニュー・シンガポール」シナリオのなかで重要な位置を占めるようになった。2022年10月に、シンガポールはネットゼロ(人間活動によって排出される温室効果ガスの量とこれらのガスの除去量が一定期間において均衡する状態)を2050年までに達成すると公約した。それ以来、シンガポールは、再生可能エネルギー能力の増強や近隣諸国からのグリーンエネルギーの輸入など、多くのエネルギー・トランジション計画を明らかにしている。こうしたなか、シンガポールの企業はこれらの動向を活かし、その恩恵を享受するのに有利な立場にあるだろう。当社では、「ブラウン」と呼ばれる従来型のエネルギーから「グリーン」なエネルギーへの移行を進める発電会社や、風力発電のエンジニアリング・ソリューション・プロバイダーを引き続き選好する。

REITへの注目を維持

シンガポールのREITは、世界の金利がピークを付けたとの期待が広がるなか、2023年に好調な出だしをみせた。しかし、世界的なインフレと金利の懸念が再び強まると、2023年後半にパフォーマンスが急落した。当社では、同セクターに対する金利圧力はすでにピークに達しているか、ピークを過ぎている可能性があるとみている。

資産価値のさらなる下落や債務返済比率の低下、株式発行の可能性など、2024年もその他のリスクが残る可能性はある。しかし、当社では、バランスシートが強固で、底堅い需要から恩恵を受けているREITや、当社の「ニュー・シンガポール」シナリオに合致する一部のREITへの注目を維持している。2024年以降に金利のピークがより明確になれば、これらの有望なREITのパフォーマンスも改善する可能性がある。


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