本稿は2024年3月22日発行の英語レポート「Harnessing Change」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

2月のアジア株式市場は中国を筆頭に軒並み上昇


サマリー

  • 中国株式は、バリュエーションが過度に売られすぎの領域にあることから、ある程度短期的な反発があるかもしれない。しかし、当社では中国の主な住宅分野の問題を解決し得る供給サイドの措置など、相場の上昇をより持続可能なものにする幾つかのドライバーについてモニタリングしている。中国の対極にあるのがインドで、同国のインフラ投資の推進に加えて安価なスマートフォンやインターネットの急速な普及を受けて、投資家心理は全般的にポジティブなものとなっている。
  • 当月のアジア株式市場(日本を除く)は、支援的な国内の政策措置を受けて上昇した中国市場がけん引役となり、米ドル・ベースの月間リターンが5.6%となった。AI(人工知能)関連株が上昇するとともに、金融政策の緩和局面で経済成長に対する楽観的な見方が広がったことが、グローバル株式市場の上昇を後押しした。
  • 国別では、中国(米ドル・ベースの月間市場リターンが2.4%)や韓国(同1.0%)がアジア地域の上昇をけん引する一方、タイ(同0.7%)やシンガポール(同0.9%)は小幅な上昇にとどまった。
  • 米国では余剰貯蓄がほぼ使い果たされ、財政出動が後退するなか、足元の引き締め的な金融環境はさらなるディスインフレ圧力をもたらすとみている。この結果、米ドル安が進み、流動性が緩和される環境は、まだ大幅な利下げ余地があるアジアにとって追い風になるだろう。

市場環境

当月のアジア株式市場は上昇
当月のアジア株式市場(日本を除く)は、支援的な国内の政策措置を受けて上昇した中国市場がけん引役となり、米ドル・ベースの月間リターンが5.6%となった。半導体メーカーNvidiaの決算が市場予想を上回り株価が急騰するなどAI関連株が上昇するとともに、金融政策の緩和局面で経済成長に対する楽観的な見方が広がったことが、グローバル株式市場の上昇を後押しした。

北アジア市場は反発した中国市場を筆頭にアウトパフォーム
北アジアの株式市場は、中国市場(米ドル・ベースの月間リターンが8.4%)を筆頭にアウトパフォームした。中国市場は、苦戦する市場の下支えを目指す新たな国内の政策措置に積極的に反応して、やや持ち直した。問題を抱えている不動産セクターを下支えするために、中国は住宅ローンの指標となる5年物のLPR(ローンプライムレート、最優遇貸出金利)を0.25%引き下げた。中国証券監督管理委員会は、証券会社が空売り目的で株式の貸し出し拡大を行うことを禁止するなど、空売りに対する新たな取引制限を発表した。また、中国政府は、証券行政トップの交代に着手して、証券監督管理委員会の主席を易会満氏から呉清氏に交代した。その他、中国の国営銀行を傘下に持つ中国政府系ファンドの中央匯金投資は、ETF(上場投資信託)の買い増しなど、さらなる支援を発表した。香港では、陳茂波財政官が2024年の予算演説で不動産セクターを強化するために同セクターの抑制措置撤廃を発表したことなどを受けて、月間市場リターンが米ドル・ベースで4.6%となった。

テクノロジー・セクターの比率の高い韓国市場(米ドル・ベースの月間リターンが7.4%)と台湾市場(同5.5%)は、AI需要の高まりが続くなか上昇した。また、韓国当局は「企業バリューアップ・プログラム」を発表した。これは、日本が昨年呼びかけたコーポレートガバナンスの推進に似たプログラムで、企業に株主リターンの優先を奨励するものである。韓国の中央銀行は、インフレ圧力に対して引き続き慎重な姿勢を示し、主要政策金利を3.5%に据え置いた。また、台湾は輸出が回復するなか、経済は今年持ち直すとみて、2024年のGDP成長率予想を3.43%へと上方修正した。

アセアン諸国の株式市場も上昇
当月は、アセアン諸国市場も上昇した。インドネシア(米ドル・ベースの月間市場リターンが3.2%)では、大統領選でプラボウォ・スビアント氏が勝利を宣言したことを受けて、投資家のあいだで政策が継続されるとの見方が強まった。フィリピン(同5.5%)の1月の総合インフレ率は、食品価格の上昇鈍化を主因に前年同月比2.8%となり、3年ぶりの低水準へと伸び率が大きく減速した。マレーシア(同2.4%)では、リンギットの下落が続き、アジア金融危機以来の最安値水準へと下落したが、マレーシアの中央銀行は「リンギットの過度な弱さを抑える」として発言を強めた。シンガポール市場(同0.9%)やタイ市場(同0.7%)は、より小幅な上昇となった。

インド株式への投資意欲が継続
インド株式市場は上昇基調を維持し、米ドル・ベースの月間リターンが2.7%となった。インド準備銀行は、「緩和的な政策スタンスを解除する」姿勢を維持して、主要政策金利を6.5%に据え置いた。1月の小売インフレ率は、食品価格の上昇鈍化が主因となり3ヵ月ぶりの低水準となる前年同月比5.1%へと減速した。また、インドの2023年10~12月のGDP成長率は、民間セクターの力強い投資やサービス支出の持ち直しを受けて前年同期比8.4%となり、市場予想を大きく上回った。

今後の見通し

ポジティブなファンダメンタルズの変化があり持続可能な高リターンをもたらす魅力的なバリュエーションの銘柄に注目

最近の米国の経済指標は力強さを増しているものの、当社では米FRB(連邦準備制度理事会)が年内に利下げを開始するとの予想を維持している。余剰貯蓄がほぼ使い果たされ、財政出動が後退するなか、足元の引き締め的な金融環境はさらなるディスインフレ圧力をもたらすとみている。この結果、米ドル安が進み、流動性が緩和される環境は、まだ大幅な利下げ余地があるアジアにとって追い風になるだろう。とは言え、中国が住宅セクターのソフトランディング(軟着陸)を実現し、完了していない住宅の問題を解決できるかどうか、という疑問は残る。一方、インドのリターンは良好であり、同国の構造的な成長が順調に続くなか、成長ペースは保たれている。当社では、ボトムアップ主導の投資哲学およびプロセスを堅持し、ポジティブなファンダメンタルズの変化がみられ、持続可能な高リターンが期待できる魅力的なバリュエーションの企業に注目している。。

中国は国内経済が見通しにくいことから輸出およびヘルスケア分野の企業を有望視
中国で今後数ヶ月のあいだに打ち出される景気刺激策は、小幅なものにとどまると予想している。投資家のあいだでは中国のデフレ圧力がさらに定着する可能性が懸念されているものの、中国の経済成長がまだ許容範囲内にあるため、政策当局は実際に緊急性を持ってアクションを起こすことに前向きではない。しかし、景況感全般の悪化を阻止する上で遅れをとっている可能性があり、リスクは高まっている。バリュエーションは過度に売られすぎの領域にあることから、ある程度短期的な反発があるかもしれないが、中国の主な住宅分野の問題を解決し得る供給サイドの措置など、相場の上昇をより持続可能なものにする幾つかのドライバーを注視している。大規模な財政出動やデフレ懸念に対する変化も、投資家心理の好転を促すかもしれない。より長期的には、地方政府と国有企業の分野を改革する必要がある。国内経済が見通しにくいことから、当社では景気循環性が低く、ボトムアップでより個別の超過収益の源泉が見込まれる輸出およびヘルスケア分野の企業を有望視している。

インドでは国内のインフラ整備の向上から好影響を受ける企業を引き続き選好
中国の対極にあるのがインドで、投資家心理は全般的にポジティブだ。同国の不十分だったインフラ投資はここ数年で拡大しており、GDPに占める製造業の割合が今後数年で拡大することが足元で見込まれている。また、安価なスマートフォンやインターネットの急速な普及を受けてニューエコノミー分野も活況を呈しており、急成長を遂げるオンラインプラットフォームが生まれている。こうしたなか、当社では国内のインフラ整備向上の追い風を受ける企業やオンラインプラットフォーム運営会社を引き続き選好する。アセアンとインドネシアでも同様の動きが見受けられるが、その規模はより小さい。インドネシアにおける良いニュースは、直近の大統領選でプラボウォ氏が勝利したことで、当社ではジョコウィ政権時代の成長を重視した改革政策が新政権でも継続されるとみている。

テクノロジー比率の高い台湾および韓国市場は、構造的なAI需要の波に乗り続けているとともに、スマートフォン(アンドロイド)やパソコンの買い替えサイクルの初期段階にあるなかテクノロジーサイクルが拡大している。特に韓国政府は、割安に評価されているコングロマリット企業の再評価を促すために、日本が進めるコーポレートガバナンス改善の例に倣った政策を試みており、これが同国のさらなる成長ドライバーとなっている。


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