本稿は、2024年2月14日発行の英語レポート「The Future Quality approach to navigating the AI arms race」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。


主なポイント

  • AIの台頭は、テクノロジー・セクターの今後の道筋を劇的に変化させた。
  • 我々のリサーチで、新たに生まれたAIの構造的トレンドは、当戦略のフューチャークオリティの原則に当てはまることがわかった。
  • 当戦略では、AIの追い風を受けるか、別のメガトレンドと関連しているか、あるいは独自の高い投資価値があるかにかかわらず、将来の成長への道筋が見えるフューチャークオリティ企業を見出すことに、引き続き注力している。

運用マネージャーとして、最も重要なことの1つであり、最も難しいことの1つは、誤りを犯したことを認めるタイミングを心得ていることだ。投資において、判断ミスはしばしば起こり得る。綿密なリサーチや投資哲学の厳格な適用、規律あるポートフォリオの実行は、リスクを最小限に抑え、長期的に優れたリターンを生み出すことのできる強固な運用ポートフォリオを構築するのにいずれも重要な役割を果たす手段だが、これらは将来を予測することはできない。

そのため、投資テーマを見直す必要性を認識して、取引を完全に巻き戻すタイミングを見極めることは、すべての運用マネージャーが学ぶべきレッスンと言える。我々にとって、それを学ぶ時期は昨年の途中に訪れた。

AI:テクノロジーのゲームチェンジャー

当戦略では、2023年の序盤にテクノロジー・セクターに対して慎重な姿勢を取っていた。これらの企業の多くは、それまでの低金利サイクルの追い風を受けていたため、資本コストの上昇やより厳しい設備投資環境下で苦境に立たされるだろうと懸念していたからだ。

予想外だったのは、テクノロジー・セクターそのものの展望を構造的に変化させるだけでなく、はるかに幅広い経済的・社会的な面でも影響をもたらし得る、新たな形態のテクノロジーが急速に台頭したことだった。

AI(人工知能)は新しいテクノロジーではない。実際にその歴史は1950年代まで遡ることができる。しかし、2022年11月30日にChatGPTが登場したことによって変化したのは、今後数十年の間にビジネスの世界を完全に変革させる可能性を持つ、実用的な生成AIと機械学習ツールが誕生したことであった。

これにより、テクノロジー・セクターの今後の道筋が突如劇的に変化した。AIはテクノロジー普及の新たな時代を築き、より広範な経済動向に左右されない長期的な成長ドライバーとなるだろう。企業や政府はAIへの投資が必要になるとみられ、そうしなければ取り残されるリスクがある。AIは新たな競争の様相を呈するようになっている。

フューチャークオリティのレンズを通して見るAI

AIにはブーム以上のものがあると判断した我々は、合理的かつ集中的なリサーチを実施して、AIが当戦略のフューチャークオリティ哲学の原則にどの程度当てはまるかを確認した。その結果、AIは明確で長期的なトレンドであるという結論に達しただけでなく、AIへの設備投資が急拡大する理由を数多く特定することができた。

機械学習とAIの導入には膨大なコストがかかる。これらのモデルを扱うには最先端のコンピューターが必要で、データセンターを拡張する必要がある。このAI投資を先導しているのがテクノロジー大手で、これらの企業はAIを事業の参入障壁を高める手段だと認識して、潤沢な資産から投資を行っている。同様に、各国政府もAIの軍事的能力を獲得して、現代の戦争で活用するために資金を配分している。

こうしてAIを深く掘り下げることで、このセクターが今後10年以上続くであろう非常に現実的かつ具体的な追い風を受けることが明確になった。当戦略のボトムアップによる銘柄選択アプローチは、成長が見込まれ、優れた投下資本利益率を達成・維持することができ、重要なクオリティの柱(事業、経営陣、財務、バリュエーション)を備えたフューチャークオリティ企業を発掘することを中心としながらも、その成長を促進する長期の構造的テーマを活用することにも前向きだ。

AIがそのようなドライバーの1つであることは間違いないが、我々はその他の投資の可能性を特定するために、いわゆる他の「メガ・テーマ」も幾つかモニタリングして、当戦略のポートフォリオが分散された個別の成長ドライバーの集まりから利益を得られるようにしている。現時点で、長期的な超過収益の獲得機会があるとみているのは、エネルギートランジション関連の技術などを提供する企業や新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な流行)を受けた制限の解除後に世界的な移動(旅行)の正常化から構造的な成長が見込まれる分野、また世界の人々の高齢化が急速に進み、世界中で医療サービスのコスト削減が求められているときに、より効率的なヘルスケアを提供する企業などだ。

フューチャークオリティのケーススタディ:Nvidia

トレンドがしっかりと確認できたら、次のステップは企業の一覧をみて、勝者と敗者を見極めることだ。そのために、テクノロジー普及の過去の波を振り返ってみたところ、過去数十年のあいだにすでに幾つかの波があり、大手ハードウェアプロバイダーが優位に立ち、多くの場合先行者利益を得て、収益性の大部分を獲得していることがわかった。メインフレーム時代の勝者はIBMであり、PCの普及期はIntelで、スマートフォンの普及期は明らかにAppleであった。

そこで、AIに関するハードウェア投資について調べたところ、現在、ある企業が群を抜いていることがわかった。それはNvidiaだ。

Nvidiaは、当戦略のフューチャークオリティ・テーマの条件をすべて満たしている。事業の面では、最先端AIに必要なGPU/DPU技術の提供において業界を長年リードしてきた存在であり、多くの主要テクノロジー顧客から選ばれるパートナーとなっている。経営陣の面では、経営が安定しており、コーポレート・ガバナンスと人材開発の両方で高評価を得ている。また、財務面は強固で、ネットキャッシュや高いフリーキャッシュフロー創出力、さらに自社株買いが期待できる。バリュエーション面では、同社は2023年の株式市場の上昇をけん引した7銘柄(マグニフィセントセブン)の1つであり、株価はすでに大幅に上昇したかもしれないが、今後も高い上昇が続くと予想している。

図1

当戦略では、Nvidiaのフューチャークオリティの資質を確認して、2023年8月に同社の株式を購入した。半導体プロバイダー市場全体を席巻する企業として、同社はAI対応チップの市場加速に加えて追加的なソフトウェアサービスの需要が拡大するなかで成長軌道を維持するだろう。手短に言えば、我々はこれを1兆米ドルの機会とみている。

図2

AIはいかにして事業の再注力に寄与したか:Meta Platforms

また、他のテクノロジー企業がAIをどのように活用しているかについても考察した。

FacebookとInstagramを傘下に持つMeta Platformsは、常に当戦略のウォッチリストに載っていたが、一時期ポートフォリオから除外していた。メタバース開発への多額の投資は資本利益率が低く、また世界中の大企業や中小企業に広告を販売するというビジネスモデルの真の収益ドライバーから目をそらしていると判断したからだ。

幸いなことに、同社の経営陣はその方針が誤っていることを認識して、AIに資本を再配分し、AIを活用してコア事業を強化している。このことはすでに注目すべき成果をもたらしており、人々が同社のプラットフォームに費やす時間が増えているとともに、既に世界の広告収益のシェアを拡大している。特に経済環境がより低迷し、広告サイクルが低調となっている時期において、これは素晴らしい成果だ。

この事業戦略の変更により、同社の資本利益率は顕著に改善し、成長見通しも上向いた。現在、Meta Platformsの見通しは、持続的な優れたリターンを求める当戦略の期待に合致していることから、フューチャークオリティの基準を再び満たすと判断して、同社株をポートフォリオに再度組み入れた。

AI革命のリーダーを見極める

投資は正確な科学ではない。5~10年先を見据えて勝ち組企業を選ぼうとするのは容易なことではなく、特に新しいトレンドが生まれたときに、判断を誤ることは避けられないものだ。しかし、熟練した投資家にとっては、そうした誤りを認め、適切な行動を取る能力が、長期投資の成功の鍵と言える。当戦略にとって、それはフューチャークオリティ基準に基づいて投資テーマを再評価することを意味する。我々のリサーチによれば、AIは将来的に投資に大きな影響をもたらす新しいパラダイムであり、無視したり回避したりすべきではない。しかし、あらゆる発展の初期段階がそうであるように、AIを導入して成功する企業や最終的な勝者はまだ明らかになっていないことから、当戦略ではブームに乗るのではなく、慎重な姿勢で進んでいく方針だ。当戦略では、AIの追い風を受けるか、他のメガトレンドと関連しているか、あるいは独自の高い投資価値があるような、将来の成長への道筋が見えるフューチャークオリティ企業を見出すことに引き続き注力しており、すべてはフューチャークオリティ投資哲学に合致するという共通点を持っている。

個別銘柄への言及は例示のみを目的としており、当該戦略で運用するポートフォリオでの保有継続を保証するものではなく、また売買を推奨するものでもありません。


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