本稿は2024年2月29日発行の英語レポート「Balancing Act」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

グロース資産のスコアを引き上げ、ディフェンシブ資産のスコアは中立に据え置き

投資環境概観

歴史上最も積極的な金融引き締めサイクルの1つとなった今サイクルの先行きシナリオとして、一見不可能なように思われたソフトランディング(リセッションを回避した緩やかな景気減速)は、可能であるばかりか実現の可能性が高まっている。米国の経済指標は、まずまず好調な労働市場や金融環境の緩和、そして足元では世界的な製造業サイクルの好転を追い風に、(またしても)好調さを増している。世界の需要は総じて堅調であり、上向く可能性のある経路も増えつつある。

当社では、米国のテクノロジー株や構造改革が進む日本の株式など、長期的な成長機会を概して選好する一方、好調なキャッシュフローとインフレ長期化に対するヘッジ機能をともに提供するコモディティ関連株にバランス効果を求めてきた。新しい景気循環的機会は常に探しているが、今のところは依然この組み合わせが気に入っている。利下げは市場が期待しているほど積極的なペースでは行われないとみているが、とはいえ利下げに向かっていることはグロース資産にとってはプラス材料である。

いつものことながら、リスクは残っている。地政学的リスクの領域では現在中東がヒートアップしており、また米国の地方銀行が強いシステミック・ストレスの潜在的火種となり続けているとともに、実体経済の一部は過去数十年で最も高い水準にある金利の重圧に依然喘いでいる。長期的グロース株とコモディティ関連株でバランスをとった株式ポジションを、高利回り資産、抑え目のデュレーション・エクスポージャーおよび金と組み合わされた当社のポートフォリオは、上述のようなイベント・リスクを含め、様々な市場シナリオに全体として引き続き耐え得る魅力的なリスク・リターン特性を提供すると考える。


クロス・アセット

当月は、グロース資産のスコアをプラスに引き上げる一方、ディフェンシブ資産のスコアを中立に据え置いた。米国からは一貫して経済の堅調さを示す情報が出てきているにもかかわらず、過去2ヵ月で各国中央銀行の発言がよりハト派的なトーンへとシフトしたことを受けて、市場は(またしても)利下げの織り込みに先走りすぎた。

米国経済は引き続き好調な兆候をみせており、2023年のGDP成長率は3.1%となった。これに加えて、インフレが世界的に減速しており、利下げの可能性がリスク資産市場の追い風になるとみられることから、2024年の投資環境は比較的良好と言える。したがって、2024年序盤のグロース資産は、金利スタンスが引き締め気味であるにもかかわらず、好調な足取りとなる可能性がある。経済指標は景気の強さを示しているものの、債券市場は金融緩和がまもなく始まるとの確信を維持しており、米FRB(連邦準備制度理事会)が2024年に5回から6回の利下げを実施すると予想している。当社では、金利が引き締め領域にあるとみられることには同意するが、インフレがすでに沈静化しているか、積極的な金融緩和が必要になるかについてはそれほど確信がない。

株式市場は全般的に底堅く推移しており、一部の市場では最高値を更新しているが、一方で市場センチメントは比較的低調だ。これは一般的に、相場がさらなる上昇を遂げるのに好環境である。当社では、長期的な成長テーマと一部の景気循環的成長テーマの組み合わせに、コモディティ関連株を加えた株式ポジションを依然選好している。コモディティ関連株は、魅力的なバリュエーションと好調なキャッシュフローをサポート材料としながら、インフレの減速ペースが鈍った場合に「高金利の長期化」政策環境からポートフォリオを保護する役割も果たす。

ディフェンシブ資産については、全体のスコアを中立に据え置きながら、投資適格クレジットや現地通貨建て新興国債券といったインカム創出資産のスコアをプラスとしている。市場が利下げを過度に前のめりに織り込んでいる可能性があると依然考えているため、デュレーション・エクスポージャーを短めに保ち、満期の短いクレジット物を選好している。十分に高い利回りと追い風の景気状況が相まって、短期クレジット物が2024年に良好なリターンをもたらすとの見通しを支えている。金利が再び上昇すれば、ポートフォリオの金利エクスポージャーを高める好機になるとみるが、債券のイールドカーブが世界的に大幅な長短逆転状態となっていることから、全体としては待ちの姿勢を維持したいと考える。

マルチアセット・チームのクロス・アセット見解は、(1)グロース対ディフェンシブ、(2)グロースおよびディフェンシブ資産内でのクロス・アセット、(3)各資産クラス内での相対的な資産の見方、という3つの異なる段階で示しています。これらの段階は、選好順位の水準は資産クラスが予想可能な形で似た動きあるいは異なる動きを見せるという当社のリサーチおよび直感的認識を表しており、したがって、資産クラスのクロス・アセットでのスコアリングは理に適っているとともに、最終的により熟考された堅固なポートフォリオ構築につながると考えます。

資産クラスの選好順位

当社の見方

グロース資産

日本株や米国のテクノロジー株(NASDAQ)など、当社が選好している株式市場は好調な年明けを迎えたため、当社のポートフォリオではこれをリバランスの機会として、他セクターがアウトパフォームしたことにより投資比率が相対的に下がっていたエネルギー・セクターなどのポジションを積み増した。当社では、今後年内いっぱいについてもポジティブな見方を維持しており、クレジット物への配分で適度な利回りを確保しながらグローバル株式への配分で上昇の可能性を狙うポートフォリオ構成に満足している。

本レポートではしばしば企業収益やバリュエーションについて論じているが、当月は、当社が選好しているグロース資産のファンダメンタルズを理解するためのもう1つの重要な視点として、キャッシュとキャッシュフローについて深掘りしてみたい。これはまた、異なるテーマや関連性のないテーマに共通する特徴を導き出すことにもつながる。キャッシュとキャッシュフローは、当社のあらゆる投資テーマにおいて成長の持続可能性を評価するのに役立つ極めて重要な指標である。

キャッシュとキャッシュフロー

企業収益と、その方向性やバリュエーションに影響を与える様々な指標については、議論する機会が多い。重要なファンダメンタルズは様々あるが、そのなかでも最も重要なのは、利用可能なキャッシュとフリー・キャッシュフローである。このキャッシュとフリー・キャッシュフローが、事業の強さ、そして配当や将来の成長のための生産的設備投資、自社株買いといった形で健全な資本利益率を実現する能力を支える基盤となるからだ。

日本株は構造改革の真っ直中にあるが、その1つが市場の標準を大きく下回っているPBR(株価純資産倍率)の改善である。東京証券取引所(東証)は、上場維持の要件としてPBRを1倍以上に保つことを義務付けており、企業は徐々に前進を見せている。これは、表面的には低いハードルのように思われる。1倍未満のPBRとは、その企業の価値がバランスシート上の資産よりも低い、つまり当該企業のキャッシュフロー創出能力には実質的に全く価値がないとみなされていることを意味するからだ。

一方、日本企業はキャッシュを生み出しており、他国企業に比べて異例に多額のキャッシュ残高を積み上げてきた(チャート1参照)。日本がデフレから脱却したとみられること、キャッシュ残高に対する利息が依然マイナスであること、インフレが継続的に購買力を低下させていることを考慮して、日本企業は、(東証の要件に沿ってPBRを引き上げる単刀直入な方法である)自社株買いを大幅に拡大するなど、当該資金を活用し始めている。当社では、改革が今後数ヵ月から数年にわたって、改革自体からだけではなくインフレを継続的に上回ることができる価値を創造するという明快な必要性から、日本株に大きなプラスの影響を与えると期待している。

チャート1


日本企業が高水準のキャッシュを有効活用しようとしている一方で、米国のテクノロジー企業は驚異的な額のフリー・キャッシュフローを生み出している。過去5年を振り返ってみると、これらの企業が新型コロナウイルスの感染拡大を受けて経済に注入された莫大な景気刺激策の恩恵を受けていることは間違いない。フリー・キャッシュフローは2022年、景気刺激策の後退に伴い減少し始めたが、2023年半ばからは伸びが着実に加速し、2022年序盤に付けたピークから20%近く増加している(チャート2参照)。

以前から述べてきたように、テクノロジーとAI(人工知能)への投資は異例に高く、最大手規模のテクノロジー企業は新たな機会の収益ポテンシャルを最大化しようと、実質的な「軍拡競争」を繰り広げている。好調なキャッシュフローが大規模な投資と相まって、セクターおよびエコシステム全体に波及的に恩恵をもたらしている。バリュエーションは過去との比較では割高に見えるが、フリー・キャッシュフローの加速や投資の規模、収益の伸びは過去にほとんど見られたことのない水準にある。当社では、この力強い長期的な成長テーマを依然有望視している。

チャート2

エネルギーはテクノロジーとは大きく異なるセクターだが、新規生産能力への投資が少ないこともあり、フリー・キャッシュフローが大幅に増加している。ここ数年は比較的人気のないセクターとなっているエネルギーだが、セクター内の銘柄は非常に割安で高水準の自社株買いが行われており、エネルギー価格も安定している。実際、最近の経済指標や製造業サイクル好転(通常、エネルギーなどコモディティ需要への追い風となる)の兆候から景気は加速しつつあるように見受けられることから、当社ではエネルギー価格に上昇の余地があるとみている。

チャート3

今日の環境では、持続可能な分散投資を見出すのは依然難しい。債券と株式の相関性はプラス幅が低下しつつあるように見受けられるが、独立した力強いファンダメンタルズに裏打ちされた異なる株式投資戦略を組み合わせることで、健全な度合いの分散投資の具現化は依然可能である。むしろ、エネルギー株は、再びインフレが加速し金利が上昇する状況となった場合、それに対する最大の分散投資としての役割を果たし得る。

グロース資産に対する確信度の強い見解

  • 日本株を最も選好:改革はまだ初期の段階だが、その効果は出始めており、2024年後半には企業の収益性や利益により確かな効果が出てくると予想している。日本は脱中国の動きのなかで外国直接投資を惹きつけており、全体として新規投資が時とともにますますプラス効果をもたらすとみている。
  • 米国の長期的グロース株:市場の動きは急速で、買われ過ぎとならないためには一服する必要があるだろう。しかし、決算発表シーズンはこれまでのところ市場の期待に応える内容となっており、なかには重要な上振れも見られている。
  • コモディティ関連株:当該株式分野はあまり動きが見られず、概ね横這いの推移が続いているが、当社ではこれをバリュエーションが割安という意味で好材料視している。また、景気モメンタムが回復すれば株価が上昇する可能性が高く、ポートフォリオの他の部分に対してリスク分散の役割を果たすだろう。

ディフェンシブ資産

ディフェンシブ資産については、見方の変更を小幅にとどめてスコアを中立に維持した。1月は債券が売り込まれ、利回りが年初の水準より若干高い水準で月を終えた。イールドカーブが大きく長短逆転しており、キャリーの観点からソブリン債を保有することが相対的に割高となっているため、ソブリン債のスコアは比較的大きめのマイナスとしている。結果的に、オーストラリアや日本など、イールドカーブが長短逆転しておらず為替ヘッジ・ベースでの利回りがより魅力的な市場を、引き続き選好している。当社では、次の金利の動きは利下げとなる可能性が高いと考えているものの、必要となる利下げ回数については市場ほど強気ではない。米国は経済成長率とインフレがともに3%を上回っており、FRBは利下げを行うにはインフレが実際に鈍化していることを示す兆候がもっと必要だと指摘し続けている。ポジティブな点として、現地通貨建て新興国債券のスコアを引き続きプラスとしており、メキシコ、インド、インドネシアを選好している。これらの国々はいずれも力強い経済成長が見込まれ、債券利回りも7%超と相対的魅力度が高い。

クレジット市場については、投資適格クレジットのスコアをプラスを維持するとともに、ハイイールド債のスコアを小幅なプラスに引き上げた。投資適格クレジットでは、オーストラリア、英国、日本、カナダなどの市場で満期が短めの銘柄を組み入れることにより、十分な利回りを確保できる。ソブリン債が割高な環境下、利回りの確保にあたっては満期の短いインカム物を選好している。イールドカーブがスティープ化した場合はデュレーション・ポジションの伸長を検討したいが、そのような展開は中央銀行が利下げを始めるまで考えにくい。

ECB対FRB - 先に動くべきはどちらか

市場が世界中での金融緩和を予想し始めるなか、各中央銀行間の今後の利下げ軌道については僅かな差異しか織り込まれていない。この傾向は多くの国にわたって見られ、米国、英国、カナダ、ユーロ圏では今後2年で1.50%超の利下げが織り込まれている。インフレが世界的に減速しているのは確かだが、どの国でも同様の利下げシナリオが織り込まれているのは、起きている経済状況と合致しない。その最も顕著な例が米国とユーロ圏を比較した場合で、下のチャート4が示す通り、今後3~24ヵ月に織り込まれている利下げ回数は極めて類似している。

チャート4

しかし、ユーロ圏では、市場の予想している金利シナリオが米国と類似しているのとは裏腹に、経済状況がはるかに不安定な展開を見せている。現在、ユーロ圏のインフレは2.8%まで減速しており、過去6ヵ月の物価上昇率はわずか0.1%に過ぎない。さらに、同地域の景気は良く言っても低調で、2023年末時点のGDP成長率は前年比でわずか0.1%へと鈍化しており、この地域最大の経済大国であるドイツは2023年を通じてマイナス成長となった。このような経済状況は、2023年の経済成長率とインフレがともに3%を上回った米国に比べて見劣りする。表1は先進国の経済状況の概観を示したものだが、ユーロ圏は失業率が最も高く、インフレも日本を除けば最も低いことがわかる。

表1


上記の情報に照らすと、ECB(欧州中央銀行)が潜在成長率を上回る好景気にある米国よりも積極的な緩和アクションをとらないだろうという現在の市場の予想は、少々不可解である。FRBが早ければ3月にも利下げが実施され得るとの市場の見方を牽制している一方、より最近では、イタリア中銀総裁が利下げの時期について「急速に近づいている」と述べるなど、ECB高官がハト派的な発言を行い始めている。経済の状況から考えて、当社では現在のところ、利下げに踏み切る可能性が最も高い中央銀行はECBだと予想しており、したがって、欧州の金利は米国の金利を十分に下回る水準にとどまり続けるものとみている。

ディフェンシブ資産に対する確信度の強い見解

  • 満期の短い投資適格クレジット:信用スプレッドは依然適正水準にあるが、多くの国でイールドカーブが長短逆転しているため、満期が長めのクレジット物は投資魅力度が相対的に低くなっており、満期が短めのクレジット物を選好している。
  • 金はヘッジとして依然魅力的:金は実質金利の上昇やドル高にもかかわらず底堅さを示しており、地政学的リスクおよびインフレ圧力長期化に対するヘッジとしての有効性を証明している。
  • 新興国債券の利回りは魅力的:現地通貨建て新興国債券の実質利回りは総じて非常に魅力的であり、またドル全面安の予想からクオリティの高い新興国通貨を選好している。

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:



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