世界的な脱炭素化の取り組みにおけるエネルギー安全保障の影響


本稿は、2024年2月21日発行の英語レポート「Energy security and Future Quality」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。



2023年は市場にとって素晴らしい年であった。とはいえ同年、世界は過去最高気温を記録するとともに、数々の大きな気候災害を目の当たりにした。ハワイの山火事、北アフリカの干ばつ、南米で相次いだ洪水、日照り、地震、土砂崩れなど、数え上げればきりがない。筆者が言いたいのは、中央銀行は短期的には金融リスクや市場をコントロールできるかもしれないが、母なる自然にはかなわないということだ。気候変動がもたらす影響とリスクを決定付けるのは、人間の行動である。

わかっていることとしては、エネルギー転換への支出は今後20年で3倍になるとみられる。しかし、2024年には世界中で15億人超の有権者が投票を行う選挙が実施され、金利が高止まりする一方でエネルギー価格が下落するなか、米国のインフレ抑制法のような財政プログラムによって促進されている大規模な脱炭素化プロジェクトは遅れるリスクがある。

実際のところ、世界はすぐに脱炭素化できるわけではない。二酸化炭素排出量が最も多い化石燃料として知られる石炭は、使用量が増え続けている。国際エネルギー機関(IEA)では世界の石炭生産量が2021年に7.7ギガトン(GT)でピークを打つと予測していたが、石炭消費量は2024年末までに9GT近くに達する見込みだ。世界人口のうち、富裕度上位の10億人は、1人当たり年間およそ28メガワット時のエネルギーを使用していると推定されるが、これは残りの70億人の総消費量を上回る。これに加えて世界中で戦争や地政学的緊張の高まりが起きていることから、「エネルギー安全保障」は当然ながら多くの人々にとって最優先事項となっている。2024年は、エネルギー安全保障が政治的ニーズの主要な材料となるなか、選挙が行われる多くの国々での争点において、地政学面のレジリエンス(逆風の状況への耐性)は有権者の心理を左右する極めて重要な材料となるだろう。このように不透明感の増す環境を踏まえて、投資家はどうすべきなのだろうか。

上述のような不透明感を考慮すると、2024年にサプライズとなりそうなプロジェクトは、経済的魅力度が相対的に高く、経済性向上が短期間で見込まれ先行投資額が少なめのものであると思われる。

エネルギーの安全保障およびレジリエンスには、インフラや効率化、国内資源の拡大、分散化への注力が必要となる。これを実現するのに有利な企業の一部は、資本財・サービス・セクターに見出すことができると考える。熟練した労働力が世界的に不足していることを考えると、化石燃料ベースであれクリーン・テクノロジーであれ、エネルギー・プロジェクトの開発・管理スキルを有する企業は、利益を伸ばす上で有利な立場にあるとみている。

当社のグローバル株式チームでは、「フューチャー・クオリティ」の投資哲学を厳格に実践している。価格決定力があり、適切な投資を行う経営陣を擁するとともに強固なバランスシートを持つ企業で、まだ市場に織り込まれていない投資機会を提供するものを厳選している。当チームの投資先はすべてそのような視点を通して吟味されており、高水準のキャッシュフロー利益とその拡大が期待できる。この点では、当チームのアプローチは2024年も変わらない。しかし、世界が脱炭素型エネルギー・プラットフォームへと移行していくなかで、エネルギー安全保障の重要性を痛感している。


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