当レポートは、英語による2024年2月13日発行の英語レポート「Realigning fixed income with purpose」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。


歴史は繰り返さないかもしれないが似たようなことは起こる

債券の概念は、融資に家畜や穀物が使われていた数千年前に遡る。より近代的な解釈が生まれたのは12世紀のベネチアで、戦争や国家の取り組みの資金調達に債券が一般的に使われるようになり、後にオランダの堤防のようなインフラ開発の資金調達でも使われるようになった。

こういった初期の債券に共通していたのは、目的意識である。つまり、特定の目的を達成するために融資が行われたのだ。

今世紀に話を進めると、債券発行が政府や企業による資金調達の標準的な仕組みとなった一方で、その目的は明確にされていないことが多い。しかし、これは責任投資のトレンドの高まりによって変わりつつある。地球上の多くの気候・環境・社会的課題に取り組む必要性から、債券はその目的意識を取り戻しつつある。

サステナブルボンド(グリーンボンド、ソーシャルボンド、サステナビリティボンド、サステナビリティ・リンク・ボンドの総称)は、その調達資金が適格な環境・社会プロジェクトかその両方の組み合わせのみに充当される債券と定義される1


草分けとなった国際開発金融機関

サステナブルボンドは、世界銀行が、気候変動がもたらすリスクと、このリスクと闘うための官民セクターの活動を刺激・連携する必要性を認識し、2008年に提唱した概念である。日興アセットマネジメントでは2010年、世界銀行と協力して、同銀行が発行するグリーンボンドに投資する世界初のファンド「SMBC・日興 世銀債ファンド(愛称:世界銀行グリーンファンド)」を設定した。

世界銀行は、気候変動の抑制や影響を受ける人々の気候変動への適応を目指す適格プロジェクトへの融資の草分けとして、利益に加えてインパクトももたらすクオリティの高い債券商品の提供が可能であることを示した。2008年以来、同銀行は25の通貨建ての200件を超える銘柄を通じて、200億米ドル相当のグリーンボンドを発行してきた2

しかし、この数字は、より持続可能な世界の実現に必要な変化を起こすのに求められる資金に比べれば、大海の一滴にすぎない。McKinsey & Companyによれば、エネルギー転換への取り組みだけでも、世界全体で現在から2050年までのあいだに年間3兆~3.5兆ドルの追加投資が必要になる見込みである3

2008年からこれまでのあいだに、サステナブルファイナンスの発行体は先進国・発展途上国を問わず他の国際開発金融機関や政府、企業へと広がっており、市場の成長は急速に進んでいる。サステナブルボンドは2023年のグローバル債券市場の総発行額において約15%を占めると予想されており4、当該資産に対する需要が旺盛なことを裏付けている。


政策・規制による推進

世界のポリクライシス(複合危機)を解決する必要性がサステナブルボンドへの投資意欲を駆り立てているほか、政策や規制も急速に当該資産の成長を支える重要な要因となりつつある。

多くの国々の政府がネットゼロ(温室効果ガスの人為的排出量を吸収・除去量で相殺し実質排出量をゼロとすること)へのコミットメントを表明しているが、具体的な法律や(最も重要な点として)資金調達によってそれを実行に移している国はそれほど多くない。米国のバイデン政権は昨年、インフレ抑制法(IRA)を成立させてこの状況を変えた。3,690億米ドルに上るこの画期的な法案は、クリーンエネルギーへの移行や電気自動車の普及など、米国における多くの気候変動への取り組みを加速させることを目指しており、すでにサステナブルボンドの発行増加につながっている。

欧州連合(EU)版IRAに相当するグリーンディール産業計画も、EUタクソノミー、EUグリーンボンド基準といった既存の取り組みに加えて、サステナブル債券の流れを促進する上で重要な役割を果たすだろう。

規制当局もそのレベルを上げ続けている。EUのサステナブルファイナンス開示規制(SFDR)は、投資家への信頼できる報告の要件を要求するだけでなく、すべての資産クラスにわたってサステナブル投資となるものに求められる基準を引き上げている。このような動きは今後数年でさらに広がり、規制もグリーンウォッシング(うわべだけの欺瞞的な環境訴求)を排除するためにより厳しくなるとみられており、他の国際規制機関もすでにこの例に倣いつつある。

アセットオーナー自身も、サステナブル債券が提供し達成すると期待される成果について一段の透明性・標準化・指針を求めており、したがって発行体が国際資本市場協会(ICMA)原則のような取り組みを自主的に遵守するようになってきている。


将来の債券

気候変動や環境、重要な社会問題へのアクションを求める声が高まるなか、サステナビリティボンドは債券投資の最前線に躍り出た。

この資産クラスが専門的な投資対象から主流へと転換できた要因には、実際のインパクトと、他の同様の債券投資と同程度のリターンを継続的にもたらし得るという二つが両立していることにある。

こういった投資魅力に加え、ICMAなどの取り組みによる規制や指針の向上が、明確な定義・ルールの提供と透明性向上の提唱を通じて、グリーンウォッシング懸念の緩和を促している。

発展中の当該資産クラスのモメンタムがかつての急成長軌道を再開し、サステナブルボンドが将来選ぶべき債券となるであろう理由は、上記の要因に裏打ちされている。



1The-GBP-Guidance-Handbook-January-2022.pdf(IXMAグループのウェブサイト)
2Green Bonds(世界銀行のウェブサイト)
3McKinsey & Company、サステナビリティ「The net-zero transition: Its cost and benefits」
4https://www.spglobal.com/esg/insights/featured/special-editorial/sustainable-bond-issuance-will-return-to-growth-in-2023

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