本稿は2024年5月16日発行の英語レポート「Harnessing Change」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
中国の復調を受けてアジア株式市場は上昇
サマリー
- 市場環境はここ1ヵ月で大きく変化した。話題は米国の利下げから利上げの可能性へと変わり、中国株式市場は魅力的なバリュエーションと実効性のある政策実施期待が相まって大幅に上昇している。
- 中国では政府が不動産不況への対策に取り組み、これを受けて同国の株式市場は待望の上昇相場に戻った。中国の不動産需要は低迷を続けているものの、政府は代金支払い済みの居住用不動産の完成・引き渡し促進に本腰を入れている様子だ。また、インドを引き続き選好するほか、アセアンは足もとにおいて為替相場動向が逆風となっているものの依然魅力的だ。
- 当月のアジア株式市場(日本を除く)は上昇し、米ドル・ベースの月間リターンが1.2%となった。国別では、中国(米ドル・ベースの月間市場リターンが+6.6%)や香港市場(同+5.2%)がアジア地域の上昇を牽引する一方、インドネシア(同-8.5%)やフィリピン(同-5.8%)は劣後した。世界の株式市場は、米国で予想を上回るインフレ指標が相次ぎ、米FRB(連邦準備制度理事会)がこれまで期待されていたほど早期に金融政策を緩和しないのではとの不安が広がるなか、年初からの上昇基調が一服した。
- 投資家のあいだでは金利見通しを見直す動きが出ており、FRBが年内7回もの利上げを行うとみられていた年初時点の見通しから大きく変化している。アジア諸国の中央銀行は自国通貨の下支えを迫られており、インドネシアの中央銀行は先陣を切って予想外の利上げを実施した。結局、インフレが引き続き課題となっている。これまで北アジア地域は人口知能(AI)需要の急増の恩恵を受けるとみられていたが、足もとの市場では慎重姿勢が強まっており、グロース株ではなくバリュー株優位の状況に転じている。先行き見通しは変化しつつある。
市場環境
世界的に株式市場が概して下落するなか、アジア株式市場はアウトパフォーム
根強いインフレを受けてFRBを初めとする主要中央銀行が従来予想されていたほど早く金融緩和を実施しないのではないかとの懸念が広がったほか、地政学的リスクも高まるなか、世界の株式市場は年初からの上昇基調から一転して軟調に推移した。米ドルが大部分のアジア通貨に対して大幅に上昇するなかでも、当月のアジア株式市場(日本を除く)は中国の好調を受けてアウトパフォームし、月間リターンが米ドル・ベースで1.2%となった。
中国株式市場は経済成長期待が高まるなか際立って好調に推移
中国株式市場は、同国資本市場の「質の高い」発展を促す一連の支援策が好感され、月間リターンが6.6%にのぼった。中国での株式上場を目指す企業に適用される評価基準が強化され、企業による配当方針の開示も要件に加えられることとなる。中国当局は上場企業の監督態勢も強化する方針だ。経済面では、ハイテク製品の製造が大きく伸びたことなどを受けて、中国の第1四半期のGDP成長率が市場予想を上回る前年同期比5.3%増、前期比1.6%増となった。3月の消費者物価指数は伸び率が前年同月比0.1%へと鈍化し、再び徐々にゼロへ近づいている。香港市場(米ドル・ベースの月間リターンが5.2%)は年初からの軟調な推移から一転して上昇した。中国の市場規制当局が中国企業による香港上場を促進するほか、国際金融センターとしての香港の地位を高めるべく、中国本土と香港の証券取引所を相互接続するストック・コネクト制度を拡大すると発表したことが追い風となった。
韓国(同-5.8%)では、中央銀行が主要政策金利を3.5%に据え置いた。現在の金利水準は引き締め的であるとしており、年内の利下げ転換は困難な可能性があることが示唆された。韓国の第1四半期のGDP成長率は、建設活動の拡大や個人消費の増加を受けて前期比1.3%増、前四半期比3.4%増と加速した。台湾(同-2.3%)は、AI技術を支えるハードウェアへの需要が世界的に高まっていることが追い風となり、第1四半期の経済成長率が前年同期比6.5%に達した。そうしたなかで台湾の3月の輸出は18.9%増加し、2年ぶりの高水準に達した。台湾市場で株価インデックスに占める割合の大きいTSMC(台湾積体電路製造)は、先進半導体への旺盛な需要の継続が追い風となり、第1四半期の売上高と利益が市場予想を上回った。
アセアン諸国の中央銀行は自国通貨安への対応を迫られる
アセアンでは、各国中央銀行が米ドル高による悪影響の深刻化に身構えており、政策当局者は自国通貨が安定的に推移していると強調した。フィリピン(米ドル・ベースの月間市場リターンが-5.8%)では、中央銀行が主要政策金利を6.5%に据え置いた。一方で、タカ派色を強めており、第3四半期より早い時期での利下げの可能性を除外した。タイ(同-1.3%)の中央銀行は、家計債務水準について引き続き懸念しているほか、同国経済の構造的問題を解決していく上で金融政策がもたらせる効果は限定的との見方を示し、基準金利を2.5%に据え置いた。一方で、インドネシア(同-8.5%)の中央銀行は、現状維持を決定するとの大方の予想に反し、基準金利を0.25%引き上げて6.25%とした。今回の決定の理由として、世界経済悪化のリスクに備えてインドネシアルピアを安定させる必要性を強調した。アセアン市場のなかで孤軍奮闘したのがシンガポール(同4.0%)で、MAS(シンガポール金融通貨庁)が為替レートをベースとする金融政策の据え置きを決定したことが好感され、株価が堅調に推移した。また、シンガポールでは5月15日にリー・シェンロン首相の後任となる新首相が就任しており、政策の継続性も維持されるとみられている。
インド株式は引き続き高い成長性を発揮
インド株式(米ドル・ベースの月間市場リターンが2.3%)は、第1四半期の好決算を受けて堅調に推移した銀行や自動車セクターによって下支えされた。インドでは3月の消費者物価指数の伸び率が前年同月比4.85%へと鈍化し、5ヵ月ぶりの低水準となるなか、RBI(インド準備銀行)の金融政策委員会が政策金利を6.5%に据え置いた。総選挙の投票が始まっており、終了日の6月1日まで今後6週間かけ、7回に分けて投票が進められる。大方の予想では、ナレンドラ・モディ首相率いるインド人民党が勝利し、現政権が3期目入りするとみられている。
今後の見通し
市場は見通しの変化に直面
市場環境はここ1ヵ月で大きく変化した。米国では、これまで年内7回の利下げが予想されていたが、足もとではFRBの次の動きが利上げになる可能性さえも議論されている。これを受けて米ドル相場の見通しも変化し、米ドル高が続いている。アジア諸国の中央銀行は自国通貨の下支えを迫られており、インドネシアの中央銀行は先陣を切って0.25%の利上げを実施し、市場を驚かせた。結局、インフレが引き続き課題となっている。これまで北アジア地域はAI需要の急増の恩恵を受けるとみられていたが、足もとの市場では慎重姿勢が強まっており、グロース株ではなくバリュー株優位の状況に転じている。先行き見通しは変化しつつある。
中国の見通しは上向きつつあるか
中国では政府が不動産不況への対策案を打ち出し、これを受けて同国の株式市場は待望の上昇相場に戻った。中国の不動産需要は低迷を続けているものの、政府は代金支払い済みの居住用不動産の完成・引き渡し促進に本腰を入れている様子だ。完成した物件を受け取ることにより、消費者心理は改善するとみられている。その他の明るい兆しとして、習近平国家主席による最近の欧州訪問を受けて、中国にとって主要輸出先である欧州市場へのグリーン技術、電気自動車、太陽光発電関連製品などの輸出が下支えされる可能性もある。
引き続きインドを選好、アセアンはアジア域内において依然魅力的な投資先
インドでは国勢選挙が実施されており、現職のモディ首相が3期目続投を果たすとみられる。金融政策面では、RBIが政策金利を据え置いており、自国通貨の安定性を維持している。インド株式は、一部の小型株がファンダメンタルズ対比で過度に割高となりつつあるが、市場全体としては、とりわけ個別企業がファンダメンタルズ面でポジティブな変化をみせており持続可能な利益をもたらしていることから、割高ではないと考えている。当社では、引き続きインドを選好しており、複数の新しい投資アイデアの分析評価を進めている。
インドネシアを初めとするアセアン諸国では、経済活動が比較的堅調な地合いを維持しているが、インフレ圧力も高まってきている。一方で、こうした環境はデフレから脱しつつあるタイにとって良い方向に働く可能性がある。ドル高はアセアン諸国に通貨安圧力をもたらしている。しかし、概してアセアン地域は引き続きアジアのなかで魅力的な地域となっている。インドネシアやフィリピンなどは、高い成長性を取り込む機会をもたらしており、また、シンガポールは高い配当利回りを提供しているとともに、国有企業の構造改革が進む可能性があり、株主価値の向上実現が期待される。
始まりつつある新たな消費者向けテクノロジーのサイクル
世界は新たな消費者向けテクノロジーのサイクルへと急速に進んでいる。今回のサイクルでは、AI機能を搭載した消費者向けデバイスが牽引役となっている。AI対応デバイスには最新の半導体チップが必要となることから、現在の傾向はさらに別のアップグレード・サイクルをもたらすとみられる。台湾と韓国は、世界のテクノロジー製造の中心であり、特に半導体および関連分野に強み持っていることから、こうした新サイクルの恩恵が期待される。AI対応テクノロジーはまずハイエンド・デバイスに搭載され、続いてマスマーケット向けデバイスへと普及していくことから、当該サイクルの軌道は長いものとなる。次の成長の波を牽引するようなブレークスルーをもたらすアプリが待ち望まれている。
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