本稿は2024年6月25日発行の英語レポート「Harnessing Change」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

アジア株式は世界の株式市場と同様に堅調なリターンに


サマリー

  • 欧米は景気サイクル後期にあり、バリュエーションが割高であるのに対して、アジアはサイクルの初期にあり、バリュエーションが割安となっている。このことは、世界の投資家に優れた分散の選択肢をもたらすだろう。
  • 当月のアジア株式市場(日本を除く)は、米ドル・ベースの月間リターンが2.4%となった。国別では、台湾(米ドル・ベースの月間市場リターンが6.6%)と中国(同3.9%)がアジア地域の上昇を牽引する一方、フィリピン(同-7.2%)やインドネシア(同-6.8%)は劣後した。インフレが鈍化していること、および正確な時期は依然として不確かであるものの米FRB(連邦準備制度理事会)が年内に利下げに踏み切るとの見方が投資家のあいだで再び強まったことを受けて、株式市場は良好なパフォーマンスをみせた。
  • 中国では、株式市場が底値から反発し、不動産セクターにおいても当局が政策緩和ペースをこれまでで最も加速させるなど、状況が改善してきている。このことがアジア地域のリスクセンチメントの下支えとなっていることは確かだ。中国経済が本当に難局を脱したかどうかはまだ不明であるものの、中国の経済成長期待が見直されたことは明らかである。中国経済の安定化や財政出動ペースの加速によって、アジアの見通しは引き続き上向くだろう。

市場環境

当月のアジア株式市場は概して上昇
当月の株式市場は世界的に上昇に転じ、アジア株式市場(日本を除く)の月間リターンは米ドル・ベースで2.4%となった。インフレが鈍化していること、および正確な時期は依然として不明であるものの米FRBが年内に利下げに踏み切るとの見方が投資家のあいだで再び強まったことを受けて、株式市場は好調なパフォーマンスをみせた。第1四半期の企業業績が市場予想以上に良好となったことも、市場センチメントを押し上げた。

中国株式に対する投資家心理は改善傾向
北アジアでは、中国市場の月間リターン(米ドル・ベース)が3.9%となった。中国は、苦境にある住宅市場を支援するために、住宅ローン金利の下限撤廃や頭金比率の引き下げに加えて、地方政府に対して住宅を買い取り低価格住宅として提供することを促すなど、大々的な対策を発表した。また、中国は経済を下支えするために、1兆元相当の超長期特別国債の初回発行を開始した。4月の個人消費の伸びは市場の予想に反して前年同月比2.3%増へと鈍化する一方、鉱工業生産は同6.7%増と市場予想を上回る伸びを示した。香港市場は、中国の政策支援が投資家のあいだで好感されるなか、月間リターン(米ドル・ベース)が2.7%となった。また、香港の第1四半期の経済成長率は、前年同期比2.7%となった。

韓国(米ドル・ベースの月間市場リターンが-3.0%)は引き締め的な政策スタンスを維持して、政策金利を現在の3.5%に据え置くとともに、インフレ圧力をめぐるリスクについて改めて述べた。その他、先端半導体チップの需要が急拡大するなか、韓国は世界の半導体市場で競争するために半導体セクターを強化するべく190億米ドルの支援策を発表した。5月の輸出は、半導体需要が牽引役となって伸びが続き、前年同月比11.7%増となった。他では、貿易依存度が高い台湾(同6.6%)は、海外でのAIアプリケーション需要の高まりを受けて、2024年の経済成長率が従来予想を上回るとみられている。

アセアン諸国市場は地域の他の市場に対して劣後
アセアン諸国市場のパフォーマンスはまちまちとなった。フィリピン(米ドル・ベースの月間市場リターンが-7.2%)やインドネシア(同-6.8%)、マレーシア(同3.5%)の中央銀行は、政策金利を据え置いた。シンガポール(同3.5%)では第1四半期のGDP成長率(確報値)が前年同期比2.7%となるなか、政府は今年のGDP成長率見通しを1~3%に維持した。タイ(同-0.9%)は、経済を刺激するためにいわゆるデジタルウォレット・プログラムの資金として、34億米ドルの予算増額を計画している。

インド株式は上昇
インドでは、ナレンドラ・モディ首相が3期目の政権獲得を目指す総選挙の公式結果が待たれるなか、月間市場リターン(米ドル・ベース)が0.8%となった。格付け機関S&Pグローバル・レーティングは、インドの強固な経済ファンダメンタルズを理由にソブリン格付け見通しを「安定的」から「ポジティブ」へと引き上げた。また、インドの4月の小売インフレ率は、食品価格が高止まりしているものの、燃料価格の下落などを受けて前年同月比4.83%となり、若干ながら減速傾向となった。

今後の見通し

欧米とは全く対照的に、アジアは景気サイクルの初期にあり株式のバリュエーションが割安

中国では、株式市場が底値から反発し、不動産セクターにおいても当局が政策緩和ペースをこれまでで最も加速させるなど、状況が改善してきている。このことがアジア地域のリスクセンチメントの下支えとなっていることは確かだ。中国経済が本当に難局を脱したかどうかはまだ不明であるものの、中国の経済成長期待が見直されたことは明らかである。足元ではより低成長な見通しが広く受け入れられており、市場の注目は再びファンダメンタルズに集まっている。中国経済の安定化と財政出動ペースの加速によって、アジアの見通しは引き続き上向くだろう。欧米は景気サイクルの後期にあり、バリュエーションが割高であるのに対して、アジアはサイクルの初期にあり、バリュエーションが割安となっている。このことは、世界の投資家に優れた分散の選択肢をもたらすだろう。

中国では引き続きボトムアップによる銘柄選択が超過収益をもたらす見込み
中国については、中央政府が最近の財政緩和策でより積極的な役割を果たしていることに、特に明るい見方をしている。住宅市場の在庫解消は、足元で政府の重要な焦点となっており、不動産市場の安定化に大きく貢献する可能性がある。中国が不動産セクターへの依存から脱却するには、より多くのことが必要だが、同国は少なくとも正しい方向へと進んでいる。当社では、より長期的な経済改革は、7月の「中央委員会第3回全体会議(3中全会)」で発表されると予想している。中国で超過収益をもたらすのは引き続きボトムアップによる銘柄選択、特に中国経済のポジティブなファンダメンタルズの変化から追い風を受ける企業だと考えている。

インドでは選挙後の民間設備投資サイクルの始まりが次の成長を牽引する見込み
インドでは、インフラ投資が過去数年のあいだに大きく拡大してきたことを受けて、選挙後に民間の設備投資サイクルが始まり、これが同国の次の成長局面を牽引すると引き続き期待している。とは言え、中小型株分野の一部でバリュエーションがかなり割高であることは認識している。当社が引き続き有望視しているのは、国内のインフラ改善が追い風となる企業やオンライン・プラットフォームの運営企業である。インドネシアなどのアセアン諸国でもインドと似たような動向が見受けられるが、その規模はより小さなものとなっている。経済活動は堅調さを維持しており、各中央銀行には緩和サイクルを開始する余地がある。

他では、生成AI需要の構造的な波に乗じている台湾や韓国のテクノロジー企業は、AI搭載デバイスのさらなる普及によって恩恵を受ける優位な状況にある。パソコンやスマートフォンなどのAI機能を搭載したデバイスには、より新しく、より高性能なチップセットが必要になるため、このトレンドはまた別のアップグレードサイクルを生み出すかもしれない。



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