本稿は2024年5月24日発行の英語レポート「Balancing Act」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
グロース資産のスコアをプラスに維持、ディフェンシブ資産のスコアを中立に据え置き
投資環境概観
インフレの上振れにより米国で金利が近い将来引き下げられる可能性に疑問が投げかけられたため、市場ではボラティリティが再び高まっているようだ。米国が大幅な財政赤字を抱えながら好景気を維持しているなか、今や米FRB(連邦準備制度理事会)は市場が従来予想してきたほどの利下げを行えないものとみられる。こうなると、長期の米国債は多くのストラテジストが考えているほど魅力的ではない。しかし、ユーロ圏やカナダなどの市場では金融緩和の可能性が見え始めている。米国金利が高止まりする可能性を市場が理解するにつれ、市場のボラティリティが上昇するとともに、(2022年の市場で顕著だったように)債券・株式間の相関性が再びプラスに戻る可能性があると予想する。
本シリーズのレポートで以前述べた通り、当チームでは投資ユニバースの相互作用を予測しようとしているわけではなく、資産クラスのボラティリティと相関性が時とともに変化する性質を考慮した統計モデルに依拠している。現在、このアプローチにより、市場の下落局面で一貫して堅固なプロテクションを提供してきた金を選好している。加えて、歴史的にインフレ・ヘッジ機能を持つことで知られるエネルギー関連株も選好している。インフレが長く続くことを示唆する兆候が増えているため、インフレ下で優れたパフォーマンスを見せる資産を活用する一方、長期債など同環境下で苦戦しがちな資産クラスは避けることを目指している。
大まかに言うと、米国で好景気が続いていること、欧州で金利が引き下げられ経済が活性化する可能性があることから、株式についてはポジティブな見通しを維持している。第1四半期の決算は平均して市場予想を上回る内容となった。しかし、こうした成功は株価の相対パフォーマンスという点ではほとんど成果をもたらしていない。したがって、株式をオーバーウェイトとする利点は依然あるとみており、高いEPS(1株当たり利益)成長率を達成できると考える分野に注目し、AI(人工知能)の恩恵を受けやすいNASDAQ市場、および円安によって他国の競合企業に対する優位性がもたらされている日本株を選好する。
クロス・アセット*
当月は、グロース資産のスコアをプラスに、ディフェンシブ資産のスコアを中立に維持した。米国では、強力な財政出動が景気を下支えしている模様で、高水準の移民流入が経済全体にわたり消費支出を押し上げている。企業収益が概ね市場予想を上回っており、好景気の継続がグロース資産の見通しを下支えすると予想しているため、グロース資産に対して強気のスタンスを維持する。加えて、米国ではインフレが長引いているものの、欧州ではインフレ減速の兆しが窺われる。したがって、米国以外の国では金融当局がまもなく利下げサイクルを開始する可能性があり、これは世界の景気とグローバル株式全般にとって追い風となるはずだ。
グロース資産内での相対スコアの変更は行わず、成長性とインフレ・ヘッジ特性の組み合わせという観点から先進国株式とコモディティ関連株を最も高いスコアに維持した。また、新興国株式のスコアを小幅のプラスに維持する一方、上場インフラ資産とリートのスコアは大幅のマイナスに据え置いた。これは、両資産クラスの利回りが現在のグロース株の機会に比べて投資魅力に欠けること、また両資産クラスの金利上昇への感応度が依然高いことによる。
ディフェンシブ資産のなかでは、グロース資産だけでなく過度の政府支出に対してもヘッジとなる金のスコアをプラスに維持した。投資適格クレジットとハイイールド債のスコアを引き下げてプラス幅を一段と縮小する一方、先進国ソブリン債のスコアを引き上げた。投資適格クレジットのスコアの引き下げは、スプレッドが縮小しており、米国など一部の市場で一段の縮小の可能性がますます限定的となっていることを反映している。
*マルチアセット・チームのクロス・アセット見解は、(1)グロース対ディフェンシブ、(2)グロースおよびディフェンシブ資産内でのクロス・アセット、(3)各資産クラス内での相対的な資産の見方、という3つの異なる段階で示しています。これらの段階は、選好順位の水準は資産クラスが予想可能な形で似た動きあるいは異なる動きを見せるという当社のリサーチおよび直感的認識を表しており、したがって、資産クラスのクロス・アセットでのスコアリングは理に適っているとともに、最終的により熟考された堅固なポートフォリオ構築につながると考えます。
当社の見方
グロース資産
先月のグロース資産は、資産クラスにわたってバリュエーション水準のバランスが改善していたものの、インフレと金利に対する予想の変化を受けて下落に見舞われた。しかし、今月前半には、エネルギー価格が下落し債券利回りが低下するなか、グロース資産は徐々に反発して先月の下落分をほぼ取り戻している。今月傑出したパフォーマンスを見せていると言えるのはおそらく中国株で、急上昇している。
1月に著しく割安に見受けられた中国株式の年初来の上昇は、その大半が単純にバリュエーションの見直しに起因するものだ。当然ながら、株価は成長見込みに先行することが多いため、今月は中国株式の見直しを他国市場の成長機会と比較しながら行うことにする。
中国株式に対しては引き続き慎重
中国株式はかなり目覚ましい上昇を見せており、2024年1月下旬につけた底値から27%反発しているが、それでも、2021年2月につけた高値からは依然50%超低い水準にある。株価は企業収益に追随するものであり、中国株式にとっての主な課題は企業収益が明らかに停滞していることだ。実際、12ヵ月先の企業利益予想は過去5年で18%低下しており、年率換算で3%減少している。
このような収益の先行きに支払うべき妥当な対価とは、どの程度であろうか。たいして高くはないと言える。それでも、2024年1月に見られた予想ベースのPER(株価収益率)8倍というのは、異例に低い水準だった。現在では同PERが10倍を超え、5年前とおよそ同水準となっているが、問題は、バリュエーションの上昇を正当化できるよう、今後の成長見通しが改善して予想収益が上方に調整されるかどうかである。今のところ、企業収益を押し上げ得るような要因を見出すのは難しい。
これまでのところ、中国の景気刺激策は概ね効果を見せていない。不動産市場は依然極めて低迷しており、余剰生産能力が不足している需要を上回り続けているため、市場センチメントもあまり改善していない。中国は引き続きバランスシート不況にあり、当局が需要を刺激しようと試みているものの、実際には銀行融資の縮小を主因としてクレジット・インパルス(新規与信の対GDP比での伸び率)が大幅なマイナスとなっており、経済活動がさらなる縮小のリスクに晒されていることを示唆している。
当局は景気回復に全力を尽くしているのかもしれないが、あらゆるデータを総合すると、これまでのところ、不動産・負債・生産能力における過剰分の克服にはほど遠いようだ。したがって、企業収益は厳しい状況が続くと思われる。PER10倍というのはまだ非常に割安な水準であり、市場をサポートする希望の光をもたらしている。しかし、当社では、たとえ相対的に高いバリュエーションを受け入れることになるとしても、他国市場で提供されているより確実な成長機会を依然選好する。過剰生産能力とデフレは、企業の売上げ成長と利益にとって逆風となる。購買価格が上昇すれば、少なくとも需給バランスが改善しつつある兆しと言えるだろうが、そうした兆候はまだ見えてこない。中国には長期的に有望な投資機会がまだあるかもしれないが、他地域での投資機会の方が優れているため、当面は待ちのスタンスを維持したいと考える。
グロース資産に対する確信度の強い見解
- コモディティ関連株:当該資産クラスは、インフレ上振れと金利上昇へのヘッジとして優れたパフォーマンスを見せてきた。インフレ・リスクは概ね市場に織り込まれすでに顕在化しているかもしれないものの、バリュエーション面の魅力度とヘッジ特性から当該資産クラスを引き続き選好する。
- 日本株:地域別配分では、構造改革が進行している日本の株式を引き続き選好する。ただし、日本株は年初来のパフォーマンスで他国市場を大きく上回っており、他の地域で利下げが始まれば投資機会の範囲は広がるとみている。
- 米国の長期的グロース株:米国のテクノロジー関連株は2月以降概ね横這いで推移してきたが、先月からは下落分を取り戻している。ここ3ヵ月に迎えた踊り場は今後の上昇を支える健全な動きであり、当該セクターにはまだ大幅な上昇余地があるとみている。
- 欧州株式のスコアをプラスに維持:欧州株式は、依然割安なバリュエーションと今後の利下げ見込みから投資価値と景気循環的な成長機会を提供しており、ポートフォリオにバランスをもたらす。英国も近く利下げが想定されており、バリュエーションの割安な投資機会を提供している。
ディフェンシブ資産
ディフェンシブ資産におけるスコア変更は当月は小幅にとどめ、クレジット市場のなかで相対的に利回りが高い分野にポジションをシフトするような調整を行い、米国のハイイールド債のスコアを引き下げる一方、投資適格クレジットにおいては為替ヘッジ後で高い利回りを提供しているオーストラリアを最も高いスコアに維持した。先進国ソブリン債については、為替ヘッジ・ベースで依然魅力的な利回りを提供しているオーストラリアのスコアを大幅なプラスに維持した。ただし、オーストラリア国債はここ3ヵ月アウトパフォームしており、また同国はインフレがカナダ、英国、ユーロ圏など他の先進国を上回り続けているため、今後数ヵ月内にスコアを見直す可能性がある。金については、世界中で高水準の財政支出が行われていることから、ポートフォリオの安定要因としての役割を考慮し、スコアをプラスに維持した。
利下げ、イールドカーブの形状と為替ヘッジ後の利回り
過去6ヵ月、当社では、米国に比べてインフレと経済成長率の低いユーロ圏が最初に利下げを開始する可能性が高いと考えてきた。2024年が進んで、現在ではこの見方が市場の主流となりつつあり、ECB(欧州中央銀行)は今後3ヵ月以内に利下げを開始すると予想されている。ここ6ヵ月はイールドカーブの長短逆転度が大きかったため、金融緩和を見込んだポジションをアグレッシブにとることは控えてきたが、利下げサイクルの開始が近づくのに伴い、より優れたインカム収入機会が浮上してくるとみている。
今後数ヵ月は、ディフェンシブ資産において魅力的な投資機会が増えるものと考える。これまでは、イールドカーブの大幅な長短逆転を受けて為替ヘッジ・コストが極めて高くなり、それによって海外債券の保有コストが高くなっていた。例えば、欧州の債券利回りは現地通貨ベースで10年ぶりの高水準に達したが、為替ヘッジ・コストを考慮した利回り水準では、日本の投資家が受け取るインカムは実質的に2000年代前半以降で最も低くなっていた。欧州のクレジット物は利回りが4%近くあるものの、現地通貨ベースの利回りが同様の水準にあった2010年代前半とは異なり、現在では日本の投資家がインカム収入を得るのはより困難である。したがって、ECBは早ければ2023年後半に最初に利下げに踏み切るだろうと考えていたものの、欧州の債券を大幅なオーバーウェイトとするのは難しいと判断していた。利下げを待つあいだの保有コストが単純に高すぎたからだ。
しかし、欧州と英国で利下げが近づき、カナダでもその可能性が出てきていることから、低利回り資産を保有せざるを得ない期間はそう長くは続かないだろう。そこで考えるべき問題は、今後高い利回りを獲得できる可能性がある市場はどこかということだ。為替ヘッジ後の利回り水準が低かった原因は債券イールドカーブの形状にあったため、イールドカーブのスティープ化に注目すべきだろう。上述した3つの市場では、利下げがイールドカーブをスティープ化させる主な要因の1つになる可能性が高い。ドイツを例にとった下のチャート4に見られるように、イールドカーブは利上げ局面では大幅にフラット化し、利下げサイクルの初期では大幅にスティープ化している。
したがって、これらの市場の債券保有コストは依然高いものの、利下げの可能性が差し迫っている今、その投資魅力度は増している。中央銀行の利下げが始まれば債券イールドカーブはスティープ化すると予想しているため、当社では残存期間0~5年ゾーンの債券を選好している。イールドカーブのスティープ化が始まれば、ポートフォリオを残存期間がより長めのゾーンへシフトさせることが魅力的になるかもしれない。債券ポジションの為替ヘッジが必要な投資家にとっては、米国以外の市場でのヘッジ・コストが大幅に低下する可能性がある。
ディフェンシブ資産に対する確信度の強い見解
- 満期の短い投資適格クレジット:信用スプレッドは引き続き適正水準にあるが、多くの国で依然イールドカーブが長短逆転しているため、満期が長めのクレジット物は投資魅力度が相対的に低くなっている。イールドカーブがスティープ化するまでは、満期が短めのクレジット物の選好を継続する。
- 金はヘッジとして依然魅力的:金は実質金利の上昇やドル高にもかかわらず底堅さを示しており、地政学的リスクおよびインフレ圧力長期化に対するヘッジとしての有効性を証明している。
- 新興国債券の利回りは魅力的:現地通貨建て新興国債券の実質利回りは総じて非常に魅力的であり、また、年後半に米国で利下げが見込まれドル高の勢いが和らぐ可能性があるなか、当社ではクオリティの高い新興国通貨を選好している。
プロセス
リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:
当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。