当レポートは、英語による2024年6月17日発行の英語レポート「BOJ takes a slow, steady approach to reducing bond purchases」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。


日銀は6月の金融政策決定会合において大方の予想通り金利を据え置いたが、毎月の国債買い入れ減額にすぐ動くと見込んでいた市場参加者にとってはやや失望的な決定内容となった。そうした市場参加者のあいだでは買い入れ額が現在の6兆円から5兆~6兆円の範囲へ減額されると予想されていたことから、失望感が広がりドルが円に対して小幅に上昇した。日銀は、国債の買い入れを減額する方針を示したが、減額計画については四半期毎に発表している「経済・物価情勢の展望」の次回レポートの発表とともに、7月に開催される次回政策決定会合でまとめるとした。

また、翌日物金利は日銀の金融政策ツールの柱であることから、今後の利上げに関するより詳細な見通しが示されることも市場は期待していたが、そうしたガイダンスは示されなかった。政策決定会合後の記者会見でも、植田和男総裁は日銀のバランスシート縮小や利上げに関する見通しをより詳細に示すことはなかった。植田総裁は、日銀のバランスシート縮小方針について、金利と債券価格の決定機能を市場に戻すことが目的であると説明した。円安など、追加利上げを促し得る要因について質問されると、ごく一般的な回答を示し、2%のインフレ目標達成の可能性が高まるかどうか(インフレ率が日銀の見通しに沿って上昇する場合)など、引き続きデータ次第で対応していくと述べた。植田総裁は、データによって正当化される場合には7月に利上げを実施する可能性があることを否定しなかった。

7月にさらなる詳細を発表するまで、日銀はマイナス金利政策やイールドカーブコントロール、ETFおよびREIT買い入れを終了した3月の政策決定会合で発表した通り、国債買入れを継続する予定である。植田総裁が政策決定会合後の記者会見で繰り返し述べたように、日銀は市場参加者の意見を確認した上で7月の政策決定会合で議論を行い、今後1年から2年かけて日銀の国債保有残高を減らしていく計画を発表することになる。

FRBやECBと異なり、日銀にはより時間的余裕がある

実際、日銀は国債買い入れ減額に関してより詳細なガイダンスを示すことを渋っていたが、この姿勢は4月会合時に示された早急な対応が必要との見解とは対照的である。4月時点では、イールドカーブコントロールの段階的な解除によって従来の政策枠組みからの円滑な出口につながったことから、日銀は国債買い入れの減額も機を捉えて進めていくことが大切だと述べられていた。

しかし、3月に日銀が従来の政策枠組みから転換した際にある政策委員が指摘していた通り、欧米でみられているような賃金インフレに陥るリスクは低く、特にインフレを受けた中小企業の賃上げがより持続するように促す時間が存在していた。

加えて、総じて堅調に景気回復を遂げているなか、国内外の見通しをめぐるいくつかの不透明要因が残っている。そうした背景から、日銀は追加刺激策を打ち切る前に時間的余裕を設けた可能性がある。例えば、消費や民間投資が低迷したことで日本の第1四半期のGDPはマイナス成長となったが、このうちどれほどが一時的に停滞した自動車生産の影響によるものなのかはまだみえていない。

さらに、労働供給が不足している状況や春闘での賃上げ交渉などを受けた賃金上昇圧力が鮮明になっているものの、実質賃金の上昇はまだ実現していない。消費が拡大した主因は、家計が貯蓄を減らして消費に回してきたことにある。実質賃金上昇の実現などを含む「好循環」の次の展開はまだみえていないが、いずれは上昇すると予想するが妥当であろう。

日銀の4月の政策決定会合における主な意見を再び参照すると、金融緩和のさらなる調整を検討する上でのポイントとして、日銀は「夏場にかけて、前向きな企業行動」を確認する必要があるとし、具体的には堅調な設備投資の継続や、賃上げを契機とする年後半にかけた個人消費の改善傾向に注目していた。この点は、企業・家計動向に関する追加データが得られるだろう7月まで政策を据え置くことにした日銀の決定と整合的である。


ドル/円相場について

円が一時的に急落し1ドル=160円を突破した際には財務省が為替介入を実施したが、日銀は円安が日本の購買力を低下させる可能性をめぐってはより慎重な見方を維持している。円安は短期的にはコストプッシュ型の物価上昇を招く要因となるものの、日銀はその先を見越しており、4月の金融政策決定会合における主な意見のなかで、インバウンド需要の増加や製造業における生産拠点の日本回帰などを通じ、生産や所得への拡張効果も期待されると強調している。

当社レポート「適度な円安水準とは」で指摘したように、円安が足元の水準から多少進んだとしても、日本の好循環を損なうことにはならない可能性がある。日銀としては、ドル/円相場が一時的に振れて記録的円安水準を突破することよりも、さらに円安が進む傾向が持続することの方を懸念するとみられる。

次の7月会合でQTが期待外れとなる可能性は低いとみられる

確実に分かっていることとして、日銀は、他の条件がすべて同じであれば、7月に国債買い入れ減額計画を示すとした。今回の会合の結果は市場参加者の失望を招いたが、その減額計画の内容はそれほど期待外れにはならないだろうとみている。その理由は、日銀が債券市場参加者会合の実施を計画しているからだ。これらの会合は、市場参加者が自らの期待内容等を日銀に示す機会となる可能性がある。日銀は債券市場の混乱回避を強く望んでいることから、こうした会合の主な役割は、量的引き締め(QT)の規模やタイミングに関する期待を測り、市場の期待に沿ってQTを進めていくことにあるとみられる。


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