本レポートは、2024年6月10日発行の英語版「India’s election and implications for equities」の日本語訳です。内容については英語の原本が日本語版に優先します。

2024年のインド総選挙では、出口調査予測や市場予想に反して、ナレンドラ・モディ首相率いるインド人民党(BJP)が239議席しか確保できず、単独過半数に必要な272議席に届かなかった。前回の2019年選挙ではBJPが303議席を獲得していたことから、大幅に議席を減らしたことになる。それでもモディ首相のBJPを中心とした政党連合である国民民主同盟(NDA)はなんとか291議席を確保した。

選挙前から協力してきたアンドラプラデシュ州とビハール州の政党からの重要な支援を得ながら、NDAは政権をリードしていくことになるが、連立での政権となり、野党との議席差も縮小することになる。一方で、野党連合のインド国家開発包括連合(INDIA)は予想外の躍進をみせて234議席を確保したほか、その中心であるインド国民会議(INC)は議席数をほぼ2倍の100議席に伸ばした。

BJPの連立相手はより大きな交渉力を持つことになり、閣議決定や重要な改革にまで影響を及ぼす可能性がある。これは、BJPが重要な意思決定プロセスに連立相手を含める必要があることを意味する。モディ連立政権は議席数を減らしたかもしれなないが過半数を維持しており、インド国民が同政権の3期目続投を支持する投票結果となったことは、政策の継続と改革の勢いの維持が望まれていることを示している。

選挙結果が示す農村部の苦境と大規模な雇用創出の必要性

選挙結果の事後分析によると、有権者は失業やインフレといった問題に不満を抱いており、よりポピュリスト(大衆迎合主義)的な選挙公約の方がより大きな訴求力を持っていた可能性がある。インドは引き続き堅調な経済成長が見込まれているが、家計消費の伸びと実質GDPの伸びとの間には乖離があるように見受けられる。コロナ禍後のインドでは、消費がK字回復をみせてきており、富裕層向けや高級品分野の需要は好調だが、ベーシックな商品やマスマーケット向け商品の需要は低迷を続けている。

所得ピラミッドの下位層は新型コロナウイルス流行以降苦境に立たされており、財政支援が限られていることで状況はさらに悪化している。農業以外で最大の雇用創出源となっているのは建設業であることから、経済成長の恩恵が及ぶ範囲を広げて所得格差を是正していくためには、インド国内の幅広い分野における設備投資サイクルの回復が必要とみられる。当社では、同国政府に求められるのはインフラ整備とデジタル化への注力を維持しつつ、雇用の創出と製造業の拡大に一層重点的に取り組んでいくことであると考えている。

選挙結果は政府支出の変化を示唆しているが、財政状況が悪化する可能性は低い

インド経済の状況をみてみると、政府の施策などに後押しされて投資主導の成長を遂げているが、消費は冴えない。選挙の結果を受けて政府支出の方向性が一部見直される可能性もある。しかし、当社では、同国政府がマクロ経済の健全性重視の姿勢を維持すると引き続きみている。

設備投資をある程度犠牲にして補助金支給へとシフトする可能性はあるが、当面は大きな影響をもたらすことはなく、暫定予算案で対GDP比5.1%とされた財政赤字目標から乖離することもないとみている。政治的必要性から政府がリフレ政策を実施する場合には、財政再建が遅れる可能性もある。供給サイドの改革は継続される可能性が高いが、生産要素市場の改革は難航するかもしれない。

インドのファンダメンタルズは引き続き良好

インド経済のファンダメンタルズは引き続き良好である。インド国内での改革は概して政治的課題を乗り越えてきており、政府はガバナンス改革や行政改革のペースを維持してくと予想される。しかし、土地や労働が関わるより複雑な改革については、さらなる合意形成が必要とされている。

したがって、目先の不透明感は高まっており、政治環境に若干の違いはあれども、改革やマクロ経済要因の大まかな方向性は変わっていない。インド株式市場の長期的なポテンシャルについては、引き続き非常にポジティブな見方をしている。

差し当って焦点となったのは新政権発足と政党間の政治的駆け引きだが、6月9日にモディ首相の就任宣誓式が行われ、内閣には連立パートナーからの新しい顔ぶれも加わった。政策の方向性を見極める上で今後注目されるのは、7月初旬にまとまる可能性が濃厚な最終予算である。

新政権発足後125日間の政策計画は、経済改革の方向性を決める重要なイベントとなるだろう。当社では、デジタル化、インフラ整備、工業化、ガバナンス関連の改革に重点が置かれると考えている。

リターンの持続性が高く、ファンダメンタルズのポジティブな変化を遂げつつある企業に フォーカス

短期的には、インド株式市場はボラティリティが高まるとみられる。しかし、選挙をめぐる先行き不透明感が解消された今、中期的には企業の設備投資や信用サイクルが堅調に推移するとみられる。加えて、ここ数年間で積み上がってきた家計貯蓄が国内株式市場に流れ込むとみられるほか、消費を一段と押し上げることも期待される。

より長期的にみると、今こそインドの優良企業の見極めを進める好機である可能性がある。当社は、フリーキャッシュフローが高水準で負債比率が低く、資本利益率が高い企業に引き続き注目している。現時点では、金融セクターの大手民間銀行、一般消費財セクターの自動車関連分野、コミュニケーション・サービス・セクターを有望視している。


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