当レポートは、英語による2024年7月4日発行の英語レポート「Time to revisit Chinese bonds from a global portfolio perspective」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。


静かだが明白な中国の投資機会を世界の投資家は見逃している可能性

最近、中国は世界のニュースの見出しに頻繁に登場するようになったが、その多くは特に明るい話題ではない。世界的な貿易障壁の高まり、銅からソーラーパネルに至るまでの中国産工業材料の余剰在庫増加、国内不動産市場の苦戦、消費者需要の鈍化などはいずれも中国株式市場の低迷要因となっている。このように世界第2位の経済大国である中国の景気減速に目が行きがちだが、世界の投資家は何か見落としてきたのかもしれない。

中国の債券市場は、一見して明らかな点よりもはるかに多くの利点を世界の投資家にもたらすと考えられる。中国債券は、グローバルポートフォリオにおいて優れた分散投資機会を提供する資産クラスであるとみられる。経常収支が黒字で、他国がインフレ抑制に苦戦するなかで消費者物価の上昇を目指している国の「安全」な資産もある。当レポートでは、中国と世界の市場動向を考慮すれば、グローバルポートフォリオの中で中国債券、さらには人民元建て債券を無視するのは間違いとなり得る理由を考察する。

債券にとって追い風となる中国国内の動向

経済成長率が鈍化しており、インフレ率が低水準やマイナス圏にある状況は、株式投資家を躊躇させるかもしれないが、以下に挙げるいくつかの理由から債券の投資魅力を強めている。

  • 中国経済の低成長:中国経済は政府主導の構造改革が進められており、不動産市場頼りから脱却して、電気自動車、人工知能、先端製造業などの「ニューエコノミー」分野を柱とする構造へと移行しつつある。当面は、こうした移行の動きが景気全体の重石になると予想される。過去10年間と比べて経済規模が大幅に拡大していることや、人口高齢化も進んでいることから、中国の成長は必然的に従来と比べて減速することになる。
  • 低インフレ:経済構造改革の影響(特に住宅価格下落に伴う負の資産効果やセンチメントの悪化)、そし新型コロナウイルス流行下で家計への直接現金給付が行われなかったことが、需要の鈍化やインフレ圧力の不在へとつながった。ここ数年にわたって景気減速が続いてきたものの、依然として中国は、必要な場合に景気を下支えする手段として金融政策による対応余地を温存できている。
  • 慎重な財政刺激策:財政政策は緩和的だが慎重に進められており、国債の供給がやや増加しても市場は過度にボラティリティが高まることなく吸収可能とみられる。
  • 非常に低いデフォルト確率:高水準の対外収支黒字などを考慮すると、中国政府機関が対外的または対内的にデフォルトに陥る可能性は非常に低い。中国の総債務の対GDP比率は高水準であるものの、その多くは自国通貨建てである。さらに、中国のクレジットインパルス(新規与信の対GDP比伸び率)が示すように、国内債務の伸びは鈍化している(チャート1および2参照)。

チャート1

チャート2

通貨面の優位性:中国人民元のファンダメンタルズは良好

中国人民元は、中国が経常黒字国であることの恩恵を受けている。投資資金の国外流出が膨らむ局面でも経常黒字が追い風となってそれを乗り切ることができると期待される。人民元の対CFETS指数(貿易加重通貨バスケット)レートは、中国において新型コロナウイルス流行の打撃が特に深刻化した2022年にすでに幾分調整している(チャート3参照)。一方、中国当局は人民元相場のボラティリティ軽減に取り組んでおり、同通貨のリスク・リターン特性にとって有利な状況がもたらされている。人民元は世界各国の外貨準備高に占める割合が過度に低く、増加する余地があるほか、中国政府が国内債券市場の深化を目指していることも、中国国内の人民元需要の回復を後押しするかもしれない。

チャート3

米中貿易摩擦は激化しているものの、アジア域内(日本を含む)での貿易関係は強まっているようにみえる。このことも、外貨準備として中国人民元建て資産を保有しているアジア諸国からの人民元需要を高める要因となるかもしれない。

利点は国内のみならず:中国債券や人民元建て債券はグローバルでの分散投資先に

中国人民元や中国債券を保有する利点は、国内のファンダメンタルズだけにとどまらない。例えば、中国国債は過去7年間にわたり当社グローバル・マルチアセット・チームの戦略的資産配分における中核的な要素となってきているが、その理由は同債券の特性にある。中国国債はリスク資産との負の相関関係を維持しており、ポートフォリオに強力な分散効果をもたらしてきた。先進国全般においてインフレの動きが再燃するなか、中国国債は、多くの先進国ソブリン債よりもリスク資産に対する優れた分散効果をもたらし続けるとみている。

ポートフォリオにもたらす利点:中国債券による分散効果

日興AMのリスクモデル(表1参照)は、中国債券市場のユニークな特性を示している。中国債券市場は、ほとんどの株式市場との相関関係が引き続きマイナスとなっており、伝統的なソブリン債市場との相関度合いもわずかなプラスにとどまっている。過去3年間、中国の金融政策サイクルは先進諸国から乖離しており、中国では金利の低下によって債券市場がディフェンシブなポートフォリオ・アロケーションにおけるより伝統的な役割を果たすことができている。加えて、上述したようにインフレ率が低水準で、不動産セクターが減速しており、潜在成長率も低下している状況は、中国と欧米諸国の金融政策のデカップリングが続き、中国債券のそうしたディフェンシブな特性が持続するとみられることを示唆している。

表1

これをリスク資産と米国債との相関関係と比較してみよう。S&P500と米国債の相関度合いはマイナスからプラスへと転じている(チャート4参照)。中国の場合とは反対に、米国では高インフレと金利上昇を受けてあらゆる金融資産がより同じようなパフォーマンスを示すようになっている。つまり、かつてはリスク分散に用いられていた伝統的なディフェンシブ資産が今ではポートフォリオのボラティリティ上昇に寄与しているのだ。市場で現在予想されているよりもインフレの高止まりが続く事態となれば、相関関係が過去20年間よりも高水準で推移し、以前の1970年から1990年にかけてのインフレ局面下のように株式と債券がより一貫して正相関の関係を示すようになるとみるのが妥当であろう。下のチャート4は、過去3年間において米国債市場で生じている変化について、よりディフェンシブな選択肢となっている米ドルと比較して示したものである。

チャート4

為替ヘッジありか、為替ヘッジなしか?

現在の為替ヘッジ・ベースの債券利回りは非常に低水準である。中国債券も例外ではない。例えば、日本の投資家にとって、中国国債10年物の利回りは円ヘッジ・ベースだと-0.40%程度である。しかし、中国人民元は米ドルのウェイトが高い通貨バスケットに対して管理されているため、米ドル高に対してもより底堅い推移を示している。重要な点として、先ほど説明した通り、米国債は過去3年間でリスク資産との相関性が高まっているが、米ドルは負の相関関係を維持している。

このことは、投資家の基準通貨によっては、為替ヘッジなしで中国債券を保有することで分散投資効果が高まる可能性があることを示唆している。以下の表2は、日本円およびシンガポールドルを基準通貨とする投資家において、中国債券に為替ヘッジあり、そして為替ヘッジなしで投資する場合の分散効果を示している。興味深いことに、シンガポールドルをベースとする投資家では、為替ヘッジなしで中国債券に投資することでリスク資産に対する分散効果が向上する一方、円をベースとする投資家では、デュレーションリスク(特に米国債5~7年物)に対する分散効果が強まる。これは資産構成によってはポートフォリオに追加のプロテクションをもたらすとともに、ヘッジコストの削減によって利回りの向上にも寄与すると期待される。

表2

米国の財政状況を懸念すべきか?

本レポートの文脈において検討すべき最後のポイントは、米国債をめぐる同国財政の持続可能性である。現在、米国政府の財政赤字は対GDP比5%を超えている。これは従来であれば不況期に限ってみられてきた赤字水準である。こうした高水準の赤字は政府の債務負担を増大させ、国債発行の増加につながるとみられる。IMFが述べているように、そうなればインフレ収束の最後の1マイルの達成がより困難になるかもしれない。インフレが高止まりし、米国政府が大量の国債発行を迫られるようになれば、資金調達コストが上昇するにつれて財政赤字が持続不可能になっていく可能性もあるため、戦略的な視点から米国債以外への分散を引き続き進めていく好機となるかもしれない。

一方、中国も比較的高水準の債務を抱えているが、一般政府債務の対GDP比率は米国を下回り続けている。さらに、中国は金利が低いため、国債の利払い費がより管理可能な水準にある。米国の債務負担が持続不可能な水準に達するかは依然不透明だが、グローバルポートフォリオの観点から、国内が低インフレ環境にあるとともに分散投資効果をもたらす中国債券は米国債の代わりに検討すべき重要な市場であると考える。

結論:中国債券は貴重な分散投資効果をもたらす

以上のように、中国債券はそれ自体に投資妙味があるだけでなく、グローバル・マルチアセット・ポートフォリオにもたらす貴重な分散投資効果も魅力的である。近年、伝統的な「リスクフリー」資産(先進国国債)はリスク資産に対する分散効果をあまり発揮できていないが、中国債券にはそれが期待できる。また、中国債券は今後も分散投資先として優れた価値を提供し続ける可能性が大きい。これは、中国と多くの先進国債券市場(特に米国)の間でマクロ経済動向が異なるためである。また、中国人民元も独自の分散効果を発揮する可能性がある。ただし、それがもたらす通貨分散の効果は、ポートフォリオの基準通貨によって左右されるとみられる。


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