本稿は2024年7月9日発行の英語レポート「From beauty products to bicycles: the promising landscape of Asian small caps」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

韓国の「インディーズ」系化粧品ブランド:巨大財閥に代わる有力な選択肢に

世界の美容業界をより規模の小さい韓国企業が席巻するようになったのは周知の通りだ。1990年代に始まった「韓流」の波は、韓国の文化やエンタテイメントの世界的人気に火をつけた。今日、これには美容トレンドも含まれ、「Kビューティ」と呼ばれるスキンケア製品や化粧品で世界の美容トレンドを切り開いている。例えば「グラス・スキン」という言葉は美容意識の高い人々の間で世界的に定着しており、潤いと輝きに満ちた肌にするための10ステップのスキンケア法も広まっている。

韓国といえば、自動車や半導体などのグローバルな産業を支配する巨大財閥が有名かもしれない。しかし、化粧品の分野では、韓国の独立系の「インディーズ」企業が非常に大きな存在感を示しており、国内外の市場を席捲している。その一例であるiFamilySC Company Limitedは、同社の代表的ブランド「ロムアンド(rom&nd)」で大きな成功を収めている。ロムアンドは、iFamilySCとともに同ブランドを立ち上げた韓国トップクラスの美容クリエイターであるミン・セロム氏の名前に由来する。2016年に立ち上げられた同ブランドの成功要因は、トレンドにいち早く反応し、目を引くマーケティングと強力な商品ラインナップでMZ世代(ミレニアル世代とZ世代)消費者の注目を集める能力などにある。ロムアンドは、韓国を代表するヘルス&ビューティーストア・チェーン「Olive Young」の化粧品部門ランキングでトップブランドの1つにも選ばれている。また、期間限定のポップアップストアをマーケティング手段として積極的に活用していることも、現代の若者に受けている。今年4月に韓国で出店されたポップアップストアには12日間で推定4万人が訪れており、効果的なマーケティングツールとなっている。同社は海外でも流行を巻き起こしている。メディアによると、日本のローソンで販売された同社の化粧品は2ヵ月分の在庫30万個が3日で完売したという。1

1 IT MediaビジネスOnline(2023年4月10日)、東洋経済オンライン(2023年9月2日)

韓国のインディーズ系化粧品会社は、トレンドの変化に素早く反応して取り込んでいく能力を発揮してきた。これらの小型株企業は、韓国、そして世界の化粧品市場での存在感を確立している(チャート1参照)。

それらの企業が急成長を遂げている主な理由は、市場のトレンドへの迅速な対応と、オンライン・マーケティング・チャネルを効果的に活用する能力にある。こうした成長を促進する役割を果たしてきた企業の1つがSilicon 2 Company Limitedだ。オンラインベースのKビューティ・プラットフォーム「stylekorean.com」を運営する同社は、独立系の韓国企業が展開する(Kインディーズ)化粧品を世界に向けて販売していくことに力を入れ、300以上のブランドの商品を170ヵ国以上で提供しており、業界をリードするB2B向け卸売事業者へと成長している。

より小規模な企業が証明しているトレンドへの素早い対応力

アジアの小型株企業の成功事例は域内の至る所でみられる。これらの企業は強力なイノベーションと素早いトレンド対応力を示してきた。例えば、台湾のGiant Manufacturing Company Limitedは適応力と機動力を発揮し、新たなトレンドや技術の進化に迅速に対応できている。

Giant:低成長産業におけるグルーバルリーダー

自転車メーカー大手のGiantは、成長性の低い業界にありながらその中で世界をリードする存在になることで成功を収めた。2011年以降の同社売上高の中央値は業界平均の2倍以上の水準で推移している。ROE(自己資本利益率)の中央値は20%と、利益の持続性も証明している(チャート2参照)。他社に先駆けて自転車にカーボンファイバーやアルミニウムを用いるなど、その革新的な技術の導入や、品質と手頃な価格を追求する姿勢が、台湾で創業したGiantを世界最大級の自転車メーカーの座へと押し上げた。

小型株:持続的なリターンと分散投資機会を得るための手段

目まぐるしく変化する投資環境下において、アジアの小型株は、持続的なリターンと分散投資の機会を求める投資家にとって有望な投資先となってきている。これらの企業は、経済発展が進んでおり大きな可能性を秘めた市場で事業を展開している。以下では、世界中の投資家がアジア小型株に注目すべきその他の理由を説明していく。

大規模かつ拡大中の投資ユニバースへのアクセスを提供

アジア(日本、オーストラリア、ニュージーランドを除く)の小型株銘柄数は9,500銘柄を超え2、米国の5倍にのぼる。また、小型株はアジア市場での存在感が高まっている。例えば、韓国と台湾の上場企業の90%以上が小型株であるのに対し、米国の場合は55%である。さらに、アジア小型株ユニバースは飛躍的な拡大を遂げている。2021年以降、アジア小型株の銘柄数は17%増加している。それに比べ、米国と日本では小型株の銘柄数がそれぞれ7%減少している。

2 時価総額が1億米ドル以上20億米ドル未満の企業

世界の他の地域と比較しても、アジアは小型株のユニバースが大きい。これらの企業はまだ開拓されていない大きなポテンシャルを秘めた市場で事業を展開している場合が多く、著しい経済成長と発展を遂げている地域へのエクスポージャーを提供している。

ファンダメンタルズの変化を捉える最有力候補

アジアの小型株は、単に短期的なリターンをもたらすだけではない。ファンダメンタルズの変化を捉えて将来の成長ポテンシャルをもたらし、ポートフォリオにおいて戦略的に重要な役割を果たす。これらの企業が進化して繁栄していけば、将来的に業界のリーダーになれるチャンスがある。例えば、2015年当時に小型株だった銘柄の15%は、現在では中型株や大型株になっている。さらに、小型株は高いリターン創出力を証明してきている。このことは、インドのNIFTY小型株指数が2020年以来年率約50%のリターンを提供していることからも明らだ。インドでは、デジタル化による構造改革や、物流コスト削減につながっているインフラ拡大など、ファンダメンタルズの変化が顕著にみられている(当社レポート「インドの変革トレンド」参照)。

MSCI Asia Small Capインデックス(除く日本)を基準にすると、小型株はインドなど魅力的な成長分野へのエクスポージャーが31%となっており、MSCI Asiaインデックス(除く日本)での20%よりも高いことがわかる。セクター別でみると、小型株は資本財・サービスへのエクスポージャーが高く、大型株指数でのわずか7%に対して18%にのぼっている。3資本財・サービスセクターは、経済拡大期において著しい成長を遂げることが多く、技術革新やインフラ関連分野へのエクスポージャーを提供する。

3 MSCI(2024年5月現在)

高成長を遂げるポテンシャル

アジアの小型株企業は得てして著しい成長を遂げる可能性を秘めている。新興国の市場や経済が台頭するなか、これらの企業は消費者基盤の拡大や製品・サービス需要の増加を活かしていける有利な立場にある。

アジアの小型株の収益成長率は、中型株や大型株よりも高い水準で推移してきている。2012年以降、小型株のEPS成長率が年率10%であるのに対し、中・大型株は6%となっている。インドは小型株の優位性を示す好例である。同国はアジア小型株に占める割合が4分の1に過ぎない。しかし、インドの小型株はROEが20%を超えており、アジア小型株の高収益銘柄のうち約半分を占めている。

20年前にはNvidiaは小型株だったが、今やその時価総額が韓国や台湾などの株式市場全体の時価総額を上回っていることは覚えておく価値があるだろう。アジアの小型株のなかには、高い成長性と収益性を示している企業が多数存在する。韓国の半導体製造装置メーカーであるHanmi Semiconductorを例に挙げると、同社は好調な売上高成長を受けて18ヵ月(2023年1月~)のうちに時価総額が8億9,000万米ドルから121億米ドルに増加した。アジア小型株ユニバースをみると、そのうち60%が過去5年間においてFTSEアジア指数(除く日本、オーストラリア、ニュージーランド)のパフォーマンスを上回っている。

より組織体制がシンプルな企業へのアクセスを提供

小型株企業は、コングロマリットのように複数の事業部門にまたがる組織体制ではなく、ニッチ市場に特化したよりシンプルな組織体制を維持している場合が多い。このシンプルさは、特定の分野に直接投資することを好む投資家にとってより魅力的となり得る。そうした投資家は、その純粋で、より高い成長性を理由としてより割高なバリュエーション水準でも買うことをいとわないとみられる。また、各国の投資家はより良く理解している自国市場の小型株に投資する傾向がある。

よりバランスのとれたリスク特性を実現

当社では、アジア小型株をポートフォリオに組み入れることで、ポートフォリオ全体のリスクを増加させることなく、より高いリターンをもたらすとみている。2024年5月までの過去5年間における米ドル・ベースのリターンは、MSCI Asia Small Capインデックス(除く日本)が54.9%であったのに対し、MSCI Asiaインデックス(除く日本)は12.8%だった。チャート3をみると、FTSEアジア小型株指数(除く日本)のボラティリティがFTSEアジア指数(除く日本)と比べてそれほど高くないことがわかる。小型株に投資することで、投資家は実質的にリスクを分散しながら株価の上昇余地も維持することができる。

様々な状況下で優れたパフォーマンスを発揮

小型株は金利が低水準で流動性が潤沢な環境下でのみアウトパフォームする傾向があると一般的には考えられている。欧米市場の過去データはこうした見方を裏付けている感があり、特に米FRB(連邦準備制度理事会)やECB(欧州中央銀行)が金利を引き上げた時期は、大型株に比べて負債が多いとみられている小型株にとって不利な環境になることが多い。

しかし、アジアの小型株のパフォーマンスはこうした想定に反している。2022年以降の金利上昇にもかかわらず、アジアの小型株は大きくアウトパフォームしており、MSCI Asia Small Capインデックス(除く日本)は2024年5月までの米ドル・ベースのリターンが1.93%であったのに対し、MSCI Asiaインデックス(除く日本)は-9.76%となっている。こうした堅調なパフォーマンスにつながった要因として考えられるのは、国内経済の力強い成長や成長分野へのエクスポージャーなど、アジアの小型株が有する複数の特色だ。その主たるものは、人工知能の進歩、世界の製造業における力学の変化、アジア地域の消費習慣の進化などである。加えて、小型株ユニバースのなかにも強固な財務基盤を有する企業がみられ、高金利時での資金調達を迫られるケースが減っている。こうした要因が成長に向けた強固な土台をもたらしており、伝統的な経済指標によって小型株苦戦の可能性が示唆される場合でも、アジアの小型株は成長を遂げることができると期待される。

まとめ

アジアの小型株は、高い成長ポテンシャルを求める投資家に対して、ポートフォリオのリスク特性をあまり変えることなく、様々な投資機会をもたらすとみている。これらの企業は新興国にあり、将来的に世界の経済大国となっていく国々に投資するチャンスを提供している。その戦略上有利なポジショニング、高成長のポテンシャル、高い適応力、革新性を有するアジア小型株は魅力的な選択肢となっている。企業の組織体制がよりシンプルであることや、リスク特性のバランスが取れていることも、その魅力をさらに高めている。一般的な見方に反し、アジアの小型株は様々な市場環境下でも一貫して優れたパフォーマンスを示してきている。このことは、アジアの小型株のレジリエンス(強靭性)、ファンダメンタルズの変化を活かす力、そして持続的なリターンをもたらすポテンシャルを浮き彫りにしている。したがって、当社では、世界中の投資家がアジア小型株を真剣に検討すべきであると考える。


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