エジンバラを拠点に、日興AMのグローバルネットワークによるサポートを受け、グローバル株式市場のなかからフューチャー・クオリティ銘柄を発掘することに注力
本稿は、2024年10月1日発行の英語レポート「Staying on the road less travelled」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
主なポイント
- 数々の市場を動かすイベントがみられてきたこの10年間を振り返り、グローバル株式チームによる長期的なアウトパフォームの実現を可能にしてきた主な要因について概説する。
- 当チーム独自のフューチャー・クオリティ投資アプローチによって、意外なところからアルファ(超過収益)の源泉を見出してきた。
- いくつかの長期的な成長ドライバーの存在が鮮明になりつつあるなか、我々は数多くのフューチャー・クオリティ投資機会を発掘していくことができると確信している。
変貌の10年
グローバル株式チームが日興アセットマネジメントに加わり、日興AMグローバル株式戦略を立ち上げてから10年が経つが、その間に世界は大きく変わった。2014年当時、気候変動に関するパリ協定は署名されておらず、グローバリゼーションは台頭し、ドナルド・トランプ氏と言えばテレビ番組で人気が出た有名人として主に知られていた。
この10年間は、世界に影響を及ぼす出来事が実に目まぐるしく起こった。ソーシャルメディアは人々に団結する力をもたらし、それが火付け役となってセクハラや性差別などの問題について声を上げる「#Metoo運動」、そして香港や中東での反政府デモが広がりをみせた。逆に、偽情報の拡散や政治的分裂の増幅といったソーシャルメディアの弊害も経験してきた。また、経済格差の拡大を受けてポピュリズム(大衆迎合主義)が台頭、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)にも耐え抜いた。
企業に目を向けると、テクノロジーセクターがその圧倒的な存在感を強めてきた。2014年当時、世界の時価総額上位10社のうちテクノロジー関連に分類される企業の割合は半数に過ぎなかったが(オンライン小売業のアマゾンを含む)、2024年の夏時点では時価総額上位10社のうち8社がテクノロジーセクターの企業となっていた。
変わりゆく環境のなかでの舵取り
グローバル株式に投資する我々は、2014年の当戦略設定以来、どのようにして変わりゆく市場環境をうまく乗り切ってきたのかという質問をよく受ける。実際、究極的には3つの鍵となる要素のおかげであると言える。
第1に、我々は変わらない謙虚な姿勢を持っている。パフォーマンスが好調なときに地に足をつけておくことは、厳しい状況下で悲観的な見方のループに陥ることを避けるのと同じくらい重要である。この10年間で我々は間違いなくその両方を経験してきた。謙虚な姿勢は自分の思い込みを疑い、より客観的な決断を下すのに役立つ。ミスをしたときは、それを早い段階で認めて損失を抑える。こうしたミスは、今後の判断に活かせる貴重な知見をもたらす。加えて、他者の経験(成功事例と失敗事例の両方)から学ぶことも同様に重要である。
第2に、チームのコアバリュー(中核的な価値観)を共有する人々に囲まれることが不可欠だ。かつてオーストラリアのある賢いCEOが、コーヒーを2杯目まで一緒に飲みたいと思えないような人物をチームに入れては絶対にいけないと語っていた。うまく機能するチームを作り、強い絆を維持していくというこの考え方は、非常に役に立っておりプラスに働いてきている。大抵の場合、当チームではメンバー全員が長さ6メートルの巨大な机を囲んで一緒に座る。こうすることで健全な議論や、時には異なる意見をぶつけ合う討論が促進される。往々にして意見が対立するのはサッカーの話題で、応援するチームが異なるからだが。
多くの企業がそうであるように、我々の就業環境はコロナ禍を受けて混乱に見舞われた。3年近くにわたって在宅勤務が中心となり、対面でのコミュニケーションが最低限しか取れないなど、厳しい状況に置かれたが、もし我々がすでに結束の固いグループでなかったなら、もっと大きなダメージを受けていたかもしれない。
第3に、確固たる投資哲学を持ち、良い時も悪い時もそれを堅持することが重要だ。より大きな組織に加わったこと、そして、それが自分たちの文化や理念を信頼してくれる組織であること(我々のケースでは日興AM)で、我々のコアバリューを柱としたチーム体制を構築できる安定性と機会が得られ、フューチャー・クオリティ投資哲学を発展させ強化していくことができている。
アウトパフォームするための他とは異なる考え方:フューチャー・クオリティ・アプローチ
当戦略の運用を開始したとき、銘柄選択によってアウトパフォームしていくには、異なった思考が必要だということは明らかだった。企業が進む道のりの出発点に注目するのではなく、本当に重要なのは将来の方向性だと考えた。詰まる所、我々が見つけ出すのはフューチャー・クオリティ、つまり、衰退に打ち勝つ企業や業界をリードする存在へと成長する企業である。現在だけでなく、より重要な点として将来のために資本を効率的に活用し、高水準の利益を達成・維持しようと努めている企業である。高い投下資本利益率を達成・維持できるクオリティの高い企業に投資するという我々の目標は、運用開始当初から大きく変わっていない。同時に、日興アセットマネジメントの同僚たちと協力し、フューチャー・クオリティの説明を洗練させる取り組みを続けてきた。顧客に当戦略のアプローチをより深く理解していただけるものとなっており、また、当戦略のポートフォリオが他の伝統的なクオリティ・グロース戦略ポートフォリオとは一線を画しながら、長期的にアウトパフォームを実現している理由も理解いただける内容となっている。2024年までの10年間のリターン(グロス、年率換算)をみると、当社グローバル株式戦略は12.47%にのぼり、ベンチマークであるMSCI ACワールドインデックス(ネット配当込)の9.24%を上回っている1。
我々がフューチャー・クオリティ銘柄に分類する企業は、フューチャー・クオリティの4つの柱に関する条件を満たさなければならない。それは、持続的な競争優位性を有する「事業(Franchise)」、健全な経営戦略と資本配分の判断を行う能力を実証している「経営陣(Management)」、成長見通しを支える適切な財務基盤を有し、新規債券・株式発行による調達に依存していない「財務(Balance Sheet)」、クオリティが高い企業でも、株式が割高な水準で購入した場合、投資がリターンの低いものになりかねないことから「バリュエーション(Valuation)」である。これらの柱に焦点を絞ることで、クオリティの高いポートフォリオの構築に役立っており、また、他とは大きく異なるポートフォリオ、いわば道なき道へと導かれることもある。
独自のアルファ
過去10年間、我々は意外なところからアルファの源泉を見出してきた。ニュースの見出しを飾り最も注目を集めてきたのは、時として驚異的な成長を遂げてきたテクノロジーセクターかもしれないが、過去10年間において当戦略のパフォーマンスに最も寄与してきたセクターは、実は一般消費財と金融だった。こうした違いは、我々がセクターよりも個別銘柄を優先していることに起因する。基本的に、狭義のグロースにこだわらないことで、保険テクノロジー分野をリードする米国の企業、医療テクノロジーで革新を起こしているオーストラリアの企業、米国の農業機械メーカー、中国の自動車メーカーなど、目立たないところから真のアルファを見つけ出すことに成功してきた。
さらに、潜在的な成長の源泉を見極めるために、長期的なマクロ要因や構造的テーマをいつも分析しているが、当戦略のフューチャー・クオリティ基準を満たす企業を見つけることができなければ、そうしたテーマに投資することはない。実際、過去に際立って好調なパフォーマンスを達成した保有銘柄の多くは、銘柄固有のストーリーがその原動力となってきた。例えば、新経営陣が前経営陣とは抜本的に異なる方法で事業を展開する場合や、市場で比較的人気のない分野の銘柄で、その相対的に低いバリュエーションが追い風となる場合などが挙げられる。
当戦略のポートフォリオで最も長く保有しているポジションは、事業運営の変革が実際に将来の成長性に好影響をもたらした事例の1つである。日本の総合エンタテインメント企業であるSonyは、10年前、著しく多角的ながらもやや規律に欠ける事業展開をしており、あまりに多くの分野へ事業が分散され過ぎていた。3つから4つの最も有望な事業分野を優先することで、Sonyは同分野において市場をリードする地位を確立し、持続的な成長軌道へと戻ることに成功してきた。
当戦略のアルファ獲得実績にはもう1つの特徴がある。それは、地域、セクター、時価総額規模を問わず幅広いアルファの源泉を捉えることができるという点である。米国におけるアクティブ投資家の勝率について懐疑的な見方をしている評論家もいるが、この巨大な市場は、我々が追求しているフューチャー・クオリティを備える勝ち組企業を際立って多く輩出してきている。特に最近ではAIの出現により、テクノロジー分野は米国市場の重要な特徴となっているが、当戦略の成功において米国市場の他の分野は同様に重要な役割を果たしてきた。
米国の保険業界はその一例で、2015年当時の競争動向は保険業界全体にとって間違いなく不利なものとなっていた。しかし、多くの業界でそうであるように、市場シェア拡大動向は市場全体の状況よりも重要となり得る。このことを証明したのがProgressive Corpだ。珍しく女性CEOが率いる同社は、データ分析の優れた活用と独自の直販によって差別化を図ることに成功してきた。その結果として、優れた成長性と高水準のROE(自己資本利益率)を実現し、それを現在に至るまでずっと維持することができている。
投資規律
一歩下がって投資判断を見直す能力も、当戦略の長期的なアウトパフォームに貢献している。こうした実際に即して臨機応変に対応する姿勢は、買い判断だけに適用されるものではなく、当戦略の売却規律の重要な一部も成している。
当戦略の運用体制において重要な点は、個別銘柄に関する投資判断において各セクターの専門家だけに頼ることはしないということだ。我々には、チームメンバー全員が自分の意見を表明するように奨励するカルチャーがある。なぜなら、チーム一丸となってこそ、投資アイデアの発掘や反対意見の検討を最も効果的に行うことができるからだ。我々は、真実を独占することはできないと考えている。実際、チーム・ベースのアプローチをとることで、個別銘柄への投資における感情移入を抑え、売買のタイミングをより客観的に分析して判断できるようになっている。
これまでに、保有銘柄を長く持ち過ぎることや、投資するまでに時間が掛かり過ぎることも確かにあったが、当戦略のプロセスはこうしたミスを素早く認識できるように設計されている。
フューチャー・クオリティ投資哲学を貫く規律のおかげで、ポートフォリオの回転率も比較的低水準となっている。売買をし過ぎないことが重要だと考えており、当戦略の過去10年間の平均保有期間は約3年となっている。フューチャー・クオリティの4つの柱を支える要因は、一般的なマクロ情勢よりも長期的なものである傾向にあり、そうしたなかでバリュエーションの変動(過去5年間にはいくつかの極端な事例もみられてきた)を適切に捉えてポートフォリオにしかるべき変更を加えている。
さらに、フューチャー・クオリティの柱は耐久性が高いことから、いくらかショックを吸収してくれる効果も発揮する。過去の高ボラティリティ局面において株価の反応を弱める効果をもたらしており、今後ボラティリティが高まる局面においてもその効果を発揮してくれると期待される。
将来に目を向ける
フューチャー・クオリティ・アプローチにおいて、我々は「クオリティ」を重視しているが、それと同じく重要な土台を成しているのが「フューチャー(将来)」の要素だ。銘柄選択が最優先事項であることに変わりはないが、将来の成長をもたらす重要なマクロおよび構造的ドライバーをないがしろにするのは適切でない。結局のところ、株式市場が他から隔離された真空状態のなかで動くことはめったにないからだ。
今後を展望し、我々は3つの長期的テーマに投資機会を見出している。
エネルギー転換を実現する企業
人類の化石燃料への依存を減らし、再生可能エネルギーの活用や電化の拡大を通じて、よりクリーンな代替エネルギーを生み出していく必要があることに否定の余地はないが、その移行は一筋縄ではいかない。既存のエネルギー供給の維持・支援、よりクリーンかつ持続可能なエネルギー源の導入、AI需要を受けたデータセンターの拡大に対応するために電力インフラへの投資の加速が必要となる。当戦略では、これらすべての分野において投資機会を特定しているが、財政支出の規模が限定的であり、政治による支援も不安定であることから、その道のりは引き続き険しいものになるとみられる。
医療の効率化を提供・実現する企業
世界的に人口高齢化が進むなか、十分かつ効率的な医療サービスを提供し、そのコストを削減していくことは、今後の最重要課題の1つとなるだろう。ヘルスケア企業は強く必要とされているソリューションを提供していくために急速にイノベーションを実現しており、同セクターでは有望な投資アイデアを多数見出すことができている。
AIの普及
AIの台頭は無視できないものとなっている。我々のリサーチによると、AIは騒がれ過ぎの感もあるものの、次世代の変革的技術となる可能性が高い。長期的な勝ち組を見極めるには時期尚早だが、当戦略のフューチャー・クオリティ基準に合致し、現在進められている設備投資の恩恵をすでに享受しているマーケット・リーダーは存在する。
しかし、どんなに大きな期待を集めるテーマであっても、それを代表する企業が我々のフューチャー・クオリティ哲学に合致している場合にのみ投資機会として利用していく方針であることを改めて強調しておきたい。我々は10年間断固として守ってきたこの基準を今後も堅持していく。
バリューを固守し、チームは進化へ
我々が前進していくなか、過去10年間に築き上げてきた文化を維持していくことも重要である。この文化は、精通(完全に理解し信頼がおける企業に投資する)、尊重(顧客、社員、競争相手を尊重する)、配慮(常に顧客にとって最良であることを目指す)、開放性(全ての行動において、透明性を保つ)の原則に基づく、チームのプロセスの基盤であり、顧客との信頼・友好関係を維持するために不可欠なものとなっている。
一方で、変わることを想定しているのはチーム体制である。すでに過去10年間でチームの陣容は拡大している。その目的は、年配のメンバーが引退する意向を示した場合(しばらくはありそうにないが)にも継続性を確保できるチーム体制の構築にある。今から適切なチームメンバーを選び、フューチャー・クオリティ理念の基礎を植え付けることで、当戦略のポートフォリオが今後もアウトパフォームし続けられるように適切な土台を積み上げることができると考えている。
また、我々は今後の成長に臆することもない。2014年に日興AMに加わって以来、当チームの運用資産残高は2億5,000万米ドルから50億米ドルへと拡大しており、今後もより多くの顧客からの資産運用受託を期待している。当戦略の運用開始当初から流動性に配慮するとともに、最も効果的に集中リスクを回避できる方法を考慮してきており、まだ十分なキャパシティがあると確信している。
最後に、我々のこれまでの10年間を言い表す格言を紹介する。成功のために計画を立てれば、それを実現できる可能性が高くなる。次の10年、そしてその先も、道なき道を行く投資の旅に引き続き邁進していく所存である。
個別銘柄への言及は例示のみを目的としており、当該戦略で運用するポートフォリオでの保有継続を保証するものではなく、また売買を推奨するものでもありません。
1過去の運用実績は将来の運用成果等を示唆するものではありません。日興AMグローバル株式戦略のコンポジットの算出開始日は2014年10月1日。上記は2024年8月31日時点のデータ。リターンは米ドルベース、運用報酬等フィー控除前、売買手数料控除後、利子・配当収入等再投資後のものです。いかなる市場環境下や市場サイクル下における運用成果の達成も保証することはできません。過去の運用実績や先行きの予想または予測は将来の運用成果を示唆するものではありません。参考インデックスまたはベンチマークとの比較には重大な限界が内在する可能性があり、よってそれを根拠に投資判断を行うべきではありません。
当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。