当レポートは、英語による2024年9月26日発行の英語レポート「What the Fed’s rate cut tells us about current financial conditions」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
9月18日、米FRB(連邦準備制度理事会)は大方の予想通り利下げを実施した。(市場の予想は割れていたが)事前に一部で予想されていた通り、FRBによる利下げ幅は50ベーシスポイント(bps)となった。実際、9月17日時点では今回の50bpsの利下げ幅のうち41bpsしかFF(フェデラル・ファンド)金利先物に織り込まれていなかった。また、FRBが公表した経済予測サマリーでは、年末時点のFF金利予想の中央値が5.1%から4.4%へと大幅に下方修正されており、年内にもう50bps、そして2025年中にさらに100bpsの利下げが示唆された。会合後、債券市場ではFRBの予想中央値よりもハト派的なシナリオを織り込む動きがみられ、2025年末時点のFF金利が3%を下回るとの見方が織り込まれた(これに対してFRBの予想中央値は3.4%)。パウエル議長はFRBの50bpsの利下げを今回の緩和サイクルにおける「新たなペース」と解釈しないよう警告したが、債券市場ではそれが無視された模様だ。FOMC(連邦公開市場委員会)ではコアインフレ率予想が小幅に下方修正されたが、PCE(個人消費支出)物価指数のコア指数は2026年になってようやくFRB目標の2%に到達すると予想されていることも注目に値する。それまでの間に様々な展開が訪れ得ることから、FRBの見通しも盤石とはほど遠いと解釈されるかもしれない。
FRBの利下げは保険的意味合いがみられる
FRBによる50bpsの利下げ実施は、金融情勢、延いては目下の金融市場の体力を物語っていた。緩和的な金融環境は、株式やその他のリスク資産への投資意欲の高まりなども通じて、米国の景気拡大サイクルの延長に重要な役割を果たしてきた。FRBとしてもこの点を無視したくなかった可能性が非常に高い。実際に金融緩和が実施される前から、市場は利下げ幅が50bpsとなる可能性が高いことを織り込み済みだったことから、FRBは、今後状況があまり好ましくなくなる場合に備えて、市場が十分に吸収できる可能性が高いうちに「保険」として50bpsの利下げを実施する好機とみなした可能性がある。
利下げ実施前、我々は経済データに基づくとより慎重な緩和ペースが妥当であると主張していた。したがって、利下げ幅が50bpsとなる可能性は示唆しなかった。50bpsの利下げに反対票を投じたミッシェル・ボウマンFRB理事は、我々と同様の見解を表明していた。パウエル総裁が市場に向けて、初回の利下げ幅を基準ではなく例外とみなすようにと警告とも取れる発言をしたのは、おそらくこのためだろう。米国の失業率は上昇傾向を辿っており、FOMCによる年末時点の予想中央値も4.4%(6月会合時は4%)へと上昇しているものの、労働市場は利下げ加速に値するような悪化を示していない。チャート1は、米国の非農業部門雇用者数の前年比増加幅が、景気後退期に入りつつある場合の典型的な水準を依然上回っていることを示している。
米国、そしてFF金利にとってリスクは一様にダウンサイド方向ではない
先行き見通しが一段と悪化すれば、すぐに追加利下げが行われる可能性もあるが、パウエル議長の発言によれば、見通しが著しく悪化しない限り利下げ幅は50bpsでなく25bpsとなる可能性が高いとみられる。
我々が重要視している点として、米国大統領選挙の行方をめぐる不透明感も、FRBの政策軌道を不明瞭にする一因になる可能性が高い。しかし、選挙期間中と選挙後のリスクはダウンサイド方向のものではないかもしれない。結局のところ、両大統領候補が打ち出しているのはタイプこそ異なれど、対中貿易関連を中心とする保護主義路線であり、一般的に保護主義はインフレ方向に働く。同様に、いずれの候補者も(少なくとも現時点では)財政再建を支持していない。減税や歳出増への期待はインフレ要因となり得る。どちらの候補者が当選したかにかかわらずインフレ期待が高まる場合、それに対応するのがFRBに課せられた使命である。インフレ率が2%目標に向かって順調に進むのを妨げるほどインフレ期待が強ければ、インフレが目標水準に向かう軌道へ戻るまでFRBの利下げ保留を支持する論調が強まるだろう。
当面はFRBと戦わず、保険を確保せよ
今のところ、FRBは金融市場の機嫌を取る余裕がある。「中立」金利は2.5%から3.5%の間とする予想が大方を占めており、現在の金利水準よりも低い。このため、FRBは景気刺激策としてではなく、金利正常化という名目で利下げを行う余地がまだいくらかある。一方で、市場の利下げ期待はFRBの利下げ意欲を上回っているように見受けられる。債券市場はすでにFRBの利下げを概ね先取りしていたため、実際に利下げが行われたあとは債券のデュレーションの長期化が進む可能性は限定されていた。FRBが再び利下げに踏み切った場合も同様に短期的なアップサイドは限定的となる可能性がある。しかし、FRBが今回50bpsの利下げを実施した後のイールドカーブをみてみると、債券市場に対して利下げ期待を抑えるよう促すパウエル議長の警告は無視されているように見受けられる。したがって、今後数ヵ月間のどこかで(予想された利下げが実現せず)失望を招くリスクが高まっている。
財政リスクと金利のボラティリティに備える保険
連邦債務上限交渉は、米国次期大統領の最初の仕事の1つとなるだろう。前述の通り、両候補とも財政健全化を掲げておらず、また、過去を振り返ると、議会は交渉当事者の政治的動機に一致しさえすれば債務上限を引き上げる傾向がある。財政規律の強化を伴わない場合、米国債を保有する海外債権者の行動によって債券市場が混乱するリスクが高まるかもしれない。所詮、双子の赤字を抱える米国は、国内経済の成長を維持するのに十分な景気刺激策を提供する必要がある一方で、海外投資家による米国債入札への参加意欲を維持するのに十分な高金利を提供する必要もあり、それらの間でバランスを取っていかなければならないのだ。多数の貿易相手国とは異なり、米国にとって金利上昇が直ちに脅威となることはないかもしれない。しかし、金利差が縮小する(そして為替相場のボラティリティが高まる)につれて、財政拡大と利下げという組み合わせに伴うリスクが高まる可能性がある。こうした観点から、長期金利の極端な動きに備えるプロテクションを確保しておくことが有益かもしれない。ボラティリティはピーク時と比べれば落ち着いているが数ヵ月前と比べれば高止まりしており、長期金利の急激な上昇に対するプロテクションが価値を発揮することになる可能性もあるだろう。
AI技術により米国経済活性化とみられているが、実はまだ実現していない
米国のテクノロジーがいつか同国の生産性を向上させることなどはない、と主張するのは無理がある。ただ困ったことに、米国株式指数、延いてはグローバル株式指数において巨大ハイテク企業が圧倒的な存在感を示しているにもかかわらず、そうした生産性の向上はまだ実現していない。米国の全要素生産性をみてみると、2000年代前半には前年比平均5%を大きく上回る健全な伸びを示していたが、現在は(10年以上にわたる超低金利環境を経ても)1%未満と低迷している。米国が経済成長とインフレによって債務返済負担を軽減していこうとするならば、生産性の伸びがもっと高水準である必要があり、おそらくそれは実現可能とみられる。チャート2は、米国の生産性上昇率の10年平均値が、30年間続いた景気停滞とデフレから最近脱却した日本と同様の水準にあることを示している。
米国はこれまでにも同じような過渡期を経験したことがある(インフレ率、金利、税率がもっと高水準だった1970年代や1980年代など)。ただし、そうした潮流の変化を捉えて有利に活かしていくには、おそらく再び積極的にリスクを取っていくことが必要になるだろう。現在最も人気を博している銘柄が、この見込まれる米国の生産性向上の恩恵を受けるとは限らない。1990年代のITブームでみてきたように、インフラを構築した企業が、最終的に利益面で最も大きな恩恵を享受するとは限らない。つまり、あらゆるセクターのなかから、テクノロジーの導入や適切な人的資本投資によって競合他社を凌ぐペースで成長を遂げていく可能性のある企業を選び出す、アクティブな銘柄選択が重要となる。今回のサイクルがさらに進んでいくにつれ、ベータ(市場全体のリターン)は気まぐれな友人のように不安定に推移し、アルファ(超過収益)がアクティブ運用の熟練ストックピッカーに有利に働くことになるかもしれない。
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