本稿は2024年10月29日発行の英語レポート「Balancing Act」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

グロース資産のスコアを引き上げ、ディフェンシブ資産のスコアを中立に据え置き

投資環境

9月の株式市場は、前月と同じく軟調なスタートとなった後に上昇に転じて、世界の先進国株式市場の月間リターンは1.69%となった。8月に発表された米国の非農業部門雇用者数が低調な結果となるなか、月初は同指標の発表を控えて投資家のあいだで労働市場の状態に対する懸念が広がり、世界の株式市場は下落した。しかし、米国の雇用市場が堅調さを維持していることを示すデータが発表され、ハードランディングに関する発言が後退すると、すぐにリスクオンの様相となった。日本では、(勝者が首相となる)与党の総裁選で、2人のトップ争いに市場が大きく変動するなか、TOPIXと円相場もボラティリティが高まった。2人の有力候補は、金融政策に関して正反対の意見を持っているとみられていたからだ。ファンダメンタルズの観点からは、日本市場はPER(株価収益率)が長期平均近辺で推移しており依然として相対的に割安に見受けられるほか、市場予想によると引き続き今後の企業増益が見込まれている。加えて、企業のコーポレート・ガバナンスが改善し、配当や自社株買いによる株主還元が進んでいる。日本以外では、ソフトランディングへの楽観的な見方が再燃するとともに米FRB(連邦準備制度理事会)が金融緩和に転じたことを受けて、S&P500は最高値を度々更新した。

株式以外では、債券市場は上昇基調となり、米国債10年物の利回りは月間で0.12%低下し3.78%で月末を迎え、米国債券市場のリターンは1.34%となった。9月はFRBが利下げに踏み切り、米FOMC(連邦公開市場委員会)で市場予想を上回る0.50%の利下げが決定され、緩和サイクルが開始された。9月中に発表された米国経済に関するニュースは概して良好なものとなったが、総合インフレ率が前年同月比2.6%へと鈍化したことを受けて、FRBはインフレがより正常な水準に戻りつつあり、引き締め的な金融政策がもはや正当化されないことを確信した。こうしたなか米ドルは下落基調となり、債券利回りは世界的に低下した。その他、日本では石破茂氏が新たな自民党総裁に選出され、首相となったことを受けて円安が進んだ。石破氏はこれまで日銀の金融政策についてタカ派的なスタンスを示していたが、就任後は足元でかなりハト派的とみられる発言が見受けられるようになったからだ。


クロス・アセット

9月はグロース資産のスコアを引き上げ、ディフェンシブ資産のスコアを中立に維持した。グロース資産に関しては、FRBが金融政策の方向性を転換し、9月に市場の予想外に0.50%の利下げを実施したことがリスクセンチメントを押し上げた。労働市場へのそれまでの懸念は、雇用統計の力強い内容によってすぐに払拭された。米国経済のデータが堅調であり、インフレが減速するなか、市場はリスク資産にとってゴルディロックス的な状況にある。今後の決算シーズンで企業業績が市場予想を上回りアップサイド・サプライズとなれば、リスクセンチメントはさらに強まるだろう。同様に、世界の各中央銀行が利下げサイクルを開始したことで、ディフェンシブ資産にとってポジティブな環境が整った。

グロース資産のスコアについては、堅調な経済指標と世界的に進むハト派的な金融政策を背景に、先進国市場と新興国市場の両方の株式についてスコアを引き上げた。(相対的なバリュエーションにより、近く迎える決算シーズンがプラスに働くとみている)米国と欧州のスコアを引き上げる一方で、日本のスコアを引き下げてリスク・エクスポージャーのバランスを調整した。米国については、長期的な成長テーマの先行きの見通しやすさが改善してきたことから、引き続き選好している。日本については、コーポレート・ガバナンスの改善や収益成長の加速といった長期の構造的ストーリーを引き続き有望視しているものの、円のボラティリティによる当面の逆風を受けてスコアをマイナスに引き下げた。とは言え、市場の調整局面ではスコアを引き上げるつもりである。エネルギー関連株については、需要鈍化に伴い供給過剰状態が悪化しつつあることからスコアをマイナスへと引き下げた。また、よりディフェンシブなMLPについては、最近の堅調なパフォーマンスを受けて利益確定売りを実施した。利下げによる逆風が予想される上場インフラ資産については現在スコアをマイナスとしている。上場インフラ資産のなかでは、米国のデータセンターの持続的成長を背景としたエネルギー需要の高まりに対するポジティブな見方を反映して、米国の公益事業を引き続き有望視しており、同資産クラスのスコアを引き上げた。FRBの金融政策の転換やそれによるドル安は新興国にとってポジティブとみられることから、新興国株式のスコアをプラスに引き上げた。内需主導型の経済や長期の構造的成長ストーリーから恩恵を受けやすいとみられるインドやインドネシアなど、特定の新興国を引き続き選好している。同様に、現在の世界的なテクノロジー需要拡大サイクルの追い風を受けている台湾のスコアも引き上げた。

ディフェンシブ資産では、投資適格クレジットのスコアを小幅なプラスに維持する一方、先進国ソブリン債のスコアをマイナスに据え置いた。主な変更としては、現地通貨建て新興国債券のスコアをマイナスへと引き下げ、その代わりに金のスコアを一段と引き上げた。スプレッド商品については、米国の経済成長は力強く、中央銀行のハト派的な政策が今後6ヵ月間の見通しを下支えする可能性が高いため、ポジティブな見方を維持している。投資適格クレジットでスコアを引き続きプラスとしている主な国は、オーストラリア、カナダ、英国である。これらの国々はヘッジコスト控除後の利回りが十分な水準にあり、世界的な金利低下が続く場合には値上がり余地もある。また、金については、通常利下げサイクルの局面で力強いパフォーマンスをみせることや、実質利回りの低下がパフォーマンスにプラスに働くとみられることから、スコアを引き上げた。他では、為替のボラティリティを反映して、現地通貨建て新興国ソブリン債のスコアを引き下げたが、同資産が提供し得る利回りについては引き続き評価している。メキシコのスコアは過去1年半にわたって大幅なプラスとしてきたが、同国の司法改革をめぐる投資家の懸念によりボラティリティが高まっていることを受けて、前月にスコアをプラスから引き下げた。

*マルチアセット・チームのクロス・アセット見解は、(1)グロース対ディフェンシブ、(2)グロースおよびディフェンシブ資産内でのクロス・アセット、(3)各資産クラス内での相対的な資産の見方、という3つの異なる段階で示しています。これらの段階は、選好順位の水準は資産クラスが予想可能な形で似た動きあるいは異なる動きを見せるという当社のリサーチおよび直感的認識を表しており、したがって、資産クラスのクロス・アセットでのスコアリングは理に適っているとともに、最終的により熟考された堅固なポートフォリオ構築につながると考えます。

資産クラスの選好順位


当社の見方

グロース資産

インフレが減速しているのに対して経済指標の底堅さが続き、世界の各中央銀行が引き締め的な金融政策を緩和しつつあることから、グロース資産は魅力的となっている。地政学的リスクが続くなか、ボラティリティが高止まりする可能性はあるものの、ハードランディングの可能性は引き続き低下している。マネーマーケットには6兆5,000億米ドルのキャッシュがあり、金利が低下傾向となるなかリスク資産に流入する可能性があることから、流動性面も追い風となっている。金融政策正常化に向けた利下げサイクルの開始はリターンの強力なドライバーであり、これは過去数年間に実施された引き締め的な金融政策の影響から脱する歓迎すべき動きだ。足元の市場の調整は、長期的な持続的成長ストーリーの観点からは、魅力的なエントリーポイントだとみている。

新興国株式は歴史的にドル安局面で好調に

FRBの緩和サイクルが9月に開始されるなか、ドル安が進むことが予想され、これが新興国にとってより支援的な環境となることが見込まれる。ドル安は、世界の経済成長にとって概してポジティブであり、新興国経済は通常、力強い世界の経済成長から追い風を受ける。また、ドル安は借入コストを低下させることから、新興国の企業にとって一層ポジティブと言える。従来、新興国株式はドル安局面で良好なパフォーマンスを示してきた(チャート1)。

チャート1


同様に、足元で新興国の各中央銀行は自国通貨を防衛する必要に迫られることなく、自国の利下げを検討できるようになった。これらの国々でインフレが減速していることや経済指標が低迷していることを考えると、利下げサイクルの開始は新興国の経済成長を促す安心材料として歓迎される。

新興国株式のバリュエーションは最近上昇しているとは言え、PERの面では割高には見受けられず、過去の平均水準近辺で取引されている(チャート2)。現在、バリュエーションがレンジの上の方にある世界の他の地域と比較すると、相対的に魅力的な様子だ。新興国地域への資金流入は最近ますます増加しており、FRBの追加利下げを受けたドル安を背景に今後もこの動きが続くと予想している。

チャート2

さらに、投資家は日ごとにマネー・マーケット・ファンドに数十億ドルもの資金を投入している(チャート3)。年初来で、投資家は米国のマネー・マーケット・ファンドに5,570億米ドルを追加投資したと推定される。現在、個人投資家は2兆6,000億米ドル近いキャッシュを保有しており、残りを機関投資家が占めている。2022年以降、FRBは過去数十年で最も積極的な利上げに乗り出し、2023年7月に5.5%のピーク水準に達した。逆イールドになっていることは、短期利回りがベンチマークである10年物利回りを上回っていることを意味する。マネー・マーケット・ファンド、短期国債などの短期資産の魅力が高まり、それ以来資金流入ペースは最も急速となっている。

チャート3

政策当局が利下げを実施して、引き締め的な金融政策の解除に向けて動き出すなか、マネーマーケット市場離れの動きはリスク資産のバリュエーションを押し上げる可能性がある。こうした利下げのタイミングや利下げ幅は、今後数ヵ月のあいだ注目に値する。

グロース資産に対する確信度の強い見解

  • 長期的な成長機会を含有する米国株式のスコアを引き上げ:市場ではAI(人工知能)やデータセンターに対する投資の期待リターンが懸念されているものの、引き続き米国のテクノロジー関連株を選好している。企業業績は底堅く推移しており、同セクターの長期的な成長ストーリーは損なわれていない。米国内では、株価上昇の流れがマグニフィセント・セブン(Apple、Microsoft、Alphabet、Amazon、Nvidia、Meta Platforms、Tesla)以外へも広がりをみせつつあり、これは市場全体にとってプラスである。インフレが抑制されているなか、金融政策のハト派化を受けて米国のリスク資産は堅調に推移すると予想する。
  • 新興国株式のスコアを引き上げ:相対的なバリュエーションに基づいて、新興国株式のスコアを引き上げた。米国が利下げサイクルを開始しドル安が進むことは、新興国にとって通常プラスに働く。内需主導型の経済や長期の構造的成長ストーリーが追い風となっているインドやインドネシアなど、特定の市場を選好している。同様に台湾についても、世界的なテクノロジー需要拡大サイクルが追い風になっているとともにドル安から恩恵を受けることから有望視している。
  • 日本株のスコアを引き下げ:日本株は、最近のボラティリティの高まりを受けて、スコアをマイナスへと引き下げた。企業が増配など株主還元を強化していくとみられる構造改革ストーリーについては引き続き有望視しているが、円のボラティリティの上昇や(世界の主要中央銀行によるハト派姿勢とは対照的な)日銀のタカ派姿勢も、市場センチメントへの逆風となっている。ドル円が安定化すれば、日本株のスコアを引き上げるつもりである。
  • コモディティ関連株とインフラ資産のスコアを引き下げる一方、米国の公益事業のスコアを引き上げ:経済指標の低迷やエネルギーの供給過剰を踏まえ、コモディティ関連株のスコアを引き下げた。米国のデータセンターからのエネルギー需要が増加するなか、MLP(コモディティ関連株に分類)のスコアを引き下げて、米国の公益事業(インフラに分類)のスコアを引き上げた。インフラ全体では、当面はスコアを戦術的に引き下げたが、ファンダメンタルズが循環的・長期的要因の両方で引き続き魅力的であることから、同資産クラスが長期的にはインフレに対する良好な分散効果を提供し続けるとの確信を維持している。

ディフェンシブ資産

過去1ヵ月間における主な変更の1つは、金のスコアを引き上げたことである。これは、世界の各中央銀行が政策金利を引き下げるなか、貴金属にとって強気な環境が続くとの見方を反映している。また、過去12ヵ月においては、信用スプレッドの方を選好していたほか、大幅な逆イールドとなっているなか、満期が長めの債券に対して強気な見方をすることが困難であったため、ソブリン債に対してネガティブなスタンスであった。しかし、各中央銀行が金融政策を緩和するなか、FRBが利下げに転じると債券のイールドカーブはスティープ化するのが通例であり、今後数ヵ月のうちにソブリン債に注目する機会が再び訪れるかもしれないことから、足元ではデュレーションを小幅に長期化することを選好している。信用スプレッドについては、米国の経済成長が引き続き好調で、よりハト派的な政策が進む環境下にあって良好なパフォーマンスを示すと予想している。しかし、スプレッドのさらなる縮小が非常に難しい水準へと急速に近づきつつある。

FRBの転換

FRBは、2022年3月に利上げサイクルを開始し、5.00%超の利上げを行った後、足元ではインフレがより持続可能な水準に戻りつつあるだろうとみている。そのため、金融政策を引き締め的な領域から脱却させるために、0.50%の利下げが必要であるとの判断に至った。FRBが0.50%の利下げに踏み切った意向にはやや驚いたが、インフレ見通しがより正常な状況になりつつあることは明らかであり、FRBは経済の実質金利を長期平均に近づけるために、キャッシュ・レートを3.50%に引き下げることができる。過去12ヵ月間はデュレーションの長期化に慎重な姿勢であったが、より最近では中立/やや強気な姿勢にシフトしている。下記のチャート4で示されているように、FRBが緩和サイクルを開始すると、債券を取り巻く環境は通常よりポジティブなものとなる。アクティブにデュレーションを決定していくことの重要性を軽視しようとするものではないがシンプルな物差しとして、FRBが引き締め局面にあるときは債券に慎重な姿勢を取り、緩和局面では強気度を引き上げるべきであると言えよう。

チャート4

さらにFRBの利下げ局面では、通常、金が特に良好なパフォーマンスを示す。これは過去50年間のすべてのケースで当てはまる訳ではないが、2000年代以降は非常に一貫した法則となっている。下記のチャート5は、サイクルの初回利下げ後の金のパフォーマンスを示しており、初回利下げ後の12ヶ月間で価格は6%、17%、39%上昇した。過去12ヶ月間で、金は既に43%(ドル建て)という驚異的な上昇を記録しており、世界の株式市場を圧倒するパフォーマンスをみせている。金利低下は同資産クラスにとってプラスに働くとみられ、さらに大量の赤字国債などによる資金調達も金にとって追い風になると考えられるため、この状況は当面続くと予想している。

チャート4

ポートフォリオの観点からは、FRBによるハト派的な政策措置は、ポジションの決定において多くの機会を生み出している。具体的には、ドル安を背景とした新興国株式のポジションだけでなく、より楽観的な見通しとなっているソブリン債や金のポジションなども挙げられる。難点となるのは、債券市場は円ベースではヘッジコストが高いため、まだマイナス利回りとなっていることだ。しかし、イールドカーブがスティープ化するにつれて、この問題は今後6ヶ月の間に軽減されるとみている。

ディフェンシブ資産に対する確信度の強い見解

  • 満期の短い投資適格クレジット:信用スプレッドは引き続き適正水準にあるが、多くの国で依然イールドカーブが長短逆転しているため、満期が長めのクレジット物は投資魅力度が相対的に劣る。イールドカーブがスティープ化し始めれば見解を変更していくつもりだが、現段階ではイールドカーブの長短逆転が続いていることから、満期の短い投資適格クレジット物の選好を継続する。
  • 金はヘッジとして依然魅力的:金は実質金利の上昇やドル高にもかかわらず底堅さを示しており、地政学的リスクおよびインフレ圧力長期化に対するヘッジとしての有効性を証明している。実質利回りの低下は同資産クラスにプラスに働くとみられるため、同資産について長期債を補完するものとしてみている。
  • デュレーションを長期化:主要国の中央銀行が利下げを開始していることは、世界の債券市場にとって追い風になるとみられる。利下げのタイミングを捉えるのは難しい場合もあるが、引き締め的な金融政策の終了は債券にとって好材料になると考えられる。逆イールドが続いていることから、満期が長めの債券に対して大幅にポジティブな見方をすることは難しいが、イールドカーブがスティープ化し始めれば、デュレーションの長期化を継続することも選択肢となる。

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:


当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。